この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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五話目。


逆セーレム魔女裁判

 フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーは去った。

 

 もう十分だと判断したのだろう。ミネルバ・マクゴナガル教授が僕の意見も聞かずに一方的に終了を告げ──もっとも、何の異存も無かったが──双子達を追い出した。彼等も教授の促しに何の反論もせず、立ち去る際にも僕を一瞥する事すらしなかった。

 

 そして彼等が消えた以上僕も御役御免だろうと思ったのだが、しかしハーマイオニーにローブの袖口を掴まれ、引き止められた。その事に対して教授は酷く面白がるような眼で僕達を見ただけで、何も言わずに部屋の片隅へと戻っていった。尚、ハーマイオニーは恥ずかしげに俯いていた。

 

「──そろそろ昼休憩が終わり、授業が始まると思うのですが?」

「貴方が遅刻する旨を、こちらから連絡しておきましょう」

 

 軋む回転椅子に引き戻された後、身体ごと向けつつ言えば、彼女は平然と杖を取り出した。

 

「少なくとも貴方がたに関しては、O.W.L.で良い成績を取る事を疑っていません。グレンジャーについては言及する意味すら見出せず、スリザリンの貴方は変身術(私の科目)しか語れませんが、(O)以外を取れば大いに驚く事でしょう。はっきり言えば、期待しています」

「……それはどうも」

 

 再度守護霊の呪文を作り上げ、走らせた教授に力無く答える。

 

「ですが、教授の方はどうなんです? 貴方も授業が有ったように思いますが?」

「少し遅れる程度であれば私も問題になりません」

 

 きっぱり言ってくれたものの、僕の記憶する限りでは、事前告知による休講は有っても、遅刻した光景は一度も見た事が無い気がするのだが。まあ、良いか。問題無いと教授が主張している以上、やはり僕が心配する事では無かろう。

 

「しかし、ハーマイオニー。先程は随分と静かだったな」

 

 双子が去った事で空いた二人掛けソファに座る彼女に声を掛ける。

 彼女が元々座っていた椅子も、『純血一族一覧』も、コーヒーテーブル自体も教授の杖により片付けられていた。そのせいか、僕達の距離は先程より遥かに近くなっていた。僕が視線を逸らしていた間、何時の間にかそうなっていた。

 

「幻惑、省略、簡略化。はぐらかしに加えて恣意的アナロジー。自分に都合の良い話を相手に押し付ける為には、何の手段も選ばないのか。君の正義感溢れる態度からは、その程度の事を批難してくるものだと思ったが」

 

 そう水を向けてみれば、彼女は顔にかかった髪を振り払いつつ、力なく微笑んだ。

 

「……でも、貴方は意図的に嘘を混ぜはしなかった。そうでしょう?」

「基本的に時代遅れの、六十年前の理屈で叩きのめしたに過ぎないがな」

「…………そして、貴方は手加減すらしていたわ」

「そうだな」

 

 歯応えが足りなかったと改めて思いつつ、頷いてみせる。

 

「彼等が脱落しつつあるのが解ったから、非魔法界が将来直面する問題、そして魔法界が非魔法界より早く直面するであろう問題にまで踏み込まなかった。そもそも純血結婚したウィーズリーの夫妻が、あの双子の将来の伴侶が産む子供をどう捉えるのか、それも解らんしな。僕が彼等と会った事が無い以上、推測を立てる事すら出来ん」

 

 それこそが今回の問題の核心部ではあるが、アレらを叩きのめしても多少気が晴れるだけで、何も解決する訳では無い。

 

「非魔法界が抱える問題と魔法界が抱える問題は、類似であれど同一では無い。人種に基づく()()と、魔法力の有無に基づく()()は明確に違う」

 

 ハーマイオニーも話を聞いていたのだ。

 改めて思い知っただろうと考えつつも、明確に言葉にしてやる。

 

「この魔法界で行われているのは悪名高きジム・クロウや、疾病を理由とする人権無視の隔離政策ではない。最大多数の最大()()を回避する為の、善意に基づく社会的取り組み。非魔法界でも平気で行われている学力や身体能力による選別めいた分断でしかない」

「……貴方はそう言うけど、それが正しくないと思う人間も大勢居る筈だわ」

「そうかもしれない。その余地を、僕は一切否定しない」

 

 小さな嫌悪感と共に非難を示す少女に、軽く頷いてみせる。

 

「しかし、まず魔法界の現実を言おう。魔法族と非魔法族、その両者が結婚した例として僕達に最も身近であるのは、ギルデロイ・ロックハートとドローレス・アンブリッジの例だ。彼等は言わずもがな魔法族(魔法力持ち)であるが、前者には二人の姉の〝スクイブ〟が居て、後者には一人の弟の〝スクイブ〟が居る──どちらも、居たという表現をすべきだろうか」

「……単純な遺伝学の三対一より、遥かに確率は高いかもしれないって事?」

「さあな」

 

 深刻な表情で発された問いに、余り興味が無いと肩を竦めた。

 

「ここでわざわざ持ち出したのは、数字を問題視した、或いは強調したいからでは無い。その判別は今後の研究により〝科学的〟に明らかにされるべき事項だ。そもそも、彼等の親が純血か半純血かで変わる。だから真偽不明。現状はそう取り扱うしかないのであって、故に僕は数値でなく単なる事実のみに言及する」

 

 彼女の知覚範囲外に確かに在り続けた、この魔法界の形を提示しよう。

 

「彼等の両親は何れも離婚し、一家は離散状態。魔法力を持たぬ者達は非魔法界の中へと姿を消し、それ以降接触が無いようだ。これを幸福な家庭だと評価出来ないのは間違いないだろう。少なくともギルデロイ・ロックハートに関しては、僕が彼の下を訪れた際、癒者から次のような事を直接聞いている。彼が入院して以降、誰も見舞いに来た事は無いとな」

「…………」

「要するに言いたいのは、この魔法界は、〝スクイブ〟や、ソレを産んでしまった一家が暮らせる構造をしていない。ただ()()()魔法族の家族だけが、この世界で幸福を掴めるように出来ている」

 

 結局、そこだ。

 ギルデロイ・ロックハートやドローレス・アンブリッジの家族が特別悪人だったとか、例外的欠陥が在ったという訳ではない。

 単純に、彼等の家族──特に〝スクイブ〟として産まれた者達には、魔法界に居場所など無かった。最初から存在しなかったし、現在も存在しないままである。アーガス・フィルチの境遇が全く改善されないように、存在自体が魔法族から意識されていないし、自分達が動いて変えるべきモノだと思われていない。

 

「アルバス・ダンブルドアやアーサー・ウィーズリー、アレらは口では立派な平等思想を唱えながらも、しかしその実、彼等が想定する〝社会〟には魔法族以外が存在しない。あの典型的な魔法族主義者が造り上げて来たのは、己が特権階級を維持する為の箱庭、非魔法界に無能なゴミ(マグルやスクイブ)を押し付ける世界だ」

「……マルフォイ達も同じでしょう」

「くくく、何故僕がスリザリンを外したのか。それを解らない君ではあるまいに」

 

 僕の揶揄に、彼女は悔しげに上目遣いで睨んで来る。

 

