追記:
追記2:杖の芯材につき、バジリスクの角をうっかり牙と取り違えていたので修正しました。
「他に何か有るか?」
ハーマイオニーが自分の思考に沈み、数分待っても帰って来ない事を確認した後、僕はそのように声を掛けて彼女を引き戻した。
しかし、直ぐには言葉が返ってこない。
散々逡巡する様子を見せた後、彼女は覚悟を決めた様子で問うた。
「――ヴォルデモートが求めている『武器』に心当たりは有る?」
「…………」
今年、僕は殆ど何も知らない立場に居る。
だから予期しない質問が飛び出て来るのは或る意味で予想通りでも有り、けれども一度も考えを巡らせた事すらない質問に対しては、一瞬であれ流石に考え込まざるを得なかった。
考え込んでしまった時点で、既にハーマイオニーの術中に嵌っていた。
「……闇の帝王の目的を明らかに妨げるような質問には答えられない。僕は予めそう言っていた筈だがな」
「確かに私も聞いたけど、私が従うとは答えていないわ」
「…………そうだな。その通りだ」
屁理屈である事は歴然としている。
しかし、僕達が仲間と言える間柄でない以上、ハーマイオニーがこのような手段を使った事に文句を言える立場では無い。しかも見事なものだ。確認するまでもなく、彼女は必要最低限の情報を得たのだ。
即ち、その『武器』とやらは僕に明かされる類の情報では無かったと。
「まあ、無駄な抵抗を示すべきではないのだろう。僕の方に心当たりはない」
「……答えられない、ではないのね」
「ああ」
余り本気で疑っている訳でも無いのだろう。
一応聞いてみたというような念押しに対し、しっかりと頷いてみせる。
「『武器』──復活した闇の帝王が求めるだけの価値が有る物、と言い替えるか。そのような話は校長との会話で一切出て来なかったし、僕の持っている情報の中でピンと来るような物はない。まあ単純に隠されたのだろうな。その理由までは判断しかねるが」
「……貴方に教えたくなかった。それ以外に何か有るの?」
「どういう理由で教えなかったのかという問題が有る。知る必要が無かったのか、僕に明かす事が不利益となるのか、或いはあの校長の個人的な理由に基づいて秘密としたのか。他にも色々と考えられるし、それらの差異は僕にとって非常に重要だ」
まあハーマイオニーにとっては重要ではなく、事実、理解出来なかったらしい彼女は曖昧な笑みを浮かべているが、僕の立場では違う。
あの校長が個人的理由で秘密にしたという場合が特に最悪だ。
ハリー・ポッターに関わる事項につき、あの老人の判断は殆ど信用出来ないのではないか──特に今年度に入って以降、その想いがますます強くなっているからだ。
「……でも、その武器が何か、想像も付かない訳でもないわよね?」
「期待しているらしい所悪いが、想像すら付かんよ。『武器』に該当し得る物は多過ぎる。単なる比喩に過ぎない可能性も有るしな」
「その割には貴方も考え込んだでしょう? という事は、貴方の中で何かしら琴線に触れる部分が有ったんじゃないの?」
「まあ、それはその通りだが」
全く何も思い浮かばなかったとまでは言わない。
「だが、直ぐに却下した答えでもある。特にこれは与太話の可能性が非常に高い。この四年間で正しく適当な話は君と散々していた記憶が有るが、それを踏まえて尚、今回は敢えての前置きが必要な位の与太話だ」
「それでも良いわ」
僕の難色に、しかしハーマイオニーは強く食い下がった。
「私達は完全に行き詰っているのよ。誰も彼も思わせぶりな事を言うばかりで、全く中身を教えてくれやしない。だから何でも良いから聞かせて欲しいの。たとえそれが貴方の中で有り得ないと判断された結論だとしても、何かしら役に立つかもしれない」
「……そうか」
まあ、元より断固として拒絶する気が有った訳でもない。
ハーマイオニーがそこまで言うというのであれば構わないだろう。
「──魔法使いの武器。そう聞いてまず連想するのは当然ながら杖だ」
肘掛の上で頬杖を突きながら言葉を続ける。
しかし、本当に作りの悪い椅子だった。こんなのに一時間も座っていれば身体を痛めるし、ハーマイオニーの前でなければ即座に立ち去っている。そう思える位には座り心地が悪い。
「とは言うものの、君もこの程度の事は考えただろう。非常に平凡かつ陳腐な発想だからな。想像出来ない人間の方が珍しい。そして非常に御誂え向きな事に、魔法界の歴史は一つの伝説的な杖の存在を記録している」
「ニワトコの杖、死の杖、宿命の杖。或いは、永久に不幸をもたらす杖。そう呼ばれる杖の事を貴方は言ってるのよね?」
「そうだ。まあ、僕はその存在自体に懐疑的な立場を取るがな」
「? どういう事よ?」
僕の言葉に、ハーマイオニーは小さな驚きと共に首を傾げる。
「てっきり私は、貴方がこういう類の話を信じるタイプだと思っていたけど」
「対して君は余り信じないタイプだな」
「……ええ、残念ながらその通りね」
