※ 今話・次話は、生命倫理の論点に多少立ち入る為に御注意下さい。無理だと思った場合、読み進める事を断念するのは何の問題もありません。
「遺伝の根底に在る法則は如何なるモノか。それは古代よりの難題だった」
突然話題転換がされたとでも思ったのか、双子は面食らった顔をして、彼等の横、知識の有るハーマイオニー・グレンジャーの方を見た。しかし、双子の反応を見る限り、彼等の期待する反応を彼女は見せなかったようだった。
そして、僕は彼等の反応を気に留める事もなく、己が義務としての説明を続けた。
「もっと噛み砕いて言うならば、親の特徴は、どういう形と法則の下で子孫に継承されるかという事だ。そしてこの問題が人々に意識されるようになったのは、恐らくは多分に実利的な要請だ。つまりは家畜や植物の品種改良──家畜の卵や乳がより多く取れるように、或いは植物の実や種がより多く取れるようにするという目的が有ったのだ」
この世界で、鋭い爪も牙も持たぬ種族が生きる為、過去の者達は知恵を振り絞っていた。
「長い歴史の中での経験則で、人間はそれらを代々の交配によって操作し得ると知っていた。詳しい法則までは解らなくとも、優秀な動物や植物同士を交配させれば、子も優秀に
優秀な雌雄を交配させても、優秀にならない場合も有った。そういう意味である。
「故に、生物の根底を貫く遺伝法則を解明出来たのならば、もっと楽に品種改良が進むという発想が出たのは必然だった。……更に噛み砕くか? 何故、多くの乳を出す家畜同士を掛け合わせても余り乳を出さない家畜が生まれたり、或いは両親と似つかわしくない花の色や葉の形をした植物が生まれたりするのか。その理屈を知りたいと考えたのだ」
科学の徒は、遥か古代の時代から居た。
彼等は理屈に合わない眼前の現象を、どうにか理屈で説明出来ないかと挑んだのだ。
「その謎の解明の為、多種多様な実験がなされ、また偉大な学者達が大いに頭を悩ませて来た。そして二千年近くを費やしても尚確たる答えが出たという訳では無かったが、割合支持を集められた理論は、今では便宜上融合説と呼ばれている理論──交配の際には水を混ぜた時と同様の事が起こっているという考えだ」
一応、それをメンデル以前の通説と断言してまで良いかは微妙な線だ。
そもそも彼以前の遺伝学を真剣に語るとすれば、前成説や後成説、自然発生説にジャン=バティスト・ラマルクの用不用説等々の歴史を避ける事は出来ない。その上、融合説の中でも学派や派生が色々存在する──その中で一番有名なのはチャールズ・ダーウィンの理論だろう──のだが、まあ今は良いだろう。中高生の科学を学んでいない魔法族に理解出来るとは思えないし、ここは過度に学問的正しさを求める場所でも無い。
「この考えは、君達兄弟を観察するのが非常に解り易い」
トロール並の魔法族でも容易く理解出来る理屈だ。
「君達は、母と父のどちらか一方にしか似ていないという事は無く、その両方と似ているだろう? その一方で、同じ男兄弟でも違いを持つし、言わずもがな父親とも同一ではない。融合説はこれを水の融合、配合比の違いから生じるものと見る」
異物が混ざり合う事を認める。
だから融合説。
「比喩として、君達の父親を青色の水、母親を黄色の水だとしようか。そして彼等から産まれる子供が1000mlの水から出来るとして、一人は580mlの青色と420mlの黄色、また或る一人は530mlの青色と470mlの黄色の配合で出来たとする。この場合同じ緑色が出来るにしても、一つ目と二つ目の間には濃淡の差異が生まれる。だから同じ夫妻から男兄弟でも差異が生じても──君達双子の違いも可笑しくない。また君達に妹が生まれたのも、母親側の黄色の分量が
非常に単純かつ明快。
そして何より、一番重要な事が有る。
「この説は、人間の観察に一応合致してくれるのだ。親や兄弟、親戚。人為的に交配させたカーネーションやチューリップ、牛や豚やサラブレッド。周りを見る限りにおいて水の喩えは直感的に正しいように見える。この理屈を百年前の人間が、そして魔法族が信じたとしても、それを非科学的で、無知な発想だと笑う事は出来ない」
二つの世界は繋がっている。
そして魔法界にも薬草学……自然現象に挑む体系的学問が有り、遺伝法則も経験的に察していただろう。その仮説が知られて居なかった、或いは辿り着かなかった事は有り得まい。
「さて、魔法族における遺伝の関心は、特に〝ヒト〟の遺伝に限定すれば──言うまでもない。何故、魔法族の子供に〝スクイブ〟が生まれるのかだ」
魔法力の有無という点で親に似ない子供が何故生まれるのかという問題だ。
「そして先の融合説を用いれば、〝スクイブ〟の誕生について一応尤もらしい説明が付けられる。例えば、僕は魔法族の父と非魔法族の母の下に誕生した半純血で、尚且つ魔法が使える。これは魔法族の血を赤とし、非魔法族の血を白とすれば、赤が濃く出たと見る。一方で、白の方が濃く出れば魔法が使えず、〝スクイブ〟と呼ばれる無魔法力者になる。非常に単純明快だな」
長年の歴史の試練を受けただけ合って、やはり解りやすい理屈だ。
「更に、融合説の説明には、一つの利点が有る。先の喩えに従えば、半純血である僕は濃いピンク色の血を持っている。これに魔法族の血を、つまり赤色を加えれば? 当然、赤に近付く。逆も然り。僕と逆の薄いピンクの〝スクイブ〟でも、赤色の水を加えれば、やはり赤に近付く。要するに、
半純血、或いはスクイブ。
そのような烙印を生まれながらに押された者達への救いとなった。
「そして、僕達のような存在が魔法界に定着すれば、他の魔法族からの認識も変わっていく事になる。三代も続けば──
過去のスリザリンは、その理屈を一応受け容れたのだろう。
そこで言葉を切り、しかし、と改めて見る。
この場に居るのが凡百のホグワーツ生ならば、感情に任せた阿呆な反論が返って来ている所と思うのだが、この双子はそうしなかった。それどころか、瞳の中に恐怖が段々と渦巻いてきた辺り、やはり多少頭は回るらしい。
「……嗚呼、その通り。今のスリザリンは決してこの理屈で動いていないし、君達も気付いている通り、融合説には致命的な欠点が有る。〝スクイブ〟の子が生まれるのは、魔法族と〝マグル〟の夫婦の下だけでは無い」
結局、魔法族は融合説を真に信じてなど居なかったのだろう。
それを否定する決定的で、致命的な証拠が、彼等の社会内に散見されたのだから。
「夫婦両方が魔法力を有する魔法族で有っても、〝スクイブ〟は生まれ得る」
赤と赤を混ぜ合わせても、白が生まれる。
「──水の喩えは、理屈に合わない」
「理屈に合わないと考えたのは、非魔法界でも同じだった」
植物でも動物でも、そして人間でさえも、両親に似ていないモノが生まれ得る。
全体として似ていると評価出来ても、部分的に見れば──動植物では産卵量や収穫量、寒暖への耐性等、人間で言えば髪や瞳、爪の形や肌の色等々──両親の何れとも違う特徴を持った子供が生まれたりする。世界を観察してみれば、そんな〝例外〟が有り触れていた。
これが融合説では説明出来なかったから、二千年間以上、遺伝を巡る議論は紛糾した。
「特に、融合説を最も苦しめた痛快な反論は、世界の多様性に関する疑問だった」
明快な理論を叩き潰すのは、やはり明快な理論だった。