 差別主義者が差別的行動に及ぶのは当然だろう。

 彼等は純血も半純血もマグル生まれもスクイブもヒトとして同一であるという、そんな立場を取っていない。それどころか〝マグル生まれ〟も〝スクイブ〟も残らず社会から排除されるべきという立場であるからだ。そして、別段スリザリンは現状維持でも困らない。

 

 やるべきはグリフィンドールで、しかしやらなかった。

 ただそれだけだ。

 

「もう僕の所で留めて置くのも意味が無いだろうから、〝マグル生まれ〟についても言及しておこうか。これも、先程に出た話題の流れの内に在るからな」

 

 何度も触れたくないのだから、一挙に終わらせてしまった方が良い。

 

「特にスリザリンに多い純血主義者による、〝穢れた血(Mud-Blood)〟と呼ばれる君達への認識。良く言われる表現を用いれば、『魔法は、魔法の子孫が生まれることによってのみ、人から人へと受け継がれる』。だから『いわゆるマグル生まれの者が魔法力を持つ場合は、()()()()()()()()()()()得た可能性がある』という論理だ。この理屈を、君は決して承認しないのだろう?」

「……ええ、酷くナンセンスだと思うわ」

「そうだな。僕も同意する」

 

 返って来た言葉に軽く頷く。そう言えば、既に似たような事を彼女は聞いた事が有るのかと思いながら。ユール・ボール前、彼女は透明マントの下で聞いていた筈だ。

 

 けれども、僕の反応とは逆に、彼女は表情を硬くしていた。

 

 その反応は勘が良いというより、ここ最近の経験に基づくものだろう。

 そして、それは非常に正しい。

 

「他人が持つ魔法力を、何らかの手段を用いて後天的に奪う事は有り得ない。確たる証拠は無いが、殆ど断言してしまって良いのではないかと思う」

 

 しかし、と。

 

 深く息を吸った後で、問いを紡ぐ。

 尤もらしい理屈をでっち上げるのは簡単だ。そう思いながら。

 

「魔法遺伝子が仮に顕性遺伝であるとすれば、親のどちらかが魔法族で無い限り、子として魔法族は生まれる事は有り得ない。であれば、〝マグル生まれ〟とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……一切の検討に値しない論理と言えるか?」

「────」

「────」

「……可能性は低いわ」

「ナンセンスから随分と後退したな」

 

 まさしく『窃盗と暴力』以外の何物でもない。

 僕は愉快さと共に低く失笑し、彼女はやはり泣き出しそうになっていた。

 

 しかしハーマイオニーの表情で見る事が多いのは笑顔が絶対的多数で、その次に多いのが怒り顔の筈だが、最も印象的であるのが泣き顔なのは何故なのだろうか。

 

「まあ、君の言う通りではある。可能性が低いのは認めるとも。子供の魔法族は、当然ながら魔法を使えるからな。非魔法族が魔法族を捕獲するというのは、〝マグル〟が思う程に簡単では無い。たとえそれがホグワーツ入学前の児童で有ったとしてもだ」

 

 それなりの魔法力を宿していれば、杖を持たない子供でも瞬間移動──姿眩ましとまでは呼べない、短距離かつランダムの移動──をする事例は報告されている。ハリー・ポッターあたりなら自分の体験として有しているのでは無かろうか。

 

「だが同時に幼い子供の場合、暴力による恐怖等によって逆に魔法力の制御能力を喪う場合も有る。そして物理的には何時でも逃げられる状況に置かれていたとしても──例えば、凶悪犯から食料品等の買い出しの為、外出を許された時が典型だが──心理的に逃げられない場合というのは存在する。それは非魔法界でも魔法界でも同じの筈だ」

 

 特に子供の場合、お前の代わりに親を傷付けると言えば、大概は事足りるだろう。

 

「また、必ずしも暴力を伴う必要は無い。アーサー王伝説宜しく、魔法族が非魔法族の女性を騙して孕ませるという場合も有り得る。さながら妖精伝説のように、魔法族が悪戯心の下、自分の子と他人の子の摩り替えを行う事も可能だろう。或いは、もっと平和的に考えるならば、子育てに飽きた魔法族が非魔法界へ養子に出したという場合も有り得る」

 

 特に最後のは中々発覚しようがない。

 魔法族は子育てという重労働から解放され、非魔法族は自分達の為に魔法を使ってくれる人的資源を獲得する。それらの当事者間に合意が有るなら、誰も不幸になっていない。

 

「何より決定的問題は数であり、確率論だ。僕はホグワーツ内の〝マグル生まれ〟の人数を正確に把握している訳では無い。スリザリン生に一々教えてくれはしないのだから。が、君の方は知っている筈だ。そして同時に、ブリテン諸島に居る魔法族の総数も」

 

 物事を考える上で例外は重要だ。

 しかし、そればかり見ていては本質を見喪う。

 例外というのは、基本的に少数派に属するからこそ、そのように呼ばれるのだから。

 

「──さて、非魔法族の夫婦の子供に遺伝的突然変異が起こるのと、先程のような強姦や誘拐といった人災ないし養子縁組のような些細な家庭的事件が起こるのと。その生じる確率を比較してみた場合、果たしてどちらが可能性として有り得るだろう?」

「…………」

「想像が付きにくいというなら補足しておこうか。純粋非魔法族の両親から〝マグル生まれ〟が産まれて来る確率が0.0001%()有れば、このホグワーツはパンクする」

 

 まあ物理的に収容する事なら余裕で可能だが。そう一応は付け加える。

 けれども、その修正に然したる意味もない。ホグワーツの敷地内に子供達を詰め込む事が出来たとしても、現在の体制のまま教育活動を行うのは不可能になるからだ。

 

「魔法界において、〝マグル生まれ〟が尊ばれる事は確かに在った」

 

 歴史書を引っ繰り返してみれば、その旨の記述は見付けられる。

 

浮かび上がった者(   mag bobs   )──サラザール・スリザリンの時代に英語がどの程度通用したか知らんが、その手の表現はかなり古くから有る。つまり、過去の一部の魔法族は、新しい魔法族(Muggle-born)の存在を、神ないし世界の祝福と見て歓迎した。観察に基づく常識を超えた中に神秘を見出すのは、人間として非常に自然な発想だな」

 

 非魔法界の宗教にも良く現れる反応である。

 眼の前の事象を否定せず、あるがままを受け容れる。寛容が導く帰結だ。

 

「けれども、遺伝こそを絶対と見た場合は──分析と思索に基づく〝科学〟こそを至上とした場合は、真逆の発想をする。魔法力の有無という点で両親の何れにも似ていないお前は、果たして本当に、彼等の種と胎から産まれたのか。それが〝穢れた血(Mud-Blood)〟に対する嫌悪や偏見の出発点だ」

 

 サラザール・スリザリンはどうかは格別、近代以降の魔法族はそう考えたのだろう。

 

「やはり君は深く思考を巡らすべきだったのだ。何故、〝マグル生まれ〟は(mud)の血と呼ばれるのかと。泥というのは、一般的に水と土の混合物を言うだろう? しかし、君達は何の混合でも無い。両親共に非魔法族で、同質だからな。だから、この場合での泥は意味が違う。単純な汚れであり、穢らわしい。そんな人間的感情を由来とする」

 

 生まれの結果では無く、生まれの過程が穢れている。

 そう考えられたからこそ、非魔法族生まれは蔑称を与えられた。

 