「とはいえ、その伝説の原型となる杖が存在していた事は否定しない。ここでは信じていると言うべきか。しかし伝説の語る通り、誰が使っても最強である杖が存在するというのは余り信じられない」
あの校長に一応疑問をぶつけはしたが、三人兄弟の物語通りの杖──『決闘すれば必ず持ち主が勝つという、『死』を克服した魔法使いにふさわしい杖』なんぞが存在するとは真剣に考えていなかった。
「魔法の杖と魔法族には相性が有る。これは〝オリバンダー〟にしろ〝グレゴロビッチ〟にしろ、現在著名な杖作りが掲げる定説だ。そして魔法史が物語る伝説的な杖は、その基本原則に反しているように思えてならない。君もそう考えたから信じていないのだろう?」
「……その通りよ。杖の専門家でもないから確信まで持てなかったけど」
「無論、相性の煩さには杖によっても個体差が有る。所有者以外では全く実力を発揮し得ない杖──アカシアを使った杖あたりが特にそうなりやすいと言われているな──が存在する以上、その逆、人との相性を全く問わない杖というのも理屈としては有り得る。そしてそのような杖がたまたま最強と思える程に強力となったという可能性も、まあ零ではない」
否定し得る根拠が無いのは事実である。
宿命の杖を信じる者を、つまらない迷信に囚われていると非難する事は出来ない。
「しかし僕が最も承服しがたいのは、数百年前に作られた杖を超える者が現れなかった事を認める点だよ」
現代が過去に劣る事を認める。
これは余り愉快な想像ではない、と感想も吐露する。
「……ニワトコの杖が何時作られたかは知られてない筈よね?」
「その筈だ。作成者らしき人間は何人か挙げられているが、歴史学上で一致を見る定説は無いだろう。ただ相当古い事、そして〝オリバンダー〟や〝グレゴロビッチ〟絡みでないのは間違いない。だからこそ、それらの家に世紀の天才が──最強の杖を上回る杖を作った人間が一人も現れなかったというのは、ニワトコの杖が存在する可能性よりも疑問に思える」
既に絶滅した魔法生物も存在し、その材料を使っていれば現代で再現不可能という理屈も有り得るが、かと言って全く代替素材も発見出来なかったというのも頷きがたい。
単純な社会進化論を僕は信奉していないが、それでも人間というのは後に歩くより前に歩く方が楽な生き物なのだ。杖の分野でも現代までに進歩が無かったとは思えない。
「……でも、ヴォルデモートが最強の杖を求めている可能性は有るでしょう?」
「それは否定し得ないが──」
「貴方は否定的なのね」
どういう訳か、彼女はクスクスと笑い声を上げた。
「それも、私の眼には随分と強い否定に思えるわ。ヴォルデモートがそれを求めているより、ニワトコの杖の実在を信じる方がまだマシ。そう考えてすらいそうだもの」
「──そうだな。ニワトコの杖の実在を存在する以前の話。彼がサラザール・スリザリンの後継者を自負するならば、出自の知れない自称最強の杖を捜し求めて使うよりも、まず彼に倣うべきではないか。個人的にはそう考えている」
「倣うって、要はスリザリンと同じ杖を使うって事?」
「ああ」
僕の頷きにハーマイオニーは明らかに戸惑いを見せたものの、それでも僕に向けられる栗毛の少女の瞳の輝きを見れば、話題へ大きな興味を示した事は明らかだった。
「でも、サラザール・スリザリンがどんな杖を使ったのかは知られていたかしら?」
「確実な事は知られていないだろうと思う」
思い出すように斜め上を見ながら紡がれた言葉に、気のない答えを返す。
「サラザール・スリザリンの杖が後世に伝わっていたという噂、ないし伝説は一応幾つか存在する。例えば、ゴームレイス・ゴーントが使っていたとかな。しかし、それを裏付ける証拠も無い。杖材や芯材に関する情報も大きく錯綜している。〝オリバンダー〟が知っていれば話は早いんだがな、そんな事もなさそうだ」
「……確かにオリバンダーの一族は紀元前から存在しているわ。けど、スリザリンその人や、或いはグリフィンドール達三人の杖を作ったとは限らないでしょう?」
「それはそうだ」
〝オリバンダー〟は最も有名な杖作りだが、この魔法界唯一の杖作りという訳では無い。
千年前も同様であり、海外まで視野を広げれば杖作りの候補は更に増える。サラザール・スリザリンが杖を求めた際、当代のオリバンダーに頼ったとは限らない。
「しかし曲がりなりにも杖作りならば、最高峰の魔法使い達が如何なる杖を使ったかは気になる所だろう。自分が作ったなら当然後世に伝えようとするし、そうでないなら〝オリバンダー〟の誰かが調べようとしたに違いない。そう思わないか?」
「…………まあ、一理あるわね」
「無論、彼等が知った上で沈黙している可能性も否定し得ない。創始者と同じ杖を購入したいという人間が現れるのは、杖作りとしての信念──杖は本人に合った物が使われるべきという信念と相容れない。けれども、恐らくは事実を知らないのではないかと思う」
サラザール・スリザリンが自身で杖を創ったという伝説もあるからな、と続ける。
