他にはない神奈川のニュースを!神奈川新聞 カナロコ

  1. ホーム
  2. ニュース
  3. カルチャー
  4. 文化・科学
  5. 木之内みどり◆横浜いれぶん

タブレット純のかながわ昭和歌謡波止場(38)
木之内みどり◆横浜いれぶん

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2024年2月6日(火) 05:00

作詞/東海林良・ 作曲/大野克夫・ 編曲/船山基紀

 これは全くの私見なのですが…山口百恵さんがイメージチェンジを図った「横須賀ストーリー」以降のオトナ路線は、クオリティーの高さは素晴らしいと思いつつも、ぼくの中で入り込めない何かが。それはきっと百恵さんが、その歌唱力と志の高さから「完璧に演じられている」からなのかも。不安定さこそアイドルな気がするのですが、あまりにも隙がなくて、切なさに転じてくれないというのかな。

 そういう意味で、同じイメチェンでも、木之内みどりさんの「横浜いれぶん」(1978年、昭和53年)は、清純から“がらっぱち路線”に世界観を大胆に変えたというのに、木之内さんのボーカルは相変わらず心ここにあらずというか、気の抜けた炭酸のような独特の浮遊感。そこが自分の内面にフィットして、ギャップの谷間が心地好く、何度もトリップしたくなります。

雨にぬれる夜の関内駅前(1969年、神奈川新聞社撮影)

 「それまで、木之内さんのレコードを作っていたのは、フォーク系の人たちだったんですね。僕はその流れをガラっと変えちゃった。沢田研二のブレーンだった大野克夫とか、グループサウンズ系のスタッフを集めて、全く違うイメージの曲を作っちゃった」とはこの曲を担当したプロデューサー・大輪茂男さんの弁。

 この路線を木之内さんご本人が気に入ったかどうかはわかりませんが、「今夜はどこでもついてくつもり」という歌詞にはドキリとさせられます。何しろ彼女は、この翌年に“愛の逃避行”で実際いなくなってしまうのですから…。

 一度言い出したらとことんひたむきに、謂(い)わばピュアそのものだったといわれる木之内さん。小樽出身の9人きょうだいの末っ子で、芸能界入りのきっかけも「両親に家を建ててあげたい」という夢があってのことでした。

絵/タブレット純

 恋愛においても、これもまた「横浜いれぶん」の詞にある「傷をいやすのは 海鳴りよりは 土砂降りがいい」という直情的な性分を秘めていたゆえでしょうか。或(ある)いは無垢(むく)ゆえに、歌に心が引っ張られていった部分もあったのか。“逃避行”の詳細は省きますが、「なんか自分の娘みたいな気持ちにさせられちゃうんだよな」とは後年、所属事務所・浅井企画の専務だった川岸咨鴻(ことひろ)さんによる述懐です。“あざとさ”ではない“ピュア”ゆえの魔力。引退されてからもう30年以上経つというのに、古巣のスタッフや担当マネージャーさんには、今も木之内さんからお歳暮が届くのだといいます。

 それにしても、時のアイドルが、お笑いが専門である浅井企画さん所属であったことは意外な限り。その礎を成したコント55号さんの代表的ギャグである「飛びます! 飛びます!」「なんでそうなるの⁉」は所属アイドルの突然の逃避行を予言していた…わけはありませんが、そのお笑い感覚が、スキャンダルに対して大仰に深刻ぶらず、あくまで人対人として昇華させたとは言えそうな気が。つまらない不寛容社会に、「横浜いれぶん」のユルく痺(しび)れるカクテルを投下させたい今日この頃です。

たぶれっと・じゅん 歌手・お笑い芸人。1974年相模原市緑区出身。幼少期から歌謡曲のとりこになり、学生時代は中古レコード収集・研究に没頭する。2002年から04年まで和田弘とマヒナスターズのメンバーとして活動。現在は寄席やお笑いライブに出演し、独自の「ムード歌謡漫談」で注目を集める。同市名誉観光親善大使。

タブレット純に関するその他のニュース

文化・科学に関するその他のニュース

故・堀内誠一さんの人となりをつづる 長女の花子さんがエッセー刊行

日々のうた

神奈川の歌俳柳

歌壇(2024年5月 兼題「夢」)

俳壇(2024年5月 兼題「夢」)

柳壇(2024年5月 兼題「夢」)

カルチャーに関するその他のニュース