 まあ僕の考えはどうかと言えば、その〝穢れた血(Mud-Blood)〟という呼び方は、混合物である()()()()非魔法族生まれへと()()()()()のではないかという疑いを抱いてしまっているのだが──流石にそれは、彼女の前ですら提示する気になれない方の仮説だった。

 

「そして先の問いに対する〝マグル生まれ〟の抗弁、自分は間違いなく彼等の子供だと胸を張って言いうる論理は、1984年まで存在しなかった。……科学技術進展の良くある例に漏れず、その年に劇的に変わった訳では無いが」

 

 魔法界がまず一番に見習うべきは、非魔法界の最近二百年の進歩の速さであろう。

 

「その年に起こったのは、遺伝子型鑑定技術の提唱だ。今関係有る部分を言うなら、遺伝子型を用いての親子関係鑑定。未だ世間一般には知られておらず、鑑定結果の間違いも多い筈だが、ロマノフの末裔だと語った者の遺伝子検査が為されたという記事は見たからな。後十年もすれば、結果を殆ど確実に──原理上100%にはならない筈だが、信用出来るものとなるだろう」

「……じゃあ、もう問題にはならないじゃないの」

「そう思いたいが、一つ残念な知らせだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

「…………」

 

 外見を魔法的に真似る事は出来た。

 いや、魔法薬は魔法力の有無まで真似なかったという方が正しいか。

 

「だから、高度な変身術や魔法薬を魔法族が使用中の場合、その人間が産む子供への影響は解らん。理屈は解らないにしても、魔法とは名前通りに不可解なモノである。現状、これ以上は結論を出しようがない。そして検証する方法は非常に簡単だが、どう考えても人権なんぞ完全無視でやる羽目になる。である以上、今世紀で最も偉大な魔法使いが居る限りは無理だな」

 

 ポリジュース薬使用中の魔法族に交配活動をさせれば済むだけが、アルバス・ダンブルドアが健在の内に行える実験では無かろう。

 逆に言えば、アレが消えれば──闇の時代ならば可能だと言う事だ。

 

 そしてこの種の研究は、口では批難の言葉を述べながらも、多くの魔法族が興味を持つだろう。一度知ってしまえば、その知識を魔法史から払拭する事は不可能になるだろう。また非人道的である事は間違いないが、その研究が〝科学〟の範疇に在る事も否定出来まい。

 

「今世紀で最も偉大な魔法使いならば、この手の遺伝の疑問について、一定程度の理屈を持っているかもしれん。魔法族の研究成果は簡単に世間へ公表されるものでもないしな。単に僕が調べ切れ無かった可能性というのも十分有り得る」

「……そう言いながらも、貴方は全く信じていないんでしょう?」

「そうだな。そんな都合の良い事が有って堪るか。その想いはある」

 

 アルバス・ダンブルドアは所詮半純血で、魔法界の純血主義から距離を置いていた。つまり、分析の基礎となる情報(データ)を欠く状況に居る。更に父親はアズカバンで死に、母親は非魔法族生まれ──と聞いているが、それが事実でなかろうと、彼等の家系は魔法界の主流にいた訳では無い。そして何よりも、彼は非人道的な真似を可能な限り回避する。

 その条件下では、彼が如何に世紀の大天才であろうと解明出来る筈がない。

 

 人の、生命の神秘は、未だ神の手中に在る筈だ。

 

「……貴方なら純血と半純血を、ロン達と他のグリフィンドール生の信頼を決定的に破壊する事が可能である。今まで、私はそう思ってた」

 

 ハーマイオニーは、自身の太腿に当てていた両手を、ローブごとギュッと握った。

 

「けれども、それですら貴方を過少評価していた。その程度に留まらず、貴方はマグル生まれの間に楔を打つ事すら可能だった。ダンブルドアが校内から居なくなった今、貴方が本気で騒動を引き起こす為に動いてしまえば、最早止められる人間など居なかった」

「君はそう言ってくれるが、それは有り得んよ」

 

 ハーマイオニーの、恐れを隠さぬ視線に微笑んでみせる。

 

「僕一人が出来る事なんぞ知れており、全てはホグワーツ生に委ねられている。そもそも、魔法界の遺伝法則は不明のままだという点は絶対に動かせん。魔法界には無いし、非魔法界にすら無い。両親の純血結婚という負い目の有るウィーズリー達だから問題無く押し潰せたが、それ以外を言い包めるには当然限度が有る」

「ホグワーツ生は、貴方より遥かに賢くないわ」

「愚かでも無いだろう。そもそも君一人居れば御釣りが来る」

 

 そして誰も彼も、たかが去年の一度で警戒し過ぎだ。

 或いはデラクール姉妹の悪しき置き土産と言うべきか。彼女達は有ること無いこと吹聴し過ぎていた。一年の時間が経ってもまだ残っているのだから、ヴィーラの血の支配は恐ろし過ぎる。二度とホグワーツに来ないで欲しいものだ。

 

「更に言えば、非魔法族生まれの方は最初からやる気が全く無かった」

 

 既に察していると思っていたが、と続ける。

 

「ロナルド・ウィーズリーとジネブラ・ウィーズリーを破壊するのは、彼等の両親や双子達の因果応報として許容出来る。が、何もしていない君達まで攻撃し、勉強どころでは無い状態としてしまうのは、筋違いであり遣り過ぎだ。O.W.L.もしくはN.E.W.T.試験まで残り一ヶ月強しかないのだしな。そんな事で恨みを買いたくなどない」

「……なら私は? 私は良いって訳?」

「僕の観察の上でという限定なら、君は間違いなく彼等の子供だよ」

 

 表面上だけは冷静な、けれど刺々しさを隠せない声へと苦笑する。

 

「他の非魔法族生まれは知らんが、少なくとも僕は君の両親を知っている。僕の眼から見て、君は姿形と性格の何れも両親に似ているし、何より君は気付いていなかったが、彼等は……少なくとも君の父親は気付いていたようだったよ。もしかしたら、君が自分の子では無いかもしれない。その可能性にな」

 

 まあ、自然では有る。

 違う人種の特徴を持った子を妻が産んだという程では無いが、それでも魔法力の存在は、血縁関係に疑問を抱くには十分過ぎる異常だ。

 そして彼等は歯科医──つまり、この地における大学・医学部を卒業している筈である。遺伝法則の知識なんぞ普通の人間より遥かに持っていた事だろう。魔法界に適用出来るかは解らずとも、人間の問題として、やはり不安を抱くには十分な環境下に在ったのだ。

 

「気付く程には賢くて、しかし彼等は僕に敵意を向けて来なかった。ただの一度も。自分の娘には兎も角、他の魔法族に良い顔をしない理由には十分な筈だが、それが無かった。それは強さであり、気高さであり、善性への信頼であり、世の正義への忠実さでもある。そして、その特徴は明らかに君も色濃く受け継いでいる。君が遺伝子検査を求めれば受け容れるだろうが、少なくとも今の彼等は、それを試す必要性すら感じていまい」

 

 まあ、僕の言葉など信じなくとも構わんし、最先端科学を試すのも一興だろうが。

 そう言った僕にハーマイオニーはそっぽを向いた。

 

 もっとも、そんな反応をされるのは薄々解っていた。あからさま過ぎる媚び売りは元々彼女の好む所ではなく、案の定御気に召さなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、私は未だに信じられないわよ」

