尚、ダンブルドアに対する教育令第二十六号(科目に関しない情報を生徒に教えるな)違反についての言及を忘れていたので、アンブリッジとの会話の場面で加筆しています。
基本的な流れに変更は有りません。
懸念だった花火退治は、拍子抜けするくらい楽に済む事になった。
その理由は、我等のスネイプ教授が助けの手を差し伸べてくれたからだ。
当然ながら、彼は非常に渋々と言った様子で有った。
呪文を教えてくれた際もあからさまに不機嫌で、何故我輩がこんな事をと思っているのがありありと見て取れた。そして教授は僕に助力してくれる程に
結果として、『バンバン暴れ花火』やら『デラックス大爆発』の退治の為に校内を駆け回る仕事は、費やされる時間さえ考慮しないなら、監督生業務の補助より少し面倒という程度に収まってくれた。所詮は玩具という事か。単なる優等生でしかなかった魔法省役人にはどうにも出来なくとも、優れた魔法使いであるホグワーツ教授にとっては障害にすらならないらしい。
グラハム・モンタギューにしても、失踪翌日には生きたまま見付かった。
僕としては意外かつ落胆してしまう結末であり、情の深いドラコ・マルフォイは露骨に安堵していたが、これで一番命拾いしたのは〝ウィーズリー〟であろう。
教授達の双子への処遇もそうだが、この状況で死人が出てしまえば、コーネリウス・ファッジが暴走し、ホグワーツの休校を訴える事も有り得た。まあその場合はルシウス・マルフォイ氏が圧力を掛け、何とか学期を続けさせようとしただろうが、問題は、〝ウィーズリー〟が闇の帝王の怒りを買いかねないという事である。余計な邪魔をされれば今度こそアーサー・ウィーズリーを殺しに行く筈で、彼等は殺される理由が増えなかった幸運に感謝すべきだろう。
そして勿論、僕の最大の関心事であり懸念事項は、アルバス・ダンブルドアが消えた翌日に熱くなったシックル銀貨への対応であった──のだが、残念ながらそちらの方は、直ぐに解決の為に動く訳には行かず、先送りとなった。
ダンブルドア軍団が捕まってくれたのは『必要の部屋』だ。
である以上、高等尋問官殿や尋問官親衛隊達がそこを見張るのも自然な話である。
まあ本気でハリー・ポッターが再度訪れるとは彼女達も思っていなさそうだったものの、警戒を解く理由は無い。また、かの部屋の神秘自体がドローレス・アンブリッジ達の関心を強く惹いたのだろう。あの日以降、休み時間や放課後に彼女達が八階の廊下前をうろつく姿も良く見掛けるようになり、当然のように僕達が逢瀬を重ねる事も封じられていた。
その上、僕には監督生業務の代行・尋問官親衛隊に関する雑務に加え、試験が間近に迫って来た事によって増大し始めた膨大な宿題にドラコ・マルフォイの試験対策の世話と、為すべき事は山積みであり、纏まった時間を取る事は中々難しかった。
結果、僕自身ハーマイオニーと話す必要性は感じていたものの、あっという間に数日が過ぎ去ってしまい……そして、彼女が痺れを切らす方が早かったらしい。
明日からイースター休暇が始まる金曜日。
その日、僕はポモーナ・スプラウト教授に呼び出された。
呼び出しの用件も濁され、向かうよう指示されたのが第四温室だというのが少々不可解だったが、余計な押し問答で時間を浪費する程暇ではない。夕食後指定された時刻に大人しく向かって見れば、そこで僕を待ち受けていたのは、予想だにもしなかったハーマイオニーの姿。それまでつまらなそうに入口付近の壁に寄りかかっていた彼女は、僕を見て一瞬だけ安堵の表情を見せた後、直ぐに腕組みしてそっぽを向き、温室の奥へと入って行った。
その光景を見た僕は一つ嘆息した後、辺りに誰も居ないのを目視と呪文によって確証を得た上で、温室の入口を潜った。
ホグワーツ教授は、僕が思っている以上に御節介焼きらしい。
「しかし、ポモーナ・スプラウト教授が良く了承したものだ」
まず最初に、僕はそう切り出した。
場所は温室の殆ど真ん中。背の高い植物に覆い隠されるように用意されていた簡素な
僕達の距離は、一メートル強と言った程度。もっと距離を取られると思っていたが、余り話しにくくならない程度を選んだのだろうか。そして、僕達の中間程の距離、二等辺三角形を描くような位置に置かれた石の上に、一個の小さな置時計が用意されていた。椅子に座っていれば何れの側からでも見えるようにされているのは、時間を意識しろという言葉無き警句だろうか。
正直言って、この部屋の居心地は余り良く無かった。
土と草の匂いが強烈で、御世辞にも空気が澄んでいるとも言えず、湿度も高く、隙を見せると牙付きゼラニウムなど不愉快な魔法植物が襲い掛かって来るというのもいただけない。
しかし、今のような状況で、誰にも怪しまれず、かつ落ち着いて話せる場所というのはそう多くない。これで文句を言えば罰が下るだろう。
「君の代わりに僕を呼び出し、尚且つ温室を密会の為に使わせる。確かに彼女は良い教師であるが、それでもここまで生徒に許すとは思わなかった。一体、どんな言い包め方をしたのだ?」
「……私の差し金じゃないわよ」
「…………ポモーナ・スプラウト教授が自発的に、この状況を設定したのか?」
少しの驚きと共に聞き返せば、彼女は波打つ長い髪を舞わせながら首を横に振った。部屋に帰る頃には、髪が温室の匂いを吸ってしまいそうだなと思う。
「いいえ。提案はマクゴナガル先生。そして頼まれたのよ、貴方を止めろってね」
「──君は僕の良心回路扱いされているのか」
「この機に貴方が内蔵してくれるのが一番良いんだけど」
「生憎ホグワーツ入学前に捨てていて、今はスペースが無い」
そもそもそんなモノが在ったら、僕は彼女と会い続けてはいまい。
「下らない事を言わないで。兎も角、貴方に枷を掛けておいた方が良いというのは、スプラウト先生の方も同意されたわ。今のホグワーツ内で最も警戒すべき人間は貴方だと看做されていて、だから今、こんな事になっているの」
「それはまた御苦労な事だ」
「……こういう告げ口は余り好きじゃないんだけど、一応伝えておくわ。貴方はスリザリンで一番会話は出来ても、一番話が通じない人間だって評されていたわよ」
「心外な評価だな。ただまあ、受け止めはしよう。受け止めるだけだが」
聞く気は無いし、正す必要性も感じていない。
しかし、ウィーズリーの一件程度でここまで介入してくるとは思わなかった。
確かに二、三日前に教授二人の下へ向かったし、僕の懸念と警告に彼女達は揃って顔を顰めていたが、思っていた以上に深刻に受け止めてくれたらしい。
もっとも、彼女達が真剣であろうと、張本人達が真剣でないなら無意味なのだが。
「……でも、はっきり言って、荷が重すぎるわ」
大きく息を吐き出して尚、彼女の顔は晴れなかった。
「まあ、それ程大きな期待をされてはいないでしょうけど。それでも、貴方を止めるなんて無理でしょう? 私がここで何を言おうとも、一度決めたら貴方はやる人だもの」
「別に僕から何かをしようとは思わんよ」
返答が適当だったのは否めない。
しかし、線を踏み越えたのは彼等であって、僕達では無い。
「何かするのはグラハム・モンターギューや──或いは、これからのスリザリンの彼等だ。そして、寮の団結を持ち出されれば僕は抵抗出来ん。障害も既に無い。
「……アンブリッジや尋問官親衛隊が好き勝手やっているから。貴方はそう言わないのね」
「彼等の行為は、少なくともホグワーツの校則や魔法省の定める法律には反しないからな。そして、無秩序状態を公然と肯定したのも彼の方が先だ」
無法に対して無法で反撃するのは無法者だけだ。
まあグリフィンドールの嘯く騎士道は、そういうモノだと承知しては居るのだが。
「そして、別にグリフィンドールに止めろとも言わないとも」