余り意識して発した言葉ではなかったが、ハーマイオニーはどういう訳か、虚を突かれたように口を開けていた。
「……スリザリンが自ら杖を作った説は、貴方的にアリなの?」
「? 何故、それを疑問に思う?」
疑問を言葉にした直後、直ぐに理由に気付いた。
……嗚呼、そうか。
彼女は〝マグル生まれ〟であるから、〝魔法〟を最初に手に取る場所は必然的にオリバンダーの店だった。だから、杖を売る店を魔法族にとって必須の存在として考えてしまうのか。
「魔法使いは、己に合う杖を使うのが最も実力を発揮出来る。この事は昔から広く言われており、識者によっては、杖は生き物であり使い手と共に成長するのだとすら主張する。つまりは魔法使いの杖とは単なる道具ではなく己の一部かつ魔法そのものであって――ならば、己の手で一から作り上げた杖こそが当人にとって最強の杖となる。そんな思想が生まれない方が不自然ではないか?」
正しさが証明されているかに関係なく、多くの魔法族は古くからの信仰を重んじる。
サラザール・スリザリンがそうしたとしても不思議ではなかった。
「知名度が高い所で言えば、イルヴァーモーニーの創始者、イゾルト・セイアは自ら杖を作っていた。もっとも杖魔法は西欧で発展した技術であり、新大陸には当然杖作りなど居なかったから、必要性に迫られての事でも有るのだが。……あそこには特別な木も植えられているしな。やはり伝説というのは案外馬鹿にならないかもしれない」
「……特別な木? イルヴァーモーニーの庭に植えられているという、葉に強力な薬効を持つ木の事?」
「そうだ。切り倒そうとしても切り倒せなかった──そんな奇妙な逸話を持つ木だ」
はてな、とハーマイオニーは顎に人差し指を当てつつ、波打つ髪を疑問に揺らす。
彼女が引っ掛かった部分は明らかだ。僕が敢えて奇妙と表現した理由が、彼女は解らないでいる。考え込むような素振りを見せたが、別に大層な発想では無い。彼女が思考に埋没する前に、僕の方から説明を始める。
「奇妙なのだよ。その樹木は現在殆どイルヴァーモーニーの象徴に近しくなっており、それを度外視しても、君が言った通り薬として非常に有用な木でもある。しかし普通に考えて、そんな木を誰が切り倒そうとするんだ? 例えばホグワーツには暴れ柳という無用の木が有るが、それを切り倒そうという発想はウィーズリーの双子ですらしないだろう?」
そう口にしつつ、あの校長はさっさと撤去すれば良いだろうとも思う。
リーマス・ルーピン教授がホグワーツを去った今、既にあの木は役目を終えている。今の狼人間の生徒には脱狼薬を与える事が可能なのだから、一々校外に追いやる必要もない。次の事故がニンバス2000を叩き折る程度の軽微な事故で終わるとは限らないのだろうに。
「では、誰が切り倒そうとするか──その資格を持つのは誰か。かの木が何時から植えられているかは不明確だが、既にイルヴァーモーニーの最初期には存在していたという。であれば、有資格者は非常に限られる。イゾルト・セイアか、養子を含めた彼女の子供達。更にウィリアムと呼ばれる魔法生物パグワジ。そして当然に疑問に思う。イルヴァーモーニーの創始者、或いはそれに近しい彼等は、一体何故その木を切り倒そうとしたのか?」
「……でも、葉の効能を知る前だったら切り倒そうとする事も有るんじゃないの? もしくは、杖の材料として使うつもりだったけど木自身が嫌がったとか。後者はマグルの常識では有り得ないけど、魔法界では違うもの」
「そうだな。適切な反論だ。それらを突き崩すような証拠を、僕は状況証拠すら持っていない」
ここではハーマイオニーが正しい。
「ただ、その木について解っている事がもう一つ有る」
人差し指を掲げ、そして続ける。
「その木が何時からそこに在るのか、何故切られそうになったかなどは歴史の闇に消える部類の事実だ。誰かが記録しない限り後世に残る筈がない。しかし木自体が現存しているのであれば、少なくとも木の種別は解る。実物を観察して、調べれば済むのだからな」
壁で囲う位の極端な事をやらない限りは公に知れられる事になる。
そしてそのような真似――明らかに何か隠していますという行動は、イゾルト・セイア達も取っていない。だからイルヴァーモーニーに関する書籍を漁りさえすれば、その樹木が何であるかは当然載っている。
「正確性を期すためか、その樹木の名称は学術名で記述される事が大半だ。けれども世間的に知られているのはラテンの気取った名よりも俗称であり、かつ今回はそちらの名で呼ぶ方が適切だろう。かの樹木は美しい木目、鱗のような特徴的紋様から、こう呼ばれている。
――
言わずもがな、サラザール・スリザリンの象徴。
「……偶々でしょう?」
「その通り。偶然の一致という可能性は有る」
呆然とした様子で呟かれた彼女の言葉に頷く。
