ドゥルガー出ないよー…
「……やっぱり上手く起きれないよなぁ……」
ベッドから体を起こし、そんなことを呟く。日差しなんて当たるわけもないこの寮は自分にとって起床しにくい寮だと言える。
「よう、起きてるかアーデル!あっ、お前朝弱いんだったっけか?」
立ち上がって体を解していると、カーテンがシャッ!と音を立てて開き、そこから一人の少年が顔を覗かせた。
黒髪に浅黒い肌。人好きのする笑みを浮かべた彼の名前はブレーズ・ザビニ。
俺と同室のスリザリン生で、総じてプライドの高い傾向にあるスリザリン生の中でも比較的付き合いやすい人物と言えた。
「くぁ……あぁ、何だブレーズか……起きてるよ、朝日を浴びながら起きたい俺からしたら寝覚めは悪いけどね」
「でも起きてるじゃねぇか。ほら急げよ。早くしねぇとクィディッチ始まっちまうぜ……おーい! 起きてるかセオドール!!」
「あぁぁぁぁぁ!!!!毎朝の事ながら喧しいな君は!!」
と、ザビニが大声でセオドールの眠るベッドのカーテンを開いた途端、セオドールが発狂した。
そりゃ陽キャ気質のブレーズとインテリタイプのセオドールは相性が合わない。合わないのに結構上手いことやれているのもブレーズの気質あってこそなんだろうが。
他の三寮からは遠巻きにされているスリザリンだが、俺はこの寮を好ましく感じていた。
どの寮にも良い面と悪い面があるのだということを知ることが出来たのだから。
◆ ◆ ◆
「あぁ、居た居た。おーい、こっちだよー!」
ブレーズに急かされた俺とセオドールが観客席を回っていると、マークがこちらに向けて笑顔で手を振っていた。
「なぁアーデル。やっぱり無視しないか?あまり注目を集めるのは僕としては──」
「どうせクィディッチが始まれば皆注目はそっちに移るさ。それより早く行こうぜ、マークの腕がはち切れそうだ」
「おっし、なら走るぜー!!」
「いやだからちょっと待っ……うおぁぁぁぁぁぁ!!?!?」
ザビニがセオドールの手を掴んで走り出すと、あまりの速さにセオドールが絶叫し余計に注目が集まる。
セオドールの喉を心配しつつも俺も小走りでマークのいる方へと駆けていった。
と、着いてみればそこは大所帯だった。
マークにランス、ドラコにその友達のクラップとゴイル、パーキンソンに最近ドラコ達とよく一緒にいるところを見るようになったミリセント・ブルストロート。さらにはダフネも同席していた。
「いやーわりぃわりぃ。セオドールの奴が中々起きてこねぇもんだから時間かかっちまってさ」
「誰の……ゲホッ……せいだと……思って、るんだ……」
哀れ、セオドールは瀕死のようだ。
「ようドラコ。なんだか不機嫌そうだな?」
「アーデルか…ふん。別にそんなんじゃないさ」
「あ、ドラコの奴ハリーがクィディッチに出場するのにヤキモチ焼いてんだよ」
「黙れパーシヴァル!!妬いてなんかない!!」
キャイキャイと騒ぐドラコを尻目に席に着く。
少しして、グリフィンドールとスリザリン。両方のクィディッチチームが入場してきた。
笛が鳴り、両選手が空に飛ぶ。試合開始だ。
実に白熱した試合が行われている。
互いに一歩も譲らぬ攻防──スリザリンの手段の選ばなさには少々顔を覆いたいが──を繰り広げている。
中でも目を引くのはやはり一年生でありながらシーカーに抜擢されたハリーの存在だろう。
彼は見事な箒のテクニックでスニッチを追いかける。途中でスリザリンのシーカーがハリーにタックルをかましてグリフィンドールと解説のリー・ジョーダン、マクゴナガル先生からは野次が飛び、逆にドラコなどハリーを敵視している連中は歓声を上げていた。
「……何だありゃ?」
「どうしたランス?」
ふと、双眼鏡を使ってクィディッチを見ていたランスが驚いたような声を上げる。
「いや、ハリーの様子がおかしいんだ。アイツ、あんなに箒が暴れまわってるんだぜ?」
なんと?
ランスの言葉に驚愕し、ハリーの方へ視線を向ける。
確かにランスの言った通りハリーの箒が滅茶苦茶に暴れまわり、ハリーはそれを抑えようと必死になっていた。
「ほんとだ。いくらなんでもおかしくないかい?」
「えぇ。さっきまでポッターは箒を使いこなせてた。なのにいきなりあんな風に……?」
マークとドラコも疑問符を浮かべる。
ふと、教師のいる観客席に目を向けた。
箒には強力な保護呪文が掛けられており、これを打ち破ることは熟達した魔法使いでないと困難を極める。この会場にいる中でそれが可能なのは教師の誰かということになる。ホグワーツの先生たちを疑いたくはないが、ハリーを虐めていたスネイプ教授の例もある。
そうしてランスから借りた双眼鏡で先生達の観客席を見てみると──
「……ビンゴ」
スネイプ教授が上──正確にはハリーの方を見ながら口を動かしていた。
(やっぱりスネイプ教授が───ん?)
スネイプ教授が犯人だと核心を持った瞬間、彼の後ろにいるクィレル教授に目が止まった。
俯いていて表情こそ読み取れないが、注意深く観察すると口をモゴモゴと動かしていた。
「何がどうなって──」
もう少しよく見ようと目を凝らしたその時。スネイプ教授が突然立ち上がった。
そして周りに居た先生達も慌てている。
「火が点いてる!?」
「えっ?」
思わず叫んだ俺に驚いたのか、隣に座っていたダフネが反応する。
しかし、そんなことは気にならないくらい俺は驚いていた。
(何で突然スネイプ教授のローブに火が──って、あれは──)
慌て出した教師陣の席から、栗色の髪をした少女が逃げるように立ち去るのが見えた。
あの子は確か──
「ハーマイオニー・グレンジャー……?ってことは、スネイプ教授のローブに火を点けたのは……」
グレンジャーは最近ロンやハリーと一緒にいるとこをよく見かけるようになったし、恐らく彼女も友人であるハリーの箒が誰かに操られていると気付いたんだろう。
そしてその犯人がスネイプ教授だと確信し、ハリーを助けるために教授のローブに火を点けたって所か。
一歩間違えば火事の元だ。グレンジャーもそこは分かっていたのだろうがそれにしたって止め方が力業すぎる…
(けど、クィレル教授の方も怪しいよな)
あの禁じられた廊下での一件といい、クィレル教授も十分に怪しい。
と、試合終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。
『グリフィンドール、170対60でスリザリンチームに勝利を収めました!! ポッター選手がスニッチを掴みました!!』
どうやらあれから箒の制御が戻ったハリーがスニッチを取って勝利を収めたらしい。
グリフィンドールでは大歓声が巻き起こり、反対にスリザリンでは残念がる声が広がった。
かくいう俺もスリザリンに勝ってほしい気持ちこそあったものの、今は勝利したグリフィンドールに称賛の拍手を送っていた。
──まぁ、他のスリザリン生からは奇異の目で見られたがそれはそれ。
別に勝者を敗者側の人間が称えちゃいけないなんてルールはなかった筈だしね。
それにマークとランスも拍手を送り、ダフネも控えめながら拍手を送っていた。
いつか、グリフィンドールとスリザリンの仲が少しでも改善されるようになったら良いなと思いながら、俺はどちらのチームも褒め称えた。