 

 話題修正のつもりだろう。

 ハーマイオニーは、顎に人差し指を当てながら疑問を紡ぐ。

 

「『純血一族一覧』と優生学の関係は出来過ぎているという思いを捨てきれないし、これからの未来についてもそう。世の中の魔法使い──特に、貴方を除くスリザリンの人間が、非魔法の科学に眼を向けるなんて想像出来ない」

 

 彼女の顔は依然青白さが残っていたが、意外な事に、先程までの混乱や狼狽は殆ど消えていた。……自分が両親の子ではないという可能性は、もっとハーマイオニーの心に影響を与えるものだと思っていたものの、彼女は僕が考える以上に強い精神を持っているようだ。

 

「貴方にも話した筈だけど、去年のクィディッチ・ワールドカップを思い返す限り、彼等がマグルを理解しようとするなんて全く思えないわ」

「まあ、()()()()()()のが一般的な魔法族である事は認めるがね」

 

 巨大な金貨で支払いを行おうとしたり、テントに噴水や煙突を付けてみたり、そんな非魔法界の標準……平均値から外れ切っているのが魔法族だ。非魔法族のスーツを着こなして見せるであろうバーテミウス・クラウチ氏が異常である。

 もっとも、だからこそ彼の息子(生粋の純血主義者)により、ぶち殺される羽目になったのだろうが。

 

「しかし、自分の直接的利害に、生き死にに関わるなら真剣に学び取りもするさ。曲解されたメンデル遺伝学の導入のように、ホグワーツ特急が一部そうであったように、魔法族はそれらをこぞって導入し出す。たとえ、この戦争で闇の帝王が勝利しようとな」

 

 スリザリン寮(純血主義の本拠地)に居るからこそ、つくづく肌で感じている。

 

 そして、闇の帝王はその潮流を止めきれない。

 子供が親や教師の眼を盗んで悪さをするように、市民は独裁者の監視を乗り越えて〝マグル〟技術に接近しようとする事だろう。

 

「……スリザリンがマグルへ眼を向ける理由が有るというの?」

「有るとも」

 

 恐々と問うて来るハーマイオニーへ微笑む。

 

「例えば血の呪い──当人でなく、その血を引く子孫達へと掛ける特殊な魔法だ」

 

 特定の呪文の名前でなく、分類や総称に近いもののようだが、と続ける。

 

「ホグワーツで、そして魔法族の家庭内ですら聞く類の話題ではないから、余り有名とは言い難いがな。君の赤毛の親友が知らなくとも不思議では無いし、それを無知と咎められる事でも無い。しかし、その内の一例──最も悪名高きマレディクタスについてならば、君も聞いた事があるかもしれない」

 

 知らないという意思表示か、彼女が少しだけ首を傾げたので補足を続ける。

 

「この場で簡潔に説明するならば、他人によって強制された動物擬き(アニメーガス)、しかも不可逆版と表現するのが一番伝わりやすいだろうか? 嗚呼、そうだ。真実の愛によっても魔法が解けない『美女と野獣』と言えば、君には一番伝わるだろうか」

 

 そう言えば、彼女の顔は少しだけ明るくなった。

 あくまで少しだけなのは、理解の喜び以上に内容の恐ろしさが伝わったからか。

 

「その呪いは対象を獣へと近付ける。発症から暫くは人間と獣の変化を出来るが、最終的には獣の状態で固定される。呪いを受けた子孫だからと言って確実に発症する訳では無いようにも見えるが、発症すれば最後、対処法や治療法は無いとも言われている。少なくとも、今の所はな」

「……そんなスリザリン生を貴方は知っているって事?」

「流石にそうは言っていない」

 

 感情移入してしまったのか、深刻な顔をした少女に苦笑を深める。

 

「思い返してみてくれ。リーマス・ルーピン教授は、学生時代にも()()()秘密を抱えていた。しかし、彼が寮内でそれを言いふらしたか?」

「……仮にそんな人間がスリザリンに本当に居たとして、単なる同級生や先輩後輩程度の関係で明かすとは限らない。そう言う事ね」

「ああ」

 

 普通ならばそうだ。

 そして少なくとも、マレディクタスのスリザリン生()知らない。その事は、決して嘘ではない。

 

「だが、七年生まで──何なら、スリザリン以外の〝純血〟の人間まで含めれば、血の呪いを背負っている者がホグワーツに居ても可笑しくない。親族関係まで視野を広げれば、絶対に一人以上は見付けられる。もっとも、既に生きていない者も多いかもしれんが」

「…………」

「そして、悲劇を前に形振り構わなくなるのは何処の世界でも一緒だろう?」

 

 感情を持つ我々は、異質な現実に直面せざるを得なくなった時、合理を捨てる。

 

「非魔法界は科学が進んでいる。多くの医者が存在し、多くの薬が流通し、しかし治療どころか緩和すら出来ない病というのは未だ多い。そのような不可避の悲劇に襲われた人間が頼るのは、科学の手を超える領域──宗教や自然信仰、薬効不明の物質の摂取などの、〝怪しい〟分野だ。そして殆どの場合それらは何の効果も示さないだろうが、極々一部の領域において、治るか、そこまで行かずとも命を永らえる場合というのは、やはり有り得るだろう」

 

 医学は未だ発展途上であり、全ての因果を詳らかにしている訳ではない。

 魔法すら及ばぬ奇跡は、この世界に間違いなく存在している。

 

「そうして、理論不明だろうと再現性皆無だろうと、その者の人生にとって役立てば正義だ。ならば魔法界で手詰まりになった魔法族が、非魔法族の医療に救いを求めようとするのは不可避である。そう考えるのは果たして不自然だろうか?」

「……ええ、そうね。認めざるを得ないわ。貴方の言う事は十分有り得る」

「更に言えば、貧乏ウィーズリーと異なり、スリザリンの〝純血〟の大半は大量のガリオンを持っている。代わりに妻が危篤である程度の報せに取り乱さない場合も多そうだが──まあ、これから先、妻の容態に一喜一憂する変わり者の〝純血〟当主が現れないとも限らない」

 

 そして残念な事に、その手の行動へ及びそうな人間に一人心当たりがある。

 

「そうなれば、彼は自分の人脈も金銭もありとあらゆるモノを使い、必ずや非魔法界の領分にも手を出す。結果として、魔法界の〝マグル化〟は大きく進む事だろう。そして、その未来はそう遠くない。世界の何処かでは既に進行中の筈だ」

 

 非魔法族の医療は、魔法族にとって今まで考慮に値しなかった。

 今でも大部分はそうだが、しかし魔法族にとっても使えるものは有るのではないか。少なくとも僕の眼から見ればそう思える。呪いは逆呪いを想定し、対策していても、科学技術や外付けの機械によって無理矢理生かす事までは視野に入っていないだろう。

 

 魔法でどうにもならないというならば、駄目元で科学に賭けてみる価値は有る。スリザリンに限った事では無く、そう考える魔法族は間違いなく現れる。

 

「現在での水準でも利用出来そうなのは、臓器や骨髄等の移植手術、人工呼吸器に代表される生命維持装置あたり。実際に役に立つかは微妙な線だが、試さない理由は無い」

 

 魔法族も非魔法族も人間である事に変わりないのだから、臓器の流用は出来そうだ。

 