何かをする気が有るのではなく、何もしない気が有るというのがやはり正しい。
「こういう世界は、君達の望む通りだろう? やられたら、やり返す。非常に
「…………聞いてた通り、やっぱりダンブルドアに怒っているのね」
「思い違いだ。別に前校長閣下の行為自体を否定しないし、理解を示す事すら出来る。──が、せめて外部にバレないようにやる程度の慎みは持って欲しい。そう考えるのは罪なのかね」
彼は強過ぎるから、他人の視線や反応に無頓着で構わないだろう。
しかし、他の人間は違う。あの夜に校長室で何が起こったかについて、肖像画、ゴースト、そしてハリー・ポッターの口を塞ぐ程度の事はすべきだった。
「……私は最大限止めるよう努力するし、先生方も眼を配ってくれると仰ったわ」
「それで無くなるなら、ルーナ・ラブグッドは未だに虐められ続けていないな」
「…………」
「見張るには時間的・物理的制約が有る。そして悪餓鬼共にとっては、教授達も含め、君のような〝良い子ちゃん〟はウケが悪い。統制出来るとは到底思えんよ」
皮肉が余程心に突き刺さったのか、ハーマイオニーは唇を噛んで黙り込んでしまう。
アルバス・ダンブルドアがトム・マールヴォロ・リドルを更生させられなかったように。
悪戯気分で他人を壊せるように生まれついた者達を、教師という生き物達は統制出来ない。
そして何処だろうと、ウィンチェスターだろうとイートンだろうと同じだ。どんなに素晴らしい教師であったとしても、彼等の手の届く範囲は学校という箱庭の、更に限られた領域であって、心の内側や学校の外側まで干渉し得ない。
「──解ったわ。じゃあ、約束して」
……それでも簡単にへこたれないのは、やはり彼女の美点か。
「何を?」
「酷くなりそうな事態を貴方が知った時は、貴方の力の及ぶ限り止めるって」
「…………同じような内容は、教授達にも言われたな」
スリザリンとして行動に打って出る前に、まず相談しろとも伝えられた。
「でも、先生達は貴方を制止しようとしただけで、約束はさせなかったんでしょう?」
「それはその通りだ。そうさせる事など何もないからな」
「なら、この場でして」
「……その事に何の意味が有る?」
聞き返せば、彼女は頬を膨らませた。
「良いから! 貴方が約束するのが最も大事なの!」
「──そうさせた所で何が変わるとは思わんが、まあ君が言うならそうしよう」
それでもハーマイオニーは手を自分の腰に当てながら睨んで来たので、一つ溜息を吐き、教授や君が不愉快に思う事態が起こらないように努力はすると付け加えた。
そうしてやれば、一応彼女は矛を収める事にしたようだ。未だに微笑みを向けてくれる事は無かったが、こちらへ向けられる視線の強度は弱まった。
いや──弱まり過ぎていた。
「……それで。頼まれ事が終わったというなら、もう僕は御役御免か?」
そう問うてみれば、ハーマイオニーは軽く俯きつつ首を緩く横に振った。
「…………友人としての会話も多少なら構わない。先生方はそう仰ったわ」
「そうか」
「スプラウト先生は多少渋られたけど、最終的には納得されていたわ。勿論これは非常に例外的な対応で、あの女が現在我が物顔でホグワーツをうろついていて、尚且つマクゴナガル先生の口添えも有っての事だけど」
ほら、解るでしょうと、ハーマイオニーが上目遣いをして来たのに頷く。
「まあな。魔法省が現在最も関心を抱いているのは、アルバス・ダンブルドアの居場所だ。そして、あのグリフィンドール寮監と前校長の関係の深さは周知でもある。ドローレス・アンブリッジが如何なる監視手段を用いているにしても、彼女の周りもまた見張られている可能性が高い。教授がそう簡単に監視を許すとも思えんから懸念し過ぎかもしれないが、悪い警戒では無い」
相手を侮った挙句に、最悪の結果を招くよりもマシ──
「…………」
ハーマイオニー・グレンジャーに、開心術の才は無い。
けれども、どういう訳か、視線すら合わせる事無く、彼女は僕の思考を読み取ったようだった。彼女は力無く項垂れ、肩は落とされていた。
「……貴方は──」
「ん?」
「──部屋を開けようとしなかったの?」
「…………それは如何なる意味で言っている?」
そして、何故問うて来るかも解らない。
しかしながら、その質問には何となく不穏な気配を感じ取った。
「私達が会う為の最短の手段は、勿論あの部屋を開ける事だった筈よ。ええ、あの夜以来、アンブリッジや尋問官親衛隊が八階の廊下をウロウロしてたり、罠を張っているかもしれない事は理解している。それでも、『必要の部屋』と呼ばれる部屋なら、貴方が先に部屋内に入ってしまったならば、どうにかなったんじゃないの?」
「それはまあ、そうかもしれんが」
ハーマイオニーの瞳は、大きく逸らされたままだ。
しかし、質問の口調は詰問めいていて、答え方を間違えば酷い事が予想出来ていて──それを感じられた所で、理由が解らなければ対処しようもない。
「だが、僕はそれが出来ないという気がしている」
だから僕の選択肢は何時も通り、
「確かに部屋は扉を用意してくれたかもしれん。けれども、必要の部屋が、入室者の願いをどのように読み取っているかどうかは解らん。だから、思い描いている表面的な願いでは無く、心の深層の願いに応じた部屋を──僕にとって真に『必要』とする部屋を用意してしまう可能性が有る。その際は、恐らく
万一そうなってしまえば、自制出来る気は余り無いからだ。
最近自覚してきた事であるが、僕は思った以上に我慢強い人間ではない。
「願い? 貴方の深層の? 一体どんな願いなの? ダンブルドアが逃げてしまった後で、私に会うよりも『必要』な用事が──」
「──まあ、その話は後回しにしよう」
「…………」
「一切話をしないと言っている訳じゃない」
言葉を途中で遮られた事より、回答を拒まれた事の方に御怒りらしい。
相手が誰であるかを忘れ、怒りと共に視線を合わせてきたハーマイオニーに苦笑する。
「こんな状況になってしまった以上、僕としても君に問い質したい質問が出来た。これは必要の部屋が如何なる部屋を用意するかに関わる事で、しかし、この僕の話自体は五分と足らずに終わる。だから最悪の場合、適当な空き部屋を見繕って君に話す事も有り得た」
「…………質問? 私に? 他ならぬ貴方が、部屋を『必要』とする事に関わる程の?」
一瞬で激怒の色が消え、不安以外が見付けられなくなるのは何故なのか。
「……しかし、ハーマイオニー。この場を用意したのが教授達でも、どうにか出来ないかとミネルバ・マクゴナガル教授に相談したのは君が先だろう? つまり、君は僕に色々と聞きたい事が有る筈だ。そして納得出来ない事も。ならばまず間違いなく、そこから始めない事には僕の話どころでは無くて──必然、やはり適当な場所で気軽に、という訳には行かない」
彼女の聞きたがり癖は、学年が上がるにつけて収まった。
けれども彼女の知識欲は、逆により大きくなっている事は重々承知している。
「正直な所、君が今からする話題について答えるのは余り気が進まない。今更終わった事を蒸し返しても建設的では無いからな」
最早、ホグワーツ内の現状は諦めている。
「けれども、君が聞くというなら僕は答える。相変わらず僕の視点と偏見に基づく感想や思考に過ぎず、君がそれを間違っているとか、許しがたいと考えるのも自由だ。そして、信じられないと一切を否定する事すら好きにすると良い」
「…………」
「だから、君から先で構わない。ポモーナ・スプラウト教授達がどの程度私的な会話を許してくれるかどうか解らんし、彼女が見回りに来ても文句は言えん。寧ろ、高等尋問官殿の事を考えると、逆にその方が安全だとすら言えるしな」
途中で時間切れというのも嫌だろう?