「融合説は、水に喩えられると言った。その前提の下では、遺伝とは、混合によって変化し、かつ以降は分離出来ない現象として説明される。しかし、それを何回も繰り返したらどうなる? 赤、青、黄、緑、紫、橙等々。様々な色の水を幾度と無く混ぜ合わせれば……各々の分量を変え、加える順番を幾ら入れ替えたとしても、行き着く果ては濃淡が違うだけの灰色だ。つまり、終末の世界においては、この世のありとあらゆる存在が灰色に収束していなければ──何処の場所でも似たようなモノが観測されなければならない」
融合説の下では、最終的な世界の均一化は不可避である。
「更に、この世界が紀元前4004年に……魔法族の君達には、約6000年前と言ったら良いのか? その程度の最近に世界が出来たなら、各地に鮮やかな色は残るかもしれない。赤と青が混ざれば大変化が生じるが、赤と赤、或いは赤と橙が混ざるのなら大きく色が変わる事はないしな。だから世界の──人間の多様性は、三千回程度の混合なら耐えられるかもしれない」
だが。
「チャールズ・ライエル以降に多数生まれた斉一説論者が唱えたように、もしこの世界が数千万年、数億年も続いていたとするならば? 大陸が七に割れている事を踏まえても、数千万回に至る混合の反復が行われてしまえば、その後で鮮やかな色が残るとは考えられない。ましてカール・フォン・リンネの分類体系を踏襲し、人間と猿を同列に置くならば、他の動植物全てに同じ事が言えなければならない。それなのにどうして、この星の生きとし生けるモノ全てが、未だ多様性を保ったままで居られているのか」
この世界は、目の眩む程に色鮮やかなままだ。
その理由は、果たして何故なのか。
「そのような謎を説明しうる科学的理屈を用意した初めての──少なくとも、そう世間的に承認されている──人物。それが、先に挙げたグレゴール・ヨハン・メンデルだ」
ほんの百年足らず前。
一人の敬虔な神学の徒より、現代遺伝子学の歴史は始まる。
「彼にも
メンデル以前にも同種の研究を行った先達は居た。
しかし、彼の名前が科学史に燦然と刻まれているのは、単に最初の時代にやったからでなく、その研究手法と分析考察が非常に科学的であったからである。
「彼の理論の根幹はこういうものだ。生物は二つで一対の
ウィーズリーの双子が段々混乱しつつあると感じた後、非魔法界の教師は生徒にどうやって説明しているのかと思いながら、説明を変える。
杖を取り出し、軽く振って、四つの球を宙に浮かべさせた。
赤が二つと白が二つ。そして、両者は別個の組になっている。
「理論の根拠や証拠ではなく、理論に基づく喩えだけをここでは述べよう。メンデルが発見した法則の下では、
杖を振って、赤一組から一つ取り出し、白一組からも一つ取り出す。
そして二つの球をくっ付けさせると共に、赤色を強調する為、その輝きを強くしてやった。
「重要なのは、ここからだ。これによって出来た子供、赤と白の要素を受け継いでいる赤色の花同士を更に交配させたらどうなる?」
更に杖を振り、二つで一組とした球を二組、計四個の球を中空に出現させる。
しかし、今度の組み合わせは、どちらも最初から赤白の組み合わせだ。
「それらの子供──全体で見れば孫──は両親から一対の内どちらか一方を受け継ぐ。したがって、まず母親からは、赤を受け継ぐ場合と、白の場合を受け継ぐ場合の二通りがある。父親の場合も全く同じだ。赤か白のどちらか一方だけを受け継ぐ。だから二通り。そして母と父から受け取った因子を併せ、一対の要素を構築する」
減数分裂も発見されていない時代に良くもまあ考えたものだと思う。
「つまり子の配合パターン、一対の組み合わせは赤赤・赤白・白赤・白白の計四通り。そして今回の赤と白には強弱が有るのだから、赤赤・赤白・白赤のパターンは全て赤色の花になる。白白だけが、全四通りの内の一通りだけが白色の花になる。そして、これは赤色の花の両親からも、白色の花が生まれる場合を説明する。同時にまた、赤色の花が数世代に渡って生まれていながら、突然白色の花が生まれる理由も明快に説明出来る」
球の組み合わせの四パターンを宙に用意した上で、更にサービスとして、その下に三つの赤色と一つの白色のエンドウマメの花を用意してやった。無駄に器用ね、とハーマイオニーが言ったが、僕はそれに対して何も答えなかった。彼女も応答を求めた訳では無かろう。
ともあれ、メンデルの法則の下では、潜性遺伝子を両親の何れもが保有し尚且つ子がそれを二つとも継承したならば、子供が両親とは違う表現型を発現する事も有り得る。そのような理屈が付けられるようになった。
「……いまいち良く解らないが、そんな理屈がマグルの世界で本当に有るのか?」
「この場には、〝マグル〟知識の間違いを訂正してくれる人間が居るだろう? 彼女が僕と共謀して嘘を吐くような人間でないというのも、君達は五年間で良く知っている筈だが」
そう促してみたものの、双子達は彼女の方を確認しようともしなかった。
その後、三人の誰も言葉を発する事は無かった。
「そして〝ウィーズリー〟。解らないか? これを単純に魔法族へ当て嵌めるとどうなる?」
「「…………え?」」
その質問に彼等は暫し停止した後、
「「……っ」」
殆ど同時に顔色を変えてくれた。問いの真意に気付いた証だった。
しかし本来、アーサー・ウィーズリー達の結婚を知った時にしておくべき反応だった。
「先程、僕は魔法族を赤色と喩え、非魔法族を白色に喩えた。先のメンデルの理論を非常に安易な形で適用するならば、僕は赤と白の要素を両親から受け継いだ赤色だ。嗚呼、そうだ。見た目は赤色だ──魔法を使える──が、白色を隠し持っている。つまり、赤赤の魔法族と結婚する場合は確実に赤色が生まれ得る一方、赤白の魔法族と結婚すれば、或いは白白の非魔法族と結婚してしまえば、僕の子供として白白の人間──魔法力を使えない〝スクイブ〟が
確実に生まれないというのは、果たして神による救済なのか、それとも罰なのか。
「そして先程、僕は融合説が半純血や〝スクイブ〟にとって救いだったとも言った。しかし、この法則は逆だ。メンデルの遺伝法則は彼等を、僕達を奈落の底に落とす。何故なら半端な血の持ち主達は、選択と行動によって血を
過去の時代では、スクイブと魔法族の結婚に何の躊躇も無かった。
多くはないが、それでも良心に溢れた〝純血〟なら、その程度の斡旋をしてやった。魔法力を持つ側も余り疑問を持たずに受けた。たとえスクイブを通じてだろうと、魔法界の名家と繋がれるなら利益が有るからだ。彼等に貸しを与えられる機会というのは、殆ど無いからだ。
しかし魔法族の大多数が気付いたのは、果たして何処の時点からだろう。
やはり1960年代の後半、スクイブ権利運動の頃には気付いていたのではなかろうか。
「僕は永遠に赤白で、君達のような赤赤の
なあ、と笑い掛ける。
「1930年代に『純血一族一覧』が記され、〝純血〟結婚が至上とされた理由も解るだろう? 一族の婚姻に影響を及ぼしかねない
「「────」」
現在の〝純血〟主義の原点はそこに在る。
非魔法族に対して親和性を持ったのは蛇である。断じて、獅子ではない。
だからスリザリンは必然のように純血主義へのめり込んだ。非魔法族が〝科学〟で人種差別を行うようになったように、魔法族もまた同様の道を進んだのだ。
そうして、暫くの間、部屋内では沈黙が続いた。