 またホグワーツのような魔法力に溢れた場で電化製品が上手く機能しないのは周知の通りだが、個人の魔法力が精密機器に対してどの程度影響するかは不明である。ただ、魔法族が街中を出歩くだけで各家庭のテレビが消えて行くという事は起こらないので、心配する程に大きな影響をおよばさないのは間違いないだろう。

 

「まあ最も魔法族の関心を集め得るのは、今現在進行中の──後十年程で終わる予定であるヒトゲノム計画であり、その発展形の遺伝子検査技術。既に全面無料化の議論すらある出生前診断、及び三十年前に合法化された中絶技術か。不妊治療や体外受精あたりも重なる領域が有るから、一応言及しておいても良いかもな」

 

 表向き〝マグル〟を侮蔑しようと、〝純血〟達が無視する事は有り得ない。

 ウィーズリー兄弟へと指摘したように、自分の子供が魔法族として産まれてくれるかどうかは、彼等にとって最大の関心事だ。

 

「確かに()()、胎児時点で魔法力を持つか否かの判別は出来ない。しかし、()()()必ずやその時代がやってくる」

 

 今回ばかりは曖昧な表現を用いる必要が無い。

 確信の下に、断言する。

 

「非魔法界の科学は、既にその未来を視野に入れている。遺伝子検査によって生まれた瞬間に、或いは母親の胎内で育っている間に、既に病気の発症確率、ましてや知能や身体能力等の閾値が解る時代が訪れるだろうと。ならば、魔法族も同じ道を辿る」

 

 グリフィンドール(アルバス・ダンブルドア達)が宣う通り、非魔法族と魔法族が同じだというならば。

 決して、そうならない筈が無い。

 

「現状、魔法族の関心は闇の帝王を人為的に誕生させられるかどうかではない。杖を振れるか振れないかの二択だ。そしてそれは、魔法力が何処に起源を持つかを特定出来れば判別可能になる。仮に魔法力の有無が遺伝子に由来するとなれば、もう最悪の部類だな。非魔法族の遺伝子と魔法族の遺伝子を比較、対照、分析してやるだけだ。間違いなく、君が生きている内に特定に足りるだろう」

 

 また、と続ける。

 

「科学で見付けられずとも、魔法の側が見付ける可能性も有る。未成年者の魔法の『痕跡(trace)』を魔法省が感知出来る事を思えば、またホグワーツでの入学システムがどうなっているかを考えれば、その応用で早期に発見可能になるかもしれない」

 

 これまでの魔法族の内で、魔法力の継承に関心を向ける研究者は居た。

 そして、今後も研究者達は生まれるだろう。

 

「その果てに来るのは──やはり非魔法界の後追いの未来。優生思想の下に〝劣等〟な子供を間引かれる事が歓迎される時代だ」

 

 もう、誰が止めようと、誰を殺そうと止まりなどしない。

 

「この国における1967年の中絶合法化、当時の世界の殆ど最先端を行った〝革命〟は、民主的需要の下では宗教的禁忌なんぞ些事だという事を示した。そして、特に厳格な宗教国以外は、多くの国が倣うようになった。1970年代までは国家が〝不適格者〟を殺していたが、それが批判により難しくなった後は、市民が個人の意思で自発的に殺すようになった」

 

 選民的な大量殺人を行って来たのは、決してハーケンクロイツのみではない。

 過去は全ての国家であり、今は多くの国民だ。

 

「……貴方は批判的なのね」

「言った筈だ。どちらでも良いと。在るのは単に、論理的に承認出来るのかという疑問だ」

 

 我が母親──イカレていた育ての母の方だ──の事が少なからず影響しているのは認めるが、それよりも後者の方、理性の方が理由の多くを占めている。

 

 他人に対して()()()()()()が存在するというのは理解出来る。

 恋人や家族との夕食や旅行を諦めて貧しい人々の為に寄付しろとか、自分の身すら危うい災害の中、水や食料の施しを求められたなら何時でも分けてやれとか強制する事は──特にその意思決定に国家が介入し、個人の生き方を決める権利は無かろう。

 

 けれどもその逆、施しを求めて来ただけの相手から()()()()()()()()は誰にも無いのではなかろうか。

 正当防衛は加害者以外の第三者への反撃には成立せず、緊急避難は生命の天秤が釣り合う場合しか剥奪は許されない。そして、殆どの中絶はそのどちらでも無い。

 

「まあ、非魔法界がどうだろうと知った事ではない。そしてどちらかの立場を選べと言われた時、今の僕は、魔法界ではスクイブの赤子なんぞ殺させてやれ。そう勧めてやる側に立つ。……嗚呼、そうだ。今の魔法界を見る限り、そう、言わざるを得ない」

 

 中絶する夫婦の気持ちは、限界があるにしても、全く想像出来ない訳では無い。

 

 そして法的に胎児は〝物〟であり、だからこそ中絶が許容されるのだとしても、その通りの心境で中絶を行う人間なんぞ殆ど居ないだろう。そもそも真っ当な人間は、殺人罪が絶対に適用されないと知っている犬猫ですら容易に殺したがらない。まして人の形をしたモノなら猶更である。 

 

 ならば、無魔法力の子供を諦める魔法界──将来の魔法界であっても、一定程度の慚愧と悔恨の念、そして贖罪の為の善行は期待出来るのではないか。

 

「現状の魔法界の構造では、〝スクイブ〟が産まれても幸せにならない。当人も、家族も。マルフォイ家は勿論の事、君が善性を確信するウィーズリー家ですら。彼等程度の覚悟と知識で〝スクイブ〟を産んでしまえば最後、必然のように一家が崩壊した事だろう」

 

 十八世紀に記された怪しい書籍に則れば、純血ならば三歳で魔法力の発現には十分。バチルダ・バグショット教授の書籍によれば、純血非純血を問わず平均で七歳。世間的に承認されるギリギリの期限となればホグワーツ入学前の十一歳か。

 それだけの時間、親から愛を注がれて育てられた後で、しかし自分だけが魔法を使えないという現実の重みに、〝スクイブ〟の子供は、或いは他の家族達は耐えられない。

 

 また〝スクイブ〟に忘却術を使うにしても、彼等に魔法族の兄弟が居る場合、その心に傷跡は残る。魔法族まで含めた全ての兄弟姉妹に忘却術を掛け、その存在だけを消すというのはまあ、難しい。特定の記憶だけ、かつ後遺症無しに消すというのは殆ど神業だ。流石のアルバス・ダンブルドアでさえ不可能だろう。

 そして半端な忘却術に留まってしまえば、それが魔法族であれば、何れ自力で破ってしまう危険が有る。真実を知った時──兄弟姉妹が本来もう一人居た筈なのに、その事実を両親に臆されたと知ってしまった時、やはり幸福な家庭は崩壊するのではなかろうか。

 

「〝スクイブ〟が魔法界に生まれ落ちる事によって、親も、兄弟姉妹も、その〝スクイブ〟自身も、誰も彼もが不幸になってしまう。ならば、大いなる善の下では、その殺人──と言ってしまうのは片方の立場に寄り過ぎだな。兎に角、その家族の人生を善きモノとする為に、善き法律は率先して〝スクイブ〟の中絶を是とすべきだろう」

 

