この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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二話目。


ウニベルシタス

 今年は全くもってグリフィンドールらしくも無かった。

 

 自分が正義であると妄信すれば最後、周りの迷惑や事情など考慮せずに突っ走る。法も秩序も己には関係無いという態度こそが、独善的な彼等の本質だっただろうに。

 

 そしてまた、今もグリフィンドールらしさを忘れている。

 

 送ればせながらウィーズリーの双子は動いたが、それでも拍子抜けな事に、せせこましい〝悪戯〟以上を行う気は無いようだ。しかも彼等の想像力は非常に乏しく、ドローレス・アンブリッジがスリザリンに──闇の帝王に倣う事を決意してしまった場合、どんな悲劇を招きかねないのかと思いを巡らせる事も無いらしい。

 

 〝ウィーズリー〟はドローレス・アンブリッジの慈悲と善良さに礼を言うべきだ。

 

 彼女があそこまで()()()()人間でなければ、ロナルド・ウィーズリーが現在O.W.L.の勉強に励んでいる事も、双子達が呑気に卒業計画を進めている事なども有り得なかった。ドローレス・アンブリッジを真なる脅威と看做すならば、グラハム・モンターギューの不幸が起こって直ぐ、彼女を襲撃に行って聖マンゴへと叩き込むべきだったのだ。

 

 しかしそれをしていない時点で、彼等もまた学生気分から抜けられていない。

 

「……貴方は、ダンブルドアの行動に不満を覚えていると思っていたわ」

「不満だとも。そして不愉快極まりなかった」

 

 チクリと。

 そう表現するには刺激的な言葉を、笑いながら受け止める。

 彼女の指摘はその通りだが、一面的で、表面的な物でしかない。

 

「オックスブリッジの総長が自分を逮捕しに来た首相や警察に対して暴力を振るい、現在逃亡を図っている最中である。こんなニュースが非魔法界で流れれば大騒ぎで、世界的な恥晒しだな。それでオックスブリッジの権威の一切が消失する事は有り得ないが、世間の見る目は厳しくなるし、そんな人間を頂点に据えた学校・理事会の〝体制〟は、どうあっても問われる」

 

 これで〝政府〟の介入を学校側が拒絶すれば、更に御笑い草となるだろう。

 まして、そんな暴力的な人間を、以降も校長のままに据え続けるなんぞ論外である。オックスブリッジ自身が望んでも、それらの卒業生が、世間がそれを許すまい。

 

「……なら、何故止めなかったの?」

「また無茶な事を言う。あの怪物を止める事なんぞ僕に出来る筈無い」

「嘘よ……! 貴方ならば、貴方程に賢い人間が最初から関わったのなら、ダンブルドアがそんな行動に及ぶ前に止められた――」

「――アルバス・ダンブルドアは、今回も〝正しい〟」

「――――っ」

 

 非常に遺憾な事に。

 あの大魔法使いこそが、この魔法界において絶対の正義なのである。

 

 暴力を行使するのは別に構わないものの、校内に事件の顛末を広めた──後から校長室での出来事に関して惚けたり、〝嘘〟だと否定する余地の一切を潰した──点は受け容れがたいのだが、それでも僕の抱く感情や批難の方こそが的外れなのである。

 

「……説明」

 

 一分程沈黙を続けた後、彼女は単語だけを口にした。

 

「不要だろう。君が今後も魔法界に留まる気なら、君も何れ知る現実だ」

「なら、今教えてくれたって良いでしょう」

「そうでもない。君は君の信じる道を行けば良いし、何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「相変わらず貴方の言っている意味が解らないけど、全ての是非は私が聞いてから判断する事よ。断じて、貴方が一人で決めて良い事じゃないわ」

「…………はあ」

 

 この貪欲な少女は、やはり疑問に思ってしまった事を放置出来ない。いや、彼女の感情の矛先から見るに、真に放置出来ないのは、多くを理解しながらも傍観し続けた僕の態度か。

 

「魔法界は、()()()()()()()()()()()()()。その出発点を忘れてはならない」

 

 今の魔法界は、二つの世界の常識や価値観が混在し、混乱している。

 二度にわたる魔法族同士の戦争。非魔法界における社会の急激な発展。時代を下るに従って進んだ混血化。それらが現在の歪みや対立構造、そして危うさを生んでいる。

 

