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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第四章

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交渉材料

四章を書き終えて油断していました。

投稿忘れ、ミスです。

申し訳ありません。

 ボスを倒した俺たち。


 ナルシス先生が聖樹の苗木を前にして、興奮気味に語っていた。


「私も聖樹の苗木ははじめて見たよ。この神々しさはどうだ? だが、残念なことにこのまま放置しても枯れてしまう。手に入れても全て枯れてきたわけだけど、こうして苗木が手に入ればまだ試していない育成方法で今後は無事に――」


 俺は苗木の周囲を掘ってから引き抜き、持って来た専用のケースに入れた。


 透明な四角いケースに入れて蓋をする。


 ナルシス先生が俺の行動を見て叫ぶ。


「何してんだぁぁぁ!」


 俺から見れば、ちょっと光っている観葉植物みたいな感じだ。


 だが、ナルシス先生たちにすれば信仰の対象だった。


「あ、すみません。これが欲しかったもので」


 ナルシス先生が口をパクパクさせている。


「あのね、聖樹の苗木はこの国の未来がかかった大切な――って、君たちも何をしているの! ちょっとは私の話を聞きなさい!」


 周囲を見ると、露出していた魔石などをユリウスたちが掘り返していた。


「純度も大きさも申し分ないな」


「マリエさんも喜んでくれるでしょうね」


 違う方ではクリスが金属を掘り起こしていたが、大きすぎて困っていた。


「これをどうやって持ち帰ればいいものか。しかし、これだけ大きな金属、売ればきっと高値になるな」


 この場所では、魔石や金属を次々に掘り起こすことが出来た。


 きっと魔力的にも充実している場所なのだろう。


「お前ら!」


 俺が三人に声を荒げると、ナルシス先生が期待に満ちた目を向けてくる。


「そ、そうだよね! ここは聖樹の苗が発見された場所。大切に保存しないといけない。君たちもリオン君を見習って――」


「俺の分も残しておけ。それから、運び出すのは問題ない。迎えを手配しているからな」


 天井から小型艇が降りてきた。


 ユリウスが驚く。


「小型艇? どうしてバルトファルトが持っているんだ?」


 俺は嘘を吐く。


「アインホルンから降ろしていたからな。聖樹の誓い? その対象外だったんだろ」


「そうなのか? なら、直接この場に降りても良かっただろうに」


「穴を見つけていちいち降りていたら目立つだろうが」


 ナルシス先生も俺の意見に同意する。


「ここは通信障害もあるからね。やはり自分で……あれ? リオン君、どうやって連絡を取ったの?」


「……秘密です。お前ら、さっさと積み込め!」


 クリスが嬉々として金属を掘り返し始める。


「そうか! ならもっと持って帰れるな」


 ジルクも同様だ。


「殿下、スコップを貸してください」


「駄目だ。俺ももっと探したい」


 二人でスコップを取り合っている。


 ナルシス先生が肩を落としていた。


「……王国の冒険者って酷い」


 この場にある魔石も金属も根こそぎ回収させて貰うとしよう。


 下りてきた小型艇に乗り込むと、無人であるがメモが用意されていた。


 俺はそれを確認すると、ポケットにしまい込む。



 学園。


 授業を受けながら、レリアは焦りを募らせていた。


 色々と調べていく内に分かってきたのは、王国の詳しい情報が共和国に入ってきていないということだ。


 共和国はその絶対の自信から、他国への関心が薄い。


 レリアも共和国が負けるなどとは考えていなかった。


(どうしよう。今のバランスを崩されたくないのに。怪しいのはあの目立たない男子と、小柄で少し腹の立つ女子。あいつらが明らかに怪しい)


 リオンの事は目立たない男子としか思っていなかった。


 マリエについても、男子受けするような仕草が少し腹立つと思っていたくらいだ。


(王国の生徒とは関わりたくなかったのに)


 今の状態を維持したかったレリアにしてみれば、留学生として転生者たちが乗り込んでくるなんて想定外だった。


 多少警戒していたが、深く関わっているとは思えなかった。


(普通、逆ハーレムなんて目指さないわよ。頭おかしいんじゃないの!)