 僕は現実を肯定する。

 世の母親達の決意を、赤子を産まない勇気ある選択を尊重する。

 

「……スクイブは私達と何も変わらないわ」

「ならば、非魔法界にも同じ事を言ってやるべきだな」

 

 食い縋るように言うハーマイオニーの言葉は、僕の心に聊かも響かない。

 彼女が愚かだと言う訳では無い。彼女が僕より遥かに屋敷しもべ妖精の事に詳しいように、僕が彼女より遥かに詳しいからだ。ホグワーツに居る傍ら、心の何処かには常に問題を置き続け、向き合ってきたからだ。

 

「非魔法界の議会が制定した1967年の法は、通常許容されるべき中絶期間を定めた。それ以降の中絶が違法であると明確に宣言した。しかし現在、重篤な障害(seriously handicapped)を持つ事になる赤子の中絶に関しては、中絶期間要件が意図的に外されている」

「…………」

「かの法律を厳格かつ文面通りに解釈する限りにおいては、その赤子が産まれる一秒前に彼ないし彼女を中絶したとしても、医師及び母親に対して殺人罪は適用されないのだ」

 

 まあ、実際の運用は流石にそうなっていない筈である。

 更に言えば、『重篤な障害』を如何に定義・解釈するかこそ一番揉める点であろう。また、これからも揉め続けて行く事が眼に見えている。治療技術の絶え間ない向上により『重篤』の範囲は狭まり行くだろうし、その一方で治療費の低下はそう簡単に実現しないだろうから。

 

「そして君を否定しよう。〝スクイブ〟は、〝マグル〟は、僕達と違うとも。

 

 ──彼等は決して魔法を使えないからな」

 

 その一点こそが決定的に、僕達の彼我を分けてしまう。

 

「確かに非魔法界では、人種差別など時代遅れだというのが支配的だ。しかし、そうなったのは結局の所、人種が何だろうとマトモに生きるには差異が無いからではないのか?」

 

 人に上下は無い。人類による人類の支配を正当化など出来ない。

 二度目の世界大戦以降、その風潮は加速した。

 

「勿論、オリンピックのような人類の極限点を目指す場合は、環境要因で覆い切れない程の、遺伝要因が露わになるかもしれない。また、知能という大きな枠で括るのは雑過ぎるが──その手の人間は、百メートル走とマラソンにおいて、有利な遺伝子が同じだと考えているのだろうか?──数学的才能や法的論理思考能力など細かく区分して行けば、その特定の知的分野において有利な遺伝子を持つ人種や民族というのは、何時の日か発見されるのかもしれない」

 

 人間は遺伝子の箱舟である以上、そこを根本から否定仕切るのは中々難しい筈である。

 

「けれども、普通の生活をする限りは、如何なる人種だろうと同じように生きられる」

 

 そこに大きな差なんぞは存在しない。

 

「100mを十秒切る速度で走れるか否かは、確かに人種・民族の有利不利が出るかもしれない。だが、一分も与えてやれば、五体満足の全人類が変わらず同じようにこなせるだろう。知的分野にしても、読み書き四則演算は当然の事、現在新しい技術である携帯電話やコンピューターの扱い方だって、適切な教育が為されれば誰もが覚えられるに違いない」

 

 述べた以上の事にしても、特定の人種だからオックスブリッジやアイビーリーグに入れないという思考なんぞ、最早非魔法界では承認されまい。同じ環境下という条件であれば、世界の上澄み数万人()()の中には入れるだろう──そう考える者が殆どの筈だ。

 

「要は、人種が違おうと、一つの共同体(コミュニティ)内で生きるのに支障はない」

 

 まあ、社会構造のせいで人種的苦労が付き纏う事は否定出来ない……というか、今の非魔法界もそれを乗り越えられる程に成熟していない筈だが、それはやはり別の話だ。

 

「しかし、非魔法族と魔法族は違う。杖を振っても火花すら起こせないし、魔法薬学の教科書に忠実に従ったとしても〝マグル〟はゴミのスープしか生み出せない。そして、ホグワーツにも入れない。どんなに望もうと、泣きながらアルバス・ダンブルドアに手紙を出して直訴しようと、この地で学ぶ事は決して許されない」

 

 その絶対の理を、親や子供の後天的努力で崩す事は出来ない。

 

「……科学の発展で魔法は代用が利くわ」

「利かないものも有るだろう?」

 

 利かないからこそ、僕達は特別なのである。そして問題なのである。

 

「ホグワーツ卒業生ならば使えるであろう忘却術や、姿現し。変身術や消失呪文、目眩まし呪文にマグル避けの呪文。そして、最も致命である服従の呪文。確かに〝マグル〟の科学は、この二百年で目まぐるしく発展しているが、彼等がそこに行き着くまで果たして何年掛かる?」

 

 死の呪文は非魔法界で然程価値が高くないが、それ以外は別だ。

 非魔法族が三、四十年で辿り着けるとは思えない。百年後か、二百年後か。そしてその頃には、今生きている魔法族は──遠からず子供を産む者達は、尽くが墓の下だ。

 

 であれば、魔法族は倫理的善ではなく、現実的悪を選択する。

 マクロの視点など知った事では無い。自分達の人生の幸福こそが最優先だ。

 

「また、人種ないし民族に対する非魔法界流の議論も、魔法界には適用出来ない。非魔法界での()()()な主張では、それらを真正面から否定したり、文化的・歴史的判別に過ぎないとしたりする。その中で殆ど必ずと言って良い程に取り上げられるのは、ハーケンクロイツの『アーリア人』概念や、特に合衆国で発展した『一滴の血の掟( One Drop Rule )』の愚かしさだ。……いや、それらを擁護するつもりは無い」

 

 寧ろ、意味は無いと全面的に賛同してすら良い。

 

「けれども、それらは人為的な──学者や個人次第で平気で定義が動く差別的区分だ。百人居れば百人が違う回答をし得る世界だ。しかし、それらと違い、魔法界で魔法族(Wizardkind)とそれ以外を判別する為には、難しい手段や喧々諤々の議論なんぞ存在しないだろう? ただ単に、魔法の杖を振らせてやれば良い。或いは、組分け帽子を被せてやれば良い。それだけで済む」

 

 名誉アーリア人のように、政治的理由で定義を弄る事は出来ない。民族や国民というように、結婚などの社会的事実や建国などの歴史的事件によって変動し得る定義でもない。

 魔法族は誰の眼からも客観的な形で、己が〝魔法族〟である事を証明し得る。それもまた〝純血主義〟の徹底ではないのだが、暫定の現実的な対処としては十分だろう。

 

「更に君に最大限譲歩し、君やアルバス・ダンブルドアの主張──魔法族と非魔法族の平等をそのまま認めるとしても、だ。ウィーズリー共の前でも少しだけ触れたように、魔法族の夫婦が自分達と同じ魔法族の子供を希望する事を止める論理が有るのか?」

「────」

「この親達の望みはやはり、非魔法族であろうと理解出来る筈なのだ」

 

 何処まで行っても、僕達が感情を持つ生き物である事こそが足枷となる。

 そして魔法界は止められまい。()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「子供が健やかで、頭脳明晰で、容姿や能力に優れていて欲しいというのは、親で有る限りは誰もが等しく抱く願いに違いない。重篤な障害を持つ子供が自分達の下に生まれて欲しい──最初からそう思いながら子を設ける夫婦なんぞ、果たして居るだろうか? いや、居まい。その結晶が、非魔法界の中絶法だ」