「しかし、物語としては良く出来ているだろう? イゾルト・セイアは杖の材料として用いる為、自身の先祖と縁の深い木をイルヴァーモーニーに植えた。けれども後にイゾルト・セイアには、やはり何らかの理由によって木を切り倒す必要性が生まれ、けれども失敗した。これは上手く伝説を説明出来る」
「……セイアがスリザリンの子孫である。その事に懐疑的な歴史家も居た筈よ」
「そうだな。だが、イルヴァーモーニーが明らかにホグワーツを模しており、かつピルグリム・ファーザーズという歴史的事実から、彼女がこの魔法界に起源を持つ事を否定する人間はまず居ない。そしてイゾルト・セイアには蛇に纏わる逸話や伝説が多い。例えば、イルヴァーモーニーで彼女が創設した寮は──」
「――
降参するかのように、ハーマイオニーが小さく答えを呟いた。
ここでもまた蛇である。
一つなら兎も角、ここまで来るとイゾルト・セイアがサラザール・スリザリンの子孫であるという説にも信憑性が出て来るものだし、僕は信じる側でもある。
「まあその寮がレイブンクローに似ているとされるのは少々興味深くは有る」
実際に見た事が無いので断言出来ないが、そういう噂だ。
「少なくともスリザリンらしさから程遠いのは間違いなく、これはイゾルト・セイアがスリザリンの血縁である事を否定する理由としても良く挙げられる。と言っても、シリウス・ブラックのように
「……レイブンクローみたいなスリザリン。そう、まるで貴方みたいね」
「――――今の感想は必要か?」
「…………いえ。何となく、ふとそう思っただけよ」
聞き流して頂戴、と彼女は思考を振り払うように首を振った。
「ただ、あくまで仮説だ。サラザール・スリザリンの杖材と同種の木がイルヴァーモーニーに埋まっている。これは推測どころか妄想の域を出ない。問題も有るしな」
「問題?」
「忘れてはならないのは、かの樹木の原産地は南米大陸と言われている事だ」
ああ、とハーマイオニーは納得の表情を浮かべた。
「つまりこの島からは非常に遠く、かつ時代的にも早すぎる。仮にサラザール・スリザリンがスネークウッドを杖材に使ったとすれば、魔法族は〝マグル〟のヴィンランド伝説より遥かに早く、新大陸――それも南米まで繋がる交易路を持っていた事になってしまう」
割と非現実に片足を突っ込んでいる。
とは言うものの、何時だったか蛙チョコレートの材料について校長閣下と雑談したように、魔法をもってすれば絶対に不可能という訳でもないが。少なくともサラザール・スリザリンの時代には、既に魔法使い達は箒を使って飛んでいる。
「しかし、それが本当かどうかは格別、非常に
ルーナ・ラブグッドには寄稿する気など一切ないと言ったが、残りの在学期間中に暇が出来たのなら一度やってみるのも一興かもしれない。あの正気を喪った本ならば、歴史的事実とは程遠い妄想を載せた所で何も責められはしまい。
「……嗚呼、そうだ。後は戯言の類だが、君には話しておこうか」
僕達の間柄では元より真面目な話の方が稀だった。
去年の別離を決めた話も、今年度の一発目も、そして今こうしている事も、何れも例外的な部類に属する。だから、一つくらい馬鹿な話を混ぜておくのも良いだろう。
「何の流れで出たか記憶していないが、この話題に関わるかもしれない校長の戯言が一つ有る。これは今までの話と違い、サラザール・スリザリンがそもそもスネークウッドの杖を使っていないという方向に傾かせる話だ」
消極方向であれ、発言者を考えると無視出来ない。
「今世紀で最も偉大な魔法使いは言った。スネークウッドの杖は、善良で、誠実で、友誼に厚く、何より冗談と笑顔が似合う人間の手にあるのが最も相応しいと」
ハーマイオニーは目を白黒させ、何かを言おうとして口を開くまではしたものの、最終的には閉じてしまった。どうやら、からかわれたと結論付けたようだ。僕と同じ気分を味わえたようで何よりである。
「……ちなみに、スリザリンの杖材がスネークウッドであると仮定とした場合、芯材の方には心当たりが有るの?」
「こちらも伝説の例に漏れず色々挙げられているし、杖材と違って有力な話も無いな」
戯言を聞かなかった事にしたらしい彼女の疑問に回答する。
「だがそれらの伝説の内、君も興味を持つだろう内容は存在する。サラザール・スリザリンの杖の芯材はバジリスクの角だった──そんな伝説が」
「…………えっと」
「知っての通り、バジリスクは秘密の部屋に居たな」
勿論、バジリスクの角の入手可能性が存在していた事は、サラザール・スリザリンが杖材として使用した事には直接繋がらない。しかし、入手可能性自体に疑問符がつくスネークウッドに比べれば、杖の芯材として使われた可能性は遥かに高いと言い得るだろう。
「……じゃあ、ヴォルデモートは──」
「――いや、現状その可能性は低い。言っただろう、却下したと」
ハーマイオニーは希望に眼を輝かせたが、僕としては冷たく切り捨てるしかない。
