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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第三章

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リビアの力

 公国軍の旗艦。


 王女殿下の私室。


 ヘルトラウダの横には、ヘルトルーデの姿があった。


「お姉様は大地の守護神を呼び出さないでください。天と海――双方の守護神がいれば十分に目的を果たせます」


「ラウダ……貴方には辛い役目を押しつけてしまったわ。私がこの魔笛を使ってさえいれば」


 ヘルトラウダは首を横に振る。


「どちらかが背負う役目でした。お姉様が失敗した時点で、私が次に王国へ向かうのは決まっていたことですから」


 ヘルトルーデは魔笛を握りしめ、そして涙を流す。


 魔笛の真の力を発揮した場合――その対価に求められるのは、使用者の命だ。


 引き換えに守護神と呼ばれる超大型を使役できる。


「ラウダ、私は分からなくなりました」


 ヘルトルーデの言葉に、ヘルトラウダは明確な答えを持たない。


 もう、意味がないからだ。


「ミレーヌ王妃様の言葉が真実であったとしても、我々は止まることが出来ません。王国を沈め、大陸を浮かせる浮遊石を奪い――公国は新しい大地を得ます。公国が真の大国となるために必要なことです」


 公国が王国を沈める理由は、王国が持っている――王国の大地を浮かせている浮遊石が欲しいからだ。


 その浮遊石を持ち帰り、自分たちの領地を広げるためだ。


 正攻法では勝てない公国が、大国となるためにはこれくらいの強引な手法が必要だった。


「私たちは正しいのかしら?」


「私には判断できません。全てが終われば、お姉様に後を託すしかありませんから」


 姉妹の両親は事故で亡くなっている。


 王族もいるにはいるが、跡取りとして口伝やら教育を授けられたのは二人だけだ。


 どちらかが生き残り、国を導く必要があった。


「……お姉様、王国ではどのように過ごされていたのですか?」


 ヘルトルーデが妹と話せる時間は残り少ない。


 だから、なるべく楽しい会話がしたかった。


「学園という場所にいましたよ。そこに留学生として通いましたね。想像以上に酷いところでした」


 女子生徒が奴隷を連れ回し、男子生徒たちを見下していた光景はヘルトルーデも知っていたが衝撃だった。


「あの外道騎士も女性にペコペコ頭を下げていたのよ」


「バンデルを倒した外道騎士が? 王国はどうしてそのようになったのでしょうね? 公国が大公家だった時代は、私たちと変わらなかったと聞いていますが」


「そうね。変な国よね。女子のために飛行船まで出して冒険をするのよ。私があの魔装の右腕を見つけた島は、エルフの島だったわ」


 目を輝かせるラウダの姿を見て、ヘルトルーデは冒険の話をする。


 大公家も元は冒険者の家系だ。


 幼い頃からこういった話を聞かされて育つ。


 ヘルトルーデが話し終わると、ラウダはニコニコしていた。


「お姉様は冒険をしたのですね。うらやましいです。私には、もう時間がありません」


「ラウダ」


 妹を哀れむヘルトルーデだが、時間が来てしまう。


 騎士が報告に来た。


「ヘルトラウダ王女殿下! 王国軍の接近を確認いたしました!」


 ラウダの表情が子供のものから、一変して冷たいものへと変わった。


「すぐにいきます。……お姉様、私が倒れたら後は頼みます」


 王都――大陸中央まであと僅かの距離だ。


 そこに到着すれば全てが終わる。