僕としては話を終えたつもりも無かったが、彼等が初めて直面する筈の問題であるから、整理する程度の時間は与える気だった。また、この場には第三者、それも非魔法界育ちの優等生、ハーマイオニー・グレンジャーが居る。故に彼女が最初に静寂を破る事になるのだろうと予期していたのだが、意外な事に、それを破ったのはウィーズリーだった。
「……そ、それが魔法族に当て嵌まる理屈は何処に有る?」
「────ほう?」
単に感情的な反発ならば、今まで通り一蹴してやるつもりだった。
しかし、どうやら違うらしい。左側の片割れの瞳には理知的な輝きが有り、何時もとは比べ物にならないものの、その全身には自信と活力が確かに戻っていた。
「お前の理屈は可笑しい……! その理屈が正しいとしたら、何処かに赤が混じっていないと魔法族は生まれない。つまり、全てが白色の
「そ、そうだ。良く良く考えたら、その話じゃハーマイオニーの存在を説明出来ない。水の喩えと同じく理屈に合わない。じゃあ、間違ってると考えるべきなんじゃないのか!」
「当然、スリザリンの純血主義なんて正当化出来やしない! やっぱりお前は自慢気に知識をひけらかす事で相手を煙に巻く、薄汚い詐欺師じゃないか!」
「真面目に聞いていた俺達が馬鹿だった! ああ、全く馬鹿馬鹿しい時間を過ごし──」
「──成程、僕は見縊っていたようだ」
素直な称賛を口にすれば、どういう訳か双子はピタリと罵倒を止めた。
褒めてやったと言うのに、相変わらず、喜びの代わりに彼等の表情に浮かんだのは恐怖である。割と心外な反応だった。この称賛に限っては、間違いなく本心だというのに。
彼等は今漸く六十年前の魔法族に追い付き、そして僕と議論する出発点へと立った。
「君達は素晴らしく本質を掴んでいる」
杖を振り、今度は白い球の集団を二組、計四つ出現させる。
そこから一つずつ取り出し、新たな組を作っても、最初の白い球の集団から変わらない。杖を何度なく振り、その試行を幾度繰り返そうとも同じ。何処かの工程で酷く
「先の理屈の適用には、〝マグル生まれ〟の存在が立ちはだかる。そしてまあ、正当化自体は然程難しくもないし、しかもその正当化の為の理屈は幾つも用意出来るのだろう。しかし……それを提示するだけでは何とも芸がない。君達は当然として、僕もまた遺伝学を正確に修めた訳では無い以上、ここで学問的議論を行う事は不可能だからな」
何処まで行っても、建設的な議論にはなりはしない。
「だから、その辺りの面倒の一切を省いて、途中の過程を尽く飛ばし、誰にとっても解りやすく話を進めるとしよう。今君達が提示した質問、この純血主義の理論が間違っているのではないかという指摘に対しては、端的にこう答えてやろう」
頭の出来が悪く、科学的手法を欠片も知らぬ、世に蔓延る凡人らしく行こうではないか。
再度杖を振り、全ての球を消し去った上で宣言する。
「
結局、明快さこそが世の正義であり、真理なのだから。
双子達が愕然としているのは、僕が全てを引っ繰り返したように思ったからだろう。
けれども、僕は何も引っ繰り返してなどいない。現在を必死に生きるしかない無知な僕達は、ここから、未知と不可解から全てを始めなければならない。
「メンデル遺伝学が魔法族に適用されない可能性。それは間違いなく有る」
非魔法族と魔法族を同種としても、受け容れられない理屈では無い。
遺伝学は未だに発展途上、それも、スタートラインから少し進んだだけの学問でしかない。それを魔法の世界に適用するなど、気軽に為せる行いではない。
「何もかも証拠が無い。仮説を立てる事すら覚束ない。魔法力をどう捉えるかという点からまず紛糾する。魔法力の有無を左右する顕性の魔法遺伝子というのが存在するのか。或いは逆に、潜性の魔法遺伝子として存在するのか。はたまた魔法の使用能力を喪わせる顕性のマグル遺伝子が存在するのか。もしくは、複数の魔法関連遺伝子が存在し、それを継承した人間の保有率が一定の閾値を超えれば魔法を使えるようになるのか」
どれも一長一短で、同時に真実らしくも聞こえる。
魔法遺伝子ないしマグル遺伝子を顕性と見れば、魔法族の子供に魔法族が多い理由──言い替えればスクイブが少数である理由──を容易に説明出来る。それに対して魔法遺伝子を潜性と見れば、魔法族が非魔法族と比較して圧倒的少数派である事を容易に説明出来る。
複数の魔法関連遺伝子が存在するという発想だって、遺伝子型と表現型が必ずしも一対一に対応する訳ではないという法理、メンデル的な単一遺伝子疾患よりも多因子疾患の方が遥かに多いという観察からは、何の不自然さも抱かせない。
その何れの立場に立とうとも、現代遺伝学は魔法界の遺伝を説明可能とするだろう。
「先に述べた顕性の法則にしても、そこに例外の存在、つまり赤色と白色の花の交配によって、ピンク色の花が生まれる場合はあると認める。まして単純な一つの魔法遺伝子に基づく顕性潜性の法則が成り立たたないようだというのは、現在の魔法族の数、マグル生まれとスクイブの数を基とした統計的分析をすれば──もっとも、僕は概算したに過ぎないが──明白なのだ」
何より、と。
双子達に言葉を差し挟ませる隙を許さず続ける。
「魔法の力を科学の俎上に乗せて良いのか解らん。魔法が遺伝子以外の要素によって子孫に継承されている可能性、それこそ今の非魔法界で間違いだとされているジェミュール説の方が正しいとも限らない。そしてさながらダークマターのように、現在の科学技術では観測出来ないか、最初から観測不可能な物質であるという可能性もまた有る。非魔法界流の科学的証明をしようとする事自体が無意味なのかもしれん」
「じゃあ──」
「けれども確かな事は、間違いだと証明されてもいないという事だ」
この魔法界の何処にも、他に遺伝を説明する理屈は存在しない。
必然だった。
ホグワーツでは、半純血やマグル生まれ、マグルやスクイブの差別が表向き禁じられているからだ。あの大魔法使いが徹底的に禁忌としてしまっているからだ。関心を持つ契機自体がないのならば──特に、非魔法界育ちの生徒に知る機会が与えられないならば、研究が進む道理は無い。
ましてこの主題は、人類の神秘に纏わる事項、この世の最後まで残っていそうな問題である。非魔法界の数十万人が己の人生数十年間を捧げて研究している難題を、世の魔法族が片手間に解けるなどという事は断じて有り得ない。
「つまり、正しい可能性は十分に残っている。非魔法族の血を一滴も含まない結婚など現実的には不可能だろう。しかし、〝スクイブ〟の子供を産む確率を
両親や親戚にヴィーラが居ても小鬼が居ても巨人が居ても水中人が居てもケンタウロスが居ても、たとえドラゴンが居ようとも構わない。それらは等しく魔法界に内包される
そんな〝純血主義〟が正しい可能性は、未だ残存している。
「僕達は正義でないかもしれない。だが君達もまた、自分達が正義だとは証明していない」
「……っ。詭弁だ! 誤魔化しだ! 俺達はそんな──」
「──なあ。
君達は間違っている
鋭く風の抜けるような、息を呑む音が二つした。
二十世紀始めの非魔法族は、当時の人間なりに賢明だった。
けれども、遺伝学が光を当てた負の側面、それが齎す集団恐慌に耐えられなかった。