 この乙女ゲー世界の法則とでも言えばいいか、とにかく世界の危機ばかり続く。


 そんな中、逆ハーレムで原作崩壊を狙う馬鹿はいないとレリアは思っていたのだ。


 見事に考えが外れ、焦るばかりだった。


 早く話をしたかったが、王国の生徒はピエールの一件から登校してこない。


 自分が出向いても警戒されているし、今何をしているのか分からなかった。


 授業をしているクレマンが、レリアを注意する。


「レリアちゃん、授業に集中しなさい」


「は、はい!」


 クレマンが授業を再開すると、隣の席に座っていた女子が話しかけてきた。


「何? 彼氏と喧嘩でもしたの?」


「違うわよ」


 エミールと喧嘩などしない。


 そもそもエミールは優しく、喧嘩となれば引いてしまう。


 個性が強い方ではない。


 だからレリアはエミールを選んでいた。


(何とか接触して、早い内にこちらの状況を伝えないと)


 そう考えていたレリアだったが、教室内に慌てて教師が入ってきた。


「クレマン先生!」


「あら、どうされました? まだ授業中ですよ」


 慌てている教師が、急いでクレマンを教室から連れ出す。


「緊急会議です。とにかく急いでください」


「それは仕方がないですね。みんな、次の授業まで自習よ。ちゃんと教科書を読んでおくように」


 教師たちが教室を出て行くと、生徒たちはざわつき始めた。


「会議だって」


「何かあったのか?」


「あの慌て方、不自然じゃない? 授業が終わってからでも良かったのに」


 レリアは胸騒ぎを覚えた。


(ま、まさかね)


 留学生たちが関わっているのではないか? そんな不安があったのだ。



 会議室。


 俺はケースに入った苗木を持って中身を見ていた。


 キラキラと輝き大変綺麗であるが、実はこのケース――聖樹の苗木を保管するために用意した特別製だ。


 それを知らない教職員たちが、俺に注意をしてくる。


「バルトファルト君! 苗木をテーブルの上に置きなさい! 落としたらどうするつもりかね!」


 俺はヘラヘラと笑って見せていた。


「落としたら? そもそも俺の持ち物なんで、片付けは俺がしますよ」


「そ、そういう意味ではない。もしも苗木が枯れてしまったら――」


「枯れたら? それでおしまいでしょうね」


 発見した俺の物。


 そう言って譲らなかった。


 学園長が俺に交渉してくる。


「何が望みだ? 希望の物を用意しよう」


 俺は学園に対して、


「俺の持ち物を返して貰いましょうか。あの糞野郎に引き渡すように言って貰えません? そうしたら、こいつを渡すのも考えてやりますよ」


 学園長が難しい顔をしていた。


「それは……出来ない。既にあの飛行船はフェーヴェル家の所有物だ。我々が口出しできないのだ」


 俺はまた苗木を掲げて光に当ててみる。


「なら無理。そもそも、あんまり俺たちを軽く見るなよ。お前らのお宝を手にしているのは俺たちだ。そこをよ~く、考えないとね」


 六大貴族に頭の上がらない教職員たち。


 ナルシス先生が俺を見て、


「……悪いが、苗木は国外に持ち出せないと思うよ。議会がそれを絶対に認めない」


 お宝を国外に持ち出させるわけにはいかない。


 それも分かっているが、


「騙し討ちみたいな真似をして俺から飛行船を奪っておいて、はいそうですかと渡すとでも? 調子に乗るな。偉いさんをすぐに連れてくるか、ピエールの屑をこの場に連れてこい」