「まず、これらは全て仮説だというのが一つ。サラザール・スリザリンの杖の材料を確実に語る証拠は無い。彼の直系の子孫、或いは杖作りの一族は、それを秘密にしたか、知らなかった。何らかの証拠──例えば杖の現物が出て来るなどの事態が起きない限り、最早確実な事は言えないだろう。それなのに杖の作成に及ぶのは余りに見切り発車が過ぎる」
別に歴史的に証明されていなければ倣ってはならない道理もないのだが、闇の帝王はそれ程
「後は僕にとってこちらの理由が大きいが、仮に闇の帝王が本気で最強の杖の作成を考えているというなら、既にギャリック・オリバンダーを拉致しているだろうという事だ」
「────」
「自分で作る場合は専門家から学ぶのが一番だし、作らせる場合でも彼に頼らない理由は余り無い。しかし、彼は未だダイアゴン横丁に健在だ。これは理屈に合わない」
「……その代わりに他国の杖作りが消えた、なんてニュースも無いわよね」
「僕が記憶する限りではないな」
であれば、違うのだろう。
「結論を言うが、闇の帝王が『武器』として杖を求めているとは思えない」
現時点ではその発想に惹かれず、乗る気にもなれない。
「ニワトコの杖の存在が公に証明された事は一度も無い。また、サラザール・スリザリンがニワトコの杖を用いたという伝説も僕は聞いた事が無い」
第一、仮にニワトコの杖の伝説が真実ならば、あの校長が既に持っている。
彼が生きている限り闇の帝王が杖を手に入れる手段は無い。初めから無意味な懸念だ。
「そしてサラザール・スリザリンの持っていた杖を再現するにしても、その材料を確定するような証拠は存在せず、闇の帝王が材料集めに動いている気配も無く、彼が杖作りを誘拐したという事もまた無い。だから、考えた上で僕は却下した。有り得ないとな」
ここまで考えて判断した訳では無いが、思考を整理した今でも結論は変わらない。
闇の帝王が求めている『武器』は杖ではない。
「──参考にならなかっただろう?」
「……ええ、そうね」
ハーマイオニーは頷きはしたものの、その言葉は歯切れが悪かった。
言葉と裏腹な意見を持っている──つまり、闇の帝王が杖を求めている事を個人的に支持しているという訳では無さそうだ。しかし、彼女は何となく引っ掛かる部分が有るらしい。
そうさせるのは彼女のみが持つ情報か、それとも単なる直感か。何れにしても僕なりの結論は既に示したし、そして彼女が僕の結論に従う必要もやはりない。後は光の陣営に立つハーマイオニーが結論を下すべき事だった。
「……
「そうか。それは何よりだ」
あれ以降もハーマイオニーは暫く思考に没頭していたが、何時までもそのままでは埒が明かないと考えたかもしれない。区切りを明確すべく、彼女はそう宣言した。
そして内心で安堵の溜息を吐く。
この程度で友好関係が崩れる訳が無い。僕はそう考えていたものの、やはり危惧は有ったのだ。そして杞憂で済んで何よりだった。
「……ああ、でも忘れてたわ」
「まだ何か有るのか?」
もう止めてくれといった表情を僕は浮かべていたのかもしれない。
彼女は少しだけ眦を緩めた後、しかし表情を引き締めて口を開いた。
「去年度末何が起こったかについて私はハリーの話を広く公開するつもりよ。と言っても、この計画をまだハリーにすら話してないけど」
「そうか。しかし堅い話ではないのは確かだな」
やはり彼女の話は事実上終わっていたらしい。
「君の好きにすると良い。ハリー・ポッターの親友である君には、当然その権利が有る」
自分でも気の抜けていると思える程に適当な返答だった。
しかし背を押すつもりで言った言葉でも有ったのだが、非常に意外な事に、彼女は頬を膨らませて露骨な不満を表現した。
「……相っ変わらず、貴方は興味を喪った――貴方の中で終わった事には淡白よね」
「これ以外の何を言えと言うのだ? その話を公開するには、ハリー・ポッターの口を開かせる必要が有る。当然、僕が関与出来ない話だ」
「…………それはまあ、そうだけど」
納得の言葉を吐きながらも、ハーマイオニーは依然不満の態度を崩そうとしない。
「嗚呼、別段君がルーナ・ラブグッドを使う義務もないぞ」
あの時点で今年度ハーマイオニーに会う事になるとは思っても居なかったが、こうして機会が出来た以上、直接伝えてはおくべきだろう。『ザ・クィブラー』は使えるとは思ったものの、必ずしもそれでなければならないと考えた訳でもない。
「あの場に彼女が居合わせたのは偶々だ。ハリー・ポッターに〝真実〟を語らせるとして、僕が最初に想定していた手段は違うからな。君が僕とは別の遣り方をしたとして不快に思う事は一切無いし、その場合は如何なる手段を採るのか逆に興味がある」
「……怖いもの聞きたさで聞くんだけど、貴方の想定していた手段っていうのは?」
「国際魔法使い連盟の議場にハリー・ポッターを立たせ、闇の帝王の復活を訴えさせる。その上で魔法族と非魔法族を虐殺する巨悪への対決姿勢を表明し、改めて国際的な結束の必要性と重要性を強調する。本気で世界を動かす気ならば、そこまでやらねば意味が無い」
