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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第三章

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【幕間】 クレアーレレポート その1

発売日も近付いたので更新してみました。


乙女ゲー世界はモブに厳しい世界ですは、【5月30日】発売です!


予約も開始しているので是非とも利用していただけたらと思います。


 学園は随分と慌ただしかった。


 貴族たちが大量に粛清(しゅくせい)されてしまったのが原因だ。


 公国との戦争に理由もなく参加を拒否した貴族たちは、問答無用で改易となった。


 色々と理由を付けて参加をしなかった貴族も同じだ。


 領地や財産を召し上げ、その後に領地替えと称してうまみのない土地を与える。


『まさに中央集権を目指したい王国らしいわね』


 クレアーレの感心した様子に難しい表情をするのはアンジェだった。


「皮肉か?」


『私はルクシオンのひねくれ者と違って素直に褒めているわよ。気になるのは反乱や復讐かしら?』


 貴族の地位を追われた者。


 爵位を取り上げられた者。


 地位が下がった者。


 王国内には不満を持つ者たちが大勢いた。


「……そうだな。気をつけるとしよう」


 アンジェの言葉に、クレアーレは表情をよく観察する。


『恨まれていると分かっている顔ね』


「これでも貴族の娘だ。生きているだけで恨まれると知っている。だが、今回ばかりは私個人を恨む者たちも増えた」


『逆恨みだと思うけどね』


 ――粛正された中には、アンジェを裏切った取り巻きたちもいた。


 実家が貴族ではなくなり、ただの平民になってしまった貴族だった学生たち。


 アンジェの土下座を見て笑っていた生徒たちは、春からは学園で姿を見ていない。


 在校生も随分と減ってしまった。


 新入生はもっと少なく、学園内は少し寂しい雰囲気に包まれている。


「そうだな。だが、何をするか分からない。リビアにも気をつけるように言っているが、少し心配だな」


 アンジェはともかく、リビアは人に恨まれることになれているとは思えなかった。


『そちらは私が何とかするわよ。それよりも、今日は二人とも別行動ね』


「新入生の集まりに私が交ざっても困るだろう?」


 リビアが交流している新入生とは、同じ平民出身の生徒たちだ。


 数名が入学しており、リビアが面倒を見ている。


 来年度はもっと一般生徒を増やす方針のようだ。


『確かに周りが困るわね』


「お前もハッキリ言う奴だな」


 アンジェが読書を再開するのを見て、クレアーレは思考する。


(反抗的な勢力を中央から遠ざけ、貴族ではない生徒たちを学園に受け入れ教育する――十年二十年もすれば、そんな彼らが下級役人の仕事をするようになるわね)


 混乱するホルファート王国だが、それでも国を維持している。


 王宮は随分と慌ただしいようで、アンジェの父親であるヴィンスも王宮で仕事をして領地に帰っていなかった。


(ちょっと気になるわね。そうだ、王宮を覗いてみましょう。マスターが、あのローランドの弱みを握れと言っていたし)


 嫌がらせをするためにローランドの弱みを握ろうとするリオンは、クレアーレから見ても小物過ぎる。


 だが、旧人類の遺伝子を受け継ぐ大事なマスターだ。


 そんなリオンの願いに応えるべく、クレアーレは王宮に忍び込むことにした。


『ちょっと出かけてくるわ』


「そうか」


 アンジェの部屋から出て行くクレアーレは、その姿を周囲に溶け込ませ消えると王宮へと飛んだ。



 王宮内はとても忙しそうだった。


 役人たちは目の下に隈を作り、青い顔をして働いていた。


 書類整理だけでも山のように存在し、おまけに処分に納得できない貴族たちが毎日のように押しかけてくる。


 軍も抵抗する貴族たちへの対処で動き回り、おまけに王都の復興でも忙しい。


『確かにこんな状態では、マリエたちを守るのも難しそうね』


 王妃であるミレーヌの部屋を覗けば、机に向かっている本人の姿があった。


 周囲には侍女たちがいて、書類の仕分けを行っている。


 クラリスの父であるバーナードが、新たに緊急の書類を持って来た。


 書類の束を見るミレーヌは、驚いた様子もない。


「王妃様、こちらのご確認を先にお願いいたします」


「何かあったのかしら?」


「領地の召し上げに反対する貴族たちが決起を行いました」


 日和見をしていた貴族たちが、王国の対応に腹を立て決起した。


 その話を聞いてもミレーヌは慌てない。


「すぐに待機させている軍を派遣しなさい」


 書類を確認しつつ、待機させていた飛行船の艦隊を出撃させるように命令する。


「彼らの処遇は?」


「降伏するのなら領地替えで許しましょう」


 クレアーレはワクワクしていた。


(あら? 荒れ果てた領地に逆らった連中を押し込めて開拓させるのかしら? うまくいけば、将来的には取り上げそうね)


「降伏しない場合は?」


「……綺麗に処理しなさい。見せしめになって貰います。今後決起する愚か者を出さないようにしないとね」


 思っていた以上に淡々としているミレーヌを見て、クレアーレは気になった。


(一発逆転があるから気が抜けないというところかしらね。見えないところで頑張っているのは確か……あら? 王様はどこで何をしているのかしら?)


