803 クマさん、女の子と話す
申し訳ありません。
前回の最後の以下のように言葉修正しました。
その理由は最後のあとがきに書かせていただきました。
「誰だ?」→「誰?」
どこからもなく声がする。
「マーネ様、エレローラです」
「エレローラか?」→「エレローラ?」
中央に見える机から声がする。
机の上には本が山積みになって、人は見えない。
近づくと、机の横から人が顔を出す。
と修正しました。ご迷惑をおかけします。
机の後ろから出て来たのはフィナやノアと変わらないぐらいの女の子。
「マーネ様、魔蒼花を持ってきた女の子を連れてきました」
マーネ様?
この女の子が?
「ユナちゃん、紹介するわね。魔法省で働く、マーネ様よ」
エレローラさんは微笑んでいる。
もしかして、わたしが驚くのを楽しんでいる?
「エレローラさん。マーネ様って、年寄りだって……」
と、言っていた。
でも、目の前にいるのはフィナぐらいの女の子。
「だれが、ババァよ」
女の子は睨むようにわたしを見る。
「誰も、そんなことは言っていませんよ」
「そのクマがわたしのことを年寄りだと」
女の子がわたしを睨む。
「えっと、エレローラさんが言いました」
正直に答える。
幼いのに、威圧感がある。
「ユナちゃん?」
「エレローラさんが、年寄りで、ぽっくり逝くと言いました」
噓は言っていない。
「エレローラ。死にたいの?」
女の子は凄む。
「年をとっていると言っただけです」
いや、ぽっくりと死ぬと言ったよね。
でも、エレローラさんの言葉どおり、年をとっているとなると。
あらためて女の子を見る。
……耳が。
「エルフ?」
「ハーフエルフよ」
女の子は答える。
「実年齢は100歳近いらしいわよ。わたしから見たら年寄りでしょう」
「ハーフエルフだから、年寄りじゃないわよ」
女の子がハーフエルフだということは分かった。
でも……。
「いくら、エルフが長寿でも、見た目がおかしくないですか?」
ルイミンだって、それなりに成長している。
こんな子供ではない。
「これは深い理由がある」
「深い理由?」
「ふん、会ったばかりのあなたに詳しく説明する理由はないわよ」
確かにない。
「わたし帰っていい?」
なにか面倒事になりそうだ。
「ダメよ」
「ダメよ」
2人の声がハモる。
「あなたが例の押し花の花を用意した女の子でいいのよね?」
女の子、マーネちゃん? マーネさん? マーネ様? はわたしを見てから、エレローラさんを見る。
「はい、彼女です」
女の子、マーネちゃん? マーネさん? は周りを見て。「話す場所がないわね」と小さい声で言うと。
「エレローラ、そこのテーブルを片づけておいて、わたしはお茶の用意をするわ」
女の子、マーネちゃん? マーネさん? マーネ様? が本が山積みになっているテーブルを見ながら、エレローラさんに指示を出す。
エレローラさんに指示を出せるなんて凄い。
女の子、マーネちゃん? マーネ様? は奥に行ってしまう。
エレローラさんは渋々とテーブルの上に乗っている本などを片づけ始める。
どうやら、このテーブルを片づけてから話をするらしい。
「わたしも手伝うよ」
本や物はテーブルだけでなく椅子の上にも置いてある。
一人じゃ大変だ。
それに、エレローラさんが片づけているのに、それを見ているわけにはいかない。
「それじゃ、その本たちは、あっちの隅っこにでも山積みにでもしておいて」
わたしはテーブルの上にある本を重ねて、まとめて運ぶ。
運ぶ本は植物の本、鉱石の本、研究本、魔法関係、魔道具関係の本がある。
植物の本にしても、薬などの効果、魔法の効果の本など、いろいろだ。
鉱石も同様だ。
魔道具の可能性の本とか、実用性とか、本当にいろいろな本がある。
部屋にはテーブルだけではなく、本棚もあり、あっちこっちにある。
これ、全部読んだの?
