東南アジア随一の高所得国シンガポールで人気のセレクトショップがある。日本の高感度ファッションを持ち込んだ「コロニークロージング」。10年前、広島市出身の河村浩三さん(47)が立ち上げた。常夏の国にマッチする快適さと洗練されたスタイルを提案。最近、広島発のファッションを海外につなぐ役目を意識し始めた。(聞き手・栾暁雨、写真・大川万優)
かわむら・こうぞう 広島市安佐南区生まれ。修道大在学中にセレクトショップ「ビームス広島」でアルバイトし、卒業後の1998年ビームス入社。翌年、新宿店に異動し2005年に店長。銀座店や本店勤務を経て、13年にシンガポールで「コロニークロージング」を設立。妻と子ども2人がいる神奈川県藤沢市との二拠点生活。
―シンガポールってラフな装いの人が多い印象です。
Tシャツにショートパンツ、サンダル姿が目立ちますね。一人当たりのGDPが日本の倍ほどもあり富裕層も多いのですが、正直ファッション感度はいまひとつ。食や車にお金を掛ける一方で、着る物には無頓着な人が多い印象です。
現地のファッションはほぼ2択。シャネルやエルメスのようなハイブランドか、ユニクロ、ザラといったファストファッションか。セレクトショップ自体が存在せず、うちのような客単価5~6万円ほどのミドルクラス店も少ないです。
だからこそ商機があると思いました。目立たないけどファッション偏差値が高い人はいて、今までにない選択肢を提供できる。セレクトショップの根幹は「編集力」。独自のコンセプトに沿って複数のブランドから商品を仕入れるには、時代や場所にフィットした視点が欠かせません。
ニーズを嗅ぎ取って、選んで、提案する力はビームスで培われた。現地で飲食店を経営する友人の誘いで開店したのですが、不思議と「きっとうまくいく」という自信がありました。
―仕事とリゾート、両方のライフスタイルを満足させる服が支持を得ています。
コアなファンが生まれ売り上げは順調です。シンガポールはかつて英国の植民地で、欧州とアジアをつなぐ中継貿易の拠点。東洋と西洋、人種と国籍が混ざり合う地では、アジア人の体形に欧米の文化をミックスした「ニューコロニアルスタイル」が受けると思ったんです。日本のように四季を楽しみながら服を着替えることができない代わりに、素材や色柄で遊びます。
店名を冠したオリジナルブランドも立ち上げました。全て日本製。オーダーシャツも縫う工場やパンツを90年作り続けている工場で作っています。「メイドインジャパン」が人気ですし、90年という歴史の重みは、1965年建国の若い国に対して売りになります。
―テーマに掲げる「ラグジュアリーリゾート」と「ジェットセット」とは。
世界からビジネスマンが集まり、バカンス文化もあります。前者は、富裕層やビジネスマンがバカンスに行くシーンを想定しています。
狭い国なので、休暇はタイやフィリピンなど近隣国の高級ホテルに出掛ける人が多いのですが、Tシャツではラフ過ぎて浮いてしまう。僕らが提案するのは麻のシャツをさらりと羽織るようなスタイル。涼しくて上品です。ドレスシャツを思わせるデザインでクオリティーを担保しつつ、リラックスできるようボタンは付けない工夫もしています。
基本的なことですが、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)を考えた服選びが大切。休暇中でもラグジュアリーな場所ではそれなりの装いが求められます。TPOにそぐわないと、おしゃれも台無しですから。
―「ジェットセット」はどんなイメージでしょうか。
東南アジアのハブ空港があるシンガポールでは、飛行機で各地を飛び回る「ジェットセッター」が多い。空港のラウンジや機内でくつろぐためには着心地と機能性が大切です。扱うのはポケットがたくさん付いていてシワになりにくく、気軽に洗濯できる服。僕自身、オリジナルブランドのポップアップや展示会で1年の半分は海外を巡る生活なので「自分が着るなら」という視点もあります。
先日、気温30度のマニラからマイナス6度のソウルに移動しました。着用したのはスエード素材のシャツとパンツ。東レが開発し、高級車のインテリアにも使われています。車のシートって汚れたらさっと拭き取れるでしょ。その耐久性を服にも生かしたいなと。汚れにくく、何より抜群に格好いいんです。ちなみに今日も着ています。
―最近はデニムがジェットセッターに注目されているそうですね。
丈夫でシワになりにくくオールシーズン着られるので、気温差が大きい移動でも重宝します。季節を問わないということは市場も広いということ。海外では「ジャパンデニム」がキラーコンテンツです。
中でも「備後デニム」は高品質でしなやか。12月上旬、大手アパレルの担当者たちと国内最多の生産量を誇る福山市を訪ね商談会を開きました。ただ技術は素晴らしいのですが課題もある。










