ケガの統計データを取得して予防やトレーニング改善に活かす
齋田氏からは、海外におけるケガ予防の取り組み事例も紹介された。UEFA(欧州サッカー連盟)が実施している「UEFA ELITE CLUB INJURY STUDY」だ。これはUEFAに所属する30以上のクラブから「トレーニング中・試合中にどのようなケガが起きやすいか」「ケガの重症度」「ケガのパターン」といったデータを収集し、ケガ予防のためのデータベースを構築する取り組みである。収集した情報は各クラブにフィードバックされ、選手たちのケガを防止するために役立てられているという。
「ケガは戦力ダウンだけではなく、金銭的な損失もクラブにもたらしてしまいます。そこでUEFAでは、国やクラブの垣根を超えてこうした取り組みを実施しているのです」(齋田氏)
2016年からはアジアサッカー連盟(AFC)でも同様の取り組みが実施されており、日本からは鹿島アントラーズといわきFCが参加している。
「実は日本では、欧州のようにはケガの統計は取られていません。しかし予防のためにはケガの統計を取るべきだと考えていましたので、“ダメもと”でAFCに連絡をしてみたところ、2018年から我々も加えていただけるようになりました。これによって、いわきFCは他クラブと比較してどのようなケガが多いのかを確認できるようになりましたし、その情報を元にトレーニングの改善や予防に役立てるようになったのは大きな利点だと考えています」(齋田氏)
日本では選手のケガ情報を公にしないクラブも少なくないが、予防医療のために今後はこうした取り組みを進めるクラブも増えてくるかもしれない。
遺伝子によって筋肉の付き方は違う
いわきFCではトレーニングの効果を最大化するため、各選手の遺伝子検査を実施し、3つのパターンに分けて最適なトレーニングを施している。この取り組みについて紹介したのは、同クラブのパフォーマンスコーチを務める鈴木拓哉氏だ。2016年からいわきFCのパフォーマンスコーチに就任した鈴木氏は、最初の年は全選手に同じ負荷を掛けたトレーニングを実施してみたところ、選手によっては逆にパフォーマンスがダウンしてしまった経験から、遺伝子情報を元にしたトレーニングを導入したと話す。
「同じ年齢や同じくらいの身長であっても、その人間が持つ遺伝子によって筋肉の付き方は変わってきます。そこで2017年からは選手の遺伝子検査を行い、RR(パワー系)、RX(中間系)、XX(持久系)という3つのパターンに分け、それぞれに最適な負荷の掛け方をしていくようにしたのです」(鈴木氏)
負荷への耐久性はRR>RX>XXという順に推移しており、RRタイプの選手に対しては80〜95%の強度のトレーニングを、RXタイプには75〜90%、XXタイプには65〜75%の負荷を掛けるといった具合に分別。年間を通してトレーニング計画を立てて実施していったところ、ほとんどすべての選手のフィジカルが向上したという。このように大きな成果が見られたことから、今後もいわきFCでは遺伝子情報を元にしたトレーニングを行い、「フィジカル革命」を実現したいという。