高畑淳子さんを責めても何も解決しない 性犯罪の加害者家族が直面する社会の圧力

2016/08/26 17:10
息子の逮捕を受け謝罪する高畑淳子さん。母の悩みは深い(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
目次

「何かの間違いではないのか」

家族が性犯罪で逮捕されたと連絡を受けたとき、たいていの人はこう思うという。女優・高畑淳子さんも一報を聞いたときの心境を、「なんのことか、最初は正直よくわからなかった」と振り返る。

彼女の長男は、宿泊先のホテルで従業員の女性に性的暴行を加えて怪我を負わせたとして、今月23日、強姦致傷の疑いで逮捕された。それを受けて彼女は25日に長男が拘留されている群馬・前橋署を訪れ、待ち構えていた報道陣の前で深々と頭を下げ、「申し訳ございません」と謝罪している。翌26日には謝罪会見を行い、あらためて謝罪の言葉をくり返した。

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日本では加害者と家族が同一視されがち

成人し、自立して社会生活を送っている息子が犯した罪を、母親が謝罪する。短い発言の言外には、どんな思いがあるのだろう。想像を絶する恐怖と苦痛を味わった被害女性への申し訳なさのほかに、「息子が迷惑をかけて」「こんな息子に育ててしまって」という気持ちが込められているのではないか。その心中はわからないが、罪を犯した者の家族は「そう思うべき」という社会からの圧力は確実にある。

「本来、加害者家族は責められる対象ではなく、むしろ支援が必要な人たちです。欧米では加害者家族を“Hidden Victim(隠れた被害者)”と呼び、その責任を追求することはありません」

と話すのは、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏。東京・榎本クリニックで性犯罪加害者の再犯防止プログラムに注力し、日々、加害者と向き合っている。性犯罪の再犯率は高いといわれている。だからこそ、再犯防止プログラムで更生していくことは、新たな被害者を生まないことにつながる。加えて、同クリニックでは加害者の妻、父、そして母に対しての支援活動も行っている。

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「親と子はそれぞれまったく別個の、独立した人格を持った人間である、という考えが根付いている欧米に対し、日本では加害者とその家族が同一視される傾向が強いです。家族に対して『犯罪者の血が流れている』といった言い方をするのを聞いたことがある人もいるでしょう。それによって罪を犯した当人は刑務所のなかで守られ、社会にいる家族が排除の対象になるという歪んだ現象が起きます」(斉藤氏)

現在、高畑淳子さんをCMに起用している企業の一部が、その放映を中止すると発表した。被害女性だけでなく、過去そして現在、性犯罪の被害に遭ってる人たちへの配慮もあるのかもしれないが、事件を起こしたのは高畑淳子さんではなくその息子である。母であるという理由で彼女を排除する動きが、すでに始まっている。

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育て方が悪かったのではないかと自責

「日本の社会において子育てを担っているのは主に女性です。それゆえ母親は『育て方が悪かったのではないか』と自分を責め、社会からも責められます。子どもの父親である夫から責められる場合もあります。それと同時に、息子が女性に対して酷いことをした事実を同じ女性として受け入れられなかったり憤ったりという気持ちもありますから、板挟みになってしまいます。これを加害者家族におけるダブルバインド現象と呼んでいます」

まさに26日の記者会見では、メディアから子育てについて問われるシーンがあり、高畑淳子さんは「自分なりに精いっぱいやったつもりですが、このようなことになった以上、何もいえることではないと思っています。私の育て方が悪かったと思っています」と答えている。そして、被害女性に対して「もし自分の娘だったら、と考えなければいけない」という発言も聞かれた。

「でも実際には、多くの性犯罪加害の背景に、生まれ育った家族からの影響はそれほど大きくないことがわかっています。性虐待を受けていたなど、生育歴が影響しているケースもないわけではないのですが、多くの加害者は『学習された行動』として性犯罪を行い、くり返し、そしてスキルアップしていきます」(斉藤氏)

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加害者のなかで性犯罪への動機が芽吹き、本人がそれを育て、何かきっかけがあれば行動化して女性への性暴力となって表れる。この過程において、家族はほとんど関与していない。

「高畑さんほど有名な人でなくても、事件の大きさによっては家庭にマスコミが押しかけ、いたずら電話が鳴り止まず、ネットに誹謗中傷が書き込まれる、といったことがよくあります。お仕事をされているなら離職を余儀なくされ、家族に不眠、自傷行為、抑うつ状態などが見られるようになる……社会生活がまったく送れなくなるのですから、明らかにケアが必要です」(斉藤氏)

同クリニックで行われている“母の会”では、息子の犯した罪に対して『これは息子の問題である』という認識を持てるようになることが加害者家族の自立のきっかけになる、と斉藤氏はいう。

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高畑さんのキャリアはどうなるのか

「殺人や窃盗、薬物など犯罪と一言にいってもいろいろありますが、性犯罪はそのなかでも特殊です。加害者家族が集まるなかでも白眼視されるため、『息子が強姦致傷で逮捕された』『夫が小児性暴力の加害者で』と打ち明けられず、孤立することも多い。だから、私たちは性犯罪の加害者家族だけに特化して、支援の場を設けているのです」(斉藤氏)

多くの“加害者の母”の苦悩を知る斉藤氏は、高畑淳子さんの今後を案じ、「しかるべき支援につながって、同じ問題を抱えた仲間のなかで乗り越えてほしい」と願う。女優として一線で活躍し、その人柄でもってバラエティ番組にも引っ張りだこだった高畑さんのキャリアは、当人とは関係のないところで起きた事件によって水泡に帰してしまうのか。それは、社会が彼女を“母として”断罪し、引き続きの謝罪、反省を強いるか否かにかかっている。

三浦 ゆえ フリー編集&ライター

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みうら ゆえ / Yue Miura

富山県出身。複数の出版社を経て2009年フリーに。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行う。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズや『失職女子』などの編集協力を担当。著書に『セックスペディア-平成女子性欲事典-』がある。

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