 クレマン先生が椅子から立ち上がる。


「リオン君、いったい何を考えているの?」


「苗木を賭けて決闘してやる。勝てば苗木は譲るよ。けど、賭けるのは俺のアインホルンやアロガンツ……奪った物は返して貰わないとね」


 学園長が俺に言う。


「外交問題になる。君は、ホルファート王国を危険な目に遭わせるつもりか?」


 絶対の自信。


 いや、これも当然だろう。


 俺がこいつらの立場でも、共和国の勝利を疑わない。絶対強気に出る。


「先に喧嘩を売ってきたのはお前らの生徒だ。ピエールの屑を呼べ。それが駄目なら、こいつは枯れるしかないな」


 伝説とも言われる聖樹の苗木。


 その記述は多く残っており、間違いなく俺の持つ苗木は聖樹のものだった。


「勘違いするなよ。お前らに出来るのは、ピエールの糞野郎を呼ぶことだ。そうだな、あとは決闘の会場を用意して貰おうか」


 教職員たちの目が怖い。


 俺を三流国家の貴族とでも思っているのだろうか?


 ……正解だ!


 ホルファート王国は間違いなく三流国家だろう。


 俺が保証する。


 だが、そんな国にいるからと、俺まで侮られては困る。


 俺は……やられたらやり返す男だよ。



 不機嫌そうなピエールがやって来たのは、それから数時間後のことだった。


 会議室から応接間へと移動して待つこと数時間。


 不機嫌な俺よりも更に不機嫌なのがピエールだ。


 俺を見て目をピクピクさせている。


「俺を呼びつけたのは、お前か? 自分の立場が分かっていないみたいだな」


 そんなことを言うピエールの前にケースを置いた。


 それを見てピエールの目の色が変わる。


「……聖樹の苗木。本物か? おい、三下。そいつを寄越せば今回のことを許してやってもいいぞ」


 こいつが人を許せるくらいに、聖樹の苗木は価値があるらしい。いや、これが聖樹の苗木なら、ピエールには何も出来ないからか?