 ヘルトルーデは妹に笑顔を向けるも、涙が流れていた。


「任せなさい。それと、私も側にいます」


「心強いです、お姉様」



 アロガンツを甲板の上に座らせていた。


 コックピットの中、俺は目の前の光景に強がりで口笛を吹く。


「何だよ、あの大きさ」


 超大型のモンスターの真下には、まるで守られているような公国軍の艦隊がいた。


 ゆっくりと王都を目指すモンスターに付き添っている。


『目標、射程圏内に入ります』


 馬鹿でかいモンスターは、雲をまとった多眼で多腕の姿だ。いくつもの大きな目が、王国軍に向く。


 パルトナーの後ろに付き従う王国軍の飛行船と共に、公国軍へと突撃を掛けようとしているところだ。


 超大型が、その手の一つを俺たちに伸ばしてくる。


『目標、接近してきます』


「ぶちかませ!」


 俺の言葉にあわせ、抜け殻になってしまったルクシオンが『了解』と呟く。いつもの憎まれ口もなければ、必要最低限の会話しかない。


『ミサイル発射します』


 パルトナーのミサイル発射口から、一発のミサイルが発射された。


 それは真っ直ぐに超大型の手にぶち当たると、大爆発を起こして大きな手を吹き飛ばしてしまう。


 パルトナーすら握りしめそうな大きな手が吹き飛び、黒い煙に変わっていく。


「どんどん撃とうか!」


『砲撃開始』


 パルトナーの大砲が火を噴き、超大型に命中すると大きな爆発を起こす。ミサイルが次々に発射され、腕を吹き飛ばしていく。


 そのまま船首の向きが変わると、パルトナーは加速した。


『敵艦隊、隊列に変更を確認』


「遅い!」


 自慢のラスボスが腕を吹き飛ばされ、慌ててこちらを迎え撃つ準備を始めたのだろう。


 通信状況が悪いのは、あちらも同じなのかモタモタしている。


 パルトナーのすぐ後ろに続くのは、家族や友人たちが乗り込む飛行船だ。


 現在、もっとも性能がいいのはこいつらの飛行船だ。


 甲板の上で、アロガンツを立たせライフルを構えた。


 公国軍の艦隊の周囲を飛んでいるモンスターたちを撃ち落とす。何千、何万といるモンスターたち――その相手は、パルトナー以外が行うことになっていた。


 パルトナーは超大型への攻撃で忙しい。


 艦隊戦での撃ち合いと、モンスター退治は、味方艦に任せるしかない。


 どんどんと敵との距離が縮まると、砲撃が開始された。


 モンスターたちが撃ち抜かれ、黒い煙に変わっていく。


 パルトナー目がけて次々に砲弾が撃ち込まれるが、それらがぶつかり弾けてもたいしたダメージにはならなかった。


 飛行船を守るように展開されたバリアが、全てを弾いてくれる。


 船体の側面に大砲を並べている飛行船が主流であり、敵はこちらにその腹を見せているようなものだ。


「食い破れ」


 パルトナーが公国軍の目と鼻の先まで来ると、すぐ後ろの味方艦が船首に取り付けた大砲を次々に放つ。


 公国軍の艦艇の周囲に魔法的なバリアが展開されるも、撃ち抜かれ飛行船が沈んでいく。


「最新式だ。その程度で守れると思うなよ!」


 味方艦が沈み、鎧が次々に飛び出してくる。


 パルトナーの進路を邪魔するように、一隻の飛行船が側面を向け出現してきた。


 並べた大砲を一斉に放ってくるが、それらをパルトナーは全て防ぐ。


「その程度じゃ抜けないぞ。それに、体当たりも得意だ」


 パルトナーの船首が飛行船の側面に突撃して、くの字に折ってしまった。


 更にそのまま前進し、飛行船は前後に切り離され落ちていく。


「懐に入ればこちらのものだ」


 既に超大型の真下に入り込んでいた。


 この状態なら、超大型の攻撃も受けない――はずだ!