嗚呼、国家や政治家が支援し、そういう風潮を創ったという側面は間違いなく有るだろう。しかし、僕は思うのだ。あの地獄を創り出したのは、自分の家族に〝悲劇的事件〟が降り掛かる事を恐れた、真っ当な善の心を持つ、普通の親達によるものではなかったかと。
「メンデルの法則はな、親に似ていない子供が生まれるのは、決して不自然ではないし例外的ですら無い──その事を示したに過ぎない」
そもそも君達は全ての前提を忘れていると嘲笑する。
「親は子供に似る可能性が高い。これこそが、実世界の観測から求められる基本法理だ。両親が赤毛の場合と片親だけが赤毛の場合、子供が赤毛で生まれてくる確率は、前者の方が遥かに高いのだ。両親共に高身長である子供の方が、片親だけが高身長である子供よりも、背が高くなる傾向が確かに存在するのだ」
幾らでも少数派は見付けられても、あくまでそれは少数派にしかならない。観察の上では、親から子への遺伝現象は非常に大きな支配力を持っているのだ。
「であれば、片親しか魔法使いでない子供は、両親が魔法使いである子供より魔法力を持たないで生まれる可能性は高くなるのではないか──スリザリンが抱き続けて来たこの懸念を、非魔法界の科学を知らない君達は、一体如何なる理屈で否定してくれるのだ?」
魔法でも良い。科学でも良い。
何故、自分の家系は百年後も魔法族のままだという考えを持てるのか。
魔法力の遺伝は非魔法力の遺伝に打ち勝つ──
「
嗚呼、本当にホグワーツは、かの四人は素晴らしく偉大だ。
思春期の魔法族の少年少女を大々的に集めた上で、限られた範囲での自由恋愛擬きを許可し、種族としての遺伝子プールを維持する為の箱庭。魔法族・非魔法族間の婚姻を明示的に禁止せずとも、異種族間での婚姻を事実上不可能とする悪魔の階級装置。こう考えれば千年前にスリザリン寮が破壊されなかった、もしくは当時のスリザリン生が離反しなかったのも酷く納得が行くではないか。
やはり魔法族は忘れてはならない。
彼等四人の対立点は非魔法族生まれをホグワーツに入れるかどうかにあり、魔法力の無い非魔法族をホグワーツに入学させるかどうかなどは議論自体が存在しなかったのだと。あの博愛主義気取りのアルバス・ダンブルドア前校長でさえ、それを認める気は一切無かった。
「更に君達は誤解しているが、理屈が正しいか否かは現状、本質的な問題では無い」
これは魔法の問題でも無い。科学の問題ですらない。
何処まで行っても、あくまで人間の問題でしかないのだ。
「新しい魔法族から旧い魔法族へと質問しよう。君達は、自分の子供に〝スクイブ〟が生まれたとしても、彼等を立派な人間……ヒトとして育て上げられる自信が有るのか?」
その素朴かつ核心的な疑問に、今度こそ双子達は大きく身体を震わせた。
「非魔法界は魔法界と何もかもが違う。学校への選択や通学手段、怪我や病気の場合の対処法。非魔法界の政府への申請手続き、身分証明の方法。通貨の使い方に移動手段、極めつけは、一年に掛かる生活費。それらをどう準備すれば良いか、果たして君達は知っているのか?」
「「…………」」
「また、国際機密保持法の縛りが有る以上、〝スクイブ〟の子供には魔法界の口留めをせねばならない。彼等の親として非魔法界に出るなら恥ずかしくない恰好や振舞いを学ぶ必要が有るし、今の君達の家に非魔法族の友人を呼ぶなんぞ論外だ。要するに、〝スクイブ〟を産んでしまえば最後、君達の人生はこれまでと一変する」
今までのように、魔法族らしい魔法族のままでは居られない。
「それを理解して尚、君達は、魔法力を持たない子が生まれる可能性は然程変わらない
答えは無かった。非常に残念極まりなかった。
この非魔法界に無知な者達が答えてくれたなら、僕は素直に怒りを覚える事が出来たからだ。
「君達は生まれながらに魔法界に住んでいる。また、グリフィンドール生でも有る。だから、ネビル・ロングボトムの〝美談〟を聞いた事が無いという事は有り得ないだろう? 」
言葉も無いらしい二人へと、自分ですら実体を掴めぬ感情と共に問い掛ける。
「そして当然それはスリザリン……同じ〝純血〟達も耳にしていたし、僕はドラコ・マルフォイから知った。その話によると、ネビル・ロングボトムは親戚達から長らく〝スクイブ〟だと考えられていたらしいな?
もし彼が本当に魔法力を持っていなければ、下手すれば死んでいた。
だが両親や親戚にとって、子供が泣き喚き、暴れ、大騒ぎして抵抗しようと、愛の名の下に躍起になって存在を否定しようとする者達が〝スクイブ〟である。だからこそ、子供が魔法力を発現させた際、魔法族は子供の
「自分達の子供に〝スクイブ 〟が生まれたとして、
それこそが問題の根源。僕が〝純血主義〟を肯定する理由。
それが間違っていると今後証明してくれるならば一向に構わない。
しかし現状では答えが出ていなくて、万一純血主義仮説の方が正しかった場合に取返しが付かなくて、だからこそ僕は次善として肯定する。
そしてこれは、アルバス・ダンブルドアには理解し得ず、解決も出来ない理由でもある。
所詮、子供を持たなかった人間が言える綺麗事だ。誰も口にせずとも内心では殆どが思ってしまうから、この問題について、彼は全く影響力を行使し得ない。
「ドラコ・マルフォイは必然として、僕ですらも、他人がそれを是とする事を論破出来るとは考えられん。魔法力の使えない子供など断じて我が子ではない。産まれて欲しくなんぞ無いし、万一産まれたなら眼の届かない所で自ら死を選んで欲しい。その理屈──否、酷く感情的な叫びは、僕ですらも真正面から否定し得ない」
「……お、俺達は、スクイブを殺そうなんて思っちゃいない! マグル生まれを手当たり次第殺す『あの人』とは違う。お前みたいに死喰い人を有難がっているクソ野郎とは違う……!」
「でも、君達は我が子に無魔法力者が生まれた場合、どう対応すれば良いか知らないのだろう? 非魔法族の一般的家庭がどのように暮らしているかを、全く知ろうとしなかったのだろう? グリフィンドール共が全く同じだと主張している筈の無魔法力者が、しかし自分の結婚相手の腹から産まれてくる事なんぞ、君達はこれまでの人生で一度も考えた事すら無いのだろう?」
「「────」」
「だからグリフィンドールは、百年前の化石なのだよ」
偶々運の悪かった魔法族の両親の下に〝スクイブ〟が生まれる。
未だにそんな考えで生きているから、平気で非魔法界について無知で居られる。
表現型として魔法を発現している両親が、しかし何らの非魔法的要素を遺伝子型として保因しており、それが子供に継承された上で表現型として発現した結果が〝スクイブ〟なのかもしれない──魔法族の夫婦の下には確率上誰にでも起こり得る、何の珍しくもない現象だと考えていたのなら、非魔法界に無知のままで居る事は断じて有り得ないのだ。
嗚呼、勿論、魔法界にも〝スクイブ〟を救う組織は有る。
例えば
「──もっとも、君達が『隠れ穴』で〝スクイブ〟を一生飼殺しにする気なら関係無いが」
ダイアゴン横丁で悪戯店を経営するより余程大変そうだな、と軽い調子で呼び掛ける。
前時代の魔法界では、実際それが行われていた。そして、慈悲深い行いとすら言えた。魔法界においては、十一歳前後の子供の事故死や病死が良くあったようだから。
「……そ、そんな事になったら何とかしてみせる……! 俺達はそんな薄情な人間と結婚しないし、家族の絆はその程度で壊れる筈が無い……!」