と言っても、連盟は未成年魔法使いの涙の訴えに感激してくれる組織でも無いのだが。
そのように付け加えた僕に、
「…………そう」
ハーマイオニーはそれだけを答えた。
その一言に色々な想いが詰め込まれているのは伝わって来たものの、僕は敢えて見なかった振りをした。その手の感慨は、既に夏休暇中に置いて来ている。
「そして、そもそも論として公開するかどうかも強制していない。君達の騎士団長はハリー・ポッター自ら真実を語る機会を与えなかった。この魔法界で最も賢い人間は、断固として反対の立場を取った。……まあ、あくまで今年度の八月まではとは付け加えておくが」
とはいえ、彼の立場は変わっていないとは思っている。
あの校長がハリー・ポッターを表舞台に上げたくなかったのは、戦略でなくあくまで私情である。状況が多少変わった所で考えが変わる事は有り得ない。
「でも、ダンブルドアが反対してるとしても私はやるわ」
改めて決心を固めるかのように、彼女は力強く宣言する。
「ダンブルドア軍団結成時から内心引っ掛ってはいたのよ。ザカリアスは言ったわ。『僕達には知る権利がある』って」
「……ザカリアス?」
聞き慣れない名前が出て来た事に一瞬だけ戸惑う。
が、直ぐに誰の事だか思い当たった。
「……嗚呼、〝マグル〟に良くある姓をしたハッフルパフの事か?」
「…………多分、本人が聞いたら怒るわよ」
「怒るならその程度の人間だと言う事だ。ポッターとて非魔法界では珍しい姓ではなく、〝ポッター〟の内の幾らかは〝マグル〟とも結婚しているようだが、ハリー・ポッターの父親は〝純血〟の可能性が非常に高い。まあハリー・ポッターにとってはどうでも良いだろうが」
かの旧い家を〝純血〟に数えないなら、聖なる二十八は半分以下に削減すべきだろう。
「話の腰を折って済まないな。それで? ザカリアス・スミスが具体的に何と言ったか知らないが、ハリー・ポッターは激怒したんじゃないか? 嗚呼、ロナルド・ウィーズリーもか? それに他のウィーズリー三人も居た筈だから、彼等も良い気にはならなかっただろうな」
「その場に居なかったのに良くもまあ的確な事を言えるわね……」
感心ではなく呆れの眼を向けられる。
「ええ、そうよ。彼等は貴方の言うような反応をしたわ。でも、私は倣う気にはなれなかった。ザカリアスの口を塞ごうとはしたけど、それはダンブルドア軍団の活動に直接関係無い話だったからで、言葉の内容自体には理が有る事も認めていた。ハッフルパフは──セドリックの寮の人間は、気にせずにはいられないってね」
「…………」
「ハリーが世間に話してくれるよう、何としても、何度でも説得する。私にそう決めさせたのは勿論今回のアズカバンの事件よ。けれども最初にこの構想を産んだのは、この部屋で貴方が発した言葉なの。その言葉が、やはりザカリアスは正しかったんじゃないかと思わせた」
「……何故、そこで僕が出て来る?」
興味深く聞いていた所に不意を突かれ、思わず眉を寄せる。
しかも、この部屋での言葉という限定が付いている。つまりハーマイオニーは僕と違い、『ザ・クィブラー』を見てその考えを思い付いたという訳ではないらしい。
「貴方には大した意図は無かったのかもしれない。けれども確かに言ったわ。悪い結果を防いでみせたのはセドリックの最後の仕事だった、って」
「…………」
「貴方が言うからには嘘ではないんでしょう。それがハリーの頑張りを無視するものではないのも解ってる。遺体を持ち帰ってみせたのはやっぱりハリーだもの。けど、私には解らないのよ。それなのに何故、貴方がそういう表現を用いたのかが」
「――――そうか。君は、君達は聞いていないのか」
「一応、シリウスから断片的な話は聞いてるわ。彼はハリーが語る場に居たもの。けど、私達はその場に居なかったし、その後ハリーから直接聞き出す事もしていない」
改めて考えてみればそれが自然か。
四つの試練を超え賢者の石を護った話。秘密の部屋を発見してバジリスクを殺した話。時を超えてアズカバンの囚人を救い出した話。その何れも武勇伝の類で、現場に居なかった友人と話を共有するのに支障はない。三人の中で話題に上がったのも一度や二度ではないだろう。
しかし、今回は違う。
人一人が死んだ話は、たとえ親友の間柄だとしても軽々しく語れる話でもない。
「なのに、貴方が知っている理由は最早聞かないけど――」
ジロリと険しい視線を向けてくる。
実際、聞く意味も必要も無いだろう。彼女の中で既に答えは出ているからだ。
「――私もハリーから話を聞きたい。そう思ってしまった時点で、ザカリアスを責められはしないわ。そして、この魔法界全てが同じ事を思ってる。野次馬根性の人間も居るでしょうし、私ですらその気持ちが全くないとは言えないけど、でも、それが全てでは無いと信じてる。だからこそ、去年の真実は秘されるべきではないと思ったの」
「……だが、結局はあの男が語るかどうかだ。それが無ければ何も始まらない」