 次々に突撃してくる王国軍の飛行船が、鎧を出撃させると両軍が激しく戦う混戦状態に突入した。


「第一段階クリアだな」


 パルトナーからミサイルが数発発射され、超大型に命中すると爆発により吹き飛んで黒い煙へと変わった。


 その黒い煙を、渦巻いた雲が吸い込んで更に黒く大きくなってく。


 早朝に突撃をかけ、明るかった空は分厚く黒い雲に覆われてしまった。


 そんな黒い雲から、復活したようにまたも超大型が出現する。


 多眼の目が全てパルトナーを見ていた。


「すぐに復活しやがる。このまま攻撃を続けて動きを封じるぞ」


『――敵機接近』


 パルトナーの甲板に着地し、アロガンツに向かってくる公国の鎧。


『見つけたぞ、外道騎士!』


「外道? 自分だけが道を踏み外していないみたいに言うな!」


 俺を殺しに来るお前も、これからお前を殺す俺も同じ穴の(むじな)ではないか。


 ライフルを向けて引き金を引くと、腹部を撃ち抜かれて甲板を転がる。


 見上げると、飛行船や鎧がパルトナーを取り囲みつつあった。


 ライフルを真上にいる飛行船に向け、引き金を引くと機関部に命中して火を噴いた。パルトナーに落下してくるが、バリアに守られパルトナーには傷一つ入らない。


 ノイズが混じった声が聞こえてくる。


『鎧で破壊する!』

『奴を討ち取れば出世は思いのままだ!』

『貰ったぁぁぁ!』


 左手に斧を持たせ、近付いてきた鎧を斬る。


 右肩から腹部までを抉り、パイロットは助からないとすぐ分かった。


 ルクシオンが俺に指摘してくる。


『反応が遅れています』


「そうだね!」


 もう一体は頭部に斧を振り下ろし、胴体まで刃が届くも引き抜けずに斧を手放した。


 三機目はライフルの弾丸で撃ち抜くと、新しい武器を左手に持たせる。


「――頼むぞ」


 一度だけヴァイスに視線を向けた俺は、空を見上げて飛び立った。



 ヴァイスの艦橋。


 公国軍に突撃し、混戦状態に持ち込んだ王国軍は激しく戦っている。


 その様子を見ているアンジェは、震えているリビアを抱きしめ支える。


「リビア、少し休め」


 首を横に振るリビアの目からは、涙がこぼれていた。両手で頭を押さえ、そして呼吸が乱れていた。


「苦しいです。どうしてみんな戦うんですか? こんなに苦しいのに……どうして」


 アンジェは答えに悩む。


「……どうしてだろうな」


 答えは知っていた。


 アンジェはその答えを学んできたが、実際に目にすると答えが分からなくなってくる。


 リビアが胸を押さえると、そこにマリエが入ってくる。


「ちょっと! この船の周りにも敵が集まってきているんですけど!」


 聖女の格好をしたマリエに、アンジェは一喝した。


「静かにしろ!」


「は、はい!」


「周囲に護衛艦もいる。それに、この船は簡単には落ちない」


 周囲に浮かんでいたクレアーレが頷いて見せた。


『一番の脅威は真上にいる超大型と呼ばれているモンスターですね。それ以外の飛行船に、この船は落とせません。それよりも、お二人の準備はよろしいですか? あと、マリエも』


 オマケのように扱われたマリエは不機嫌そうだが、アンジェが怖いのか黙っていた。


 アンジェはリビアを支え、そして優しく語りかける。


「リビア、こんな戦いは早く終わらせよう。出来るな?」


 リビアが泣きながら頷き、胸の前で両手を組む。


 祈りを捧げるような格好になると、アンジェもその姿を真似た。


(何だ? 胸が苦しい。それに――悲しくて涙が)


 周囲の声が聞こえてくる。


《助けて! 死にたくない!》

《母さん、助けて!》

《だから、戦争なんてしたくなかったんだ》


 消えて行く命を感じ、アンジェも胸が苦しくなってくる。


(お前は、これをずっと感じ取っていたのか?)


 クレアーレの声がする。


『船が共鳴とでも言えばいいのでしょうか? オリヴィアさんの能力に反応していますね。不思議な性能です。マニュアルにこんな機能はなかったはずなのに』


 マリエは大きな口を開けて騒ぐ。


「いやぁぁぁ! 前から大きなモンスターが!」


 大きな口を開けてモンスターが迫ってきていた。


 クレアーレが『ふむ』と呟けば、ヴァイスの主砲に撃ち抜かれてモンスターが吹き飛ばされた。


『マリエ、貴方も力を発揮してください。お二人だけではどうやら足りないようです』


「え? 何をすればいいの?」


『とにかく二人を真似てください』


 慌ててマリエが二人を真似て祈り始めると、ヴァイスが震える。


 まるで本気を発揮しようとしているような――。


 アンジェは天井を見上げ、両手を広げる。


(……暖かい光があふれてくる。それに、落ち着く)


 思い浮かんだのは、夏休み――三人で温泉からの帰り道で話した光景だった。


 あんな日がいつまでも続けばいいのに、そんな感想だった。



 近付いてくるモンスターを斬り捨てたところで、俺は後ろを振り返った。


 周囲の鎧も、そして飛行船も動きを止める。


 戦闘が止まり、そしてモンスターたちが吹き飛ばされていく。


 暖かい光が戦場を包み込み、その光はヴァイスから放たれていた。


「――これが最終兵器か」


 モンスターたちが光によって消えて行くと、空の上にいた超大型モンスターも目を閉じて自分を守るようにいくつもの腕を交差させる。


 だが、光によってその巨体が黒い煙になって消えて行く。


「これで終わりか」


 多くの鎧が、手に持っていた武器を落としていた。


 通信状況が改善されていき、空を覆っていた分厚い雲すらかき消えて青空が見える。


「愛って凄いな! ――っ!」


 笑おうとすると、急に戦意がなくなっていく。


 感じたのは恐怖だ。まるで、無理矢理に戦意を奪われたような感覚だった。


 声が聞こえる。


(もう争わないで。私は――こんな戦いを見たくない。お願い、戦いを止めて!)


 リビアの声だ。


「そうか、これがリビアの本当の――」


 リビアの声は人の心によく届く。


 人の心を揺さぶる名言などでなくても、リビアが言えば人の気持ちを掴む。


 ヴァイスから音声が――リビアの声が聞こえてきた。


(もう、止めましょう。このままでは、多くの人たちが犠牲になります。戦いを止めてください)


