幕間 クレアーレさん頑張る
活動報告よりこちらを読んで貰えそうなので、近況を報告します。
乙モブの五章はプロット完成、あとは細かい部分ですかね。更新は未定です。
新作はプロットを書いております。夏休み中には投下したいですね。
こんな感じです。
これはリビアとアンジェが、アルゼル共和国に向かう前の話だ。
リオンたちが留学し、学園が方針を変えて慌ただしい頃。
リビアは、入学した平民出身の学生を連れて学園の案内をしていた。
手には黒い綴じ込み表紙付きのファイルを持っていた。
両手で抱きしめながら、案内をしている。
リビアは緊張した様子だった。
「こ、こちらが校舎になっています。皆さんのクラスは、こちらの校舎で授業を受けることになりますね。基本的に教師が教室に来る形になります」
教師が持つ教室に移動するのではなく、教師が教室に来て授業をする。
高校形式の授業方法だった。
緊張したリビアに質問をするのは、髪を横に流したキザな生徒だった。
名前は【ピエール】だ。そう、ピエールだ。共和国のピエールとは別人だ。
「質問を良いかな、先輩?」
「は、はい!」
「ありがとう。では――」
後輩に対してリビアが緊張している理由は、彼らが同じ平民出身ではないからだ。
リビアが田舎の離島から出てきたのに対して、彼らは王都暮らしの豪商やらそれなりに裕福な家庭の出身だった。
「――この後は暇かな? 一緒に食事でもどうだい?」
キザなピエールの誘いに、リビアは引きつった笑みを浮かべていた。
「こ、婚約しているので無理です。ごめんなさい」
キザなピエールは残念そうにする。
「それは残念だ。婚約者がいるとは知らずに失礼したね」
ピエールの実家は貿易も行っている豪商の家だった。
そのため、学園が一般生徒を受け入れる際には、すぐに話がいった家でもある。
貴族とも付き合いのある豪商の家の出。
そして、年齢的にはリビアよりも年上だった。
集まった新入生たちが、年齢がバラバラなのは急に集めたからである。
周囲がクスクス笑っている中、ピエールは肩をすくめる。
そんな中、一人の青年がリビアを見ていた。
名前は【アーロン】。
黒髪を後ろに流し、制服を着崩してどこか不良のような雰囲気を出していた。
「キザ野郎が。それにしても、婚約者か――」
綴じ込み表紙を抱きしめているリビアの胸を見るアーロンは、小さくニヤリと笑った。
「こんな面白そうな異世界に転生したんだ。少しくらい楽しみがあってもいいよな」
リビアが説明を続ける。
「それでは、本日の案内はこれで終了です。今日はささやかですが、皆さんの歓迎会を行うので来てくださいね」
リビアが笑顔を見せると、アーロンは「今晩が楽しみだ」と呟いた。
そんなアーロンを、空から眺めていたのは――クレアーレの偵察ドローンだった。
◇
『あら、早速マスターの不在を狙って、リビアに手を出す不埒者が現れたわね。寝取り、寝取られはNGよ。徹底的に潰さないと』
急に喋りはじめたクレアーレに驚くのは、本を読んでいたアンジェだった。
「急にどうした?」
『何でもないわ』
「そ、そうか。それなら、急に喋り出さないでくれ。こっちが驚いてしまう」
ルクシオンはもっと口数が少なかったのに、などとアンジェが呟く。
クレアーレがアンジェに疑問を投げかけた。
『それはそうと、リビアの婚約者がマスターだって知らない人が多くない? マスター、もしかして平民には無名なの?』
アンジェが本を閉じる。
「バタバタしている時期に婚約をしたからな。知らない者も多いだろうさ。それがどうした?」
『――いえ、何でもないのよ。大丈夫。問題ないわ』
「そうか」
アンジェがまた読書をはじめる。
そして思い出したように、
「そうだ。今日はリビアの帰りが遅い。何もないとは思うが、気にかけてやってくれ」
『オッケー』
嬉しそうにクルクルと回り始めるクレアーレだった。
◇
夜。
歓迎会が開かれている居酒屋。
アーロンは酒をチビチビと飲みながら、リビアの様子を見ていた。
周囲には同じように不良のような男子たちが集まっている。
「おい、アーロン、本当にやるのか?」
「婚約者がいるんだろ?」
そんな男子たちの言葉に、アーロンがニヤリと笑みを浮かべた。
「ば~か。だから楽しいんだろうが。婚約者の涙ぐむ顔が拝めたら余計に楽しいぜ」
一人が心配そうに言う。
「相手は貴族だぞ」
しかし、アーロンは引かない。
「大量に処分された後だ。ビビって手出しなんか出来るかよ。それに、俺は冒険者として成功した枠で入ったんだ。腕っ節なら負けないぜ」
冒険者として一定の成果があるとして、アーロンは入学を認められていた。
