「バス来ないバス停」 認知症患者見守る 行方不明防止、交流の場に ベンチに座って心落ち着かせ 時刻表…12時に「昼ごはん」、15時に「おやつ」
認知症患者らの支援にあたるケアマネジャーが、バス停を模した看板とベンチを三重県明和町に設置した。外出した患者が見知らぬ場所に行き、行方不明になるのを防ぐ狙いだ。「バスの来ないバス停」に座っている人がいれば、地域の人が声をかけて見守ろうという取り組みで、欧州で始まり、国内でも注目されつつある。(松岡樹、写真も) バス停に取り付けられた時刻表
行方不明防止 交流の場に
エープリルフールの4月1日、明和町明星で介護事業所を営むケアマネジャーの中村英登さん(52)が、道路に面した自宅兼事務所に、疑似「バス停」を設置した。看板は、趣旨に賛同した県内のバス事業者から譲り受けた。 時刻表には、12時に「昼ごはん」、15時に「おやつ」と記され、「まずは腰を下ろして、ゆっくりしていって下さい」との文言もあり、本物のバス停ではないことが分かる。 認知症患者の中には、自宅で生活していても「家族のいる自宅に帰りたい」と思い込んだり、「仕事に行かなければ」と感じたりして、長年の習慣でバス停に向かい、遠くへ行ってしまうケースがある。外出した後、自分が何をしたかったのか忘れてしまう人が多いという。 中村さんの事務所にも、認知症患者が「仕事に行くために自転車を貸してほしい」と訪ねてきたことがある。どうすれば地域で患者を見守ることができるか、ずっと考えてきた。
「バスの来ないバス停」は、ベンチに座って心を落ち着かせる効果が期待される。気付いた人が連絡し、行政機関や家族などが迎えに行くこともできる。 4月10日には、中村さんが、近くの女性2人を「バス停」に招いた。お互いに「バスは来ない」ことを知っていながら「いい天気ですね」「どこに行きたいですか」などと語り合った。中村さんは「まずは地域の人たちが気軽に交流できる場所になれば」と話す。その上で、「長時間ベンチに座っている人がいたら、声をかけてほしい」と呼びかけている。いくら待ってもバスは来ないが、認知症患者のための「優しいうそ」が広まってほしいと願っている。