 

 我が育ての母は……果たして今の時代、そもそも産まれる事が出来ただろうか。

 産みの母は双子では無く、一人っ子だったのではなかろうか。

 

 しかも皮肉な事に、その方が遥かに幸福な人生を送れた筈なのだ。

 双子の姉が最初から存在しないならば、彼女は魔法の存在を知る事も無く、我が父に研究的興味を抱かれる事も無く、闇の魔術による激痛の中で死ぬ事も無かったのだから。

 

「嗚呼、僕は肯定する。非魔法界の法を、国民国家が定めた秩序を重んじる」

 

 変わらない現実から目を逸らす気は無い。

 

「だというのに、〝マグル〟は魔法族に対し、〝スクイブ〟の赤子を殺すな。構わず産んで、一家纏めて不幸になれ。〝マグル〟共は魔法界にそう強制するのか? それは彼等彼女等の大半が忌み嫌う、魔法族の()()()()()の否定ではないか?」

「……何度言っても言い足りないわ。貴方って人は、本当に意地が悪い。そして卑怯よ」

「そうでないのであれば、それは最早僕ではないだろう」

 

 普通の人間のように良識的で在る事は出来ない。

 ハーマイオニー・グレンジャーの前ですら、自制出来やしない。

 

「グレゴール・ヨハン・メンデルは勿論の事、チャールズ・ダーウィンは決して差別主義者で無かった」

 

 彼等の理論を誤解・曲解した大衆こそが真なる悪だった。

 

「そして現在の()()()人々も言う。人間に、遺伝子に絶対の良さなど無く、多様性こそが大事だと。なら、僕はこう返したい所だ。神の視点で絶対の良さは無くとも、社会の多数決で称賛される良さは現実として存在するではないかと。弱く愚かで醜い人間よりも、強く賢く美しい人間が広く望まれるものだと」

 

 チャーリイ・ゴードンの苦悩を味わいたい者など、この世にどれだけ居ると言うのだ。 

 人間の種としての多様性を維持したいというならば、自分達の家族と、その思想に賛同する狂信者と、試験管の中だけでやってくれ。それで十分だろう。他まで巻き込むな。数百年後数千年後になって初めて役立つ遺伝子なんぞに興味は無い。無知で愚昧で近視眼的な我々は、直近数十年に役立つ遺伝子、この現世での生活を充実させてくれる幸せの種子こそを欲するのだから。

 

「……貴方は決して、その言葉を本気で言ってはいない。本気だったのならば、今の貴方の中に怒りや悲しみなど存在しない筈だわ」

 

 長い数秒の沈黙の後、ハーマイオニーは震える声で言った。

 それを無視して僕は口を開き直した。

 

「魔法界と非魔法界が異世界で済む時代は終わった」

 

 魔法族が懐古主義に浸ったままでいる事は最早許されない。

 

「産業革命期を迎えて身分秩序が大きく揺らぎ、今やザ・ナインとオックスブリッジ出身者こそが新たな特権階級とされつつあるように、二度の大戦を経た魔法界もまた、このままで居られないのは明らかだ。国際機密保持法は未だ消えていないが、異なる二つの世界は既に大部分が混合し始めている。そして、この流れは誰も止められない。今世紀で最も偉大な魔法使いも、闇の帝王も。だからこそ、魔法族はその対処の為に真剣に動くべきだったのだ」

 

 そして、この魔法界でそれが出来た人間は一人しか居なかった。

 それだけの強権を振るい得る魔法使いなんぞ、歴史を見ても一人しか居なかった。

 

「〝スクイブ〟〝マグル〟、更に関連して〝マグル生まれ〟。それらは近い将来必ずや社会問題化し、ゲラート・グリンデルバルトの時以上に全世界を揺るがす大騒動となる。そして、この最終的解決に際し、非魔法族の後追いをして楽をするなんぞ不可能だ。これは端から非魔法界に存在しない問題で、だから魔法族は血反吐を吐きながら未来を模索する必要が有るというのに──魔法界は旧態依然とした体制のままで居る」

 

 アルバス・ダンブルドアは政治の世界に身を投じなかった。

 外野で騒ぎはしていたが、彼が自ら動いて本気で介入しようとはしなかった。

 

 そして建前とは言え、魔法界における全ての権限を握るのは魔法大臣。マーリン勲章第一等でもウィゼンガモット主席魔法使いでも、世界魔法大戦の英雄でもない──そんな言い訳こそが、都合の悪い言葉を聞かない振りし、従わない事を許した。

 

 そもそもアルバス・ダンブルドアは校長になって忘れたのだろうか。

 大人による道徳的正論なんぞ、生徒なら反発しようとするのが普通だろうに。

 

「何処の魔法界であったとしても、魔法族は何れ〝スクイブ〟の赤子を殺し始めるとも」

 

 予言する。

 闇の帝王が直接殺すのと比較にならない数が、善意の下に摘み取られると。

 

 非魔法界育ちの半純血や非魔法族生まれも例外では無い。ホグワーツから入学許可証が届けられた時の驚愕、組分け帽子に寮を宣言された時の歓喜を覚えている彼等は、魔法という()()()()を、決して自ら手放そうとはしまい。

 

「中絶禁止法も通らない。非魔法界がそうである以上、ハーマイオニー、万一君が声を上げようと、君の同胞達が強く反対してくれる。その結果、良くも悪くも、魔法界から魔法力を持たない〝不適格者〟は殆ど一掃される。生きている〝スクイブ〟を君達が殺さなかったとしても、肩身の狭くなった彼等は自ら魔法界を去っていくだろう」

 

 そうして、魔法界の純血主義は達成される。

 サラザール・スリザリンの後継者でなく、三創設者の後継者こそが叶えてくれる。

 

「君も含めたグリフィンドールは闇の帝王を愚かだと断じ、思考停止のままに純血主義を小馬鹿にする。けれども、彼の掲げる純血主義は、あくまで数ある純血主義の内の一つの考え方に過ぎず、また魔法族が抱える血の問題の一面でしかない。新たなる〝純血主義〟、或いは本来の純血主義は、帝王が死んだとしても消えはしない」

 

 グリフィンドールは勝利すれば終わると思っている。

 けれども、終わりではない。血の戦争は、まだ始まってすら居ないのだ。

 

「しかしこれを考えもしない、止めようとしない、止められないまでも緩和に挑みすらしない者達。今のグリフィンドール、ハッフルパフ、そしてレイブンクローの愚か者達を、一体どうしてスリザリンと違うのだと言える? 君達の何処が()()()()()()()()と違うのだ?」

 

 無垢なる者達が、産声を上げないままに摘み取られる。

 この未来を全肯定する魔法族達は、一体どの口で光だと自称出来るのだろうか。

 

 衝撃に大きく震えたハーマイオニーを他所に、独白めいた言葉が口を突いて出る。 

 

「そして、〝マグル〟達は、そんな魔法界を一体どう見るのだろうな」

 

 結局、僕は魔法族である。 

 解らないから想像しか出来ない。しかし、余り良い想像も浮かんでこない。

 