将来的に騎士家くらいの地位は得られるとされている。
「女を俺の物に出来ればいいんだよ。貴族なんて、女に弱いんだからさ。まぁ、楽しみにしてろ。お前らにも楽しませてやるからさ」
男子たちがニヤリと笑うと――声が聞こえてきた。
『残念、貴方たちは――あ~う~と~で~す~』
アーロンが驚いて振り返ると、甘い香りがしたと思ったと同時に急激に眠くなり意識を手放すのだった。
アーロンは最後に、青い一つ目を見た気がした。
◇
居酒屋で幹事をしているリビアは忙しかった。
「みんな楽しんでくれているかな?」
テーブルを見ていると、一部で眠っている男子たちの姿があった。
起こしに行こうとすると、クレアーレが側に来る。
「アーレちゃん、来ていたの?」
『アンジェがリビアを心配して、私に見守るように言ったのよ』
「アンジェは少し心配しすぎですね」
困ったような、嬉しそうな顔をするリビアにクレアーレは『――そうね』とだけ答えると、
眠ってしまった男子たちに青い一つ目を向けた。
『それより、彼らを連れ帰ってあげましょうよ。実は近くのテーブルで飲んでいる人たちが、彼らと同じ男子寮を使っているのよ。運んで貰いましょう』
「だ、駄目だよ、アーレちゃん。最後まで面倒を見ないと」
自分たちで運ぼうとするとリビアに、クレアーレは笑うのだった。
『大丈夫よ。喜んで引き受けてくれるわ。むしろ、頼んでくれてありがとうって言ってくれるから』
クレアーレの言葉に従い、渋々と頼みに行くリビアだった。
言われたテーブルに向かえば、そこでは男子ばかりで集まって楽しそうにしていた。
リビアが声をかける。
「あ、あの――」
男子たちが警戒したのか、急に黙ってほとんどが視線をそらしてきた。
だが、一人だけがリビアに鋭い視線を向けてくる。
「何か用?」
素っ気なさ過ぎる態度に不安になるも、リビアは自分たちのテーブルに視線を向けるのだった。
「実は男子が数人眠ってしまって。同じ男子寮を使われているとお聞きしたので――」
そこまで言うと、男子たちが急に目を光らせた。
「何だ、そういうことか!」
「任せてよ。丁度、切り上げるところだったんだ」
「俺たちが運んでおくから安心して」
「こういうのは俺たちの仕事だな」
「あぁ、そうだな!」
「安心して任せてくれ」
立ち上がって男子たち――アーロンたちのところに向かうと、そのまま会計を済ませさっさと連れ去っていく。
リビアは安堵した。
「よかった。ちょっと怖かったけど、優しい人たちだったね、アーレちゃん」
リビアの笑顔にクレアーレが言うのだ。
『ミッションコンプリート』
「アーレちゃん?」
『何でもないのよ。そう、何でもないの――』
◇
翌日。
男子寮の廊下を歩くのはキザなピエールだった。
「同室の男子が帰ってこなかったな。いったいどこにいったのか」
昨日の夜、歓迎会から戻ってきても同室の男子がいなかった。
不思議に思いつつ、横に流した前髪を指で弄っているとアーロンたちが前から歩いてくる。
三人とも、お尻をさすっていた。
「痛ぇ――それに、何も覚えてないな」
「昨日はそんなに飲んだかな?」
「先輩たちの部屋で目を覚ましたのは驚いたな」
ピエールはそんなクラスメイトを見て、ちょっと驚いてしまった。
「君たち、大丈夫かい?」
アーロンが髪をかく。
「何だ、キザ野郎か。昨日は飲み過ぎたみたいだ。何も覚えていないわ」
それを聞いて不思議に思う。
「そ、そう」
(あれ? 昨日はすぐに酔い潰れたと思っていたんだけど? ――ん?)
男子寮の廊下。
窓に何か青い光を見たピエールは、そちらへと視線を向けたが何もなかった。
(気のせいか)
アーロンがお尻をさすっている。
「それにしても尻が痛いな。昨日酔ってぶつけたらしいが、こんなに痛いものか? それになんか違和感があるしよ」
三人はぶつくさと文句を言いながら、自室へと戻っていくのだった。
ピエールは、アーロンたちが来た方向を見る。
(――まさかね)
自慢の前髪を手で払い上げ、そして自分も部屋に戻ることにした。
クレアーレ( ○)『読者の心が綺麗か汚れているか――試される話ね』
苗木ちゃん( ゜д゜)?「――え? 何があったの? ねぇ、これって何の話?」
クレアーレ(○ )『優しい先輩が、ちょっと悪目の後輩の面倒を見た話よ。それ以上でも以下でもないわ。乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です、は――全年齢対象の健全な作品です。一巻も発売中。みんな買ってね』
苗木ちゃん( ゜∀゜)「よく分からないけど買ってね! 買って、私のことを宣伝してね!」