 そんな言葉で戦いが終われば苦労はしない。


 しないが……本当に戦いが終わって欲しいという気持ちが、心の中に入り込んでくる。


 ルクシオンの抜け殻が呟く。


『精神攻撃を確認』


 そうだな。こいつは何て強力な攻撃だ。


 ヴァイスの能力で強化されたリビアの能力はとんでもなく凶悪だった。


 王国を恨んでいた公国の騎士たちが、武器を捨ててリビアの声を聞いている。


 ふざけるな! とか、このまま終われるか! ……そんな気持ちが、リビアの悲しい心の前に溶けていく。


 そして、俺に見えた光景は――懐かしい前世の思い出だった。


 超大型が不気味な声を上げて消えて行くのを見上げながら呟く。


「……何て酷い攻撃だ」


 この力は、使わせてはいけない……そう思った。



 公国軍の旗艦から、ヘルトラウダはその光景を見ていた。


 涙が流れる。


「……どうして私たちのために心を痛めるの。止めて。貴女たちは私たちの敵でなくてはいけないの。悲しむな!」


 リビアの心の痛みが流れ込み、胸が苦しかった。


 周囲の者たちも唖然とするか、涙を流してその場に座り込んでいた。


 戦意が奪われていく。


「こんな。こんなことで、私たちの恨みを忘れろというの。こんなことで」


 悔しい。


 だが、復讐心が奪われていく。


 段々と、自分たちが正しいのか分からなくなってきた。


 ヘルトルーデが、ヘルトラウダを抱きしめる。


「ラウダ、もう終わりましょう。空の守護神は、その姿を消してしまったわ」


 ヘルトラウダは首を横に振る。


「嫌。嫌よ。このまま終わったら、私は何のために命を失うのか分からない。私は――私は戦わないと!」


 魔笛を握りしめるヘルトラウダは、戦いたいのに心が嫌がっていた。


 憎むべき相手を憎めない。


 立ち上がれない。


「――卑怯よ。こんなことをする王国は、やっぱり最低よ。憎むことも、恨むこともさせないなんて最低よ。私から戦う意志すら奪う。なら、私は何のために命をかけたのよ」


 泣いてしまうヘルトラウダを抱きしめ、ヘルトルーデは涙を流していた。


「ごめんね。私の代わりなんかをさせて――本当にごめんね」


 空の守護神が消える。


 ヘルトラウダが握っていた魔笛は、粉々に割れてしまった。


「……嘘。海の守護神様まで負けるなんて」


 徐々に生気を失うヘルトラウダは、姉の腕の中で意識が遠のいていく。


「ラウダ!」


「お姉様……何だか、怖いのに暖かいわ」


 リビアの能力により、徐々に全ての恐怖が消え、暖かいものに包み込まれるような感覚だった。


 戦う気持ちを奪われ、ラウダは穏やかな顔付きになる。


「ごめんね、お姉様。……一人にしてしまって」


 ラウダは目を閉じた。


 ヘルトルーデの悲しい泣き声が聞こえてくるが、それも次第に聞こえなくなってくる。



 ヘルトルーデの側に立つのはバンデルだった。


 泣いているヘルトルーデは、次第に笑い始める。


「姫様」


「バンデル。私、おかしいの。悲しいはずなのに、心が温かくて幸せなの。ラウダが死んだのに、悲しむこともさせてくれないわ」


 本当に王国の人間は酷いと呟くヘルトルーデに、バンデルは肩に手を置く。


「お任せください。このバンデルが全てにけりを付けてまいります」


「バンデル?」


 魔装の右腕の効果なのか、バンデルに精神攻撃は効かなかった。


「さぁ、まだ戦う意志が残っている内にご命令ください」


 ヘルトルーデは悩んでいた。その顔は、幼い頃と同じだと懐かしむ。


「姫様!」


「……バンデル、いきなさい。公国の意地を示して」


 大きく頷くと、バンデルはその場を堂々と歩き去る。


 外に出ると、口元を押さえ咳き込んだ。


 手の平が血で赤く染まる。


「ここまでよく持ったものだな」


 自分の体に感謝しつつ右腕を見た。


「禍々しい右腕だ。だが、これであの外道騎士と戦える。――王国のあの船だけは、必ず沈めなければ」


 遠目に見える白い船。


 あんな物を放置できないと思ったバンデルは、右腕に力を込めた。肥大化し、全身が覆われると鎧の姿になる。


『――さぁ、はじめるか』


 飛び立つバンデルは、一直線に白い船――ヴァイスへと向かい突撃した。



 放心状態だった。


 こう、眠ったら駄目なのに眠い――みたいな感覚だ。


 違うかな?


 とにかく、戦うのが馬鹿らしくなってくる。


『マスターに精神汚染を確認』


 ルクシオンの抜け殻の声も聞こえるが、何もかもが嫌になってくる。今にして思えば、どうして俺は戦っているのだろうか?