「べ、別にマグルの知識なら、必要になってからでも遅くないだろう? 子供の為なら頑張ってみせるさ……! 家族みんなで助け合ってやって行ける……!」
「その主張に対する反論材料は無いし──まあ、この問題の根は更に深く、家族関係自体を破壊し得るものなのだが──今は置いておこうか。君達の理解が及ぶとも思えんしな」
この程度の話は所詮序論、魔法界の将来を語る上での触りに過ぎない。
しかし、彼等の思考が割と一杯一杯なのは見て取れている。非魔法界の科学の発展が産もうとしている、更なる地獄の未来は受け止められまい。
「ならば別視点、それ以前の想像しやすい話をしよう。君達の結婚相手の選択肢が狭まり得る事について。この視点こそが、君達にとって最も現実的な問題だ」
そして第三者がアーサー・ウィーズリーへの評価を決する焦点でもある。
「君達は遺憾な事に、二十八の家に数えられる程の〝純血〟だ。そしてアーサー・ウィーズリーもモリー・プルウェットも、愚かな事に地位を放棄しなかった」
彼等の代で永久に断っておくべきだった──〝純血〟を配偶者にするとしても、せめて二十八の外から選ぶべきだったのに、自分達が良ければ良かった彼等はそうしなかった。
「仮に君達が〝マグル〟と結婚した結果、〝スクイブ〟の息子や娘が生まれてみろ。その〝スクイブ〟の子供は、魔法界の知識が現在の水準のままであった場合、確実に、親である君達に向かって罵倒するだろう。〝お前がマグルと結婚したせいで、自分は魔法を使えない出来損ないとして生まれたのだ〟と」
「「────っ」」
「しかも厄介なのはな、先程示した通り、メンデルの法則は隔世遺伝の原理を理論的に説明した。……これも多分に誤解を招く用語な気がするがな。兎も角、〝純血〟と〝マグル〟との子供が無事に──幸運な事に息子や娘が魔法族として産まれても、その孫や曾孫が〝スクイブ〟として産まれる事、つまり非魔法的要素が継承される事を肯定する。この法則は肯定してしまうのだ」
魔法力の有無が遺伝子によって決されると考える限りは、その理論を何処かで否定する理屈を用意出来なければ、〝純血主義〟は無くならない。他の混ざり者である半純血達も、過去は変えられずとも、自分達以降は魔法族同士の婚姻を尊ぶ事だろう。
さて、と。
僕から最大限距離を取ろうとし始めた双子に微笑み掛ける。
「これを理解して尚、君達は、せっかく先祖が維持してくれた〝純血〟の遺伝子を汚染しようとするのか? 君達は子孫に批難される危険を負担出来るというのか? 〝マグル〟の女性達に結婚を申し込まれたとして、彼女達が単に〝マグル〟であるという理由で、君達はその申し出を拒絶しないで居られるのか?
──この悪魔の理論が間違っている可能性に、君達は一度きりの人生を賭けられるのか?」
その恐怖に挑む夫婦が産まれたとして、彼等の親や親戚達そして魔法族の社会は、彼等を白い目で見ずに居られるのだろうか。他ならぬ非魔法族達は、魔法族の態度を差別的だと糾弾しないままで居られるのだろうか。
「そして何故、そんなにも恐れる? 何故、恥じるような心持ちになっている?」
そんな反応をする必要は、
「別にな、この手の問題は魔法界に限った事では無い。非魔法界でも一緒だ。まあ、魔法界のソレとは多少違うがな。それでも根源の感情は変わらない。少なくとも、僕にとっては」
そこまで言い切り、少しだけ息を多く吸った。
この先を口にするには、僕ですら多少の覚悟が必要だった。
「要するに、非常に気の進まない、嫌な言い方をすれば、『生まれ損ない』が増えて欲しくないと考えるのは何処の世界も一緒だという事だ。〝マグル〟共は人類史が始まって以来〝浄化〟を続けて来たし、勿論、ニュルンベルクの断罪が終わった後も変わらなかった。ハーケンクロイツの絶滅作戦は単に遣り過ぎただけだとして、国家政策の多くは殆ど維持された」
異人種間結婚禁止、犯罪者や障害者の断種。大規模隔離政策。同意無き拉致と強制収容・教育による民族浄化。程度の差異は有れど、国の先進後進問わず何処でもやっていた。東西南北を問わない欧州、アフリカ、南北アメリカ、ユーラシア、オーストラリア、中東、アジア、世界の全て。その潮流が変わり始めたのはほんの二、三十年程前で、今は道半ばだ。
非魔法界の一部はラパポート法の後進性を笑うかもしれないが、そのような人間は、合衆国で異人種間結婚禁止の違憲判決が西暦何年に出されたのかを知らない。
「そして国家政策が放棄された後は、今度は個人がその〝浄化〟を継承し始めた。国家が自由意思を奪って強制するのは許されないが、ならば家庭内の自由意思の下でなら許されるとな。だから、非魔法族も理解してくれるとも。魔法界と非魔法界、その二つの世界を選べる権利を子に与えたい──そう親が望むのは仕方ない。アーサー・ウィーズリー達や、将来の君達が〝純血〟結婚を選択したとしても、理解する事くらいは出来ると」
魔法族は杖と科学を扱えるが、非魔法族は科学しか扱えない。
制御に多少苦労する事を除けば、魔法力を持っている人間が損する事は殆ど無い。魔法族は電話を使えるし、車や電車にも乗れるし、プレイステーションでだって遊ぶ事が出来る。
ならば、魔法族の両親が魔法族の子供を強く望み、一方でスクイブの子を忌み嫌い、非魔法界の孤児院に捨て、最悪の場合には殺そうとするのも必然ではないか。そんな思考過程は、実際に魔法力を持たない〝マグル〟や〝スクイブ〟達にすら理屈として理解出来て──勿論、内容に賛同するかは全く別の話だ──しまう。
故に、遺伝法則の正誤、魔法力の継承過程の謎は、最早核心の問題とならない。
魔法族と非魔法族の結婚は、魔法力を喪わせる可能性を有意に上げたりはしない。そんな理論が生まれ、その証明が
魔法界から、魔法族至上主義は無くならない。
「大事な事だから繰り返そう。魔法界において非魔法界の遺伝学は適用不能であるかもしれない。それは確かだ。そして、魔法族である君達は、それを逆手に取る事すらも可能だ」
過去のスリザリン──否、過去の魔法族に倣うのも一つの手だ。
「
最初に彼等がそうしたように。
〝進歩的〟思想の一切を、聞かなかった振りをすれば良い。
「君達は胸を張っていて構わないのだ。純血主義を──
無意識の選民思想に被れた者達は、勝手に滅んで行けば良い。
それが彼等の選ぶ道だと宣うならば、スリザリンの僕に文句を言う資格も無い。その先に在るのは間違いなく、我等が偉大なる祖、サラザール・スリザリンの悲願の成就なのだから。
「……嗚呼。少しばかり、余計な話をし過ぎたな」
ここに時計が無いのは不便だ。そう思いながら、切り上げの為の言葉を口にする。
まあ双子の片割れに腕時計を見せてくれと言えば済む話ではあるが……流石に今のこの状況で、それを選べる感性は僕にも無い。彼等の方から部屋を立ち去る『勇気』が出る事は期待出来ないようだし、そろそろ僕の方から話を畳んでやるべきだった。
「この話のそもそもの発端はアーサー・ウィーズリーであり、何よりもパーシー・ウィーズリーであった。君達は、その為にこの場を望んだのだろうし、教授にしても僕を持ち出す事を余儀無くさせられた理由の一つだった。だからまあ、これも僕の義務として果たしてやるとも」
彼等と血を分けた兄が、我慢の限界に達した理由を語ろう。