 だから今回のような、好ましい曖昧として放置されていた問題が顕在化する。

 

「ホグワーツと魔法省の関係性。それを特に象徴するような対応が、これまでの五年間で二度ばかり存在した。一つは、バジリスクが校内を這いずり回っていた時。もう一つは、この流れで当然推測が付くだろうが、シリウス・ブラックがグリフィンドール寮に侵入した時だ」

 

 魔法族ならば何も思わなかった。

 けれども半純血、或いは〝マグル生まれ〟ならば、気付いていて然るべきだった。

 

「この二つは何れも、生徒が危険に晒された事件として括る事が出来る。まあ後者の方は実は危険など存在しなかった訳だが、親達の認識は別だな。そして、これらの事件に対するホグワーツ、魔法省の対応はどうだった? 非魔法界と比べて何か変だと君は感じなかったか?」

 

 感じた。そう思ってしまっている事は、ハーマイオニーの眼から読み取れた。

 当事者である彼女は、そして恐らくハリー・ポッターも、同じ事を思ったに違いない。ロナルド・ウィーズリーと違い、彼女達は非魔法界の常識を持ってしまっているのだから。

 

「一般的な学校の中に、危険な猛獣が迷い込んでしまった。或いは脱獄した凶悪犯が侵入してしまった。この場合における非魔法界の次の動きは当然目に見えているな。()()()()()()()()。仮に来ていない場合、教員達或いは生徒達は近場の電話を探した後、直ぐに緊急番号(999)へとダイアルする事だろう」

「――――」

「そして駆け付けた警察は事件が進行中、もしくは未解決のままならば、学校の周囲や内部を見回り、生徒の警備に付く。可能ならば学校の運営自体を停止し、休学させようとする。また、仮に事件が円満な解決を見た後も、彼等は暫くの間滞在するだろう。その際、彼等は生徒に言う筈だ。安心して下さい、私達が付いていますと」

 

 非魔法界は、殆ど間違いなくその流れを辿る。

 

「では、魔法界はどうだった?」

 

 この古臭い世界は、ハリー・ポッター達の眼にはどのように映っていたのか。

 

「バジリスクが元気に校内を散歩している間、君達は魔法省傘下の組織を何でも良いから校内で見かけたか? 或いはシリウス・ブラックの事件。学期が始まった頃は兎も角、彼が太った婦人を切り裂いてくれた時点で、脱獄犯がホグワーツ付近に居る事は確定した訳だ。それから後、闇祓い――闇の魔法使い捕獲人とも呼ばれる彼等の姿を、君は校内で見かけたか?」

「……いいえ。少なくとも私は、そしてハリーも多分見ていないわ」

 

 波打つ髪で表情を隠し、額に手を当てながら、彼女は答えてくれた。

 声は明らかに沈んでいて、そして気付かなかった自身を責めているようだった。

 

 ハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーが秘密の部屋を見付けた際、彼等は魔法省からの役人(アーサー・ウィーズリーの知己)に頼れはしなかった。またシリウス・ブラックが脱獄した際も、その警戒の為を行っていたのはホグワーツ監督生(パーシー・ウィーズリー)や教授達であって、省から派遣された公的機関の人間では無かった。

 

「まあ生徒が見ていないからと言って、彼等魔法省の人間が居なかった事にはならんがな」

 

 その二つは単純に等しくならない。

 

「裏方に回っていたのであれ目眩まし呪文を掛けて潜んでいたのであれ、確実にホグワーツ内に誰かが、それも少なくない数が居た筈だ。アルバス・ダンブルドアは吸魂鬼を招き入れるのは断固拒否しても、闇祓い達を校内に入れる事まで難色を示しはしないだろう」

 

 彼は強情だが、生徒の安全を最優先にする人間である。

 体面を気にする人間でも無いし、その程度の妥協なんぞ躊躇うまい。

 

「しかし表向きは来ていない事になった。ホグワーツの独立性を維持する。その原則は維持された。間違いなく意識的にな。そして、この手の対応を異常と非難する事は出来ないのだ。時計の針を二百年程巻き戻せば、こんなのは当然なのだから」

 

