■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、今回はソニーのXperiaシリーズについて会議します。
Xperiaが〝縦長デザイン〟をやめる!?
房野氏:Xperiaの「Xperia 1 VI」、「Xperia 10 VI」が発表されました。特にハイエンドのXperia 1 VIで驚きだったのが、ディスプレイの縦横比率が、21:9から変わったこと。ディスプレイ解像度も、4KからFHDに変わりましたね。
石川氏:そうですね。これまで「好きを極める」をコンセプトに、映画を見たり、映画クオリティの映像を撮るための端末だったのが、今回で大きく方向転換しました。今までのメッセージもソニーらしくて良かったですけど、市場を見ていると、Xperiaの売上が落ちていることは推測されるし、ソニーが想定した〝スマホで好きを極める人〟はそこまでいなかったのかな。
実際、Xperiaは何台も使用してきましたが、カメラアプリが3つあってよくわからなかったりした。今回、従来の機能も一部踏襲しつつ、カメラアプリを1つにして、シンプルでわかりやすくなった点は評価できるけど、ソニーが極めてきた部分がなくなるのはどうなのか……自分には判断しきれませんね。販売台数を取りに行くのはわかるけど、今さらその市場が残っているのかという疑問もあります。
石野氏:そうなんですよ。僕もXperia 1 VIを見た時、「よくわからない」と思ってしまいました。やりたいことはわかるけど、売れるかどうかがわからない。これまで採用されていた21:9のディスプレイは、デザイン面にも影響があって、シュッとして、ベゼルが細くて、横向きにすれば映画も欠けがなく見られるという特徴がありましたが、19.5:9に比率が変わって、ぱっと見で違うものだとわかります。普通のスマホっぽいというか、〝Xperia感〟が薄くなっている。横幅が長くなっているので、手になじむ感覚も減っていて、「うーん……」っていうのが、第一印象です。
カメラアプリも、ひとことで言えばiPhone風。タブでモードが切り替えられて、プロモードにすれば、デジカメのαシリーズ風機能が利用できる。オートで撮るならこのUIのほうがいいし、シャッター速度やISO感度を変える人はあまりいないはずなので、いいのかもしれません。ただ、これまでXperiaを求めていた人って、シャッターボタンがあるし、横向きなら、普段使っていたカメラのように設定できるのがよかったんじゃないかなと思ってしまいます。
ソニーとしては、クリエイターも縦動画を撮ることが増えているので、Instagramなどに対応した撮り方ができるようにならないといけないと主張はしている。それは一理あるけど、個性みたいなものが失われてしまっているというか、「カメラの操作がわかる人向け」という尖り方がなくなっていて、ダメではないけど、少し寂しさを覚えます。
石川氏:振り返れば、2023年発売の「Xperia 5 V」から、方向性が変わっているような印象もあったよね。
法林氏:Xperiaがシリーズをリニューアルして、Xperia 1が登場した時からやってきたことはわかるし、クリエイター層に訴求したいのもわかるけど、エントリー層をXperia 1シリーズに導くためのラインアップをソニーは持っていない。カメラアプリの「Photography Pro」は、αシリーズと同じUIだとアピールしても、途中のステップがないので、ユーザーがついて来られないことは、毎シーズンわかっていたはず。
ようやく標準路線に戻したという感じだけど、じゃあこれまでの4、5年間はなんだったのかと思ってしまう。標準路線に寄せたこと自体はポジティブな要素だと思うけど、今からユーザーに浸透させていくだけの体力がソニーに残っているのかが問題です。
今回のモデルは、ディスプレイを4KからFHDに変更しているのもツッコミどころ。なんで間のQHDをやらないのか。そんなに差はないし、省電力のためにFHDにしたというのはわかるけど、じゃあなんで去年まで4Kだったの? と思ってしまう。
石野氏:スマホの画面に4Kはいらないということを、ついに認めたなという感じです(笑)
法林氏:どんなにやってもQHDで、コンテンツを見たい人が使うものだよね。
石野氏:Galaxyの一部機種もQHDに対応していますけど、ハイパフォーマンスモードにしないとQHDにはならないんですよね。使ったことがない人も多いと思います。Samsung Gear VRを使う時には、ディスプレイが目の近くになるので、解像度が必要だし、Galaxy Z Foldシリーズのような大画面だと、QHD程度は欲しいなと思うことがありますが、6インチ強ほどのスマホサイズではいらない。30インチ台のテレビにもFHDのモデルはたくさんあるし、それに対して「明らかにドットの粗が目立つ」とは感じないじゃないですか。
そう考えると、Xperiaもついに実を取ってきたというか、〝スマートフォンに4K〟はマーケティング用語に過ぎなかったと認めたなという印象です。代わりに、色の映りがブラビアと同じになる「ブラビアチューニング」をXperia 1 VIに入れたことを推していましたね。
法林氏:前の機種と比べたら、Xperia 1 VIがブラビアに近い色になるという理屈はわかるけど、テレビに近い色味にチューニングするのは、シャープがケータイの時代からやっていることですよ。
房野氏:4Kではなくなったので、代わりの売り文句が必要だったという感じですね。
石野氏:そうです。マーケティング上の足し算、引き算という感じ。