そう更に笑いつつ、譲るように掌をハーマイオニーの方に指し向ける。
けれども、彼女は中々話を始めようとしなかった。
彼女は明らかに僕の理屈を認めていて、けれども、半ば僕の言いなりになる事こそが癪であるようだった。
この手の反抗心は、〝普通〟の人間には通常なのだろうか。そう思ってしまうのは、ドラコ・マルフォイにも良く見られる反応だからだ。母数が二つしか無かろうと、その何れも同じであるとなると、やはり偶然より必然の共通を疑ってしまう。
「……ハリーやロンは、何故ドビーが警告をしに来たのかに疑問を抱かなかった」
「────」
それでも、最終的にハーマイオニーはそう切り出した。
そして意外だった。時間が無いかもしれない以上、もっと核心から問うてくるものだと考えていたが、そんな周辺部から聞いてくるとは──否、あの夜の時系列順だから正しいのか。
そんな思考を他所に、彼女は話を続けた。
感情を押し殺し切れていない、何処か希望に縋り付こうとするような声で。
「けれども、私は違う。御馬鹿なマリエッタが『
「────」
「でも、そうじゃなかった。また、アンブリッジがマリエッタから話を聞いた後、ドビーが部屋を偶然訪れる可能性も低い筈でしょう? そして秘密の話をした後に、あの女は屋敷しもべ妖精を部屋に近付けようとはしないんじゃないかしら?」
「……だろうな」
去年のアラスター・ムーディ──に化けていたバーテミウス・クラウチ・ジュニアとは状況が違う。彼は聞かせる為に、意図的に妖精を近付けた。
一方で、ドローレス・アンブリッジにはその理由が無い。
「彼女は妖精達をこき使う事に躊躇は無さそうだが、しかし一般的な〝純血〟と違い、彼等を背景や空気と扱う事は出来なさそうではあった。また、ドビーの側が気を利かせていた──彼が自発的に、前校長が居なくなって以降の彼女を注意深く見張っていたとも思わんね。どう見てもアレは、そこまで賢い存在では無いだろう」
マリエッタ・エッジコムの告発の瞬間、もしくはその後、ドビーが運良く居合わせたと考えるのは──そしてマリエッタ・エッジコムがダンブルドア軍団の一員である事を知っており、ハリー・ポッターにも報告せねばならないという思考が出来たというのは、余りに奇跡が噛み合い過ぎているだろう。
「だから私は考えたのよ。貴方がドビーを警告に寄越してくれたんじゃないかって」
その言葉は好意的な響きを帯びていたが、しかし僕は首を横に振った。
「それは間違いだ。僕は彼に対し、君達に警告
「……どういう事よ。他の妖精達も、他ならぬドビーも、貴方が助けてくれたと言ったわ」
「余りに節穴過ぎるな。あの場で彼等は一体何を見ていたのやら」
ハーマイオニーの疑問に、薄く笑いながら答える。
「厨房に行き、僕がドビーを呼び寄せたのは事実だ。しかし、僕は彼に対し最初に、お前は僕の命令に従う気が有るかと聞いたのだ。そして彼は回答した。自分は自由な屋敷しもべ妖精であり、更に邪悪なマルフォイの坊ちゃまの友人の命令に従う義務は御座いませんとな」
「────!」
「震えながらだったが、まあ良い啖呵の切り方だったよ」
ハーマイオニー手製の服を重ね着した妙ちくりんな姿の妖精は、首を縦に振らないように両手で顔を抑えながら、周りの妖精達に白眼視される事すら気にしようともせず、己の意思を明確に表明してくれた。
「だからな、更に僕は細かい事を伝えずに言ってやった。〝ハリー・ポッターの窮地を救う為に、ドローレス・アンブリッジの動向を秘密裡に探る事を禁じる〟。また、〝その後にハリー・ポッターへ警告をする為、現在八階の部屋に居るであろう彼の許を訪れる事も禁じる〟と」
故に、僕は命令などしてはいない。
彼をハリー・ポッターの救出に向かわせたのは、他ならぬ彼自身の意思だった。
ハーマイオニーは息を呑んだ後、暫くの間言葉を発しなかった。その後で、気力を振り絞るかのように必死な調子で批難を口にした。
「……残酷な真似をするのね」
「僕に従う道理はないというなら何の問題も無いだろう? 確かに僕は彼の主人でも無い。だから、屋敷しもべ妖精の法は、僕の言葉に違反する事を禁じない」
「…………ドビーはハリーが命令するまで、やたらと自分の事を罰しようとしていたわ」
「本能を理性で抑え込むのが〝ヒト〟である。そうでは無いか?」
実際、ドビーは僕の期待に応えてくれた。
頭が足りないだけの妖精だと今まで思っていたが、彼も芯の通った信念を持っていたらしい。完全にハリー・ポッターの窮地を救う事には失敗したが、それは僕の方が
「……じゃあ、他の妖精達の様子が変なのも貴方のせいなんでしょう?」
「……嗚呼、そちらか」
険しい視線に、身動ぎして座り直し、指を組む。
今日の椅子は意外と座り心地が良い。薬草を摘む仕事は、やはり重労働だからだろうか。何にしても、この場の環境の中で、椅子だけは気に入っていた。
「そちらの方も別に大した事は言っていないとも。彼等は君の革命の真意を理解していないようで、またドビーを種族の恥だと思っている節が有ったからな」
彼等の視線──僕の命令を拒絶した際の一瞬の静寂、そして一部の呻き声、更には同じように扱ってくれるなという感情の乗った視線を見れば良く解った。
「だからそちらにも質問と警告を投げてやった。お前達が考える忠誠とは、主に望まれた事を無批判に受け容れ、思考停止したまま道具として遂行する事なのかと。それを忠誠だと勘違いしているならば、君達は最終的に、自らの手で〝ホグワーツ〟という大きな
流石に具体例は持ち出さなかった。
しかし、途端に一人の妖精が大声を上げて僕に走り寄り、泣き喚きながら殴り始めた――とは言うものの、僕の腰にすら届かない妖精の殴打だ。痛くもなかったから好きにさせた――事からして、それが誰の事を示唆しているかは明らかだっただろう。バツの悪そうな顔をしていた妖精達も居たあたり、彼女が仕えた
「……貴方は本当に残酷な人よね」
「今更だろう」
つくづく僕は、グリフィンドール的な精神構造とは程遠い。我ながらそう感じる。
「だがやはり、ウィンキーには居場所が無かっただろうと思うのだ」
あの妖精は、苦痛でしかなかっただろう。
アルバス・ダンブルドアの仕打ちは、寧ろ余計に残酷だった。
「彼女の善意は裏目に出て、その結果として主人の家族二人を死なせるという最悪の事態を招いた。ついでに、闇の帝王の復活への間接的な助力もした。それにも拘わらず、彼女は誰からも責められない。アルバス・ダンブルドアは人族的情けを掛け、ドビー達他の妖精も腫れ物扱いしかしない。あれでは自死を許してやった方が慈悲だっただろうに」
「…………死を選ぶのは良い事ではないわ」
「僕は国教会信徒では無い。勿論、妖精もな。そして死より辛い事は現実に有る」
生きていれば良い事は──有るかもしれないが、それに出会える奇跡などそう多くも無い。ウィンキーが望むのならば、僕は
「また、妖精達に放った挑発も紛れもない本心だよ。妖精達があのザマでは、千年前に彼等の保護を選んだヘルガ・ハッフルパフも報われん」
彼女は遥か昔の人間であり、その人格を推し量るにも限度が有る。
だが間違いなく言える事は、彼女はホグワーツに便利な奴隷が欲しいなどとは考えておらず、彼等が出て行きたいと言えば鷹揚に許しただろうという事である。