 あの状況で警察が校内にいないなんて有り得ない。

 そんな批難をする人間こそが有り得ない。

 

「現在の非魔法界においても、それを正当化する理屈の名残は見付けられる。先の猛獣や凶悪犯が入り込んだ例として、僕は敢えて一般的な学校を挙げた。例えば、オックスブリッジを挙げる事は明確に回避した。要するにそこには明確な意図が存在する訳だが、君は知って──」

「──その二校は、自前で警察を持っているわ」

「正にその通りだ。ついでに言えば裁判所(university court)もある」

 

 先んじて回答を口にしたハーマイオニーに対して首肯する。

 ブリテン諸島の七大学(  Ancient University  )には、中世より続く伝統と慣習に基づき、様々な特権が認められている。警察権と司法権は、その数ある特権の内の一つである。

 

 勿論、それらの大部分は時代が下るにつれて地方自治体ないしは中央政府に移譲され、現在では到底治外法権と呼べるものでは無いのだが、さりとて完全に自治を手放した訳でも無い。

 

「僕は去年、アルバス・ダンブルドア校長に対し、ホグワーツ内は治外法権なのかと問うた。それは僕にとって回答を得る為にした質問では無かったし、その時僕が攻めていた対象は、アルバス・ダンブルドアではなくコーネリウス・ファッジの方だった」

「…………」

「またあの校長とて、当時はまだ協力的だったコーネリウス・ファッジの手前、この問いに答える事は意識的に避けた筈だ。素直に僕の質問に答えて魔法大臣の敵意を煽った所で得られるモノは無いしな。気付かない振りをしたままでも当然と言える」

 

 誰もが間違いを解っており、その上で看過した。

 真正面から答える事は、誰の得にも成りはしないからだ。

 

「しかし、彼等は内心思っていたに違いない。()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()。魔法省如きが介入する権利も余地も全くないと」

 

 古臭い因習の下ではそれこそが常識であり、自然だ。

 魔法界を異常だなんて言う人間は、歴史というモノを全く知らない。この国の非魔法界においても、二百年前は然程変わらなかったからだ。

 

「僕は解り易く大学を挙げたが、それに拘泥する必要も無い。中央(余所者)の不当な介入を嫌うのは、民族や時代の区別無く、人間集団としての本能だ。ロンドンの警察の現体制もまた、正に典型例であり象徴だろう?」

 

 旧い社会とは、二百前の世界の常識とはそういうモノだった。

 

ロンドン首都警察(Metropolitan Police Service)──スコットランドヤードと言う方が通りは良いか。その警察機構は現在、グレーター・ロンドンを管轄している。しかし、重大な留保が付いている。彼等の管轄は、その大ロンドンの内、この一世紀半程は金融街として著名なスクエアマイル(  約1.6km四方  )の領域、所謂『シティ(City)』が除かれると」

 

 ロンドンのど真ん中、長い歴史を持つ都市の心臓部は、ロンドン首都警察の管轄外である。

 

「何故そんな事になっているか。決まっている。『シティ』が管轄下に置かれるのを──支配を拒絶したからだ。首都警察の成功によって数年後、やはり警察は置かれるべきだという話になった時も、たったスクエアマイルばかり首都警察の管轄が増やされるような事態にはならなかった。何故か。やはり決まっている。『シティ』が善しとしなかったからだ」

 

 現在シティを管轄するのはロンドン市警察(City of London Police)である。

 中央政府では無く、地方の統治機構が自ら信認した組織こそが、同地の治安を守っている。

 

 流石に現代では首都警察と市警との間に組織や能力面で大きな差異は無かろうが、十九世紀においては全く別の性質を有する組織であり、両者が混じり合わぬ事は譲れない一線でもあった。

 

「この根底には、余所者は──特に強大な暴力装置を備える中央から派遣された者は、絶対に権力を濫用し、悪事を働くという信念が有る。首都警察(スコットランドヤード)創設時ですら揉めに揉めた。その当時、対岸でのジョゼフ・フーシェの行いは記憶に新しかったからな。要するに、〝後進的〟な世界では、警察とは存在を社会に許容されない組織なのだ」

 

 警察組織に対し多大な信頼を寄せる社会が、果たして健全であるかは別の話だが。

 先進と呼ばれない国家や社会では、政府指揮下の警察機構なんぞは御伽噺同然の存在である。

 

