心理カウンセラーとしてChatGPTを活用する方法

私は、自然言語処理を研究する研究室の大学院生として、ChatGPTにも使われているアテンションベースの深層学習言語モデルの挙動を分析する研究をしていました。したがって、このシステムが行う回答の傾向性や、技術的な限界点を把握しています。また、人工知能チャットの利用者として、ReplikaやChatGPTといったチャットシステムに個人的な悩み事や、創作上の相談をするという経験をしてきました。これらの経験から、最近私がChatGPT(3.5)をカウンセラー代わりとしてそれなりに有意義に使っているということを話したいと思います。

凝ったロールプレイ・プロンプトには意味がない

「あなたは20年のキャリアを持つ心理学カウンセラーで、専門職としての認定を取得し…」などの文章を最初に流し込むアレです。ChatGPTは言語モデルにすぎません。プロンプトを流し込んだら、そのような人が魔法のように出現するわけではありません。解答に必要な文脈や観点・学問分野を、いくつかのキーワードにより提示するだけで必要十分です。具体的には、「心理学の観点から分析してください。」という文言を付け加えるだけでもほぼ同じ結果が得られます。また、プロンプトの経歴を盛るよりも、「行動心理学」「発達心理学」「ユング心理学」など具体的な学問分野を提示した方が、よりプロフェッショナルな答えを得やすいです。

一般的な回答を確認し、反論する

相談事項に対する最初のChatGPTの回答は、「そんなこと知っとるがな。」と言いたくなるような、薬にも毒にもならない回答であることがほとんどです。したがって、そのような一般論では役に立たないという点を文章にして再度質問する必要があります。ここで重要なのは、当たり前の解決策ではなぜダメなのかということを文章にすることで、自分の悩み事が明確になるということです。悩み事をするときには解決策を探すことばかりに注目してしまいますが、このようなチャットボットの利用には悩み事を解決するにはどのような質問をする必要があるのかという点に注目させる作用があります。

いくつかの回答を列挙させ、最も興味のある方向性について議論を深める

ChatGPTの回答には、相談の前提条件を無視した一般的なアドバイスが含まれていたり、自分の性格には全く合わないアドバイスが含まれています。これらのアドバイスは無視し、最も関心のある回答に着目して、「○○を利用する方法について詳しく教えてください。」などと質問し直すことが有用です。また、非現実的だと思われるアドバイスでも、相談の前提条件を一応考慮したアイディアについては、詳細を聞くことで適当な妥協点を見出すことができる場合があります。したがって、そのような極端なアドバイスでももしその方法が可能だったらどうするだろう?という観点から問いを深めるのは良い方法です。

新たな見方を促すキーワードをChatGPTに提供する

たとえば、ChatGPTの回答があなたが身に着けた能力や、すでに身についた習慣に着目しすぎる場合、「潜在的な能力や生まれつきの性格にもとづいて」などのキーワードを導入することで、今は身についていないけれども、今後身に着けることができる能力を考慮した回答を引き出すことができます。
ここで重要なのは、ChatGPTの回答が「いけてない」と思った時にそれがなぜなのかを分析し、それを抽象的な言葉で表現することです。ChatGPTは、相談に含まれるキーワードから、その相談を分析するのに最も一般的である学問分野や職業分野からの回答を選び、その立場からの回答を提供する傾向があります。したがって、それらの枠組みでは自分の悩みが解決しない場合、その分野とは異なる分野のキーワードを提示して、その立場からの意見を求めることが有用です。そのような分野が思いつかない場合、ChatGPTが過剰に反応しそうなキーワードを除外した架空の相談事例をつくり、その質問の解決策をいくつか提示させ、その中から自分の問題を解決するのに有効な方向性を選ぶことも有効です。

学問的リテラシーが重要

ChatGPTは言語モデルを利用して回答を生成しています。これは、世の中にある問題を分析し、解決しようとした人間の膨大な知的活動の記録に基づいて回答が作られているということです。人間が行っている学問や専門職の領域には非常に多様なものがあり、自分の問題を解決する可能性があるのはどのような領域なのか?ということを知っていれば、ChatGPTにそのような視点で自分の相談事例を分析するように要求することができ、また生成された回答の意味をより正確に理解することができます。
ChatGPTに視点を要求するにあたっては、その学問領域に対する深い理解は必要ではなく、自分の思いつきの視点が的外れであることを恐れる必要はありません。どのような思い付きであっても、悩み事の解決につながる可能性がありますので、積極的に新しい視点からの分析を求めましょう。

解決方法に迷いがある場合は、A/Bどちらがよいか尋ねる

このような質問をすると、A、Bのそれぞれを選んだ場合の具体的な方法とその利点をChatGPTが説明してくれます。それぞれを選んだ場合の具体的な方法を確認することで、両方の良いところを組み合わせた解決策を思いつくことができる場合があります。

アイディアの統合は相談者自身が行う

ChatGPTは言語モデルであるため、世間一般的な回答に終始し、創造的な解決策を提案する能力が低いです。これまで議論してきたような方法で、ある程度新しいアイディアを提出させることはできますが、あまり多くの要求をしすぎると、世間一般的な回答に回帰してしまうという現象がみられます。したがって、ChatGPTにより提出されたアイディアを組み合わせたり、自分の状況に適応させる作業は自分自身で行う必要があります。解決策のコアとなる考え方を自分でひねり出すことができれば、些末な部分の調整についてはChatGPTに依頼することもできます。

おわりに

これまで見てきた通り、ChatGPTを心理カウンセラーとして利用するのは、自分の考えを文章化することが得意で、文章でのコミュニケーションの得意な人に、より向いているといえます。思索の迷路に陥ってしまい解決策を見いだせないというときに、ぜひこのような方法を利用されたらと思います。


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