 俺がこんなことをする必要なんてない。


 そもそも、悪いのはみんなマリエだ。


 あんな奴は見捨てても誰も怒らない。


 誰も――いや、もう会えない前世の両親だけは怒るかも知れない。お兄ちゃんなんだから、妹の面倒を見なさい、って。


 でも、俺ってそういうキャラじゃないし……。


『敵機接近。ヴァイスへと向かっています』


 視線を向けると、黒くてアロガンツの偽物みたいな刺々しい鎧がヴァイスに突撃していくところだった。


 あの鎧もどこかで見たことがあるんだよ。


 どこだったか未だに思い出せない。


「ん? ヴァイス?」


 直後、衝突した黒い鎧によりヴァイスの船体に穴が開き、爆発が起きた。


「まずい!」


 急いで操縦桿を握りしめ、アロガンツを動かすと意識がハッキリしてくる。


「何だ? まるで夢でも見ていたみたいな」


『精神攻撃です。ヴァイスより、精神攻撃が敵味方関係なく放たれました』


「リビアの力かよ。二度と味わいたくないな」


 あの暖かい何かに包み込まれる感覚は、幸福感もあるが同時に恐怖だ。


 周囲の飛行船やら鎧は、まだ動けずにいた。


「それにしても、あの機体は――」


『王宮からヘルトルーデ、そして魔笛を奪った機体です』


「黒騎士の爺さんかよ!」


 このままでは危険だと、一気にアロガンツを加速させた。



 大陸の裏側。


 消えて行く超大型のモンスターを確認したルクシオンは、同時に関知した力を危険と判断する。


『これがオリヴィアの力ですか。確かに最終兵器と言われるだけありますね』


 ルクシオンの船体からは煙が出ていた。


『通信状況が改善されつつある。もう少しで子機とのリンクが回復しますね』


 船体を一度海水に沈めると、持っていた熱で水が蒸発する音がする。


 周囲が白い煙に覆われ、ルクシオンの船体はまるで霧に囲まれたようになる。


『何事もなければいいのですけどね』


 最悪、リオンさえ生きていればいいとすら思っていた。


 船体を冷やしつつ、この後の予定を考えるルクシオンは――ゆっくりと動き出す。



 白く美しい船体を、持っていた大剣で斬り裂いたバンデルは艦内へと足を踏み入れた。


『何だ?』


 見れば、足のない鎧もどきが武器を持って突撃してくる。


 大剣で叩いて吹き飛ばし、左腕で掴む。


『人が乗っていない? 随分と面妖な』


 握り潰し、そして船を壊しながら進む。


『こんな船は存在してはいけない。王国はやはり悪だ。悪……そう、悪だ!』

右腕が膨れ上がると、目がいくつも見開かれそこから魔法が放たれた。


 内部から爆破され、ヴァイスも大きなダメージを受ける。


 徐々に高度が下がり、至る所から火を吹き始めている。


『そうだ。倒さなければ……王国は悪だ』


 バンデルが破壊して進むと、艦橋へと辿り着く。


 そこには、三人の女の子がいた。


『女だと? そうか。あれをやったのはお前らか』


 怯えている三人を前に、バンデルは大剣を振り上げた。


 前に出るのは茶髪の娘だ。


「待ってください。もう止めましょう。こんな戦い、終わらせないと駄目なんです!」


『まだだ!』


 バンデルは血を吐きながら、三人に自分の気持ちをぶちまける。


『終わってなどいない。公国がある限り、王国に戦いを挑む。お前らがしてきたことを考えれば、当然ではないか!』


 もう一人の女が口を開いた。


「ふざけるなよ。お前たち公国が、何もしなかったとでも言うつもりか」


 口振りから、公国の過去を知っているのが分かる。


 ただ、バンデルは退かない。


『それがどうした。お前たちに、家族が目の前で死んでいくところを見ているしかなかった気持ちが分かるのか!』


 大剣を振り下ろそうとすると、バンデルは背中を攻撃される。ワイヤーがかけられ、無理矢理艦橋から引き剥がされた。


 振り返ると、そこには五色の目立つ鎧の姿がある。


