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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第四章

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冒険者の子孫たち

 洞窟内は不思議な場所だった。


 時折大きな木の根が露出しており、壁かと思えば木の根だとナルシス先生に説明され驚いた。


 見上げるほどに大きな木の根とかはじめて見たよ。


 それに洞窟と言うが、天井が空いている場所があり光が差し込む。


 そこには植物が生えており、いい休憩場所になっていた。


「……おい、後ろから来ているぞ。百足みたいな奴だ」


 さて、そんなアルゼルのダンジョンだが、こちらも当然のようにモンスターたちがいた。


 俺が振り返ってライフルを構えると、ジルクも構える。


 ユリウスとクリスが剣を抜き備えると、


 俺はスマホ型の端末をポケットにしまう。


 ライフルのスコープを覗けば、暗闇でも良く敵が見えた。


 引き金を引くと洞窟内に発砲音が響き、そしてモンスターを撃ち抜く。


 黒い煙になって消えて行くモンスター。


 次々にわいて出てくるので、また構えて引き金を引く。


 すると、ジルクも視認したのか素早く射撃を行い三体があっという間に撃ち抜かれた。


「やるな」


「それはどうも。射撃は得意でしてね」


 ライフルで戦闘が終わると、俺は端末を取り出して周囲の索敵を行う。


「……大丈夫だ。進もう」


 ユリウスが剣をしまいながら、


「一体くらい残せ。お前ら、さっきから自分たちだけで処理していないか? 弾数を考えたら、もっと俺たちにも回すべきだ」


 クリスも不満そうだった。


「入ってからまだ一度も戦っていないじゃないか」


 ライフルを担ぐ俺は、そんな二人に呆れる。


「黙って体力を温存しておけ。働いて貰うときは、泣くまでこき使ってやるからさ。ほら、行くぞ」


 俺たちが移動を再開し始めると、ナルシス先生がもう諦めたような顔をしている。


「本当ならもっと人数を増やして挑むような場所なんだけどね。ホルファートの冒険者は、みんな過激なのかな?」


 過激というか……そもそも、冒険者の認識が違う。


「アルゼルだと、冒険者は学者のように調べる人と、単純に採掘の二つがメインでしたか?」


「そうだね。確かに護衛はモンスターとも戦うけど、ここまで好戦的な冒険者も少ないと思うよ。多くはダンジョンから発掘される魔石狙いだけど、学者気質の冒険者も少なくないからね」


 俺は笑う。


「王国の冒険者は逆に略奪者ですよ。調べるよりも奪うのが本質です」


 それを聞いてナルシス先生が少し不満そうだった。


 ダンジョンに入り遺跡を調べるのが好きなタイプには、俺たちのようなタイプは嫌いな存在だろう。


 ユリウスが俺に注意してくる。


「バルトファルト、誤解を招くような言い方は止せ。先生、俺たちだって極力遺跡は壊さないようにしている」


 鼻で笑ってやりながら、俺はユリウスに聞いてやった。


「ユリウス、宝が隠された扉があったらどうする? だが、その扉はどうしても開かない扉だ。お前ならどうする?」


「決まっているじゃないか」


 ナルシス先生が、ユリウスに期待した視線を向けていた。


「そうだよね。そんな扉があればまずは調査――」


「破壊する!」


 ナルシス先生がガッカリしていた。


 俺は笑ってやった。


「これが王国の冒険者ですよ、先生。こいつら脳筋だから、放っておくとすぐに破壊しようとしますから注意してください」


 クリスが俺の顔を怪しそうに見ていた。


「自分が頭脳派と言いたいのか? 言っておくが、頭脳派はそもそも一人でダンジョンに入らないぞ。お前は学園に来る前に、一人でダンジョンに挑んで死にかけたそうじゃないか」