「アーサー・ウィーズリーが〝純血〟同士で結婚した事は理解出来る。スリザリンは肯定する。僕だってそうだと言うのは既に述べた。しかしなから──理解と感情はやはり別なのだよ。〝純血〟という
純血達が偶々恋愛結婚したに過ぎないという〝言い訳〟を、僕達は許容しない。
〝純血〟以外との結婚
「君達は非魔法族が
頭が中世で止まっているのは、グリフィンドールとスリザリン、果たして何れの方なのか。
「『純血一族一覧』が執筆された問題意識は、自分達の
そして自分達では気付いてすら居ない。
罪を拭わず、特権階級の責務も果たさず、魔法省の下級役人で満足している。
彼等の両親が純血結婚した点にしても、彼等一家が真剣に非魔法側へと降りていく姿勢を見せていれば──非魔法族の正の面も負の面も等しく学んでいたのならば、離れて行く非魔法族生まれや半純血は減ったのだ。けれども、そうではない。ならば、アーサー・ウィーズリーの非魔法族趣味は、自分達の純血婚を誤魔化す為の隠れ蓑、下品な見せびらかし程度にしか周りに受け止められないのは当然だ。
「アルバス・ダンブルドアの主張──自分が強いから混血化は問題無いというのも、完全に的外れで論外の主張だ。我がスリザリンは、たった一人の怪物の誕生、精々百年程度の時間軸に関心を払っている訳では無い。全く興味が無い訳ではないが、彼等の第一の関心はやはり家の存続、一族の数人数十人、今後の数百年や数千年がどうなるかにこそ存在しているのだから」
一滴の血が混じった現在を問題視している訳ではない。
一滴の血が混じれば未来にどう影響が出るかこそを問題視している。
「つまり、アルバス・ダンブルドア個人が魔法族だから、自分は強い魔法力を持つからなんぞは知った事ではない。彼の子供はどうか。彼の一族が更に混血化を進め、その子孫達の才能がどうなるか。そこまで言及して来て初めて、スリザリンはあの老人の話を聞く気になる。が、彼は都合良く耳の遠い振りをする。であれば、最初から解り合える訳が無い」
そもそもの話、
まあ非魔法界でも理論が完全に構築されている訳では無いし、確実に引き起こすには数十数百の試行と失敗が必須であろうし、逆に親より弱い個体が誕生する場合も当然存在する。そもそも人間が狙って利用する事など常識的にも現実的にも不可能である筈なのだが──果たして、アルバス・ダンブルドアは、また
正しいではなく、正しいかもしれないで十分な場合は有るものだ。
「そして君達の兄、パーシー・ウィーズリー。アーサー・ウィーズリーの負債を負わされた内の一人は、同じ兄妹の誰よりも克明に、その罪を突き付けられた」
あの男の離反は必然だった。
彼が裏切ったのではない。一家の家長こそが先に裏切っていた。
「バーテミウス・クラウチ氏という庇護者が消えて以降、彼は魔法省で一つの言葉を聞く事になった。〝君は善き両親を持ったな〟と。最初は意味に気付かなかったのではないかと思う。しかし、段々と気付いていった。気付かざるを得なかった。その言葉の裏に秘められた意味に。特に我がスリザリンの卒業生達が、喜々として彼に対して伝えたであろう猛毒に」
失望か。呆れか。
やはり自分でも解らない感情と共に口を開き続ける。
「
ここでも思ってしまう。
アルバス・ダンブルドアは、そしてミネルバ・マクゴナガル教授は、ロナルド・ウィーズリーを監督生に任命すべきでは無かった。あの程度の優秀さで認めてやるべきでなかったと。
「君達兄妹は例外無く、魔法族の標準から見て優れた側に位置する子供だった。だからパーシー・ウィーズリーはな、魔法省で働いている内、
それこそが彼がウィーズリー家から離反した、決定的原因。
遺伝学が導き得る残酷な論理の一つを、殆ど不意打ちに、最も非道な形で叩きつけられた。
「君達の両親が『純血一族一覧』に従った、或いはルシウス・マルフォイ氏達と同じ行動をし、その挙句、彼等の結婚が全て良い方向に作用してしまったから、広く嫉妬と憎悪と敵意を集めてしまった。グリフィンドールの大勢から、ハッフルパフやレイブンクローからも、君達の家系は仲間であるとは看做されなくなった。その上、パーシー・ウィーズリーに有力な後ろ盾が無いのならば、陰口や罵倒をするのに躊躇う訳がない」
魔法戦争中においては、その手の事は一切無かっただろう。
誰が聞いているか解らないのに、純血主義否定の世間話をするのは自殺行為。闇の帝王の耳に入れば、或いはアーサー・ウィーズリーが告げ口でもすれば、純血結婚を批難した馬鹿には死あるのみである。だから脳味噌を持っている者なら自重した。
そして1981年のハロウィン以降にしても、闇の帝王の死は長らく疑問視されていたのだ。故に、軽々しく語る者は簡単に現れなかった。そもそもアーサー・ウィーズリー自体が、彼を含めて二人しか居ない窓際部署に送られていたのだ。一々彼の結婚について掘り返し、糾弾するような人間が近付く余地もなかったのだろう。
けれども、パーシー・ウィーズリーは、闇の帝王の死が確実視されつつあった時代に魔法省へと入った。加えて、国際魔法協力部──良血を持ちながらも労働などという下賤に関わらざるを得ない者達の巣窟へと行った。更にその上で素直かつ自然に出世を希望し、権力に近付こうとしてしまった。
この皮肉と嫌味を回避する事は不可能だった。
「嗚呼、何度でも言おう。これは
「「――――っ」」
「世の魔法族はアーサー・ウィーズリーの一家を見習えと。非魔法族生まれや半純血のような混じり者と結婚し、自ら血の純度を下げるのは馬鹿々々しいと。優秀な子を産む可能性を上げる為に、出来るだけ魔法族の血を濃く持つ者と結婚すべきだと、我等が愛すべきスリザリンによって高らかに主張されたのなら? なあ、あの人間達はそんな悪しき未来を想定もせず、魔法界と獅子寮への忠誠を放棄し、個人的恋愛感情を優先して結婚したのか?」
衝撃に打ちひしがれている様子の双子に、内心だけで嘆息する。
本当にグリフィンドールは、その統領たるアルバス・ダンブルドアは、余りにも罪深い。
「そんな主張をスリザリンに許す真似をした人間共は、アーサー・ウィーズリーという男は、モリー・プルウェットという女は、反純血主義を掲げるグリフィンドールの──そして何よりも『純血一族一覧』を否定した〝ウィーズリー〟の敵であると言えやしないだろうか?」
『純血一族一覧』の出版後に、彼等は純血婚をしてしまった。
である以上、彼等は決して血を裏切ってなど居ない。スリザリンの多くが彼等を『血を裏切る者』と呼ぼうが、僕にはそう呼べない。
「そして君達の一族は、アーサー・ウィーズリーの一家をどう見ていたのだろうな。特に、〝スクイブ〟の子供を産んでしまった人間だ」
全く望まずして、持たざる者を家族としてしまった人間だ。
「この『純血一族一覧』がどれだけ見当外れの記述をしていようと、現代の遺伝学的知識を基に考える限り、或る子供が両親や先祖の形質を如何に受け継ぐかは確率論だ。突然変異説も今やメンデリズムの枠組内に在り、そもそも非魔法族の血が一滴も混じっていない純血種の存在自体が虚構だ。〝ブラック〟にも〝スクイブ〟が居たようだし、だから君達の親戚の中にも必ずや居る筈──嗚呼、やはり居るのだな」
眼を合わせてしまった片割れから、その答えを読み取る。
「で、その人間は、一体何を思うだろう? その者が