『そこまでだ!』


 白く、マントを着けた鎧が剣を持って向かってくる。


 ワイヤーを無理矢理引きちぎり大剣で受け止める。


 バンデルは鎧の中で笑っていた。


『悪くない腕だ。だが、その程度で止められると思うなよ!』


 弾き飛ばせば、今度は緑色の鎧がライフルを撃ってくる。


 その攻撃を避けないバンデルは、弾丸が装甲を弾くのを知っていた。


『これを弾きますか』


 相手が焦っているのが手に取るように分かる。


 周囲を見れば、スピアがバンデルを取り囲むように浮かんでいた。


 一斉に襲いかかってくると、鎧の隙間――関節部分に突き刺さる。


『どうだ! 僕の槍からは逃れられな――』


『ふん!』


 バンデルが力を込めると、スピアは突き刺さった部分から折れて使い物にならなくなる。


『このぉぉぉ!』


『させない!』


 赤い鎧と青い鎧がバンデルを挟み込むように攻撃を仕掛けてくるも、一機は大剣で弾き飛ばし、もう一機は尻尾で叩いて弾き飛ばした。


 沈み始めたヴァイスの近くで、バンデルは五機を相手に笑っていた。


『どうした、小僧共! その程度で、このバンデルを討ち取れると思ってか!』


 白い鎧に乗った男が驚いていた。


『バンデル? 黒騎士か』


『そうだ。今は元黒騎士だ。それでも、お前らくらい一瞬で血祭りに上げてやる』


 加速して白い鎧を両断しようと大剣を振り下ろすと、赤い鎧が体当たりをしてきて剣筋が乱れた。


 青い鎧が前に出て、剣を振るってくる。


『その太刀筋。剣聖か! いや、それよりも(つたな)い』


『うおぉぉぉ!』


 青い鎧の猛攻を大剣で防ぎつつ、取り囲まれたバンデルは笑っていた。


『そうだ。もっと本気を出せ! このバンデルを――黒騎士の相手にはもっと強い奴を!』


 目が血走り、そして精神が徐々におかしくなっていく。


 暴れ回るバンデルによって、五機は劣勢だった。


 バンデルの鎧――魔装は膨れ上がり、体中に目が出現した。禍々しいその姿に、五機は尻込みしているように見えた。


『怯えたか、腰抜け共! ならば死ね!』


 笑いながら大剣を振るうと、そんなバンデルを突き飛ばす鎧がいた。


『――なっ!?』


 あまりの衝撃に驚いていると、その正体を知って歓喜する。


 ようやく出会えたと、バンデルは獰猛(どうもう)な笑みを浮かべていた。


『待っていたぞ、外道騎士!』


 そこにいたのはアロガンツだった。


『変な名前を付けやがって。俺が外道なら、お前らはそれ以上の屑だろうが』


 喜ぶバンデルの口角からは、血が流れてきていた。



 目の前の禍々しい鎧を見ていると、一体何なのか分からなくなってくる。


 生物のような気もするし、機械のような気もする。


 鎧の表面にある目がキョロキョロと動いて気持ち悪い。


『お前と戦う日をずっと待っていた』


「嬉しくない告白をどうもありがとう。俺は二度と会いたくなかったよ。それより、変わった鎧だな」


 クツクツと笑っている黒騎士の声がする。


『お前には礼を言わねばと思っていた』


 その反応から、すぐに思い浮かんだのはあの右腕だった。


「まさか――」


『そうだ! これで貴様との間に鎧の性能差はない。純粋な技量こそが問われる戦いを始めようではないか!』


 体当たりをしてきた黒騎士を避けるが、すぐにこちらの後ろに回り込んできた。


 抜け殻が、


『敵、後方より接近』


「お前も反応が遅いよな!」


 ライフルで防御をすると、大剣によって切断された。


 すぐにライフルを放り投げ、新しい武器を両手に持つ。


 随分となめらかに動く黒騎士の新しい鎧は、アロガンツとの間に性能差を感じない。


 こうなってしまえば、純粋な技量差が問われてくる。


 そうなると、俺では歯が立たない。


「しつこいぞ、爺!」


『お前の首を取るまでは死ねんのだ!』


 いったい俺がお前に何をした!