 俺の話になり、ナルシス先生が興味を示した。


「それは是非とも聞きたいね。古代の遺跡に入ったんだって? どんな場所だった?」


 メモを取り出していたので、移動しつつ話をする。


「古代人の遺跡でしたね。飛行船が置いてありましたよ」


 ユリウスも話に加わってきた。


「パルトナーを見つけたダンジョンか。公国との戦いで沈んだが、あれはいい船だったな」


 ナルシス先生が叫ぶ。


「え、沈んだの! というか、大事なロストアイテムの飛行船を戦争で使ったの!?」


 俺は笑って誤魔化した。


「おっと、この崖は登らないと駄目だな」


 荷物から道具を取り出すと、ナルシス先生が俺の腕を掴んでくる。


「ちょっと聞き捨てならないよ! リオン君、どうして古代の貴重な財産で戦争したりするの! もっと大事に扱ってよ!」


 ルクシオンがこの場にいれば『そうですね。もっと大事にしてくれてもいいんですよ』なんて言いそうだな。


 俺がロープを用意すると、クリスが荷物を下ろす。道具を装着して崖を登り始めた。


「先に行くぞ」


 嬉しそうに昇っていくクリスを俺たちは見送る。


「頼む」


 先にクリスが足場やら色々と用意しながら昇ってくれる。


 俺たちは後からゆっくり昇ればいい。


 そんな様子を見て、ナルシス先生は呆れていた。


「君たちはたくましいね。私なら魔法を使ってしまうけどね」


 ジルクはライフルを持って周囲を警戒していた。


「こんなの必須技能ですよ。あと、魔法は温存していてください」


 洞窟の中。


 崖の上には光が見えた。


 天井に穴が空いているのだろう。


 俺は端末を見ながら呟く。


「……そろそろ目的地だな」



 マリエの屋敷。


 訪れたレリアは、老犬を抱えているカーラと話をしていた。


「い、いないですって!?」


 ノエルを抱きかかえたカーラは、レリアの訪問に少し疑った視線を向けている。


「あの、お庭でこの子のお散歩というか気晴らし中だったんですけど」


 迷惑そうにしているカーラに、レリアは焦りつつ質問をした。


「どこに行ったのよ!」


「ダンジョンに行くと言っていましたね。えっと……洞窟?」


 どうして学園に来ずにダンジョンに向かっているのか?


 レリアは問い詰めるのを止めない。


「洞窟タイプなんていくらでもあるわ。どこのダンジョン? 名前は?」


 カーラが目を細めている。


「そこまで聞いてどうするつもりですか?」


 レリアは内心で焦る。


(駄目だ。警戒されて話が聞き出せない。こっちが仲間だと教えたいけど、この子自体は転生者じゃないし)


 転生者なら食いつくような単語を口にしてみたが、カーラは首をかしげているばかりだった。


「……わ、分かったわ。戻ってきたら、私が訪ねてきたと伝えて」


 今日は帰ることにした。


(まずい。まずいわ。まさか、私たち以外に転生者がいるなんて――)



 共和国の図書館。


 マリエは必死に調べ物をしていた。


「くっ! また読めない文章が……グレッグ、お願い」


 付き合わされるのはグレッグだ。


 外見は不良のようだが、これでも元はお坊ちゃんである。


 共和国語も教え込まれていた。


「マリエ、俺はこういうのが得意じゃないんだが? え~と……聖樹の……駄目だ。専門用語みたいで分からない」


 共和国の図書館にある書物は、全て共和国語で書かれている。


 そのため、調べ物をするにも通常の倍の時間がかかっていた。


「大事な記述なのに!」


 どうして調べ物をしているのか?


 それは、ゲーム知識は覚えているものを書き出した。


 これ以上の手柄を得るには、自分で探すしかないと思ったからだ。


 リオンに殺されないように必死なマリエは、鬼気迫る勢いで書物を読みあさっている。


 それこそ「外国語を話せる私って素敵!」みたいなノリではない。


 覚えないと死ぬ!


 そんな心持ちで勉強をしていた。


 グレッグが心配する。


「もうずっと図書館じゃないか。少しは休んだ方がいいぞ」


「駄目よ。こうしている間にもダンジョンで……」


 グレッグは、きっとダンジョンに向かったみんなを心配していると思ったのだろう。


「そうか……俺もマリエに負けていられないな。俺も頑張るぜ!」


 だが、本心は違う。


(兄貴がダンジョンから戻ってきて、何もしていないと判断されたら詰む。人生が詰んでしまう! 何か――何か役に立つ物を調べておかないと)