周りの親戚一族が魔法を使える者ばかりの中、一人だけ無魔法の子供を生んでしまった夫婦は、その非魔法の息子ないし娘は、アーサー・ウィーズリーの一家に対して一体何を思ったのだろうか。
「嗚呼、僕がその立場だったのなら、アーサー・ウィーズリーとモリー・プルウェットを心底憎悪する。偉大な先祖が過去に主張した反純血主義的思想の哲学に背き、のうのうと純血結婚をしやがった人間達を決して許せなどしない。それに留まらず、彼等が作った幸せな〝純血〟の家庭を徹底的に破壊してやりたいと思うだろう」
更に自分が〝純血主義〟を放棄した事に後悔し、今度はスリザリンの側に立つだろう。
『純血一族一覧』を否定した先祖は偉大でも何でも無く、全て間違っていたのだと。そして真に闇の時代が訪れた時、彼等は自分達の安全と引換えに、ウィーズリーの一族の人間を売ってくれるだろう。そうして彼等は身内によって滅ぼされる。
「ハーマイオニー・グレンジャー」
暫く沈黙を保っていた、この場のもう一人へ呼び掛ける。
「君は反証を──この場に存在する最も強力な証拠を挙げて、抗弁しようとはしないのだな」
「…………私はそれ程馬鹿じゃない。貴方はその事をもっと知っておくべきだわ」
「──そうか。確かに、僕が間違っていたようだ」
例外は何処にでも存在する。
一人の優秀な〝マグル生まれ〟で遺伝法則全てを語る事は出来ず、逆もまた然り。
そもそも観察の上では、〝聖二十八族〟は第五学年に限ってすら優秀である。
ドラコ・マルフォイは素行は兎も角として成績は優秀。パンジー・パーキンソンも一枚落ちるが大きく変わりはない。アーネスト・マクミランも監督生。劣等生と扱われる事が多いネビル・ロングボトムにしても、薬草学の分野では類稀な才を持つとポモーナ・スプラウト教授が褒め称えていた。
そしてスリザリンの劣等生代表、ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルは、〝純血〟ではあるものの、しかしながら、二十八の家には含まれていない。彼等がトロール程度の知能しか持たないのは、その身に流れる一滴の〝マグル〟の血が顕在化した結果である──そんな主張を、現在の魔法界の論理では否定出来ない。
……とは言うものの。
まあ、〝聖二十八族〟の人間が優秀なのは、教育環境の面が多分に大きいのだろう。
さりとて遺伝要因を完全に排除して良いとは断言出来ないのもやはり事実である。寧ろ、現代遺伝学の知識は、遺伝要因と環境要因の相互作用を殆ど当然の前提としている。そして逆説的に、アーサー・ウィーズリーの罪は、容易く拭い去る事も出来ない。
「僕の立場を一応述べておくと、魔法力の有無の云々は兎も角として、少なくとも君達の優秀さが純血結婚に由来するという理屈などは、更々信じてなどいない」
人間という生物は間違いなく、そう単純な機巧をしていまい。
「だが、これは既に科学的正誤の問題ではないのだ。人間の認識と感情の問題であり、世の不公平と不条理に対する怒りと八つ当たりの問題なのだ。そして、アーサー・ウィーズリー達が恋愛結婚という綺麗事を振りかざして逃げたそれを──逃げられたと思っていた因習の罪を、パーシー・ウィーズリーは真正面から受け止めてしまった」
真面目で、潔癖主義過ぎた。
純血主義者の言い分など知った事かと答えれば良かったのに、
「もっとも、積もり積もった疑念も有ったのだろう」
血の問題こそが致命的で、決定的だったとしても、断じて唐突では無かったのだろう。
「パーシー・ウィ―ズリー。彼はO.W.L.十二科目合格者として、必然のようにマグル学を修めていた。つまり、授業内で教授から非魔法族の知識を授けられ、更には教室の中には同じ学問に励む仲間が居た訳だ。そして彼の寮はグリフィンドールであるから、授業外でも半純血や非魔法族生まれと触れ合う機会が有った。ならば、そんな彼の眼には父親が──〝マグル〟を面白がるだけで理解を示さない家族達が、どう映って居たのだろうか?」
外の世界の常識が浸食した結果だ。
そのような事は、これについても言える。
アルバス・ダンブルドアと同様、口では広く平等を訴えながらも、自分達にとって都合の良い魔法族的な部分は見ない振りをして、言行不一致を許容する。
偽善であり、背信であり、罪科である。
「飛行可能な自動車を魔法省でなく個人が所有する目的は、『その車を飛ばすつもり』以外に有り得るのか? それなのに何故、懲戒免職どころか自主退職しない事が許される? 『マグル保護法』にしても、ドローレス・アンブリッジを見てみろ。『反人狼法』はアルバス・ダンブルドア前校長の反対を押し切る程には支持された法だったが、彼女がそれを成立させるまでどれだけの時間と地位が必要だったと思っている?」
アーサー・ウィーズリーが〝純血〟だったから。
彼が罪を犯したとしても、庇う知り合いが魔法界に大勢居たから。彼が間違った結婚相手を選択したとしても、それでもスリザリンのような純血主義者ではないと喧伝したい
それが事実かは兎も角として、そんな邪推が外部からは出来てしまう。ドローレス・アンブリッジや僕には絶対に出来ない事をやっているのだと、そう妬む事が出来てしまう。
勿論、生粋のスリザリンはそれを問題視しない。
〝純血〟の立場を用いて好き放題やっているのは、我が寮も同じであるからだ。
しかし残念な事に、パーシー・ウィーズリーはグリフィンド―ル、騎士道精神を尊ぶべき寮の人間である。そしてこの僕もまた、論理を超えた感情の面で何も思わない訳では無い。
「半純血──頼れる親戚や人脈を持たず、誇れるような先祖や歴史も無く、この魔法界で一から立場や地位を築かねばならない孤独な人間から言わせて貰おう。
上から目線で手を差し出してくる、選民思想と特権意識のこびり付いた悪。
彼等がどんな考え方をしていようと、御互いに断じて相容れる事無き存在である。
「ついでだ」
項垂れ切り、最早顔すら上げやしない双子へと、なけなしの親切心を発揮する。
「最後に、ミスター・ウェーザビーの思惑と、現在の立場に付いて語っておこうか」
これでも相応に肩入れしている気もするが……もう少し位は良いだろう。僕が然程嫌悪を抱かないグリフィンドールというのは稀少であるし、不器用であるが故に報われないと言うのは何とも救われない話だと思うからだ。
椅子の背もたれに腕と身体を投げ出したまま、僕は可能な限り優しく語り掛ける。
「彼は出世した。この事について、どうせ君達は、彼が単純に小躍りしただろうと考える程度の頭しか無いだろう? 出世こそが逆に彼にとっての毒杯である。元々白眼視されていた彼が、更に孤立を深める理由を提供されたのだ。そんな事は一切考えもしない 」
「「…………!」」
その指摘に、双子達は漸く顔を上げた。
「嗚呼、基本的に出世とは利益である。しかし、彼のそれは余りに度が過ぎるのだ。去年のバーテミウス・クラウチ氏の個人秘書からして大抜擢。あの傲慢な貴族主義者が他人を、それもホグワーツ卒業一年生の価値を認めるなど、彼を知る者からすれば驚愕でしかない。更には今年度、彼は魔法大臣付下級次官へと昇ってしまった。これ程早く出世した人間なんぞ魔法省の三百年の歴史を見てもそう居ないだろう」
もしかしたら前例自体が存在しないかもしれない。