「そうね。間違いなく渋ると思う。ただ、最後にはハリーも語ってくれる筈だわ」
……彼女の推測は、多分正しい。
アズカバンの脱獄は或る意味で追風だ。
少なくとも校内では風向きが――ハリー・ポッターを大法螺吹き扱いする風潮が変わりつつある。彼が〝真実〟を語る気になっている事は有り得る。何よりハーマイオニーの理詰めの追求と感情的な懇願を撥ね退けられる程、ハリー・ポッターは非情な人間ではない。
否定をしなかった僕に、ハーマイオニーはクスクス笑った。
「けれども、貴方がグリフィンドールだったら。去年もそんな仮定を考えたけど、戦争が始まった今年程それを切実に願ってしまう事はないわ」
一度浮かんだ笑いは止まらないらしく、しかし彼女は構わず言葉を続ける。
「貴方が本気でハリーを説得しにかかったら、十分も有れば彼を言い包められた筈よ。いいえ、既に去年の話は公のものとなっていたでしょうね」
「……前半は兎も角、後半はそうだな」
渋々であれ、認めざるを得ない。
「ハリー・ポッターが〝真実〟を語りたがらないのは解るとしても、それを語るよう校長が説得するどころか、その選択肢が有る事すら示さないのはやはり気に入らん。ハリー・ポッターにもまた、戦いの権利が与えられるべきだろう」
王が決めた以上文句を言わず戦え。それだけで済む時代は遥か昔だ。
己以外の力に更々期待していないという点において、あの校長と帝王はやはり似ている。
「そう言うと思ってたわ。貴方に比べれば、ハリーが溜め込んでいる怒りなんてそよ風に思える位だし。それにもう一つ有るのよ。今年同じ寮だったら良かったと思う理由」
ハーマイオニーは責めるような視線を向けて来る。
けれども、その口元に笑いがこびり付いているのが救いだった。
「閉心術。貴方なら、ハリーに教えられるんでしょう?」
「…………」
「貴方は閉心術、そして開心術の性質に詳し過ぎたわ。世に知られていない筈の技術なのにね。その理由は、貴方が実際に扱えるからなんでしょう? それも、非常に高度なレベルで」
「――そうだな、認める。最初から誤魔化す気も無かったが」
余り明かしたくない話ではあったが、あそこまで踏み込んだ話をした以上、ハーマイオニーならば何れ思い当たるとは考えていた。それが今になったとしても驚きはしない。
「しかし万一僕がグリフィンドールだったとしても、やはりあの校長は僕に教えさせないだろう。相手の開心術を防いだ際、その術が逆流し、結果として心に入り込む場合が有る。つまり僕が抱える〝秘密〟がハリー・ポッターに漏れる可能性は有り、僕が教えるのは余りに危険が大き過ぎる」
「でも、閉心術を教えるスネイプを見張ったり、横から助言したりは出来るでしょう?」
「……それはまあ、可能だな」
心の内部の問題である以上、傍から介入出来る事は限られる。
それでも尚、居ない方がマシと非難されない程度には役に立てるだろう。
「スネイプは教えるに際してハリーと二人っきりならという条件を付けたらしいわよ。私やロンの同席は、とうめ――ええと、ジョージ達が作った道具を使う事も含めて明確に禁止されたわ。閉心術の心得が無い人間が居ても気が散るし、邪魔なだけだってね」
口を滑らせ掛けた割に、ハーマイオニーも上手い言い訳をしたものだ。
「けれども、貴方に対してはその言い訳は使えないわ。貴方の見解によればダンブルドアもスネイプを警戒しているんでしょ? なら非常に上手い案だと考える筈よ」
「その場合であってもスネイプ寮監は色々難癖を付けて僕を排除したがると思うが――しかし、彼も自分が二重スパイであると知られているのを良い事に好き放題言ってるな。まさか疑われない努力すら放棄するとは。それでこそ、あの寮監らしいと言えるが」
元死喰い人である人間が一人で〝生き残った男の子〟を教える。
普通なら撥ね退けられるのが自然だ。
「……だから、今日の貴方の話を聞いて余計に憂鬱なのよ。質問しておいて良かったのは間違いないけど、悩みが解消されるどころか更に増えたわ」
今日は突っ伏す机が無いので、ハーマイオニーは座ったままガックリと項垂れる。
「貴方もダンブルドア先生も私に色んな事を、特にハリーのストッパーとなる事を〝期待〟してるのは解るわ。けど、学校の御勉強が出来るのと、冷静だとか機転が利くとか判断力に優れるとかいうのは違うのよ。今年になっては特に強く思うわ。私は自分が考えていたより、その手の能力に優れている方じゃないって」
「でも、だからと言って放棄する君ではないだろう」
「……そうだけど。確かにそうだけど、それでも愚痴りたくなるわ」
座面に両手を当て、うーと言いながら足をバタバタさせる。
もっとも言葉や態度の割に、表情は余り暗くもない。彼女の言葉通り単に胸中を吐き出したくなっただけで、現状を拒絶している訳ではないらしい。
しかし、あの二人も本当に得難い親友を手に入れたものだ。
ハーマイオニーが居なかったのならば、彼等は二人で全てを為さねばならなかった。