 アロガンツで空高く舞い上がると、黒騎士も付いてくる。本当に性能差を感じない。そればかりか――。


『落ちろぉぉぉ!』


 黒騎士の鎧に付いている目から、魔法が放たれる。火球が凄い勢いで、何十という数で俺に迫ってくる。


 避けようとするが、追尾してくるのだ。


「インチキだろうが!」


 アロガンツのスピードを上げて逃げ切ろうとするも、火球が更に追加されてくる。


「ドローンを出せ!」


『ドローンを展開します』


 コンテナからドローンが射出されると、攻撃を開始する。


 丸いドローンにマシンガンが取り付けられており、それらが火球を攻撃していた。


 しかし、撃ち落とすことは出来たが――同時にドローンも火球に飲まれ撃ち落とされていく。


 黒騎士が持っていた大剣に斬り裂かれたドローンもあった。


「糞野郎が!」


『お前だけは――いや、違う。倒さなければならないのはもっと別の』


 急に動きが妙になると、真下に見えるヴァイスに視線を向けていた。


「おい、ふざけるなよ!」


『そうだ。あの船だけは沈めなくては』


 黒騎士の体中の目が、一斉に火球を放とうとしていた。


 大急ぎでアロガンツを急降下させ、破壊されたヴァイスの艦橋の前に浮かぶ。後ろには、リビアやアンジェの姿が見えた。


 ついでにマリエの姿も見える。艦橋から逃げだそうにも、通路がなく逃げられない状況らしい。


「シールド全開だ」


『シールドを展開します』


 次々に襲いかかってくる火球から、三人を守るため盾になる。


 降り注ぐ火球がヴァイスに命中すると、大きな爆発が発生した。いつの間にか、五人組もやって来てリビアたちを守っていた。


 炎に包まれるヴァイスが本格的に沈み始めると、周囲で戦闘が再開され始める。


「せっかく終わろうとしていたのに」


 撃ち続けられる炎を受け止めていれば、黒騎士の声が聞こえてきた。


『このような終わりは認めぬ。どちらかが倒れるまで、この戦いは終わらない! 終わらせてなるものか!』


 俺は仮面の騎士に指示を出す。


「おい、変態の騎士!」


『仮面の騎士だと言っただろうが!』


「どうでもいいから、三人を連れて避難しろ。ここは俺が押さえる」


『――分かった』


 何か言いたそうにしていたが、自分たちではどうにもならないと思ったのか退くらしい。


 ……それでいい。


「糞爺の相手は俺がする」


 アロガンツを突撃させると、黒騎士は大剣を振り上げた。


 そんな時だ。


 湖がせり上がり、そこから山が出現する。


「――嘘だろ」


 その山――のような姿をした敵の姿に、俺は冷や汗が流れた。


『敵、超大型の出現を確認。今までとは違うタイプです』


 抜け殻になったルクシオンの声が聞こえ、気を抜いた瞬間に黒騎士に斬られて地面に落ちていく。



 魔笛を持ったヘルトルーデは、床に寝かせたラウダを見ていた。


 大事な妹に謝罪をする。


「ごめんね。駄目なお姉ちゃんでごめんね……どうしてこんなことになったのか?」


 泣いているヘルトルーデに、重鎮の一人が近付いてきた。


 怪我をしており、額から血を流していた。


「小娘共が。失敗するとは情けない!」


 王族に対する敬意などそこにはなく、ただ口汚く罵ってくる男だった。公国でも要職に就く貴族だった。


 ラウダを蹴ろうとするので、ヘルトルーデが咄嗟に守り蹴られた。


「止めて! ラウダは頑張ったわ!」


「それがどうした! 頑張りなど無意味なのだよ。結果を出せ、結果を! お前ら親子は本当に役に立たない。お前の父親も母親も、戦争に反対した。だから殺して、お前たちをいいようにこき使っていたというのに」


 重鎮は、この状況に自棄になっているように見えた。


「終わりだ。何もかもおしまいだ。ここまでされれば、王国は面子にかけて公国に攻め込んでくる。あの化け物を使えば勝てると思ったのに。まさか、王国が無力化するとは!」


 ヘルトルーデは動かなくなったラウダの手を握っていた。


「貴方はいったい何を言っているの?」


「まだ分からないのか? 親子揃って間抜けだな。お前たちは我々に利用されていたのだよ」


 両親の事故や、目の前の男の言葉を聞いてヘルトルーデの中に憎しみが生まれた。


 目の前の貴族は、ヘルトルーデを見て笑う。


「いや、まだだ。お前の首を王国に届ければ、わしだけは助かる。愚行を止めた英雄になれる!」


 拳銃を向けてくる男だが、その時に飛行船が揺れる。


 ヘルトルーデの手元に転がってくるのは、自身の魔笛だった。


「く、くそっ!」


 貴族が態勢を建て直し、銃口を向けると同時にヘルトルーデは魔笛を手に取って力の限り吹いた。


(みんな――消えてなくなればいい!)


 すると、周囲にモンスターが黒い煙を発しながら出現。


 貴族に襲いかかって食らいついた。


「や、止めて! 助けて!」


 泣き叫ぶ貴族は、モンスターたちに食い殺され死んでいく。


 ゆっくりと立ち上がったヘルトルーデは、魔笛を持って外が見える場所へと向かう。


 両親の事故死や、貴族の言動……それらにより、いったい自分たちが何のために命をかけてきたのか分からなかった。


 甲板に出たヘルトルーデは、淀んだ瞳をしていた。


 外では戦闘が再開され、ヴァイスがバンデルにより破壊されているところだった。


 涙を流すヘルトルーデは、魔笛を吹いた。


 怪しい音色が周囲に響き渡る。


(もういい。どうなってもいい――けれど、みんな死んでしまえ)