「確かに妖精達の千年の隷属は、歴代の校長が望んで来た結果かもしれない。だが、原初の彼女だけは絶対に違う。給料を貰って休日に遊び惚ける妖精も、悲しみで飲んだくれている妖精も、奴隷状態を是とする妖精よりは遥かに上等だ。自ら〝ヒト〟である事を放棄している種族なんぞ、さっさと滅んでくれた方が余程人間族の利益となる」
「……貴方は一度口を出すと決めたら止まらないわよね。そして、何時もやり過ぎる」
「耐えるには余りに不愉快だった。その程度は理解して欲しいものだ」
まあ頭に血が上ってしまったのは、部屋の片隅にゴミのように積み上げられていた、手製の洋服群を眼にしたからかもしれない。
彼等にとって御節介甚だしいのは解る。忙しい間を縫って大変な労力を掛けて作られた贈り物だろうと、欲してないモノを与えられるのはゴミを渡されるのと何ら変わらない。それは理解するが、けれども彼等がソレを粗略に扱う権利までは無いだろう。
僕達は同じ〝ヒト〟であり、言葉が通じる生物ではなかったか。
自分の好む贈り物でないというならば、ハーマイオニーに対して直接拒否の意思を表明し、その代わりに自分達がどうして欲しいのかを伝えれば済んだだけの話である。グリフィンドール塔の掃除自体を──労働を放棄するなど、勤労と忠実を謳う妖精の風上にも置けない。
「……ステファン。貴方の気持ちは少しだけ嬉しく思うわ」
言葉の内容に反し、彼女の顔は堅く強張ったままだった。
「けれども、はっきり言わせて貰うわ。迷惑よ」
「────」
「貴方の行動は状況を悪くするだけだし、そして貴方の言葉が宿す毒は、妖精達を良い方向に導く事も無い。私の活動にタダ乗りして、貴方の流儀で行動するのも止めて頂戴」
「……成程、今度からはそうしよう」
直接ぶつけられる、解釈の余地も無く明瞭な苦言に苦笑する。
しかし、この明快さがハーマイオニー・グレンジャーの美点でも有り、尊く思える部分でもあり、やはり僕が彼女と立場を異にする根幹に違いなかった。
「『ダンブルドア軍団』」
一度話を始めれば弾みがついたらしい。
彼女の話はいよいよ核心──少なくとも彼女の方は関心のあった──話題へと触れた。
「その名を聞いた時、貴方は既に今の状況になるのが見えていたんでしょう?」
「そうだな。危険性は予測していたとも」
初めから誤魔化す気などなかった。
その名前がドローレス・アンブリッジに露見した場合、アルバス・ダンブルドアがホグワーツを去る可能性が有る。それは念頭に在った。
そしてハーマイオニーは、僕の返答を聞いて悔しそうに唇を噛んだ。
「……なら何で言ってくれなかったの。言ってくれたら──」
「――何が変わる? たかが名前の変更で、現状の何が?」
「…………っ」
僕の疑問に、彼女は口を噤む。睨みつけられもした。
僕が言葉の裏に籠めた意図は、彼女に正確に伝わったのだろう。
言ったとしても、名がダンブルドア軍団で無かろうとも、何も変わったとは思えないと。
「確かに予測は出来ていた。しかしまず、それが直接問題となる可能性は低いと見ていた。仮にも君達の勉強会は秘密の組織であり、その名──『ダンブルドア軍団』という名称が外部に知れる場合など殆ど有り得ないと考えていたからな」
まさか、と。耐え難くも口の端を歪める。
「組織名簿なんてものを押さえられるとは思わなかったし、その軍団名まで御丁寧に書かれているのは想定外だった。アレをドローレス・アンブリッジから見せられた時には、流石の僕も大いに驚いたものだ」
一体誰があんな失態を犯したのか。
その答えは、バツの悪そうに顔を背けた少女の態度が物語っていた。
「……ここから出て行く前に、私は部屋の中にしっかりと名簿を隠した筈よ。だって、途中で親衛隊に捕まって身体検査をされてしまえば言い逃れ出来ない。そう考えたもの」
「君らしくもない。ハーマイオニー、アレは『
「…………」
「部屋の中に居る人間が望み、そして部屋が叶えられる範囲である限りは、あの部屋は〝必要〟な物を用意する筈だ。だから本気で物を隠すのであれば、最初から物を隠す為の部屋として望まれるか、或いは高度な魔法によって特別に隠蔽しなければならなかった」
そして、あの羊皮紙はそうでは無かった。
「羊皮紙の魔法にしても、だ。秘密を喋れば即座に察知出来るような仕掛けを施す事こそが、最も重要だろう? しかし、君は違った。マリエッタ・エッジコムと直接顔を合わせるか、ドローレス・アンブリッジ達が押し掛けてくるまで気付かない仕組みしか作らなかった」
「……貴方ならそうする、いえ、実際にそう
「まあな」
その問い方は、明らかに確証を持って問われたもの。
今学期のスリザリンの秘密──僕達が授業内でドローレス・アンブリッジから教わっている事は、少なくとも外には漏れていまい。しかし、彼女がそれを指摘出来たのは、僕の性格を良く熟知しているからであろう。
「もっとも、やはり喋った阿呆は出たがな」
「……貴方が警告しても出たの?」
「口の堅いホグワーツ生なんぞ割と矛盾だ。大層面倒な事に成り掛けたが、まあ、上級生の助けも有って収拾はつけられた。喋った範囲が近しい親友のみ、かつ、うっかりという点で情状酌量の余地が有ったのが良かったな。違反は違反だが、別にいきり立つ程の行為じゃない」
初めからその程度の縛りだと認識している。
「そして、秘密裡に終わらせたとも。最優先されるべきは秘密の守護。第一に考えるべきは如何に秘密を守るかだが、第二に考えるべきは如何に最小限の被害で済ませるかだ。スリザリンから爪弾きにされて自棄になった彼が、罰を覚悟で喋るというのも本意では無い。彼は変わらず学生生活を送っている。まあ、彼の友人達も等しく秘密を守る誓約はして貰ったが」
「…………」
一応上級生達には顛末を報告しているし、非常に芳しくない反応が全体として返って来たものの、何とか納得はして貰った。依然として、他の人間にとり〝証拠〟としては機能している──少なくとも、彼等が喋っていない事は証明出来ると説明したのも良かったのだろう。
勿論、迂闊に喋ってしまった彼は、その抗弁を使う事が出来ない。
万一スリザリンの秘密授業が公となってしまい、怒れるドラコ・マルフォイが押し掛け、契約を検めたならば、彼は証拠に則って一人吊るされる危険を負う。
もっとも、その危険性はやはり可能性は低いとは思っている。
秘密授業の秘密が維持されている最大の理由は、スリザリン生の口が総じて堅い訳では無く、ドローレス・アンブリッジから教えを受けたがる他寮の生徒が居ないという事だからだ。各寮の自習体制が構築されている事もあり、関心を持たれていないのだろう。
「ダンブルドア軍団の羊皮紙に話を戻す。兎も角、アレが有った事で、僕にとっては解り易くなった。そして、アルバス・ダンブルドアにとってもな」
「……貴方はダンブルドアにとって救いだったと言うの?」
「君の言っている意味と僕の言っている意味では多少違うがな。今回の一件のみに焦点を合わせれば、それは勿論不都合だった。しかし、あの老人の心にアレ程激烈に刺さる証拠というのは多くないのだ。君達が意図してやったならば、その悪辣さを見習いたい位だな」
