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最近はお仕事の告知ばかりで申し訳ありませんが、『歴史評論』の5月号に、
「ヴァイマル共和国研究の現在―「1923」「1933」のアクチュアリティ―」
を掲載していただきました。

ハイパーインフレやミュンヘン一揆など「1923」への関心のほうが、ナチ政権掌握=「1933」よりも近年はなぜ高いのか。
近年のヴァイマル共和国研究を概観しながら、論じております。
また、歴史から教訓を得ることの難しさについても、「おわりに」で言及しています。

ナチズム研究者がヴァイマル共和国研究に手を出してしまうという、かなり迂闊な試みであったかとは思いますが、機会があればご笑覧ください。

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本日初日の演劇『GOOD』ー善き人―を、世田谷パブリックシアターで観てきました。
ナチスやホロコーストを題材としたこの作品では、「協力」というかたちでちょっとした監修のようなお仕事をさせていただきました。

この手の時代考証的なお仕事をするのは、これがはじめて。
やる前は、「それは事実に反する、これが歴史的事実」みたいな指摘をするお仕事だと思っていましたが、そういう役割もそれなりにあるとはいえ、どちらかというと役者の皆さんがセリフをイメージしやすいように、当時の時代背景とか文脈とかを必要に応じて提供していく仕事なのだということが、徐々に分かってきました。
セリフという「器」を満たすための手助けのような。

私はセリフ読みに1回、舞台稽古に1回立ち会っただけですが、言葉に魂が宿る瞬間といいますか、発せられる一言一言にぞくっとするんですね。
役者さんって本当にすごいんだなと。まあ当たり前のことですが。
台本を目で追っているのとはまったく違う世界。

そんな舞台現場に興奮して帰ってきた私はさっそくその夜、ほぼ『GOOD』と同じような設定の悪夢を見て、うなされてしまいました… やっぱり俳優さんの作り出す空気感はすごいものだなと、まざまざと実感。
と同時に、役者の皆さんはどうやって感情を「デトックス」しているのか、非常に気になっています。
これほど禍々しい内容の劇を感情たっぷりに演じて、それとは無関係に日常生活を送るというのは、私にはなかなか想像できない世界なので、興味津々。

それはともかく、本作では音楽演奏が大事な要素を占めていて、多面的な理解を可能にしているように感じました。
「善き人」とは何なのか、本作を観た皆さんが問い直すきっかけになればいいなと願っております。
プログラムにも執筆しておりますので、機会があればご笑覧ください。

東京書籍の教育情報誌に拙稿を掲載していただきました(こちら)。

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』で提示した〈解釈〉の重要性について、真っ正面から取り上げております。

拙共著に関する文章もこれが最後になるでしょうか…
そろそろ、次の段階へと歩みを進めたいと思います。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/317583?rct=hiroba


東京新聞にインタビューを載せていただきました。
前半はいつも通り『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』についてですが、後半部でイスラエルによる戦争とドイツの関係、ドイツの「過去の克服」、歴史から教訓を得るとはどういうことか、といった点について触れています。
よろしければご一読ください。

お久しぶりです。
「帝国水晶の夜」という言葉について、とある新聞社の方から質問を受けたので、備忘録がてらブログに書いておこうと思います。

1938年11月9日から10日にかけての反ユダヤ主義暴動を「帝国水晶の夜」と呼ぶことが、かつては一般的でした。
しかし近年の研究者はそのような呼び方を避ける傾向があります。
その理由は、およそ二点あるかと思います。

(1)第一の問題は「水晶」という言葉。
この出来事がなぜそのように呼ばれているかというと、ウィキペディア日本語版にもあるように、「割られて路上に散らばったショーウィンドウの破片が月明かりに照らされて水晶のように輝いていた」からです。
しかしこれだと、この日に起こったのは窓の破壊だけであるかのような誤解を与えかねません。
1300~1500人が亡くなり、1406のシナゴーグ、最大7500のユダヤ人商店が破壊され、3万人のユダヤ人が逮捕されて強制収容所に連行されています(Raphael Gross, November 1938: Die Katastrophe vor der Katastrophe)。
「帝国水晶の夜」という言葉では、こうした凄惨な暴力の規模がほとんど伝わってこないわけです。

