新学期が始まって数日。日曜日のまだ日が昇って間もない時間に、俺はクィディッチ競技場へと足を運んでいた。
ハリーが練習するというので何の気なしに見に行ってみようと思ったのだが、どこからか嗅ぎ付けたマークとランスも一緒に付いてきた。
「早朝だからか少し肌寒いね」
「この時期ならほんの少し寒くなるくらいだからまだマシだと思うけどな」
マークとランスがそんな会話をしながら金網に手をかけ、競技場へと足を踏み入れる。
「あら、リオン達じゃない。貴方達もクィディッチを見に来たの?」
と、入ってきた俺たちに気付いたのか先に来ていたらしいハーマイオニーが声を掛けてくる。その横にはロンもいるためどうやら二人もハリーの練習を見に来たようだ。
「ハリーが練習するって言うから少し見に来たんだ」
そう言って柔らかな芝生の上に腰を下ろす。
「あ、来たみたいだよ」
ロンの指差す方向を見てみれば、グリフィンドールの意匠である深紅のユニフォームを纏ったクィディッチチームが入場してくるところだった。
見ればハリーは眠そうに目を擦っているし、フレッドとジョージの双子に関しては歩きながらウトウトして頭をぶつけている。
「まだ始まってなかったのかい?」
「これからなんだよ。ウッドの新戦術の説明が長くて…」
不機嫌そうに答えたハリーはロンとハーマイオニーが持っていたトーストを忌々しげに見つめたあと箒に跨がって空へと昇っていった。
そうしてしばらくグリフィンドールの練習を見守っていた俺達だったが金網が開き、スリザリンのチームが入場してきたことに目を見張る。
「何だあいつら。何しに来たんだ?」
ロンがそう呟く間にもスリザリンのチームはズンズンと進み、それを見ていたグリフィンドールチームも地上に降りて互いに何事かを話しているものの、一触即発の空気が漂っていた。
俺達も近付き、状況を把握しようとしたのだがロンがスリザリンチームにドラコがいるのに気付いて声を上げる。
「マルフォイ?何でいるんだよ」
「おやおやおや。このユニフォームが見えないのか?僕がスリザリンチームのシーカーだからに決まってるだろ?」
ドラコがユニフォームを見せびらかすのと同じく持っていた箒を見せつけてくる。
「それに僕らにはこれもある。父上からスリザリンチーム全員に与えてあげたニンバス2001がね」
その名前は箒に疎い俺でも分かる。かなり高価な箒だった筈だがそれをチーム全員に買い与えるとはさすがマルフォイ家というところか。
「いいだろ?羨ましいなら君らも新しい箒を買えばいい。クイーン・スイープ五号を売り払えば博物館が買い取るだろうさ」
そのドラコの言葉に他のスリザリンチームがゲラゲラと品のない笑い声を上げる。それを見ていたハーマイオニーが一歩前に出て言い放った。
「少なくとも買ってもらった箒を自慢しているような貴方達と違って彼らは実力で選ばれてここにいるわ」
その言葉にドラコの顔から笑みが消え失せ、心底軽蔑したような顔で言い返した。
「誰もお前のような奴の意見なんか求めてない。この、穢れた血め!」
その言葉を聞いたグリフィンドールチームから怒号が上がり、ドラコに飛びかかろうとするフレッドとジョージをウッドが抑えていた。そして即座にロンが杖を構え呪文を唱える。
「言ったなマルフォイ!思い知れ!」
そんな言葉と共に放たれた呪文はしかし、逆噴射してロンに直撃する。倒れたロンは口から三匹ほどのナメクジを吐き出し、それを見たハリーとハーマイオニーはロンに駆け寄って背中を擦り、スリザリンチームはいよいよ腹を抱えて笑い出した。
……流石に我慢の限界だな。
ロンの失態を嘲笑っていたドラコの下にリオンが歩み寄る。ドラコは今リオンがいることに気付いたようで「あぁ、お前もいたのか」と呑気に声を掛けた。
次の瞬間、リオンはドラコの胸倉を掴み上げ、その頬を勢い良くぶん殴った。
ドラコが倒れ込み、笑い転げていたスリザリンチームも怒号を挙げていたグリフィンドールチームも、ハリー達もその場の誰もが驚いた様子でリオンとドラコを見る。
「ハリー、ハーマイオニー。ロンをハグリッドの小屋まで連れてってやれ。そこならナメクジの対処も出来る」
