狂人だと思われるが、私は毎日登山をする。毎日登山をしていると「何を目指しているの？」と言われるが、こう言うことを言う奴が親になったら子供の才能を潰すタレントキラーになるのだ。何も目指していない。ただ、それをやっている時間が気持ちいいからやっているのだ。子供の波動は軽いのに、親の波動は大概重い。基本的に「汚れるでしょ！」と言って、子供が泥んこ遊びをしたり海に飛び込むことをセーブする。子供は、泥や海に飛び込むことで免疫力を高めて知恵やセンスオブワンダーを磨くというのに、その、貴重な機会を親が奪っている。逆だ。子供の自由を奪うのではなく、親は、子供から自由を学ばせていただく姿勢が大事だ。

犬の散歩をしている人は、犬が途中で立ち止まると、リードを引っ張って「行くよ」と強制連行する。逆だ。犬には、人間が見えていないものが見えている。犬が何を見ているのか、私たち人間は想像させていただく姿勢が大事だ。間違っても、立ち止まった犬を強制連行したり抱き上げて移動させてはならない。犬は奴隷じゃないんだよ。私が暮らす熱海には、レビューの評価が異様に低い店が大量にある。都会の人々は、サービス業従事者に「奴隷になること」を強要する。そして、奴隷になってくれなかった店員を罵倒し、低評価をつける。侵略者の論理だ。郷に入っては郷を愉しめ。それが観光だ。世界がどんどん画一化されていく中で、店が客を選ぶスタイルを貫く熱海は日本の宝である。

散歩とは、自分とのデートである。毎日登山をしていると「修行ですか」みたいな顔をされるが、虎や狼が鍛錬などする訳がない。もちろん健康のためでもない。それは「友達に会いに行くため」である。家の外に一歩出ると、この時期は翡翠や鳳蝶や蜥蜴や雨蛙や栗鼠や草亀や縞蛇など、無数の生物に出会う。ちょこまか動く彼らの姿を見ると「めちゃめちゃ可愛いじゃないか」と和み、私の心は快活になる。道端に実る木苺や桑の実や琵琶を拝借して、本当の意味での食べ歩きをする。無職の私に、定期的な収入はない。当然、豊富な財源（ストック）がある訳でもない。だが、心は実に豊かである。なぜか。ストックはないが、フローがある。フローの中を生きている感覚が、豊かさだと思う。

最近、出会う人々に「全員の所持金が一ヶ月後には全部無効になる法律の決定権が自分にあるとしたら、あなたはその法律を施行しますか」と聞いて回っている。一ヶ月後に自分の所持金がただの紙切れになるとしたら、全員慌てて、何に使うか真剣に考えると思う。さすれば、当然経済は回る。生きている実感も増すだろう。ストックはゼロになるが、フローが大量に発生する。だが、フローは人間がコントロールすることができない。怖さもある。驚いたことに、女性にこれを聞くと「私なら施行しちゃう！」と答える人が多く、男性にこれを聞くと「ちょっと怖いかな」と答える人が多い。男性は、知識人ぶって御託を並べるが、女性は、知識より感性と言う感じで「やっちまえ」と軽く言う。私は、女性の軽さに未来を感じる。軽さの中に遊びを感じる。男性は、経済になると遊びを忘れる。だが、女性は常に遊びを歓待している。

愛されたいという悩みを聞くことが多いが、誤解を恐れながら言いたい。いま、ここにある愛をガン無視して、愛されたいだなんて傲慢だ。愛とは何かとか、思い詰めた顔をして議論をしている人々にジャスミンの香りを嗅がせて「花の香り一つとっても愛だろ」と突きつけてやりたい。家の外に一歩出れば、植物や動物や鉱物など、無数の友達がいる。自分は一人だなと思う時も、自然たちは「ねえ、気づいて、こっちを見て」と言っている。豊かさとは、たくさんのモノを持っていることではなく、自然たちの「ねえ、気づいて、こっちを見て」とささやく声に気づけるくらいの心の余裕を、忘れずに持ち続けていることだと思う。何かを教えるためではなく、一緒に楽しむ時間が必要だ。遊びながら、大事なことを学ぶ。私たちは、一人で生きているのではなく、世界で生きているのだ。