彼女達を追い詰める手段は色々考えていたし、軍団名さえ突き付ければアルバス・ダンブルドアの方から負けてくれると踏んでいたが、あそこまで効果的な物証を用意出来るとは思ってもみなかった。だから、何も介入しなくとも事が想定通りに進んだ。
そして、ドローレス・アンブリッジにも大きな影響を及ぼした。
彼女はアレを見た瞬間、ハリー・ポッター達のように反抗的な生徒の追放より、己が校長の地位に昇る事こそを優先順位の上に置いてくれたのだから。
「嗚呼、そう言えば」
視線を落としたハーマイオニーを前に、話題を意図的に変える。
「ドローレス・アンブリッジは、ハリー・ポッターを退学にしないのは
闇の帝王の意向であるというのは、死喰い人でない役人に伝える事は出来ない。
だからドローレス・アンブリッジは多少渋ると思っていたのだが、彼女はハリー・ポッターを学校に留める事をすんなり受け入れた。その理由は僕にとって不思議と言えるモノだったのだが、しかしハーマイオニーには違ったようだ。俯いたまま小さく頷いた。
「……多分、シリウスを捕まえる事だと思う」
「────」
「十月頃に、アンブリッジは私達とシリウスが繋がってる事を知ったもの。先日なんかはハリーに真実薬を飲ませて居場所を聞き出そうとすらしたらしいわ」
「そうか。それならば理解出来る」
答えつつも、内心で少しばかり落胆を覚える。
ハーマイオニーには、先程の僕の表現に何も引っ掛からなかったようだ。
「確かに、彼女が自身の利益を最大化する気ならば、ハリー・ポッターを
「……シリウスは無実よ」
「だが無罪では無い。君に言ったのだったか、最早定かではないが」
アズカバン脱獄、ホグワーツへの無断侵入、肖像画の損壊。
彼が無実であった事は、それらの一切の犯罪行為を正当化しない。
そして刑期の事実上の相殺は兎も角として、刑事補償という洒落た制度も期待すべきではないのだ。連合王国で国家無答責の原則が何時放棄されたのかを、彼女は調べるべきである。
「そして今年を見て解っただろうが、魔法省は易々と過ちを認めてくれる組織では無い。ポッター家への殺人幇助に関し、彼の無実を証明出来る証拠がないのは事実だしな。余計な事を言う前に吸魂鬼に引き渡し、
魔法法執行部が逃がした大量殺人犯を逮捕した人間。さぞかし人気を集められるだろう。
シリウス・ブラックの後輩が十人ばかり出来た今となっては、ドローレス・アンブリッジを直ぐに魔法大臣にせよという声が上がるのは間違いない。
「……貴方は、ダンブルドア軍団の味方だと思っていたわ」
小さく呟かれた批難。
自責も含まれていたソレに対しては、流石の僕も自嘲の笑みを浮かべた。
「味方だったとも。最後まで穏便に終われば良いと願っていた」
静かに、けれども確かに認める。
彼女が何も傷付かないままに済めば良かった。
「しかし、こちらに情報を掴まれた時点で君達の負けだ」
更にマリエッタ・エッジコムに掛けられた呪いを見れば、そう結論付けざるを得なかった。
「君は最初からドローレス・アンブリッジは馬鹿で、愚図で、自分達の秘密組織を見付けられもしない無能だと高を括っていたのではないか? 君達は彼女を優秀で、狡猾な役人だと認識する事は無かった。だから軍団の活動が発覚した場合の行動を何も考えていなかったし、避難訓練を行うなどの対策も怠っていたのだろう?」
あの部屋であれば、真に望めば逃げ道を用意してくれた筈である。
だというのに、ハリー・ポッターはドラコ・マルフォイに捕まってしまった。
彼の気質上、間違いなく殿を務める──最後まで残る筈で、彼は必ず捕捉出来ると踏んでいたが、あそこまで思惑通りに行くと逆に嘆息すら出てしまう。
「僕の早とちりだったと言うのなら、今直ぐ僕を糾弾して欲しい。あの場面からでも〝合法的〟に──つまり暴力を振るう以外で──アルバス・ダンブルドアが出て行かず、君達も退学にならないような冴えた方法を君は持っていた、或いは今考えついた。そう言うのなら聞かせて貰いたい。その場合は僕の行動は間違いになるし、過ちを認めるのも吝かではない」
ダンブルドア軍団の名は、決して今回の事件の本質では無い。
暫くの間、時計の秒針の音と、魔法植物が身動ぎする音だけが温室に響き渡る。
しかし、今日は何時までも待てる訳では無い。だから仕方なく、僕の方から口を開いた。
「『学生による組織、団体、チーム、グループ、クラブなどは、ここにすべて解散される。組織、団体、チーム、グループ、クラブとは、定例的に三人以上の生徒が集まるものと、ここに定義する』。この教育令第二十四号の規定からは、学生による組織に所属するのが一回限りや、ほんの三十分程度であれば大丈夫だという解釈は読み取れない。つまり、あの夜にダンブルドア軍団への所属が判明した以上、君は文句無しに退学だ」
はあ、と落胆混じりの吐息を漏らす。
「……嗚呼、そう言えばこの解釈につき、アルバス・ダンブルドアが『定例的』でない云々の言い訳をしていたというような噂を耳にしたが、それに対する言及は必要か? 仮にその発言が真実だとして、あの賢者が真剣に言っていたとは思えず、思考を纏める為の時間稼ぎに過ぎなかったとしか考えられないのだが、君が反論を必要とするならば言及しよう」
「……不要よ」
「それは有り難い」
その理屈を聞いて煙に巻かれたように感じた生徒は多いだろうし、実際煙に巻く為の説明であり、腰を据えて検討する程に大した価値も無い。
例えばの話。
次のような法解釈と法適用は許されるだろうか。
教育令第二十四号の規定は先の通り。
そしてハリー・ポッター、ロナルド・ウィーズリー、ハーマイオニー。
だから当然教育令に反し、退学処分に処されるのが妥当である。
そんな理屈を持ち出す事は、果たして許されると言って良いのだろうか。
……まあ、一々世論調査するまでもないだろう。
許されないと考える人間の方が多い。そう断言し切って構うまい。
一応ドラコ・マルフォイはその発想をする事が出来たが、僕が疑問を呈せば直ぐに諦めた。今年度のドローレス・アンブリッジにしても、その法解釈の下にホグワーツの友人関係を破壊して回るという馬鹿な真似は断じて行わなかった。
その理由は──法的理屈の正しさ云々より、もっと単純に考えるのが一番良いだろう。
つまるところ、先程の文面を読んで〝ああ、定義規定から考えるに、これは友人
確かに厳密に文面解釈すればそうなるし、悪しき独裁者はその論理でもって市民の弾圧を図ろうとするだろうが、普通の倫理観を持つ社会ではまず許されまい。
翻って、だ。
先の文面を見て、〝『定例的』と書いてあるから、ならば初回の組織の会合等なら何の問題もないのだな〟と読み取ったホグワーツ生がどれだけ居たのだろうか。または、善良な人間により構成される秩序ある社会は、そのような解釈の下での市民の行動を許すべきだろうか。
今日はドローレス・アンブリッジの追い出し会、明日はコーネリウス・ファッジへの悪口大会、明後日はダンブルドア支援パーティー。全て一回目だから問題無い。
或いは、今日はハリー・ポッターが組織のリーダー、明日はロナルド・ウィーズリー、明後日はハーマイオニー。それぞれの日によって集会形態や構成員の人数も微妙に変える。だから全ての集会が定例的に行われたとは言えず、違法ではない。
この手の主張を天才的だ、そんな抜け穴があったかと考える者がどれ程居るだろう?