一年目から彼女無しには得られない知識が多く、二年目はバジリスクの答えに辿り着けたとも思えず、去年などは仲違いの間に入る者が居なかった。今年で言えば、ダンブルドア軍団の運営――構成員の都合の良い日時の設定等――に加えて、普段の宿題の消化にO.W.L.の準備もか。不可能だとは言わないが、彼等の苦労や負担は現状とは比較にならないものだった筈だ。
まあ彼等がその価値を真に自覚しているのかは怪しいのだが……ハーマイオニーが疎んでいる訳でもなさそうだから良いのだろう。その感情が向けられる先が僕で在って欲しかったという考えは、やはり四年前に捨て去っている。
ただ、彼女は話が終わったという雰囲気を醸し出していたが、僕の方はまだだった。
たとえ気が進まずとも、このまま聞かれないままにした方が良かったとしても、これからも友人で居るならば確認しておかなければならないと思った。
「僕は開心術を使える――その事について君は言う事がないのか?」
「?」
本気で首を傾げられる。
彼女の恰好も、足をパタパタさせるのを止めただけだ。真剣さの欠片もない。
……当然の問いにそこまで雑な反応を示されると、自分が間抜けに思えてくるから止めて欲しいのだが。
「開心術や閉心術が表に余り知られない一番の理由。それは実際に使えると公言する者が居ないからだ。この技術を非魔法界の読心術のように考えるのは多くの魔法族も変わらない。稀にそれが出来る人間も居るらしいから完全に誤解ではないのだが……まあ、何と理屈を捏ねようと、開心術士が他人の心を無断で侵せる人間なのは事実だ」
「だから?」
「つまり、これを隠していた事に関して君は不愉快を覚えただろうと思ってな」
「……ああ、そういう意味ね」
彼女の返答には、少しだけ軽蔑が混ざっていた。
「確かに心を覗かれるのは余り良い気はしないわ」
でも、と彼女は続ける。
「去年私も似たような事をやっていたのを考えれば、貴方を一方的に責めるのは違うと思ってしまうもの。そして貴方は他人のプライバシーを無意味に侵害する人ではないと知ってるし――何より、貴方の言葉を信じるなら、開心術は便利な技術じゃないんでしょう?」
疑問の言葉は断定の響きを帯びている。
そして、僕の返答も待たず両手を軽く握られ、彼女は椅子ごとズイっと僕に近付いた。三年生で抱き着かれた時の次位には、彼女と僕の顔の距離が近付いていた。
……大事な話の為に距離を潰してくるのは、世の女性の習性なのだろうか。
「今、私が何を考えているか解る? 流石に杖や呪文を使うのはナシだけど、視線を合わせて読める範囲では心を読んでも良いわよ。何を読まれても後から文句も言わないわ」
「……そうは言われてもだな」
朧気ながらも伝わってくるイメージは有る。
僕達が出会った最初の時の事。入学前に幾度となく公園で夕暮れまで過ごした事。去年を除く四年間、隠れるように図書室で会い続けた事。去年の夏、彼女が僕の家を訪れた時の事。
それらと共に、彼女から向けられる友愛や信頼の感情も掴み取れるが――ハーマイオニーが読んでみろと暗に言っているのは、多分そういう事ではないのだろう。
困惑する僕に彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ええ、良く解ったわ」
握っていた片手を離した彼女は、そのまま人差し指で鼻頭を軽く弾いた。
「貴方は私の心を読めない。貴方の様子を見る限り、全く読めないのではないんでしょうけど、少なくとも肝心な部分は読めていない。それこそ読心術のように読めていたら、もっと色々と話は早かったでしょうにね。安堵半分、残念半分と言った所かしら」
「……残念? そんなに心を読まれるとマズい事を考えていたのか?」
「そんな事を口に出しちゃうのが、貴方が女心を理解出来ない何よりの証拠なのよ」
そう言って。
ハーマイオニーは、べっと赤い舌を出して見せた。
・スネークウッド
このように呼ばれる木には幾つか種類が有るが、本作ではBrosimum guianense (Piratinera guianensis)の事として言及している。
もっとも確定出来る情報は公開されておらず、葉に薬効があるとするイルヴァーモーニーのスネークウッドは、Rauvolfia serpentina(こちらはインド・アジア原産。ただ木というより植物と呼ぶべきか)を想起させたりするので、公式のアナウンス待ちである。
・ポッター家
ジェームスは原作の至る場面で純血と記述されているが、マルフォイも含めて現在には完全な純血など居ないという公式の立場、及び“The Potters continued to marry their neighbours, occasionally Muggles”(Wizarding World『The Potter Family』)とされているように、一滴もマグルの血が混じっていないという点については否定されるべきかもしれない。