カメラ機能の迷走は「α」の呪縛か?
石川氏:それで言うと、4KだからできたXperia Viewもできなくなる。あと、カメラアプリが1つになるのもいいけど、Photography Proを使いたい人は、後からアプリをダウンロードできるようにすればいいはず。ソニーいわく、解像度が違うから無理とのことです。
石野氏:無理じゃなくて、ちゃんと開発してくれよっていう話ですよ。
石川氏:そう。大衆に寄せるのはありだけど、これまでXperiaを気に入って使っていたユーザーは、はしごを外されることになってしまう。2023年発売の、「Xperia 1 V」を買い占めるしかなくなってしまいます。
石野氏:スマホ本体を横向きにして撮影するカメラアプリとして、Photography ProのUIは悪くなかったと思うんですけどね。
法林氏:Photography Proは新型に継続してもよかったよね。デジカメとかαシリーズを使っている人からすると、細かい設定ができるのは便利。逆に、動画撮影用の「Cinema Pro」はいらなくない? この辺りを根本的に勘違いしている気がする。あと、解像度が違うから、Photography Proを搭載できないという話があったけど、Xperia 5シリーズはFHDだよね。つまり、FHDの環境はあるので、アプリを作ろうと思えば作れるはず。
石野氏:アスペクト比が違うという話ではなくて?
法林氏:アスペクト比が違っても、画面を隅々まで使っているわけではないし、縮めればいいだけの話。それができないのが不思議です。
石川氏:ソニーに開発する余裕がないんじゃないですかね。
石野氏:Xperia 1 VIが大衆向けになったことで、Xperia 10シリーズから買い替えやすくなったのはいいけれど、ここまで普通のスマホになってしまうと、ハイエンドスマホとして足りない部分が目についてきます。AI機能が全然ないとか。ソニーAIと言って、カメラにAIをたくさん使っているとは言ってますが……。
石川氏:しかも、ソニーAIを前面に打ち出してくるかと思えば、そうでもない。それでこんなに変わるなら、Xperia 1 VIというネーミング自体も違う気がします。ゼロからやり直すくらいの名づけ方をしてもよかった。
法林氏:あと、Xperia 10 VIは画面の縦横比は21:9のままなんだよね。全体のコントロールが効いていないというか、αシリーズに寄せてきた数年間が、音を立てて崩れているような気もします。
石野氏:発表会にも登壇しましたが、ソニーのXperiaの責任者が今回の端末から変わっています。今はαシリーズと兼任の人がトップに立っているので、Xperiaは、これからもっとαっぽくなっていくと思っていたら、普通のスマホ路線に舵を切りましたね。これにはびっくりしました。
法林氏:Xperiaのペリスコープカメラがすごいのはわかるけど、ユーザーは気にせずデジタルズームで撮影しちゃうし、撮った写真も画像処理のおかげで、そこそこきれいに見えちゃう。「光学ズームで撮影する」ことが目的なのか、「きれいに撮影する」ことが目的なのかを考えると、デジカメ路線で進んできたXperiaが、一番割を食っている気もする。
石川氏:スマホで撮影する写真と、デジカメで撮影する写真は別物ですしね。
法林氏:そうだね。αシリーズを持っている人が、サブ機としてXperiaを求めるのはわかるけど、そのマーケットと、スマホのマーケットサイズは、一桁では済まないくらい違う。
石野氏:1つ思ったのは、Xperia 1シリーズは20万円前後で、販売台数が伸びるモデルではないので、方向転換をするなら、Xperia 5シリーズからにしてほしかった。そこで様子を見て、Xperia 1シリーズに反映しても遅くはなかったと思います。
法林氏:Xperia 5 Vでカジュアル路線のプロモーションをしていたけど、中身を見ると、従来の仕様。中途半端だったよね。
石川氏:ソニーに残されている時間は少ないので、早く結果を残さないといけないのかなとも思います。
石野氏:Xperia 5 Vがカジュアルになったのも、今回の方向転換の布石だったのかなと思います。ただ、もう少し我慢して、Xperia 5 VIから19.5:9とかにしてほしかったですね。
法林氏:そこは、Xperia 1 Vの売上も関係しているだろうね。
石川氏:あと、Xperia 1 Vは全キャリア採用の端末ではなくなっているので、これで火が付いた可能性もあります。キャリアが選別する時代になったので、ブランドの生き残りをかけた軌道修正なのかな。
法林氏:スマホがコンデジの市場をかなり狭くしてしまったので、逆にデジカメユーザーが流れて来ないかなと思ったけど、そうでもない。あと、コンデジの代わりにはなり切れるかというと、操作が難しすぎる。
石川氏:コンデジでも、多くの人は、基本はオートで撮影しますからね。
法林氏:我々はカメラの設定をするけど、一般的にはなかなかしないよね。
石野氏:設定に慣れると、それはそれで楽しいんですけどね。Xiaomiの「Xiaomi 14 Ultra」が、カメラキットを着けて、コンデジ感を出している中で、Xperiaは絞りが変えられなかったりと、カメラ好きからすると、かゆいところに手が届かない。センサーとUIでやってきたけど、もう少し好きを極めてもよかったと思う一方で、そういうマーケットがなくなってしまったのかもしれない。Xiaomiのように、グローバルで売れていればいいけど、日本中心だと、ハイエンドモデルでカメラに寄せるのは、リスクが高い。
法林氏:そもそも世の中的に、コンデジのニーズがかなり少なくなってきているからね。そんな時に、デジカメ並みと言われてもね。Xperiaが売れたら、逆にデジカメが売れなくなるかもしれないから、ソニー的にそれでいいのかという疑問がずっとありました。
石川氏:今のXperiaは、体制としてαの下にあるので、αと食い合わないように、カジュアル路線に向かうのはわかる。写真を極めるのはαだし、Xperiaの良さは通信機能なので、データトランスミッターになるのかもしれない(笑)
法林氏:今売れているコンデジって、ソニーのVlog用カメラだったりする。Xperiaがそっちに向かうと、またαシリーズを追いかけていた状況と同じになりかねないよね。
石野氏:今回はそっちに寄せた感じもありますよね。動画に寄せた。
石川氏:そもそもXperiaも、ケーブルをつないでVlogカメラみたいにする周辺機器が売られていたけど、全然売れなかったですね。
法林氏:デジカメの機能に寄せすぎないで、デジカメユーザーがやりたいことの実現を優先する。GalaxyやiPhoneの方向性が合っていたのかな。シャープの1インチセンサーをどう見るのかという話はあるけど、光学ズームはGalaxyあたりを使うのが幸せなのかな。
石川氏:Xperiaは、ソニーにαがあることによって、いろいろな呪縛があって、逆に難しかったですね。
法林氏:もしかしたらデジタルカメラの部門があまりかかわらない方がスマートフォンはのびのび企画できたのかもしれないね。市場が小さくなったとはいえデジカメはデジカメ。それに似せたものをスマートフォンで再現しても、市場のニーズに限度はあると思う。
……続く!
次回は、ドコモとAmazonがdポイントで連携した件を会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