何より今回の一番の問題は、法解釈の権限を持つのは果たして誰かという点である。
法が変だ、可笑しいと主張する権利は誰もが持つし、勝手である。しかし、その解釈こそが〝正当〟であると判断し得る権限を持つ存在は、法治の社会において限定される。
古代の非魔法界では立法者──皇帝や教皇、王のみが権限を握っていた。
そして現代では立法・行政・司法が各々権限を持っている。
法が全ての事例への対処を記述し得ない以上、法作成の場面でも法執行の場面でも法適用の場面でも、法の文面解釈は必須であり、不可避だ。それらの三機関のどれかに解釈を許さないとしてしまえば、議会の通す法の一条一条が電化製品の説明書以上に長くなり、内閣が仕事出来る範囲は格段に狭くなり、裁判所は国民に対して救済判決を下し得なくなる。
勿論、その三機関の権限のどれを重んじるかどうかは個人の立場に拠るだろうし、どれが国家として最終的に優先されるべき〝正当〟な解釈であるかどうかもまた国によって変わって来るモノではある。
では、一方魔法界において、法解釈の権限を持つのは誰か。
魔法省が魔法界に対して広く施行した法令ならば、当然コーネリウス・ファッジであり、またウィゼンガモットである。断じて、アルバス・ダンブルドアではない。
あの老人がどんな
確かに僕はドローレス・アンブリッジに教育令の穴を指摘したものの、それはあくまで
対して、アルバス・ダンブルドアの主張──定例的でないから違法ではないという理屈を、彼女やコーネリウス・ファッジが受け容れるたろうか?
定例的に
彼等は間違いなくそう反論した筈で──その主張は果たして非論理的で、法執行機関の横暴とまで呼ぶべき解釈なのだろうか?
もっとも。
僕も法の専門家では無いからこの思考過程が正しいのか断言出来ないし、やはり法の解釈権限を持たないので、結局はウィゼンガモットの御偉方がどう判断するか次第である。
そして、最早考えを巡らせる意味も喪われている。アルバス・ダンブルドアが法による問題解決を放棄し、暴力的に出て行った以上、教育令の文面解釈を弄り回す必要は無いのだから。
「兎に角、僕の思考の下では、君達の退学は動かないように見えた」
「…………」
「そしてダンブルドア軍団が何人居たのかを僕の視点では知りえないが──僕に名簿を良く見せてくれる程、ドローレス・アンブリッジは迂闊でも無かった──それらの人間も残らず退学になり得る。それを踏まえた上で、君達は軍団発覚後、退学処分を通知された後に一体どう行動するつもりだった?」
率直に、あの発覚の瞬間から抱いていた疑問を口にする。
「ダンブルドア軍団に所属した生徒の親達に対し、或いは君の両親に対し、自分達は正しい事をしていたと胸を張って説明出来るのか? 闇の魔法使いへの対抗という暴力獲得目的で、顧問の監督も無く生徒だけで集まって、実践的な攻撃呪文を御互いへ撃ち合っていたというのに? まして万一退学処分が課せられたとしたら、親達へと頭を下げて回る覚悟は有ったのか?」
それとも、賢い大人達なら当然助けてくれると甘えていたのだろうか。
糾弾する言葉は余り吐きたくないが、それでもドローレス・アンブリッジ側──曲がりなりにも秩序を維持する側に立った人間としては、最低限の苦言は呈すべきだろう。
「……貴方は止めようとしなかったわ」
「僕は私的な決闘訓練を一切問題視しない魔法族で、しかも違法行為だろうと見つからなければ問題無いと、そう考える類の悪党だからな」
反体制組織を立ち上げた彼等の心情も理解出来るし、その行為自体に肯定的である。
「けれども、グレンジャー夫妻のような〝マグル〟や、或いは〝マグル〟に親和的思想を持つ半純血の親達は、君達の行動を問題視する魔法大臣と庇うアルバス・ダンブルドア、果たしてどちらの側に味方するだろうか? その程度の……絶対に表沙汰にしてはならない事項だという位は、君は考えを巡らせていたと信じていた」
ハーマイオニーの両手はローブを強く握り締めている。
魔法界における〝マグル〟の思想は強まっている。良くも悪くも。
そして、それが何時も
彼等は普段〝マグル〟と魔法族は同じであると主張している。それにも拘わらず、都合が悪くなると自分達は〝マグル〟と違い魔法族だから、文化が違うから許されると言い訳し出すのは、余りにしょうもなく、みっともない振舞いだろう。
「……まあ、君達が始めた活動だからと、何の口出しもしなかった僕も悪いか」
「────っ」
「ドラコ・マルフォイの具体的な命令が無かったとは言え、ダンブルドア軍団の事を黙っていた時点で彼への背信だった。更に背信行為を積み重ねた所で余り大きく変わるまい。せめて僕が関われば隠蔽出来る程度には、最低限打ち合わせでもしておくべきだったか」
僕が関わったとて、マリエッタ・エッジコムの造反は避けられなかっただろう。
どうやって彼女から自白を得たのかは聞いていないが、ドローレス・アンブリッジの事だ。脅迫でも吐かないなら最後は真実薬を使ってでも聞き出そうとした筈である。
ただ、何れは暴かれたとしても、あの時のような危険──ハリー・ポッターとアルバス・ダンブルドアの両方がホグワーツを去り得る状況が生じるのは避けられたかもしれない。関与しなかった事を怠慢と批難されるのは已むを得ないという思いも有る。
「……そんな事、関わっていれば良かったなんて事、貴方が言わないで頂戴」
「何故?」
「だって、余りにも私が惨めに──」
「──惨めに思う必要など無いだろう? 使える物は使うべきだ」
求められれば……まあ、関わりはしただろう。
ドラコ・マルフォイへの忠誠につき、僕はハーマイオニーとの関係以上の価値を見出していない。冷血で非道なスリザリンとして、今以上に踏み躙る事も躊躇わない。
「とは言え、こうなってしまった以上、僕の義務として告げておくが。マリエッタ・エッジコムによる告発を知った時点で僕は君達の事態収拾能力に見切りを付け、予めドラコ・マルフォイと約束していた通りに、ハリー・ポッターを退学まで追い込む気だった」
確かに僕はドビーを遣わしはした。
けれどもそれは、僕が追い込み漁をするつもりだったからだ。
アレは『必要の部屋』なのだ。ホグワーツに遺された護りの部屋なのだ。
ドローレス・アンブリッジや尋問官親衛隊に入れない部屋として望まれれば、彼等は入れない恐れが有った。懸念は杞憂で終わったものの、僕は部屋の存在を知っているからこそ逆に、真正面から部屋に押し掛けるという単純な手段を取り得なかった。
