イートンはヌスバウムの議論などを参照しながら、西洋絵画において女性が客体化されて描かれる技法を9つに分類しています。ただイートンの分類はあくまで絵画の裸婦像を前提にしたものなので、ここでは広告やアニメ、マンガなどにもあてはまるよう、分類を5つに再構成した上で「表現技法」の具体的考察をしてみましょう。あくまで試験的なもので、網羅的なものでも十分整理されたものでもありませんが、議論の手掛かりにはなるでしょう。
(1)性的部位への焦点化
まずは一番わかりやすい「性的部位への焦点化」から。性的部位(胸や尻など)を強調し、そこに目が行くように女性を表象する手法です。極端なのは顔の部分を外してしまう、映画の広告でいう「顔のない女性」のような構図でしょう。そこまでいかなくても、やたらに胸の谷間が強調されたり、謎のセルフボディタッチがあったりと、性的部位周辺に焦点を当てる手法はさまざまです。下の図解のとおり、いわゆる「乳袋」を始め、マンガやアニメにも性的部位を強調するための描画手法がいろいろあります。
図1. 性的部位への焦点化
こうした技法は、性的鑑賞の対象となるよう女性の身体部位を(時には現実にありえないような仕方で)強調するものです。それゆえ特に性的である必要がない文脈でそのように描くことは、見る者を性的に楽しませるための道具としているという点で、「性的客体としての女性」という考えが前提にあるという理解を生みやすくなります。
また、顔をフレームから外すような構図などは、女性の自律性や主観性を軽視し、性的部位にのみ価値がある(その点で交換可能な)ものとして描いているという印象を強めるでしょう。
(2)理由のない露出
続いてわかりやすいと思われるのが「理由のない露出」です。一昔前は、ビールのポスターといえば水着の女優さんがジョッキを掲げているものばかりでした。ビール自体の魅力を訴えるのにいつも水着の女性が必要な理由はないでしょうから、要するにターゲット層である男性の「目を引く」ために肌を露出した女性を使っていたわけです。いわゆる「アイキャッチ」として女性を使うことの、より露骨なバージョンと考えてもいいかもしれません。
似たような表現として、映画などでは物語上の必要性があまりないのに女性のシャワーシーンや着替えシーンが挟まれたり、マンガやアニメ、ゲームなどでは女性の衣装ばかり露出が多いといったことがあります。衣装でいえばいわゆる「ビキニアーマー(ビキニタイプの鎧)」はその古典的な例ですが、まったく機能的ではないですよね。
図2. 理由のない露出
こうした技法はやはり性的な鑑賞のために女性を用いていると言えますが、同時に商品や物語とは関係のないところでそれをおこなっている点において、商品や物語を単に装飾するためだけに女性を用いているという理解も生むでしょう(ちなみにイートンは、「一見物語上の理由があるように見えて、単にヌードを描くためのその物語が選ばれてることあるよね」という話もしています)。