「ギミー・スクランブル」とはどんな音楽か?
ごあいさつ
みなさんこんばんは。如才(ジョサイ)と申します。
本日、2022年11月18日に「うたえぼ」という企画が開催されました!
「うたえぼ」とは、歌うボイスロイド投稿者・絵師・ボカロPが3人1組のチームとなって、歌うボイスロイドオリジナル曲のMVを作るという企画です。全部で5チーム結成され、それぞれのMVが投稿されました。(以下URLより全作品をご覧になれます)
参加作品の内1本「昼下がりのナーサリーライム」は私が作曲した作品なのでよければ合わせてご覧ください。
さて、本noteでは同じく参加作品の1本「ギミー・スクランブル」について、音楽的なアプローチでひも解いていこうと思います。ライナーノーツ的なやつですね。
↑「ギミー・スクランブル」の動画はコチラから!
(ここからライナーノーツ)
ギミー・スクランブルの位置づけ
ギミー・スクランブル(以下、本作)は作詞・作曲:ウォルナット、調声・動画・作詞(一部):Sorubitto、イラスト:アジシオによる作品である。「うたえぼ」の5作の中では、オープニング曲のような雰囲気を纏った、明るくかわいらしいイラストと曲調が特徴と言えるだろう。
事実アルバムとしては1曲目に採用されているし、チーム内の話し合いでも「ゲームのオープニングのような作品を目指していた」とのことである。
楽器の編成はドラム・ベース・ギターのバンドものに、ホーンセクションとオルガンを加え、時折バンジョー・木琴が飛び道具的に鳴るというもの。テンポは非常に速く疾走感を感じさせる。楽曲ジャンルとしては様々なものが混ざり合っているがロックを基調としつつもジャズやスカの要素が垣間見える、あるいはその逆といったところだろうか。狙い通りサウンド的にも00~10年代前半のようなイメージで“いかにも!”とリスナーに思わせてくれるだろう。
注目点
ここからは「ここに注目して聞いてみると面白いかも?」というポイントを1つだけに絞りご紹介したい。
本作の楽曲的に興味深い点は、なんと言っても「キメ・ブレイクの多さ」である。
楽曲の中で、あらかじめ決められているリズムの変化のことを「キメ」といい、バンド全体でそのリズムを合わせます。
https://iguchi-drum.com/47/%E3%80%8C%E3%82%AD%E3%83%A1%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%80%8D/
演奏を一時的に停止する部分を「ブレイク」といいます。バンド全体でブレイクし空白になる、もしくはソリスト(ソロを演奏する人・独奏者)のみになります。
キメやブレイクとは上記の引用のようなもので、要するに楽器全体がビシッと揃ってる部分のことだ。
一例を挙げると、ボーカルが入ってからさっそく登場する
ふわふわと 心が浮く
きっと きっと 恋したんだ
「恋したんだ」の部分ですべての楽器がピッタリとキメているのが分かるだろう。
こういった技法が本作では凄まじい回数登場する。
キメ・ブレイクには全ての音が揃うのでその部分のパンチ力が増すという強力なメリットがある。恐らく本作を1回だけ聞いたリスナーはこのキメの部分の歌詞が焼き付いたのではないだろうか。印象付けの効果としてはこれ以上ない効果を発揮するのである。
少し逸れるが、音楽は基本的に「緊張」と「弛緩」で成り立っている。時間を「糸」のように見立てて、張り詰めたり緩めたりすることでただ流れていくだけの時間を相対的に密度感の異なるものへと彩るのが作曲の神髄とも言えるだろう。(今回は作曲論ではないのでこの辺で)
では「緊張」を最強に示す技はなんだろうか?
複雑なコード? ものすごい刻みの速弾き? ドラムのフィルイン?
いま列挙したものも強い「緊張」の技ではあるが、一番ではない。
回答としては「無音」だ。音楽的には休符と言い換えることもできる無音は、楽器の演奏中で突如訪れると「早く音が鳴ってほしい」という圧力が働く。有名なジョン・ケージの「4分33秒」などまさにその権化で、真の無音はかなりの緊張感を生むものである。
本作に多く登場するキメやブレイクは、まさにその無音を生かしたテクニックであるため、緊張と弛緩を最大振り幅で行き来するのだ。印象に残るのも当然と言える。
またキメやブレイクが多く登場するのには、この楽曲のテンポ(速さ)も大きく関係している。
テンポが速い曲を休符(無音)なしに進めて行ってしまうと、どうしてもノッペリした楽曲になってしまう。これは先程の緊張と弛緩の展開が速すぎるからなのだが、そこにスパッと切れ目を入れることでリスナーの耳を飽きさせないことに成功していると言えるだろう。
ではこれだけメリットの多い、キメ・ブレイクをなぜすべての楽曲に入れていないのかというと、使い方を誤るとダサくなるというデメリットがあるためだ。
運動会の応援で行われる「3・3・7拍子」というヤツを思い出してほしい。
ピッピッピッ、ピッピッピッ、ピッピッピッピッピッピッピッ、というアレだ。この「、(句読点)」で表したところがまさにブレイクになる。
紅組ないし白組の全生徒が一丸となって声を出すためにはこれ以上ないリズムなのだが、これが静かなバラード曲に入っていたらどうだろう? ものすごくダサくなるのは明白だ。(3・3・7拍子自体がダサいと言いたいのではなく、使い方次第でダサくなるということだ。かっこよく取り入れたこんな例もある。)
このようにキメ・ブレイクは非常にリスキーなのだ。
しかしどうだろう。本作を聞いたリスナーはこの曲からダサさを感じただろうか? 恐らくそれほど強く感じなかったのではないか。(ちなみに全く感じないのではなくほのかには感じるハズである)
本作の妙はまさにそこにある。キメ・ブレイクをこれほど多用しながらも、ダサくない。ギリギリのバランスで聞かせることに成功しているのだ。
本作はキメ・ブレイクを「限界まで攻めている」と言えよう。この凄さ知ってしまったあなたは、もう一度楽曲を聞いてこの凄さを確かめたくなっているに違いない! 是非味わってみてほしい。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41374810
↑「ギミー・スクランブル」の動画、再掲
最後に
ここまで「ギミー・スクランブル」という楽曲について、筆者が最大の特徴だと考える無音部分だけにフォーカスして、レビューしてみました。
もちろん、音のある部分にもかなり面白い工夫が凝らされています。面白いコード進行であったり、楽器の使い方であったり。特に歌詞に合わせて効果音が随所に使われていることは音楽知識がなくても聞き取れると思うので、探してみてもらいたいです。
「うたえぼ」の他の曲もかなり深い音楽的考察ができるので、リピートして作品を深堀りする楽しさを知ってほしいと願っています。
本作の作曲者:ウォルナット氏より如才の楽曲「昼下がりのナーサリーライム」のレビューもいただいています。こちらも合わせてご覧ください。
https://note.com/walwal_walnut/n/ne5731976db55?s=09
氏とは11/20(日) 19:00~よりTwitterスペースで対談することにもなっているので、お時間あれば是非聞きにきてください。
ウォルナット氏Twitter:https://twitter.com/walwal_walnut
如才Twitter:https://twitter.com/JosiahKomponist
それでは、引き続きうたえぼお楽しみください!
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