「アルバス・ダンブルドアは消えた。ドローレス・アンブリッジは、前校長が責任を取ったから生徒への追及を止める殊勝な人間でない。そして、ミネルバ・マクゴナガル教授達では、魔法省と政争をやるには役者が足りない……専門ではないから仕方ないが。だからその暴挙を
ハーマイオニー達に逆転の手が無いのは歴然としていた。
そして、僕にドローレス・アンブリッジとドラコ・マルフォイの望みを覆す力は無く、ならば速やかに校内から退場願うのが慈悲だと僕は信じた。
「……貴方は、わた──ハリーが退学になるのは避けると思っていた」
彼女が言い直した意図は明白で、だからこそ僕も焦点を絞って答えを口にする。
「それは君の早とちりだな」
アルバス・ダンブルドア校長と異なり、僕はハリー・ポッターの在学を優先順位の上には置かない。魔法戦争の遂行に際して、彼がホグワーツに居るか否かは殆ど大きな影響がないからだ。
「確かに、君達の軍団が将来の役に立つかもしれないという期待は僕に有った。しかし、だ。僕は君達がホグワーツに留まる事を必須と見ていなかった」
「────」
「同じ場所で同じ時間を過ごす生徒の方が仲間として団結しやすいというだけで、君達の軍団の構成員が子供のみである必要は無かった。結成以降校内で勧誘を続けている様子も見て取れなかったし、大人を軍団に勧誘するならホグワーツ外の方が容易だしな。そもそも反体制組織は、別に校外でも活動し得る。校内に留める必要性自体が無い」
口にした言葉は本心では有り、しかし一部でしかない。
ダンブルドア軍団内部の結束を深める最も手っ取り早い方法は、平和な自習活動を呑気に丸一年継続させる事では無かった。
僕の心の奥底にはそういう冷酷な判断が存在し……そしてそれを僕が口にしなくとも、僕と五年間関係を持った少女なら見透かしているかもしれなかった。
「また、もう一つ。これもハリー・ポッターから聞いているかもしれないが、僕はホグワーツを割るべき──
千年前とは逆の追放劇をする気が僕には有り──けれども、僕以外は違った。
今回のダンブルドア軍団の騒動は、随分と平和な形へと落ち着かされたものだ。
「はっきり言おう。君達が退学になっていないのは、
何も無ければドラコ・マルフォイは当然ハリー・ポッターの追放に動いていたし、その場合ドローレス・アンブリッジは〝マルフォイ〟の御曹司の意向に抵抗出来なかった。
それが止められたのは、もっと上からの権力によるに過ぎなかったし、ドローレス・アンブリッジの個人的な打算でしかなかった。
「アルバス・ダンブルドアの逃亡にしても、ハリー・ポッターを退学処分にしやすくしただけ。結果的に退学にならなかったのは、あの老魔法使いの功績では無く、彼女達の事情によるものでしかない。有り得ないとは思うが、僕に救われたと思っているなら御門違いだし、君達はドローレス・アンブリッジから在学の権利を奪い取った訳でも無い。反魔法省・反高等尋問官を掲げた組織が彼女によって解散させられた以上、明確に彼女の勝ちだ」
目的を達成したのは彼女の方。
途中で挫折を余儀なくさせられたのは、ダンブルドア軍団の方だ。
ドローレス・アンブリッジが今後慣例によりホグワーツを去る事になるとしても、今回の紛争がハリー・ポッター達の勝利に変わる事は有り得ない。
「……ハリーは解散を宣言してないわ」
「現在活動していないなら同じ事だ」
負け惜しみでしかない彼女の発言を一蹴する。
「逃げていったアルバス・ダンブルドアへの忠誠を示す為、軍団として一丸となり、ドローレス・アンブリッジに対する抵抗運動を開始する。簡潔に言えば、ウィーズリーの双子に……否、アルバス・ダンブルドアの行動に倣って大騒動を起こし、ホグワーツから彼女を叩き出してみせる。そんな気はハリー・ポッターには──君達にはもうないのだろう?」
彼等は既に戦意を喪失した。
軍団と称する事が烏滸がましい、名前負けの組織に成り下がっていた。
「君達にとって、ダンブルドア軍団の活動はO.W.L.試験より優先度が低く、血を流す覚悟で戦う気は……魔法戦争の第二戦線を形成する気は最初から欠片も無かった」
「…………っ。あ、貴方もまた、私達の活動は子供の御遊びだったと言うの……!」
「そう激昂する事は無い。我がスリザリン、尋問官親衛隊とて全く何も変わらんからな」
多分、〝普通〟とはそういうものなのだろう。
僕が可笑しいだけだ。
「権力を求めて何をやるかと思えば、魔法戦争に何の貢献もしない減点行為や生徒虐め。闇の帝王が学生の行動を逐一把握しているとは思わないものの、万一にでもその耳に入ってしまえば、その御気楽さを大層不愉快に思う気がするがな。ホグワーツで悪事をする気なら、もっとマシな脳味噌の使い方をして欲しいものだ」
そもそも自分の点数操作で寮杯を取って何が楽しいのか解らんし、ましてスリザリンの狡猾さ、勝利への貪欲さとは、ああした無法を尊んで言ったものでは無いだろうに。
「学生が今の社会を変える。非魔法界で、それが夢物語で無い事が示されたのは約三十年前だ。まあ非魔法界の社会の移り変わりの早さを考えれば、もう大昔かもしれんがね」
1968年。
国によっては、一つの記念碑とされる年。
「その年には世界の何処もかしこも燃えていた。改革要求の波、それに伴う暴動が広がり、学生は間違いなく主役の一人だった。その内、最も〝成功〟した革命は、まあ対岸の事例だろう。パリで始まった学生の戦いは、カルチエラタンで武力闘争まで引き起こし、その余波は様々な階層・職種の国民を巻き込んで、最終的に政権を引っ繰り返す所まで行った」
厳密には学生運動が直接政権を崩壊させた訳ではないが、あの革命が無ければ総選挙は起こり得ず、頂点の指導力低下が露わになる事もなく、以降の展開や変化も存在なかったのは間違いない。最後に変えたのが大人達の力だとしても、全てを始めたのは間違いなく学生達だった。
「……貴方がダンブルドア軍団に関わっていた場合、そこまでやる気だったの?」
「コーネリウス・ファッジへ挑戦しようとしたとは思う」
呑気に防衛術の自習を行っていた事はまず無いだろう。
ドローレス・アンブリッジの眼を盗み、秘密裡に呪文を学んでいた。そんな真っ当な学生らしい行為は、
「ハリー・ポッターのインタビューにしても第二弾・第三弾と続け、ドローレス・アンブリッジの圧政を含めてホグワーツの現状を世間に大きく公表し、シリウス・ブラックの無実すらも白日の下に晒し、今の校内の暴動を前倒しして引き起こす事を経て、あの不適格者を魔法大臣から引き摺り降ろすよう試みた。まあ、『ザ・クィブラー』の影響力を鑑みるに、社会革命までは至らなかっただろうがな」
しかし成功の可能性が低かろうと、何もしない事は有り得なかった。