(2)第二の問題は「夜」という言葉。
これだと、まるで出来事が一晩だけのことであったかのような印象を与えます。
ですが、じっさいにはポグロムはいくつかの地域ではすでに11月7、8日に始まっており、9日から10日にかけての「帝国水晶の夜」を経て13日頃まで散発的に暴力が続いていました。


そのため近年では「11月ポグロム」と呼ばれることのほうが一般的です。
もちろん、どんな言葉をもってしてもこのポグロムの悲惨さをきちんと伝えることは難しいわけですが、「帝国水晶の夜」と比べればより正確な表現であることは間違いなさそうです。

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なんだかんだあって書籍というかたちで刊行された、『みすず』の読書アンケート。

今までの『みすず』より高級感漂う装幀となり、丁寧にじっくり読みたくなる雰囲気に仕上がっています。

今年は以下の5冊を推薦させていただきました。
1)マクシム・レオ、木畑和子訳『東ドイツ ある家族の物語―激動のドイツを生きた、四代のファミリーヒストリー』(アルファベータブックス、2022年)
2)縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(文学通信、2023年)
3)平井和子『占領下の女性たち 日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」』(岩波書店、2023年)
4)石田圭子『ナチズムの芸術と美学を考える―偶像破壊を超えて』(三元社、2023年)
5)五十嵐元道『戦争とデータ―死者はいかに数値となったか』(中公選書、2023年)

https://jinnet.dokushojin.com/products/3526-2024_02_09_pdf?fbclid=IwAR2ZrHho1aKeYtAhShJQ67tI0atTXm6zrJ-esMvdLZEPaTlvG9rilySpDgk

2月9日号『週刊読書人』にて、ディーター・ランゲヴィーシェ、飯田芳弘訳『統一国家なき国民―もう一つのドイツ史』(みすず書房)の書評を執筆させていただきました。機会があればご笑覧ください。

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白水社の方からご恵贈いただきました。
ありがとうございます。

著者はアメリカ生まれ、第一次世界大戦に従軍歴がある知識人。日記の内容からは共産党にシンパシーを抱いていたことが読み取れますが、ナチ政権が成立すると上司に目をつけられて市立図書館から解雇。
その後の生活は楽ではなかったようですが、一方で新聞社や出版社とさまざまな契約を結んで文筆活動を続けていたようで、社会から完全に排除されていたわけではありません。
そういう意味で、ナチ体制に批判的な知識人の目を通したナチ社会の記録として貴重なものだと思います。
とくに、戦時期には労働動員の対象になったり、国民突撃隊に招集されたりしていて、戦時下の社会が生き生きと伝わってくる。ドイツ国民の間に広がっていた噂もいくつか収録されていて、面白い。

本書の最大の意義は、ナチ体制に対する国民の「支持」の内実、その複雑さを浮き彫りにしている点だと思います。
近年、「ナチスは良いこともした」論の延長で、「ナチスが良いことをしていると国民が思っていたからこそ支持されたのだし、政権が維持されていたはず」という議論をよく見かけますが、そう単純なものではない。

コンサートで、聴衆がピアニストに熱狂的な拍手を送っているのを聞いてみるがいい。聴衆の中の批判的な人たちは、異議があっても拍手に対して反論はしない」(129ページ)

という文章が非常に印象的で、ナチスのプロパガンダ映像を見て「ナチスは良いことをしていたからこその国民の反応に違いない」と思い込んでいる人たちに対する、鋭い批判になっていると思います。
シュトレザウの見るところ、ドイツ国民は決して一枚岩ではないし、ナチ体制を支持しているわけでもなく、不満の声は多い。しかしそれが一つの塊になることはない。その原因はプロパガンダだったり、「密告」への恐怖だったり、同調圧力だったりによって社会がアトム化していることにある。
彼はもとからナチ体制に批判的なので、体制を支持する人々の動機やメンタリティについての解像度が低いところは否定できないのですが、いずれにせよ修正「良いこともした」論の誤りは理解できるのではないかと思います。

以下はいくつか訳語で気になった箇所。
24ページ 「国民民主党」:文脈からして国家国民(人民)党の誤りか?
24ページ 「国民社会主義労働党」→「国民社会主義ドイツ労働者党」
201ページなど 「伍長」→「上等兵」
319ページ 「国民社会主義人民福祉協会」→一般的には「ナチ国民福祉団」
ページ数失念 「オーバー・シュレジア」→「オーバーシュレジェン」


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