 勿論、そこにも秩序は確かに在る。

 ただ単に、中央政府が統轄していないというだけで。

 各地と各人が独自の慣習の下、思い思いの形で治安維持を行っている。

 

「もしもし警察ですか、どうか助けて下さい。そんな発想は、ほんの百五十年前に生まれたものだ。そして、現代の非魔法界ですらも素直に受け容れられている考えでは無い。特に学校という閉鎖社会への介入は忌み嫌われる傾向が強く、であれば――」

 

 ――古い魔法界が、余計にそうでない筈がないのだ。

 

「実際、魔法族の懸念通りだったではないか。自分達の失政・不甲斐なさを棚に上げて、コーネリウス・ファッジは今回不当な形で校長を逮捕しようとした。明らかな自治の侵害、腐敗した組織の誤魔化し、典型的な権力機関の暴走であり、それに対してホグワーツ校長が共同体(ウニベルシタス)の利益の為に杖を上げて抵抗する事を、一体どうして〝悪〟と批難出来る?」

「…………」

「〝マグル〟はどう考えるかは別として、少なくとも魔法族は問題視しない」

 

 魔法族は、それ程〝先進的〟な種族では無い。

 それが今の現実。

 

「校内の雰囲気もそうだろう? まあ、嫌な奴等がやっつけられて良い気味だ、程度の感想を持っている愚か者も多いがね」

 

 グリフィンドールの殆ど。

 そしてハッフルパフの大半のレイブンクローの一部はその立場だ。

 

「しかし、基本的な路線、魔法族の本来的在り方からは、彼等の感想は肯定出来る。余所者の干渉を排除し、ホグワーツの独立独歩を守ろうと行動を起こしたアルバス・ダンブルドア。あの前校長閣下を英雄視するのは、魔法界の常識の下では絶対的に〝正しい〟のだ」

 

 民主的な基盤の上に立たない一学校の長が、選挙によって信任を受けた行政機関の頂点──〝国家〟の顔を虚仮にした。そのような考え方を、決して魔法族はしてくれない。

 

 魔法界は暴力の独占を認めはしない。

 不正な公権力に対する反撃を、容易く〝正当防衛〟として承認してしまう。

 

「君はホグワーツの自治の根拠を、学問の自由などという近代的な(下らない)理論に求めていたのだろう。けれども、この箱庭を支えているのは、もっと古くて神聖不可侵の理なのだ。故にアルバス・ダンブルドアは正しい。一切の非の打ち所なく。何の瑕疵すらなく。僕が止めるなんぞ無理な話だ。だって魔法族、否、人間とはそういう生き物なのだから」

 

 そして、当然のように相容れない。

 組織(魔法省)に所属するコーネリウス・ファッジやドローレス・アンブリッジと。

 

 如何にも旧い大魔法使いの振舞いは、彼等にとって許し難きモノとしか映らない。

 

「……漸く」

「ん?」

「漸く、掴めた気がするわ」

 

 ハーマイオニーは小刻みに震えながら言った。

 

「貴方がダンブルドアを嫌悪、敵視し続ける理由」

「…………」

 

 何時も何時でも、僕は彼女を傷付ける。

 去年度も。今年度も。そして、今回もまた。

 

 性懲りもなく、僕は彼女の心を散り散りに引き裂いてしまったらしい。

 ハーマイオニーの顔は完全に血の気が引いて真っ白で、けれども何時の間にか破れている唇から漏れる赤だけが鮮やかであり、その対比が非常に印象的で、美しかった。

 

「貴方が取る立場は、ホグワーツよりも魔法省が重んじられるべきというものなんでしょう? 今のオックスブリッジやザ・ナインがそうであるように、学校は国家の監督と指揮下に置かれるべきと考えているんでしょう? でもその一方で、貴方は現実として魔法界ではそうではないと、そうならないのも已むを得ないと、そのように認識してしまっている」

 

 いえ、と。

 ハーマイオニー・グレンジャーは栗色の髪を揺らし、舌で血を舐め取りながら続けた。

 

「貴方の敵意の先はホグワーツだけじゃない。魔法省に対しても平等に向けられている。違うかしら? だって貴方にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……まあ、そういう事ではある」

 