「その逆、尋問官親衛隊を本気でやろうとする場合でも同じ事だ。闇の陣営がハーケンクロイツ宜しく〝平和的〟に政権を奪取出来るなら、それに越した事は無い。やはりコーネリウス・ファッジの首を飛ばし、死喰い人の傀儡を後任の魔法大臣として送り込もうと画策はしただろう。勿論君も察しているだろうが、ドラコ・マルフォイの方もやる気は無かった」
学生の枠組みを超えなかったのは御互い様である。
ホグワーツという狭い世界の外へ干渉する事を、彼等は何も考えていなかった。
「ともあれ、個人的妄想の類に過ぎんよ」
余程真剣に受け止められている反応だったので、薄く笑って付け加える。
「君も、ハリー・ポッターも、
ハリー・ポッター達が生涯クィディッチ禁止になった時にしても、彼等は自らドローレス・アンブリッジの力を認め、下位に降りて行き、権威の下に服従する事を選んだ。
気に入らなかったというのは僕の感想であり、彼はまた違った意見を持っているかもしれない。そう考えたから自重したのだ。そもそも陣営を異にしている以上、介入する権限はなく、仮に言ったとしても、スリザリン生の言葉に従えるかとハリー・ポッター達は反発しただろう。そして、それが正常だ。
「……貴方は三か月前、スネイプを信じるべきではないと言ったわね」
「そうだな」
俯いたまま発された刺々しい声に、肯定を返す。
「なら、貴方も同一ね。貴方は信じられない、決して信じてはいけない人間だわ」
「否定は出来まい。寧ろ、率先して肯定しよう」
小さく、しかし確かに頷く。
「ダンブルドア軍団の活動を黙っていた事はドラコ・マルフォイへの背信であり、そしてハリー・ポッターの退学に動いた事は君への背信だった。彼にとっても、君にとっても、僕が信用に値しない人間である事は間違いない」
「…………」
「だが、ここで改めて明言しておいた方が良いかもしれない。ハーマイオニー、君が僕を利用するのは一向に構わないし、最大限利用すべきだとも思っているが、しかし絶対に信じるな。
スネイプ教授を最後まで〝駒〟として使わずに済むのが一番良いように。
僕を利用する機会のない方が、彼女達にとっては良い事である。
「そして勿論、君が僕と縁を切る選択肢は未だに君の手中に有る。この手の時間が惜しいというのは、あくまで僕の都合だ。最早共に居られないと君が言うのであれば、どうか今ここで言って欲しい。そうすれば、僕は今直ぐ君の前から去ろう」
開心術が重い意味を為さない理由の一つ、心は移り変わるモノである。
彼女が去年の十一月に僕を引き留めた事は、今も引き留める理由とはならない。
その問いに対する答えは、薬草学教授に歯向かってでも待つつもりだった。
けれども彼女は僕を待たせなかった。大きく深呼吸した後で、顔を露わにして静かに言った。視線を合わせて来たその瞳には、迷いは見えなかった。
「私は……間違ったとは思ってない。貴方を引き留めた事に後悔はしていないわ」
「──そうか」
安堵と共に、やはり少しばかり残念だと思う。
仮に僕が完全に彼女の敵に回れていたのなら──本気でダンブルドア軍団を叩き潰すような事をしていたのならば、抑圧された彼等は強烈に反動化し、もっと過激な形で、魔法界全体を巻き込む遣り方で動いてくれたのではないか。
僕が中途半端にハーマイオニーへ肩入れする事は、彼女達の鋭さを鈍らせてしまうだけで、誰の為にもなっていないのではないか。
そんな想いが、あの夜の僕には有った。
「……貴方は私達の負けだと言ったわね」
「──そうだな。確かに言ったな」
僕が考えている事を、見透かしていたのかいなかったのか。
ハーマイオニーは咎めるような視線と共に、強張った声色で言葉を紡ぐ。
「なら、聞かせて頂戴。私達は勝つ為に何をすれば良かったの? 貴方の視点と価値観の下からは、一体どうする事が勝利に近かったの?」
「今更答え合わせをする意味など無いし、そもそも僕が正解とは限らない」
「私が聞いているのは貴方の答えなの」
自分の座る丸椅子を叩きつつ、貴方の、という部分を繰り返して彼女は強調する。
「貴方は私達の誰よりも賢い──いえ、悪知恵が働くでしょう? だから聞かせて頂戴。貴方がダンブルドア軍団の、騎士団の味方だったなら、一体どうしていたの?」
「…………」
「良いから勿体ぶらないで」
「……はあ。個人的見解を言うなら──」
紡ぎながらも、溜息を自制するだけで一苦労だった。
思う所は有った。それでも口出ししなかった。
立場を異にした以上ハーマイオニー達の行動する権限は何も無く、去年度と同じように一歩間違えば友情関係を破壊しかねないと察していたからで、しかし最終的に答える羽目になっているのだから、僕達の関係は余りにも度し難い。
「──
誰も彼も御行儀が良過ぎる。
ドローレス・アンブリッジも──アルバス・ダンブルドアですらも。
今年度が始まった時から、僕はそう思っていた。
「結論を言えば、高等尋問官なんぞさっさと実力で排除しておけば良かった」
最初から彼女の権力も権威も認めてやる必要など無かった。
「始業式の時点では難しかったかもしれん。だが教育令第二十五号が施行され、ハリー・ポッター達がクィディッチを出来なくなると宣告された時は、正に〝戦争〟に踏み切るのに絶好の機会だった。あの瞬間、ハリー・ポッターはウィーズリーの双子共々ドローレス・アンブリッジに襲い掛かり、ホグワーツの敷地外へと叩き出しておくべきだったのだ」
彼等の精神構造も良く解らない所が有る。
ドラコ・マルフォイには殴り掛かってくれたというのに、どうして同じ事が出来ないのか。
「……!? そ、そんな暴力的な事は許され──」
「つい先日、アルバス・ダンブルドアは何をやった?」
「────」
「結局、彼は出て行った。始業式から維持していた下らない拘り、平和と非暴力の誓いを放棄してな。ならば最初から彼が同じ行為に及んだ所で、五ヶ月ばかり早く魔法大臣と高等尋問官を力で無理矢理屈服させた所で、一体今と何の違いが有っただろう?」
あの老魔法使いが柄にもなく要らぬ譲歩をするから、コーネリウス・ファッジやドローレス・アンブリッジがつけあがり、余計にややこしい事態となってしまった。
「魔法省風情が定めた法に〝ホグワーツ〟は従う義理なんぞ無い。初めからそう言えば良かった。小難しい役人共の理屈を認めず、頭の固いウィゼンガモットの権威を否定し、暴力によってこそ自分達の主張と正義を貫き通す。それこそがグリフィンドールの枠組みを超えた我々魔法族、本質的な〝ヒト〟らしさというもので、真に模範とすべき振舞いだった」
――九ヶ月掛かって漸く、多くの人間がそれに気付いたようだが。
そう言って、此度の事件の感想を締めくくった。