それから、意味不明の魔道具の数々。
これは懐中電灯かな?
光はランプみたいな、周囲を照らすものが主要だ。
これは遠くを照らすために作られたものだ。
「ユナちゃん、興味があるのは分かるけど、運んでもらえると助かるわ」
「ごめん」
わたしとエレローラさんはテーブルの周辺にある物を片づけていく。
そして、片づけが終わる頃、女の子、マーネちゃん? マーネさん マーネ様? がお茶を持って現れる。
呼び方に困る。
見た目はフィナぐらいの女の子でも、年上だ。
カガリさんみたいに、大人バージョンを見ていれば、年上ってイメージが沸くので、幼くてもカガリさん呼びに抵抗はない。
でも、彼女は初対面だ。
しかも、しゃべり方がカガリさんみたいに大人っぽくない。
マーネちゃんがしっくりくる。でも、ハーフエルフで、エレローラさんより年上だ。
さらにはエレローラさんが敬称付きで呼んでいる。
「それじゃ、座って」
「わたしたちが片づけたんだけど」
エレローラさんの気持ちも分かる。
「わたしを年寄り扱いした罰よ」
女の子、マーネちゃん? マーネさん? マーネ様? はお茶を並べ、椅子に座る。
わたしとエレローラさんも座る。
「それで、そのクマの格好した女の子が例の花を持ってきた人物なのね」
「ええ、クリモニアに住んでいる冒険者のユナちゃんよ」
エレローラさんは簡単にわたしの説明をする。
「ユナです」
「わたしはマーネ。研究家よ」
「研究家……」
「マーネ様は植物、鉱石、自然系の研究を主に置いているわ」
「別にそれだけではないわ。興味があるもの全てよ。ただ、父親がエルフだったから、そちら系が多いだけよ。魔法の研究もするし、魔道具も作るわ」
どうやら、父親がエルフだったみたいだ。
となると母親が普通の人ってことになるのかな。
「えっと、わたしはなんて呼んだらいいかな」
さっきから、心の中でマーネちゃん? マーネさん? マーネ様? で呼び方が困っている。
「好きなように呼んでいいわよ」
「マーネちゃん」
睨まれた。
これが、一番しっくりくるけど。ダメだったみたいだ。
「マーネ様」
「わたしはあなたの上司ではないわ」
「……マーネさん」
「それでいいわ」
なんでもいいと言いながら、決められてしまった。
どうやら、年上に見られたかったみたいだ。「ちゃん」付けだと年上が年下を呼ぶニュアンスになってしまう。
「わたしはユナと呼ばさせてもらうけどいい?」
「別にいいけど」
年下の女の子に呼び捨てはカガリさんで慣れている。
実際は、わたしより年上だし、気にしない。
「それでは単刀直入に聞くわね」
マーネさんが真剣な表情をする。
「どうして、そんな格好をしているの?」
エレローラさんがお茶を吹き出す。
「そこは、花のことを聞くんじゃないかしら?」
エレローラさんはハンカチで口を押さえながら言う。
「それも大切だけど、目の前に気になることがあるなら、無視することはできないわ。それが研究家ってものよ」
胸を張って言う。
確かに研究家っぽいセリフだ。
「えっと、できればこの格好については、なにも聞かないでもらえたら、助かります」
マーネさんは残念そうにする。
そんなに知りたかったのかな?
