日本一のリンゴ生産地、青森県弘前市。国内では「リンゴイコール青森」というイメージが定着しているが、海外でも認知度を高めることで県産リンゴの一層の販路拡大につなげようと、積極的に輸出に取り組んでいる。農産物のグローバル化が進む中、安全・安心なリンゴを届けるための挑戦が続く。
山野豊社長(53)がリンゴ販売に乗り出したきっかけは、友人との出会いだった。山野社長が大学卒業後、勤務していた千葉県我孫子市内の鉄鋼メーカーが倒産。途方に暮れていた時、たまたま学生時代、大学の下宿で一緒だった弘前市出身の片山寿伸さん(54)から声を掛けられ、片山さんの家業のリンゴ販売を手伝うことになったという。
◆日本で初取得
英国へのリンゴ輸出を手掛けていた片山さんの仕事を手伝ううちに、特に欧州での農産物販売では安全管理や環境保全などを定めた「GLOBAL G・A・P(グローバルギャップ)」の認証取得が必須要件として求められていることを知り、平成16年に日本で初めて取得した。山野社長は「いわゆるパスポートみたいなもの。農産物の多様化の中で、農業もグローバリズムの時代に入った」と認証取得の背景を語る。
翌17年2月、スイスで開かれた世界的な果物野菜見本市に「世界一」「陸奧」「金星」「大紅栄(だいこうえい)」を初出品した。そこで大手スーパーのバイヤーから聞かれたのは、グローバルギャップ取得の有無だった。県産リンゴの評価と相まってグローバルギャップ取得が決め手となり、19年からこの4品種を約200キロ輸出している。「青森リンゴの品質は完成されているが、販路拡大、海外販売のためにも世界的な認証取得は必要」と山野社長は強調する。
23年の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故の風評被害で一時、輸出がストップしていたが、24年に再開。山野社長は「スイスのバイヤーから『日本のリンゴを待っていた』と言われたときはうれしかった。青森リンゴが評価されるのは何者にも代え難い」と振り返る。
◆「RINGO」を売る
25年には経済産業省と農林水産省のプロジェクトの一環として、パリで「千雪」を紹介。世界的なパティシエから香りの高さと上品な甘みが高評価を受け昨年、130キロを初めて輸出した。皮をむいても酸化しにくいのが特徴で、山野社長は「生食でも売れるという確信があった」と話す。さらに、120キロの注文が入っているという。
山野社長はブランド化を重視。「APPLE」ではなく「RINGO」と表現している。県産リンゴには約140年の歴史がある。「先人が技術を駆使して築き上げてきたものがきちんと世界で評価されることで、生産者へのメッセージになる」。山野社長は世界をにらんだ販売戦略を描いている。(福田徳行)
◇
◆企業データ 青森県弘前市境関西田57の1。平成20年5月設立。資本金600万円。従業員23人。同県平川市に加工場がある。「当たって砕けろ」「先頭誘導員たれ」をモットーに、国際基準のクリア、品質向上などに積極的に取り組んでいる。希少品種「メロー」「千雪」を100%使用したプレミアムリンゴジュースを販売するなど、常に新しいことにチャレンジし続けている。
◇
【取材後記】とにかく熱い。山野社長と話をしてそう感じた。青森リンゴを愛し、世界に発信していこうという意気込みがひしひしと伝わった。印象的だったのは「グローバリズムは目に見えない国境の垣根が低くなること」という言葉。日本が進める環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)によって、世界をにらんだモノづくりが避けて通れない時代を迎えていると認識させられた。