「単に魔法力を持たないという理由で赤子を──自分達と全く変わらない非魔法の存在を、魔法族は中絶する事を止めない。そんな〝異種族〟を、彼等は共に歩むべき友人として、同じ島に住まう隣人として見てくれるのだろうか?」

 

 この問題を意識する以上、アルバス・ダンブルドアと違って楽観的にはなれない。

 

「確かに表面上は友好を保つだろう。外交とは感情を排して然るべきだ。けれども内心は、或いは市民達はどうか。国際機密保持法が在る今なら余り問題にならないが、それが破綻を迎えた時、異種族間戦争が起こらない可能性は、僕には全く想像出来ないが」

 

 セーレムの非ではない災禍が、世に溢れる気がしてならない。

 

「……嗚呼、そもそもの話。現在の魔法族ですらも、酷く独善的な理由で〝マグル〟の記憶を消している訳だが、その事に対して、彼等は嫌悪感を抱かないのだろうか? 魔法族が悪意の下に本気で忘却術を用いれば、一つの夫婦に対し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だというのに、そんな怪物と仲良く出来るのかね?」

 

 故に、非魔法族は遠くない将来、必ずや魔法を奪いに来るだろう。

 

 遺伝子を人工的に変質させられる事は、既に数十年前のX線の研究により示された。遺伝子組換え技術にしても、それにより産み出された食品は既に商業化が始まった。

 未だその手の技術のヒトへの適用は不可能であり、また遺伝子を弄るのも自由自在とは行かないが、しかし何れはその時代がやってくる。万が一、魔法力の有無が確かに遺伝子に由来し、かつ非魔法族がそれを知れば、文字通りに『窃盗または暴力』で魔法力が奪われる時代が到来する。

 

 何より、非魔法族は国家という怪物を飼っている。

 魔法の力の獲得が社会に正の影響を与えるのは明らかだ。そうである以上、国家は死にものぐるいで──たとえ魔法族の人権を無視し、拉致し、数人を実験動物(モルモット)として飼う事になるとしても──魔法を奪いに来る。もっと穏やかな方法を採るとしても、警戒心の足りない〝マグル生まれ〟や半純血が宿泊したホテル、もしくは自宅に侵入し、徹底的に清掃し、体毛の一本一本、皮膚の一欠片に至るまで収拾し、遺伝子サンプルとして研究する位は平気でやるだろう。

 

 寧ろ国民国家は、そのような努力を率先して行うべきだ。

 それが大勢の国民を養い、彼等の幸福を願う存在として望まれ、だからこそ辛うじて生存を許容されている怪物(リヴァイアサン)の責任というものだ。

 

「……本当に、貴方は物事を悲観的に見るわよね」

「ああ。そして、魔法界における三度目の大戦も予期するとも」

 

 闇の帝王の次の地獄を想定する。

 彼の純血主義が至極半端で矛盾を抱えたままであり、光の陣営も何ら対策を取ろうとしていない以上、絶対に不可避であろうと信仰する。

 

「これは魔法力が遺伝子により決せられるという前提の話になるが……そんな事が万一判明してしまえば、〝スクイブ〟を産む可能性を持つ者──たとえば魔法遺伝子をホモ(同型)接合で持たないか、或いは非魔法遺伝子をヘテロ(異型)接合で持っている人間は、結婚時点において迫害され、忌避されるようになる事だろう。そして必然のように始まるのは、真の〝純血〟とそれ以外の魔法族、両者による遺伝子戦争だ」

 

 この魔法界で虐げられ、差別された者達は必ず暴発する。

 今現在も非魔法界の何処で起こっているように。

 

「そうなってしまえば、銃火器が魔法界に流入して来る気もするがね」

 

 死の呪文(アバダケダブラ)に代わる、外の世界での死の象徴。

 今は歯牙にも掛けられていないソレらは、近い未来で魔法界をも蝕む気がしている。

 何故なら、技術とは絶え間なく発展して行くモノだからだ。時間の進みが遅い魔法界ですら例外ではないからだ。魔法ラジオのように、カメラのように、魔法で同種の機能を持たせた道具は既に存在するからだ。

 

「確かに魔法族にとって、銃火器は然程の脅威にならない。盾の呪文は外傷自体を防ぎ、治癒呪文は臓器不全や失血に基づく死の危険を低下させる。が、忘れてはならないのは、魔法族は非魔法族と交配出来るという事だ。要は、両者の身体の構造に然程の差異は無い。ショックを齎すような短時間での大量出血、或いは一瞬で意識障害を招き得る脳幹等への致命的一撃。杖を持った魔法族にも、それらに抵抗する術は無い筈だ」

 

 〝マグル〟が考えるより魔法族殺しのハードルは高いが、それでも不可能では無い。

 

 そして魔法族だろうと非魔法族だろうと、銃を撃つ為には杖も呪文も不要なのだ。ゴドリック・グリフィンドールが杖に加えて剣を併用したように、将来の魔法族が銃を併用する事に障害があるとも思えない。

 

「…………私は、貴方程に暗い未来を思い描けないわ」

 

 ハーマイオニーの顔は青白かった。

 手を小刻みに震わせ、耐えるように自らの身体を抱いていたけれど、それでも口調だけは確かだった。

 

「純血も、半純血も、マグル生まれも、貴方が思う程に戦争を愛してなんか居ない。可能な限り平和的に解決するよう努力し続けるし、何時か解決出来ると信じてる」

「そうであれば良いな」

 

 我が母()が死なずに済む世界。

 それが訪れてくれると言うのならば、僕は何も文句は無い。

 

「──嗚呼、本当にそう思う」

 

 思っていて、けれどもそれが叶う未来が、どうしても僕には見えやしない。




・胎児条項
 我が国では母体保護法2条2項の「時期」を排除する条項は無いので、理由の如何を問わず、その時期(通知により現在は22週)以降の中絶は不可能である。その後に人工死産が合法となるのは、医師が緊急避難行為要件を満たすなど非常に限定的な場合のみ。
 万一にでも誤解されると問題が有る為に一応言及。


・ポリジュース薬の効能

 映画化にあたってオミットされているものの(そしてそれは当然の判断だと思うが)、ハリーとハーマイオニーはゴドリックの谷に赴く際、ポリジュース薬を用いて中年のマグルとその妻に変身しており、その上で姿眩まし等の魔法を(谷から逃げる瞬間まで)問題無く行使出来ている。

・ライカンスローピーの遺伝

 ウィザーディングワールドでは、設定上、狼人間は遺伝する病ではないようである(Wizarding World『Werewolves』参照)。
 しかし、ルービンが『私の仲間は、普通は子どもを作らない! 私と同じになる。そうに違いない』(七巻・第十一章)と述べており、尚且つ彼はグレイバックなどとは違う知識人側の人間であるから、やはりその事実は魔法界では知られていないと考えるべきである。テディ・ルーピンが狼人間にならなかった事にしても、外部からはそれが当然の結果なのか、偶々遺伝しなかった例外に過ぎないのかは判断が付かない。

 そもそも遺伝病でなかろうと、例えば父子・母子感染のような経路での感染は想定しうる。また、上記Werewolvesの記事は明らかに、人狼化が男女の区別なく生じる事を前提としているが、女性の狼人間がヒトの子供を妊娠・出産出来るのか(脱狼薬でも満月時の変身は不可避である。あくまで『無害な狼』(三巻参照)になれるだけ)は不明である。

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