「そんな彼を、同じように魔法省に就職した彼の先輩や同級生──出世競争をする者達はどう思うだろうか? 未だに魔法省の平役人として働き、顎で使われているままの元ホグワーツ生達は、ミスター・ウェーザビーに対して嫉妬せずに居られるだろうか? 或いは逆に、彼の方が気不味さを感じ、自ら距離を置くような事が有り得ないと言えるだろうか?」
そして、僕はその答えを知っている。
彼がスリザリン生と会話する機会を持ったのは、僕が──〝純血〟の中に居る半純血が、半純血達の中に居る〝純血〟に対し、同じ逸れ者としての理解と共感を示したからだ。
「しかし君達家族は、パーシー・ウィーズリーの痛みに寄り添わない」
彼への対応に、些かも愛を感じない。
「ジネブラ・ウィーズリーは彼を裏切者と見ていて、ロナルド・ウィーズリーも変わらんだろう。君達も然り。そしてアーサー・ウィーズリーは罪と向き合わず、彼等の結婚を理由に省内で嫌味を言われていた息子を庇わなかった。挙句、アルバス・ダンブルドアの戦争ごっこに付き合いたがる始末だ。まあ、アーサー王伝説が語る家庭なんぞ大概幸福とは程遠いから、らしいと言えばらしいがね」
大義の為に杖を上げようとはしても、我が子の為に戦おうとはしない。
立派と称えられる騎士様に良く見られる蛮行だ。歴史に名を残そうが、大多数の人間から褒め称えられようが、子供を傷付けたまま放置する人間なんぞ例外なくクソ野郎だ。
「家族とは御互いが殆ど無条件かつ非対価で守り、また守られる集団の事を言う。僕は今までそう思っていたのだが、君達ウィーズリー家にはどうやら当て嵌まらないようだ」
「「……っ。俺達は
「──僕に対して反論されても困るのだがな?」
再度の沈黙。
それは彼等自身が直接、パーシー・ウィーズリーに掛けるべき言葉だった。そして、肩を落としたまま呆然と僕を見返す双子からは、既に獅子らしい輝きは喪われていた。
「彼が省内で出世を目論んだのも、個人的な欲望は多少有ろうが、究極は君達の為だ」
追い討ちである事を多分に理解しつつ、寧ろその目的で、断罪の言葉を付け加える。
「これからの将来、魔法族が〝マグル〟に近付いて知識を深めれば、必ず何処かでアーサー・ウィーズリーの矛盾は取り沙汰される」
彼等を正解とする論理が一応世に出されようとも、最終的に許容される事になろうとも、議論すら巻き起こらない事は有り得ない。
非魔法界でも、白人至上主義は消え失せる気配すらないのだから。
「まして彼の罪の結果として、君達が結婚相手を選べない──今度こそは両親と同じ〝純血〟を配偶者とする事が許されず、愛した者との結婚を諦めざるを得なくなるかもしれない。家族を捨てての駆け落ち、君達七人兄妹が永遠に別たれる事を余儀無くさせられるかもしれない。パーシー・ウィーズリーは、その結論に至ってしまった」
アーサー・ウィーズリーの子として例外的に、真っすぐに生まれついてしまった。
「しかしながら、力が有れば大概の事は何とかなるものだ。結局の所、これは正しい正しくないの問題ではない。君達への批難は未証明の仮説に基づくものであり、持たざる者が持つ者達へと抱く一方的かつ身勝手な嫉妬だ。故に権力者ならば──魔法大臣ならば叩き潰す事など容易である。そう考えたから、あの男は、家族と対立してでも更に権力に近付いた」
マルフォイ家とて、将来的に批判を受けようと歯牙にも掛けまい。
自分達はリスクを上げたくないから純血結婚を続けるが、他家にまで強いるつもりは無く、止めさせたいなら魔法力の継承が遺伝法則と無関係である確たる証拠を示してみろ。
この戦争で光が闇の帝王を滅ぼそうとも、彼等はそう強弁する事だろう。
「まあ、君達も薄々察している通り、パーシー・ウィーズリーのそれは空回りだがな」
知ってか知らずか、アーサー・ウィーズリーはギリギリ踏み止まろうとしているようだ。
彼が将来純血主義者と強く糾弾されない方法。それは魔法戦争で戦う事だ。不死鳥の騎士団の一員として血を流す事だ。そしてこの魔法戦争での勝利こそが、彼等家族を救う。彼等の結婚を批難する者が完全に消える訳では無いが、戦って勝ちさえすれば体面を取り繕う事は出来る。
一方で、コーネリウス・ファッジを支持したパーシー・ウィーズリーの行動は無意味だ。
後世のウィーズリー家において侮られ、軽蔑され、馬鹿な事をやったのだと笑われる羽目になるのは、間違いなくパーシー・ウィーズリーの側だろう。
「けれども、僕は彼の行動を馬鹿には出来んよ。寧ろ、深く敬意を覚える」
あの男こそが、今回ばかりは最も〝グリフィンドール的〟である。
「魔法省から給料を受け取りつつも裏切り、組織を弱体化させようとしている騎士団の恩知らず共よりも。他ならぬ家族達から理解されずとも尚、一つの筋を通してこの魔法界の為に、ただ家族の為に生き抜こうとしている者にこそ尊敬の念を抱く。……僕はどう足掻いても、そう真っすぐ生きられる気がしないからな」
パーシー……パーシヴァル。
聖杯探求を成し遂げた、真なる騎士の名を背負うに相応しい。
「そして去年の夏か。僕はパーシー・ウィーズリーと会話する機会が有ったのだが、その時の事は未だに強く印象に残っている。……嗚呼、会話内容が印象的だったという訳では無い。彼の表情が、何よりも彼の澄んだ瞳が印象的だった」
静寂が余計に深まったのは、気のせいではあるまい。
恐らくこの双子は、今この瞬間こそ、最も注意深く僕の話へ耳を傾けていた。
「彼はホグワーツに残した兄妹達の事を聞きたがった。まあ、言葉には全く出さなかったがね。そもそも僕の立場上〝ウィーズリー〟と長々と語る事は許されなかったし、何より僕は、彼に語れる手頃な話を持ち合わせて居なかった。ロナルド・ウィーズリーは凡庸な男であり、ジネブラ・ウィーズリーは学年が違う。嫌われ者のスリザリン生が語れなどしない」
だから、必然的に出した話題は一つだけだった。
そう静かに、大きく顔を歪めている双子へと語り掛けた。
「去年度、君達がフラーと組んで起こした騒動。かつては自身の忙しさを理由に聞く耳を持たなかったであろう、下級生の楽しいクリスマスを勝ち取る為に戦った、かの革命について。掻い摘んでとは言え可能な限りそれを語ってやった後、フレッドとジョージは相変わらずだなと。彼が寂し気な眼をしながら笑っていたのが、未だに強く、脳裏に焼き付いている」
・スクイブとマグルの違い
両者の間に能力的な違いが存在するかは曖昧である。
作中の記述からスクイブに特異な能力を見出すならば、吸魂鬼の視認能力(但し、ハリーは疑問視)、非実体との交渉能力(フィルチがピーブズを認識出来るのは明らか)、魔法道具を用いる能力(六巻でフィルチが用いる詮索センサーなど)、魔法生物との親和性(フィッグばあさんがニーズルと猫のミックスを飼い慣らしている)あたりが挙げられる。
非常に論争と混乱を産み得る問題な為に明言しておくと、本二次創作ではスクイブとマグルの間には(魔法族と親戚である以外の)一切の差異が無いという立場を取っている。
この立場を取っている根拠は、ハーマイオニーと一緒ならグレンジャー夫妻もダイアゴン横丁に立ち入れる事、マグルにもポートキーが使えている(但しファンタビ内の描写で、かつ魔法族同伴)事などがあるが、最大の根拠はやはり、スクイブとマグルの真逆の存在、すなわちマグル生まれと純血・半純血間に有意な差異が見られない点にこそ求めている。
勿論、これまでも述べている通り、今後公式のアナウンスが有ればそれが最優先である