 マリエは頑張っていた。



 レスピナスの洞窟。


 先へと進むと、徐々に目的地が近付いてきた。


 クリスが剣を振るうと、モンスターたちが次々に両断されていく。


 ユリウスがナルシス先生を守りながら、俺に声を張り上げてきた。


「おい、こっちで間違いないんだろうな!」


 俺は端末をポケットにしまう。


 ライフルの銃剣部分を地面に突き刺し、腰に下げていた刀もどきを引き抜くとスイッチを押した。


 スイッチを押すと切れ味が増す仕組みだ。


「間違いない。この先だ」


 次々にわいて出てくるモンスターたちを前に、俺たちは無理矢理進んでいた。


 襲いかかってきたモンスターを斬り伏せると、ジルクがライフルの弾倉を入れ替えていた。


「きりがありませんね。一旦下がりますか?」


「駄目だ。この先に行けばすぐだ」


 まるで何かを守っているように集まっているモンスターたち。


 ナルシス先生も気が付いたようだ。


「この現象……確か書物で読んだな。まさか、この先に?」


 クリスが一旦下がると、肩で呼吸をしていた。


 沢山いたモンスターたちがほとんど消えており、クリスの異常さがよく分かる。


「ご苦労さん」


 汗を拭うクリスが、俺に返事をしてくる。


「本当に疲れたぞ。だが、充実していた。やはり、日頃の鍛錬も大事だが、実戦も大事だな」


 ……楽しかったようだ。


 ナルシス先生が俺たちに叫んだ。


「みんな気をつけろ! もしも書物通りなら、もっと厄介なモンスターが出てくる!」


 クリスが再び気合をいれるも、俺は肩を叩いて下がるように言う。


「まだだ。残敵を片付けたら少し休憩だ。……厄介なのがいるのはこの先だからな」


 俺がそう言うと、ナルシス先生が俺を警戒していた。


「リオン君、君は何か知っているのか?」


 俺は荷物からマリエのノートを取り出す。


 そこに書かれているのは、聖樹の苗木の入手方法だった。


 あいつの知識も役に立つじゃないか。


「秘密です」


 そう言って残ったモンスターに俺は襲いかかった。



 進んだ先は行き止まりだった。


 だが、天井から光が入るその広い部屋には、神々しい光を放つ苗木が存在していた。


 ただし……その前には、かなり大きなモンスターが存在している。


 体つきは熊に近いが、その顔が凄い。


 象の鼻。


 二本の角を持ったモンスターは、後ろ足で立ち上がると俺たちを前に威嚇してくる。


 ナルシス先生が狼狽えていた。


「何でこいつが? こいつはキメラビーストだ。複数の特徴を持った厄介なモンスターだよ。みんな、ここは下がって――」


 下がれというナルシス先生の言葉を遮ったのは、ジルクのライフル音だった。


 すぐに構えて目を狙い撃ちやがった。


 キメラビーストが目を撃ち抜かれ、痛みに悶えて暴れている。


 ジルクはニヤリと笑っていた。


「さぁ、皆さん。援護は任せてください」


 剣を握っている嬉しそうなクリスは、


「手応えがありそうだ。私は――こんな奴と戦ってみたかった!」


 喜んで斬りかかる。


 出遅れたユリウスが剣を抜いて、


「クリス! お前一人ばかりに目立たせないぞ!」


 マリエに自慢でもしたいのか、強敵と嬉々として闘う三人だった。


 俺はヤレヤレと首を横に振る。


「まったく、どいつもこいつも馬鹿ですよね。先生は後ろに下がってください。お前ら! 俺の分も残せ!」


 ライフルを地面に置いて、持って来たショットガンに持ち替えた俺はキメラビーストの後ろに回り込み引き金を引く。


 背中を撃たれ、こちらを振り返るキメラビーストだったが、今度は足を撃ち抜かれる。


 俺たちに囲まれ、キメラビーストは雄叫びを上げた。


 弾丸に撃ち抜かれた目が再生し、そして体を低くして四足歩行になるとユリウスに向かって突撃する。


「殿下!」


 ジルクがすぐに射撃をするも、キメラビーストは無視してユリウスに狙いを定めていた。


 だが、


「俺を選んだか! ――よくやった!」


 背負っていた盾を構えるユリウスは、魔法の壁を用意するとキメラビーストの突撃を防いでしまう。


 突撃が止められたキメラビーストは、魔法の壁に頭をぶつけてフラフラしていた。


 そこに首を狙ったクリスの一撃が入った。


「これでぇぇぇえぇぇぇ!」


 クリスの斬撃は魔力の光で太刀筋が綺麗に見えた。


 半月になった太刀筋の光が霧散すると、キメラビーストの黒い血が噴き出す。


 ジルクが手榴弾を手に持ったので、俺は下がりながらショットガンの引き金を引く。


「お前らも離れろ!」


 ユリウスがクリスに近付き、盾を構えると魔法の障壁が発生した。


 手榴弾がキメラビーストに投げられ、爆発が起きると煙の発生と同時にキメラビーストも黒い煙に変わって消えて行く。


 煙が晴れていくと、ナルシス先生が口を開いてこちらを見ていた。


 俺は服についた埃を払う。


「お前ら戦闘が派手なんだよ」


 文句を言うと、クリスが反論してくる。


「バルトファルト、お前はなんで剣を使わない? お前なら背中に回って斬りつけられたはずだ。そうすれば、手榴弾なんて必要なかった」


「俺は安全圏で戦いたいの」


 ユリウスが肩を落としている。


「くっ! 盾を構えているだけで終わってしまった」


 それなりに活躍したジルクがユリウスを慰めている。


 だが、少し嫌みっぽく聞こえる。


「次がありますよ、殿下」


「お前は活躍したからいいだろうが、俺は活躍できなかったぞ! バルトファルト、次だ。次の機会では必ず俺を誘え」


 そう何度もダンジョンに入るわけがないだろうが。


 ナルシス先生が呟く。


「……王国の冒険者って怖いね」


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