「だけど、あなたが噂のクマなのね」
「噂?」
「城の中を出入りしているクマの格好をしている女の子がいるってね」
たしかに、クマの着ぐるみの格好で城の中を歩けば、噂ぐらいになる。
さらに城で働く一部の人には、わたしの絵本も配られている。
わたしのことを知っていてもおかしくはない。
「だけど、そのクマの格好が、そんな可愛いクマとは思わなかったけど」
今のところ、この世界に着ぐるみを見たことがない。
「確かに、ユナちゃんの格好は見かけないわね」
「まあ、あなたが話したくないなら、無理に聞いたりしないわ。人には話したくないことの一つや二つ、百個はあるからね」
いきなり数が飛んだ。
まあ、わたしもたくさんの秘密を持っている。それに長く生きているハーフエルフなら、わたし以上に秘密があってもおかしくはない。
「マーサ様の年齢も秘密の一つですからね」
「途中で数えるのをやめただけよ。もう、わたしのことはいいわ。例の花について聞かせて」
マーネさんの言葉にエレローラさんはアイテム袋から、シアから預かった押し花の額縁をテーブルの上に出す。
「単刀直入に聞くわね」
先ほどと同じ表情で同じ言葉を言う。
「この花をどこで手に入れたの?」
わたしはここに来る前から決めていたミリーラの動く島で採ってきたことを話す。
「もし確認を取るなら、ミリーラの漁師に聞いて。漁師なら知っていることだから」
「動く島ね。そんな島があるのね」
「それでは、その島は、今はないってこと?」
マーネさんは残念そうにする。
タールグイは移動している。
わたしが知っているだけでも、和の国、スライムがいた街、凍った街の近くを通り、今はどこにいることやら。
まあ、クマの転移門を使えば、いつでも行けるんだけど、場所までは分からない。
「この花って、貴重って聞いたけど、他では手に入らないの?」
「一部の場所でしか咲かない特別の花。簡単には手に入れることができないのよ」
「でも、一部で咲くってことは、手に入らないってわけじゃないんだよね」
「魔物がいる深く森の中に咲くことが多いから、簡単に手にいれることはできない」
なるほど。
魔物が多いって、タールグイに魔物がたくさん来ることがあるから咲いていたのかな? それともタールグイ本体のせいかもしれない。
「さらに言えば、採取してから時間が経てば効果は落ちる」
まあ、咲いている花と、枯れた花では。新鮮な肉と、腐った肉ぐらい違うかもしれない。
「ちなみに、どんなふうに使うの?」
「いろいろと活用方法あるけど、一般的に使われる用途としてはインクね」
「インク?」
思いもしなかった言葉がでる。
「この花を使った特別のインクを作ることができるのよ」
「マーネ様、それだけじゃ伝わりませんよ」
「この花を使ったインクだと複製が難しくなる」
「つまり、契約書にも使えるってわけ」
エレローラさんは補足する。
「あと魔法陣にも使えるわね。このインクで描いた魔法陣の効果が上がる」
「ユナちゃんも魔法を使うなら分かると思うけど、魔法を使うには杖など媒体があったほうが制御がしやすくなるでしょう」
わたしの場合はクマパペットだ。
「杖や指輪、ペンダントの魔石だよね?」
シアの学園の交流会のときに生徒たちが使っていた。
「それがインクとどういう関係が?」
「知っている人は知っているけど、知らない人は知らないのよね。えっと……」
エレローラさんは周りを見回す。
そして、なにかを見つけると、立ち上がり、部屋の端に向かう。
「マーネ様、この杖をお借りしますね」
エレローラさんは杖を持って、戻ってくる。
杖には赤い魔石が填められている。
エレローラさんはその魔石部分に力を込める。
すると、魔石が外れる。
「ここを見て」
魔石が嵌まっていた杖の部分を見せてくる。
「魔法陣?」
魔石が外された杖の部分に魔法陣が描かれていた。
「この魔法陣が魔力の制御、効果を上げたりしているの」
知らなかった。
てっきり魔石だけかと思っていた。
マーネ様はハーフエルフでした。
※前回の最後の口調を修正した理由は年寄りのハーフエルフ(見た目は若い)としたかったのですが、書いていると口調がカガリさんと一緒になってしまったので、区別をしたかたので、修正させてもらいました。申し訳ありませんでした。
※あと、申し訳ありませんが、次回お休みにさせていただきます。
書籍20.5巻、文庫版10巻が発売しました。
購入してくださった皆様、ありがとうございます。
【書籍】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
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