(社説)エネルギー計画 脱炭素の道筋 見誤るな
経済産業省が、新しいエネルギー基本計画についての議論を始めた。2040年度の電源構成の目標を盛り込む見通しだ。世界的な急務である脱炭素への道筋を歩むには、省エネと再生可能エネルギーの拡大を大胆に進める目標を掲げ、実現に向け施策を深掘りする必要がある。
今の基本計画は21年につくられた。その後、気候危機は深刻さを増し、脱炭素に向けた流れは強まった。ロシアのウクライナ侵略に伴ってエネルギー安全保障に注目が集まる一方、人工知能や半導体産業の興隆が電力需要を増やす予想もでてきた。
この状況下で、何よりも急ぐべきは化石燃料依存からの脱却だ。だが、日本の22年度の電源構成は火力に73%を頼り、再エネは22%にとどまる。現行計画は30年度の目標を火力41%、再エネ36~38%としていたが、再エネをもっと増やす目標を掲げ、政策資源を集中させるべきではなかったか。
ましてや40年度は、政府が温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す2050年が10年後に迫る段階だ。国際エネルギー機関は脱炭素に向け50年に世界の電源構成の89%を再エネにする見通しを示す。そうした道筋と整合的な計画にできるかが問われる。
太陽光や風力、蓄電池はコスト低下が急速に進む。日本は平地は少ないが、耕作放棄地や屋根上、排他的経済水域を含む海上など、適地は十分掘り起こせる。地域間で電気を融通する連系線の増強に加え、ビルの壁面に使える次世代太陽電池や浮体式洋上風力発電の産業化も急務だ。
今回は、岸田政権が原子力発電の「最大限活用」に方針転換した後の、最初の計画見直しでもある。
現行計画は30年度の原子力比率を20~22%としたが、22年度実績は6%だ。東京電力福島第一原発事故後、原発への国民の不信感は根強く、電力会社の不祥事もあって再稼働は進んでいない。
安定供給を考えれば、原発を直ちにゼロにはできないとしても、現行計画まで辛うじて維持されてきた「原発依存度を可能な限り低減する」との方針は、震災後の日本のエネルギー政策の原点だ。投げ捨てることはあってはならない。原発は核のごみなどの難題も抱え、安全対策費の増加で経済性も落ちている。
だが、きのう開かれた有識者会合の初回では、早速、産業界の委員らから原発の新増設を求める声が相次いだ。原発推進ありきではなく、幅広い意見聴取を通じて議論を深めるよう、強く求めたい。