 フワフワと浮かびながら、部屋を出て行くバーナードについていき部屋を出て行く。



 ローランドは慌ただしい王宮で、女性とのお茶を楽しんでいた。


「陛下ったら嘘吐き~」


「ん~、陛下は嘘つかないぞ。私は凄いんだぞ。あの糞ガキ――じゃなかった、救国の英雄リオンすら、私には逆らわないんだぞ」


「本当ですか~?」


 間延びした媚びた声で話をする女性と、手を取り合って笑顔で話をしている。


 ミレーヌとは違い、周囲にいる護衛たちは護衛としての仕事を果たしている。


「本当だとも。私が本気を出せば、あんな小僧は一ひねりだ。私が王という立場でなければ、今頃は私が英雄で――」


「ほう、面白い話ですな」


 女性を口説いているローランドの部屋に入ってきたのは、少しやつれているヴィンスだった。


「陛下と話がある。お嬢さん、すまないが席を外してはいただけないかな?」


 父親の着替えなどを持って来た貴族の娘は、ヴィンスが来ると慌てて立ち上がって頭を下げ部屋を出て行く。


 ローランドが名残惜しそうに手を伸ばしていた。


「あぁ、待って! ……ヴィンス、酷いじゃないか。頭の緩そうな可愛い娘だったのに」


「頭が緩いのは陛下ではありませんかな?」


 ヴィンスが乱暴に椅子に座ると、陛下を睨み付けていた。


「随分と楽しそうですな、陛下」


「そう見えるか? これでも国のことを憂いているのだ。私に出来るのは、世継ぎを残すことだけ。そのために邁進している」


「腰を振らずに手を動かして欲しいものですな」


「ミレーヌに任せている。それに、仕事は出来る者に任せるべきだ。その方が効率的だ。優秀な家臣がいて私は幸せだな」


 まるで女性を口説くのが仕事と言っているような態度だった。


 たとえるのなら、


『働かずに食う飯はうまいか?』


『お前たちが必死に働くのを見ながら食う飯は最高だ!』


 みたいな会話に聞こえてくる。


 ヴィンスが額に青筋を浮かべながら笑みを浮かべていた。


 クレアーレは器用だと思ってしまった。


「――それはよかった。優秀と言っていただけて嬉しい限りです。では、一つ聞かせていただきたい。娘の婚約者を昇進させた件です」


 クレアーレは興奮する。


(あら、マスターの昇進理由が聞けるチャンスね。大体予想は出来るけど、真相は何だったのかしら?)


 公国との戦争で、総司令官をしたリオンを昇進させない方が不自然だ。


 だが、本人の希望もあって、別な形で報酬を用意するという話が決まっていた。


「あの件か? 前にも言ったが、昇進させた方が自然だから」


「本人の希望を無視して、ですかな?」


「国王として国を優先したにすぎんよ。それに、どこかの公爵が有望な若者を取り込もうと必死だったからな。邪魔をしたかった」


「――娘が既に婚約しております。下手な手出しは無用に願いたいですな」


「バーナードは最後に賛成してくれたけどね」


「娘の結婚を餌に丸め込んだというわけですか」


「娘のことを思う父親の気持ちを分かってやったらどうだ? 私も“可愛い娘”を持つ父親として、バーナードの気持ちもよく理解できる」


「ぬけぬけとよくも――」


 既にリオンを奪い合って何やら動き出している。


(昼ドラみたい。ちょっとワクワクするわね)


 これからのことを想像し、クレアーレはリオンの周囲はしばらく騒がしくなるだろうと予想するのだった。


 そして、


(“可愛い娘”ね……これは調べてみる価値がありそうね)


 ――ローランドの弱みも見つけてしまった。


作者のページに飛んで貰えれば、活動報告が見られます。


そちらにて“書影やラフ”を公開しているので、書籍版のイラストが気になる方は是非とも見ていただければと思います。


それでは、今後とも応援の方をよろしくお願いいたします。

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