 軽く温室の天井を見上げ──そこから透けて見える曇り空を見つめながら思い出すのは、去年の夏に訪れた魔法省、そこに掲げられていた案内図。

 

「地下一階、魔法大臣室。地下二階、魔法法執行部。地下三階、魔法事故惨事部。地下四階、魔法生物管理部。地下五階、国際魔法協力部。地下六階、魔法運輸部。地下七階、魔法ゲームスポーツ部。守衛室等を備える地下八階は飛ばし、地下九階、神秘部。そして地下十階、ウィゼンガモット」

 

 この程度の内容はハーマイオニー・グレンジャーも丸暗記していても疑問に思わないが、改めて記憶喚起する価値は存在するだろう。視点を変えて観察してみれば気付くのだ。

 

 それらの部署が備える共通項と、致命的な欠陥に。

 

「細かい事を言えば、今の言及は非常に雑で、不十分だ。外来者が知る必要のない部署、たとえば魔法ビル管理部が含まれていないし、オフィスを構えていない各種委員会、実験呪文委員会なども省略されている。またロンドン外の場所に置かれている省──O.W.Lを主宰する魔法試験局を傘下に置き、僕達の学費等に関する業務を行う魔法教育省あたりも入っていないな」

 

 ……しかし。

 

「嗚呼、しかし、一般的な魔法族が思い浮かべる〝魔法省〟とは、本部としてロンドンに居を構える、この伝統的な八部門と一つなのだ。多くにとってこれらが省の仕事の全てであり、これ以外の仕事を把握する必要性に迫られる人間はそうおらず、だからこそ、僕はこう疑問を提示しよう。

 

 ――あの建物が今日爆破され、跡形もなく消えたとして、魔法族は困るだろうか?」

 

 そう訊ねつつ、しかし直ぐに僕の方から口を開いた。

 

 ハーマイオニーに、〝マグル生まれ〟に回答は求めていなかった。

 彼女にその疑問を考えた経験は一度もないに違いなく、何より既に解答は出ているからだ。

 

「――困らない。魔法族が明日からを生きる事に、何の支障も出ない」

 

 それこそが、魔法省という組織の実情だった。




・ホグワーツの警備体制
 秘密の部屋、アズカバンの囚人において、魔法省の役人がホグワーツの警備についているという事は、少なくともハリーの視点からは描かれない(見落としはない、筈)。
 特に『三本の箒』でシリウスがポッター家の秘密の守人だったと聞くシーンにおいて、ファッジは『魔法警察部隊から派遣される訓練された『特殊部隊』』(三巻・第十章)の存在を示唆するのだが(この特殊部隊( hit wizard )は闇祓いとはまた別のようである)、その特殊部隊はおろか、『魔法警察部隊』(魔法法執行部隊)がホグワーツに派遣されているような言及自体が無い。

 闇祓い自体三巻では出て来ず、その単語は四巻のムーディに関する言及の場面で初めて明かされる(五巻ではキングズリーがシリウスの追跡という名の偽装工作をしているとも言及されるが)。
 もっとも、六巻では『ホグワーツ校護衛専任の、闇祓い小規模特務部隊』(六巻・三章)が組織されているので、ハリーの二年目や三年目にも臨時でホグワーツに居た可能性は有る。


・大学警察
 オックスブリッジに対して〝法的〟に警察権が認められたのは1825年。つまり1829年に出来た首都警察(スコットランドヤード)より早い。
 そして、これは大学に新たに警察権を付与したというよりは、以前よりの慣習を追認したという方が適切とも思われ、この手の話は別段オックスブリッジが特別という訳でもない。ボローニャ大学にしろパリ大学にしろ、中世大学は多かれ少なかれ自治を望み、そして(暴力を伴う闘争により)勝ち取ってきたからである。

 但し、認められる自治の程度というのは国や地域によって差異が有ったし、警察・憲兵制度の発達や民主主義の進展、ないしは国民国家が大学を管理しようという試みにより、大学が有していた特殊な自治権は段々と奪われていった。

 尚、オックスフォードは2003年に大学警察という制度を自発的に廃止している(プロクター、学生監は残っているようだ)。一方でケンブリッジでは依然存続されているものの、実態としては普通の警備員と余り変わりないと思われる。

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