「わ、分かったよ……大丈夫かいロン」
「マークとランスも付き添いとして付いていってくれないか?」
「分かった」
リオンの指示に従い、ハグリッドの小屋目指して去っていく四人に向けて「それと……」とリオンは言葉を続ける。
「ごめんなハーマイオニー。酷い言葉を浴びせられただろう」
「貴方が謝る必要ないわ。貴方が言った訳じゃないもの」
「……そうか」
心底申し訳なさそうな顔で謝るリオンにハーマイオニーは首を横に振って答える。実際にその発言をしたのはマルフォイなので関係ないリオンが謝る必要はないとハーマイオニーは考えていた。
「で、ドラコ。もう一度その言葉を生きている間に口にしてみろ。次は殴るだけじゃ済まさないぞ」
ハリー達が去った後、立ち上がったドラコに冷ややかな視線を向けながらリオンは口にした。
「……あぁ」
「なら良い。まぁハーマイオニーが許すかどうかは別だけどね。少なくともこの件に関して俺はお前を軽蔑するよ。それだけの事をお前は言ったんだ」
リオンの言葉にドラコは俯く。事の重大さをやっと理解したのか先程までの雰囲気は無くなっていた。
「おいおい、あまりウチのシーカーを苛めないでくれよ。たかだか穢れた血だって言っただけじゃないか。本当のことだろう?」
マルフォイと同じスリザリンのユニフォームを纏った男性がリオンに近付く。
マーカス・フリント。スリザリンの六年生でスリザリンチームのキャプテンを務める男だ。
そんなフリントの言葉を聞いたグリフィンドールからはまたも怒号が響き渡り、リオンも驚いたような、呆れたような目でフリントを見る。
「たかだか穢れた血、ですか。貴方はそう思ってもこんな呼び方が許されるはずがない。これは言われた本人だけじゃない、その家族や先祖、いずれ生まれてくる子供でさえ侮辱する発言だ。それを何ともないように言えるならソイツは是非とも聖マンゴで頭を診てもらうことをお勧めします。貴重なサンプルになるでしょうね──あぁ、目の前に居ましたね。その貴重なサンプルが」
先程のマルフォイと比べて、さらに馬鹿にするような吐き捨てるような口調でフリントに言い返したリオンはグリフィンドールチームに頭を下げると急ぎ足でその場を去っていった。
◆ ◆ ◆
「ハグリッド、居るか?」
「おぉ、リオンか。入っちょくれ」
競技場から離れたリオンは一目散にハグリッドの小屋へと向かい、ハグリッドの許可を得て中に入る。
中に入ると、そこには随分とスッキリした表情になったロンと付き添っていたハリー、ハーマイオニー、マーク、ランス、ここの家主のハグリッドに加えて何故かレックスも居た。
「あれ、父さん?なんか用事があったの?」
「少しな。ハグリッドと話していたらナメクジを吐きながらロン達がやって来たものだからそれを対処してたんだ。話は聞いてるよ」
杖を振って大量のナメクジが入ったバケツを消失呪文で消し、レックスは此処にいた理由を語る。
事情を説明されたリオンは納得した表情で近くのソファに座り、差し出された紅茶を飲んだ。
「……しかしあの言葉を言うとはな。スリザリンから三十点減点だな」
「それでも足りないと思うよ。あの馬鹿はそれだけの事を言ったんだ」
険しい顔で減点を宣言するレックスにリオンが納得いかなそうにそう告げる。
「ロン、もうナメクジは出ないか?」
「うん、アーデル先生のお陰で治ったよ」
「それは良かった。けど、やっぱり杖は買い換えた方が良いと思うぞ」
「そうだな。なんなら私がアーサーとモリーに事情を説明しようか。杖一本買うお金なら出せるよ」
レックスの提案に少し考えるロンだったがしばらくして頷き、了承した。
「了解だ。一生折れたままの杖を使うより新しい杖を買った方が随分マシだろう。一応この件は校長先生にも伝えておく」
「はい、お願いします」
ロンが頭を下げると、レックスはにこやかに手を振ってハグリッドの小屋を出ていった。
少なくとも穢れた血って言葉を発した時点でその人の信用は地に落ちる。スネイプとリリーの関係とかが良い例だと作者的には思ってます。