 どちらにしろ、俺は安売りなんてしない男だ。


「寝言は寝てから言え。お前にはブラッドも随分と世話になったからな、ただで済むと思うなよ、糞野郎」


 ピエールの額に血管が浮かんでいた。


 右手の甲に紋章が浮かんでいる。


 それこそ、聖樹の紋章だ。


 七大――六大貴族がここまで絶対的な権力を持つのは、聖樹の加護に理由がある。


「ここで暴れて聖樹の苗木を破壊するか?」


 苗木を盾代わりに使うと、流石のピエールも黙った。こいつがいかに横暴でも、聖樹の苗木があると強引な手段を選べないのは予想通りだった。


 舌打ちをしている。


「何が望みだ。お前の船は絶対に返してやらねーからな」


 もう自分の物だと思い込んでいるらしい。


 何て可愛い奴だろう。


「俺から奪った物を賭けて決闘をしろ」


「あぁ?」


「どうした? 六大貴族の偉いさんは、三流国家の伯爵が怖くて勝負も出来ないのか? お前もたいしたことがないな」


 ちょっと煽るだけで、ピエールの顔が真っ赤になった。


 不健康そうな顔色よりこっちの方がマシだな。


「……絶対に殺してやる」


 クレマン先生が止めに入る。


「待ちなさい! リオン君、この場合の決闘の意味が分かっているの?」


 俺は薄ら笑みを浮かべつつ、ピエールを挑発する。


「分かっていますよ。もしもピエールが死にそうになったら手加減してやりますよ」


 激怒するピエールは、俺の思うとおりに動いてくれる。


「お前の頭蓋を砕いてホルファートに送りつけてやる。覚悟しろよ。お前らみたいな三流国家、アルゼルの敵じゃねーんだよ!」


「おー、怖い、怖い。なら、決闘を受けるんだな?」


 受けても、受けなくても俺は構わない。


 どちらを選んで貰っても構わない。


「いいだろう。……受けてやる。おい、そこの気持ち悪い奴とナルシス。お前らが見届け人になれ」


 黙って話を聞いていたナルシス先生が、溜息を吐くと説明に入る。


「……決闘の方法を決めよう。場所は学園が用意する。まずは条件の確認だが、その前に大事な確認がある。この決闘は聖樹に誓うかい?」


 ピエールが醜悪な笑みを浮かべた。


「当然だ、こいつは信用できないからな」


「信用がないな。俺は真面目がモットーなのに。これは俺も誓うのか?」


 ナルシス先生が頷く。


「共和国式の決闘は、聖樹に誓って約定を守る拘束力にする。どんな決闘を臨む? 私が立ち会うなら、一方が不利な条件での誓いは認めさせないよ」


 ピエールが即答してきた。


「鎧を使った決闘だ」


 譲らないと言わんばかりだった。アロガンツはこいつに気に入られたらしい。……好都合だ。


 だから俺も条件を出した。


「そうだな……お前の持つ聖樹の力を使用禁止にしようか」


 ピエールが少しためらうも、頷いて認めた。


「こっちは構わないぜ。賭けるのは、お前は聖樹の苗木で、俺はお前から奪った物だな?」


「そうだ。必ず俺に“返せ”よ。いいか、俺の前に必ず“持って来い”。アロガンツにアインホルン――その中にあるもの“全て”だ。俺が勝ったら、全てを俺にちゃんと返せよ」


 念を入れてしっかり言っておかないとね。


「勝ってから言えよ。だが、これで俺は聖樹の苗木を手に入れられる。兄貴から当主の地位だって奪える」


 既に勝った後のことを考えているようだ。


 ……精々楽しんでおくことだ。


 ナルシス先生が条件を確認すると、俺たちに言う。


「それでは、両者聖樹に誓いの言葉を」


 ピエールの右手の甲が光ると、俺たちの下に魔法陣が発生した。マリエたちの時に出たものと同じ紋章だ。


「聖樹に誓う」


 俺も笑みを浮かべ、


「聖樹に誓おう」


 心配しているナルシス先生とクレマン先生を見ながら、俺は必死にこらえていた。



 聖樹神殿。


 若き当主フェルナンは、執務室で仕事中だった。


 だが、報告を聞くと椅子から立ち上がり、机の上にあった書類の山が崩れる。


「聖樹の苗木が見つかっただと!」


 報告を持って来た家臣も走ってきたのか、随分と息苦しそうにしていた。


「は、はい! 留学生のリオン・フォウ・バルトファルト伯爵が、ダンジョン内にて発見しました。所有権を主張しており、欲しければ決闘を、と」


「決闘?」


「フェーヴェル家のピエール殿と決闘すると」


 フェルナンは机に拳を振り下ろした。


「あの小僧!」


 それはピエールに対しての言葉だった。


 フェルナンは机から調べさせたリオンの報告書を取り出した。


 そこには、単機にて公国の艦隊を撃退し、危機的状況から艦隊を率いて勝利に導いたと書かれている。


(物語でもここまで書かないぞ)


 報告者も前書きに「これらは事実です。本当なんです!」と注意書きをしている。


 嘘っぽい報告書だ。


 誰に見せても信じられないだろう。


 だが、それを可能としたのがロストアイテムなら話が違ってくる。


(公国との戦争でロストアイテムは失ったらしいが、まだ隠し球がないとは言えない。そんな相手にいったい何をしている、フェーヴェル家の馬鹿息子が)


「……決闘ということは、飛行船を取り返すつもりか?」


「はい。飛行船、そして鎧を返すように求めたそうです」


 フェーヴェル家が調子に乗るくらい優れた飛行船と鎧だ。


 本来なら賭けの対象にしたくないだろうが、聖樹の苗木が出てきたのなら話が違う。


 喉から手が出るほどに、貴族たちは聖樹の苗木を求めている。


「素直に取引すればいいのだ。余計なことをしてくれた」


 報告してきた家臣が困っているのを見て、フェルナンは言う。


「私も学園に向かう。船の用意を」


「はっ!」


 こうしてフェルナンは、学園に向かうのだった。


クレアーレ( ○)『マスターが生き生きしているわね。そんなマスターの活躍が見られる一巻は発売中よ。はい、宣伝終わり。私も準備があるから失礼します』


???(● )『……』

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