 魔笛が呼び出すのは大地の守護神。


 本来なら、この乙女ゲーの世界でラスボスとして登場するモンスターだった。


 笛を手放したヘルトルーデは、狂ったように笑い始める。


「みんな消えてしまえばいいのよ!」


 ――その狂った命令に、大地の守護神は応える。



 リオンの父、バルカスは艦橋から指示を出していた。


「また馬鹿でかいのが出てきやがった! いったい何が起こっているんだ?」


 突撃したかと思えば、今度は急に意識がなくなった。


 空にいた超大型のモンスターは消え去ったが、今度は湖の上を移動する山みたいに大きなモンスターが出現した。


 状況についていけない。


 艦橋にいたニックスが、窓の外を指さす。


「親父、モンスターがまた出てきやがった」


「鎧を出せ。俺が出る」


「いや、親父は指示を出さないと駄目だろうが! 俺が――」


「ウルセェ! いいか、物事には順番があるんだよ。お前はここに残っていればいい」


 ニックスは死なせてはいけない。


 そう思ったバルカスは、ニックスの頭に手を乗せて乱暴に頭を撫でた。


「俺に何かあったら、兄弟で仲良くしろよ。リオンが生き残ったら、こき使ってでも領地を守れ。あいつは有能だが、馬鹿だからな。お前がしっかり面倒を見ろよ」


「あいつの面倒を見るなんて俺には無理だって! そもそも、親父が残ればいいだろうが!」


「ガキが俺より先に死ぬんじゃねーよ! お前ら、ニックスを頼むぞ」


 そう言って艦橋を出て行くバルカスだった。



 ラスボスはやっぱり出現するし、黒騎士は無茶苦茶強くなるし、いったいどうしてこうなったのかが分からない。


『あとはお前だけだ、外道騎士!』


 どこまでも追いかけてくる黒騎士の爺。


 嬉しくない。


 もっと可愛い女の子が俺を追いかけてくれればいいのに。


「ちっ!」


 黒騎士の大剣を受け止めると、持っていた斧がボロボロになる。


「ミサイル! 全部だ!」


『一斉射』


 コンテナが開き、小さなミサイルが黒騎士に襲いかかった。黒騎士は俺から距離を取り、その全てを回避していく。


 気持ち悪い動きに加え、体中にある目がミサイルを迎撃していく。


 武器も手持ちは斧だけだ。


 ほとんど使い切ってしまった。


 捕まえて衝撃波でもぶち込もうにも、そもそも捕まらない。


 まともに戦えば、俺の方が負ける。


「チートを持っていてもこのざまかよ。自分が嫌になる」


 追い込んだと思えば追い込まれ、万策尽きた――そう思っていたら、超大型のモンスターが山から棘を出す。


 その棘を放つと、周囲にいた飛行船を次々に撃ち抜いていく。


 王国、公国と関係なしに攻撃し始めた。


「――は?」


 流石の黒騎士もこれには慌てたらしい。


『姫様!』


 何かがあったとしか思えない。


 超大型のモンスターは、敵味方関係なく暴れ回っていた。


「ルクシオン、パルトナーで攻撃しろ!」


『了解しました』


 パルトナーが超大型に攻撃を開始するが、周囲の公国軍からも集中砲火を浴びていた。


「――お前ら、俺の船を狙う前に先に倒す相手がいるだろうが!」


 叫ぶと同時に斧を構えると、振り下ろされた黒騎士の大剣を受け止める。


『お前の相手をしている暇がなくなった。さっさと死ね!』


「断る! 俺はこんなところで死ねるか!」


 戦争で死ぬなんて絶対に嫌だ。


 戦争なんて、お前ら好きな連中だけでやっていればいいんだ。


『騎士としての誇りもなければ意地もない。お前は本当に外道だ!』


「それがどうした。お前の誇りや意地を俺に押しつけるな」


 騎士道?


 悪いな、王国の騎士道は女の子を守るためにあるらしいよ。だから、お前の美学になど付き合ってやれないんだ。


 パルトナーが、残った弾薬を全て吐き出し超大型を吹き飛ばす。


 同時に、


『パルトナー、稼働限界です』


「っ!」


 集中砲火を浴びたパルトナーは、バリアが消えてそのまま砲弾と魔法を受けて燃え上がると湖に落ちていく。


 ルクシオンに申し訳が立たないな。


 そして俺には黒騎士が迫ってきていた。


『これで終わりだぁぁぁ!』


 操縦桿を握りしめ、最後まであがこうとすると――。


 ルクシオンの音声が――普段のものになる。


『コンテナをパージします』


「お前!」


 背負っていたコンテナをパージすると同時に黒騎士へと向かわせ、攻撃を回避するとアロガンツは遅くなった。


 コンテナを斬り裂いた黒騎士は、爆発に巻き込まれる。


 コンテナにエンジンノズルがあったので、当然と言えば当然だ。


「いきなり出てきて、この状況をどうするつもりだ」


 次に黒騎士が攻撃してくれば、俺は逃げることも出来ない。


『問題ありません。シュヴェールト、来ます』


 上空から接近するのは、形が変わってしまったシュヴェールトだった。


「何だあれ?」


『シュヴェールトです』


「形が違うだろうが!」


『些細なことです。ドッキングを行います』


 アロガンツの背中側にシュヴェールトが来ると、そのままコンテナを接続していた部分と合体してしまう。


「合体した!」


『パーツ換装に近いですね。大型のブレードがあるので使ってください』


 シュヴェールトから出てきた剣の柄をアロガンツが引き抜くと、黒騎士と同じような大剣が出てくる。


 シュヴェールトの形状は、見ようによっては飛行機や盾にも見える。そんな物を背負ったアロガンツの姿。


「これで戦えるのか?」


『問題ありません。データ解析。サポートプログラムのアップデートを完了しました』


 コンテナの爆発した煙から黒騎士が飛び出してくると、アロガンツを下がらせる。


 今まで以上の加速に機体の制御が難しかった。


「速すぎるんですけど!」


『慣れてください。攻撃を開始します』


 シュヴェールトからレーザーのような光が放たれ、黒騎士に襲いかかっていた。


「レーザーが曲がったよ!」


『舌を噛むので黙っていてください』


 ……何、このマスターをマスターとも思わない会話。


 さっきまで寂しかったけど、妙に苛々します。


「けど、これなら黒騎士と戦えるか」


 黒騎士に向き直る俺は、大剣を構えるのだった。


『小僧――まだそんな隠し球を』


「最後に勝った奴が強いんだ。文句を言うなよ、爺!」


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