「共同親権の導入で良くなることは一つもない」

──片方の親による「連れ去り」と呼ばれるケースもあります。共同親権で「連れ去り」は解決するのでしょうか。

岡村:しません。「連れ去り」という言葉で定義される状況は「共同親権」という状態からはほど遠いものです。

 私はDVの事件を扱ってきましたが、「DV加害者による連れ去り」というケースは確かにあります。ただ、この場合は「監護者指定の申し立て」を起こし、「主に被害者が子どもを育てていた」と裁判所が認定すれば、子どもは返ってきます。

 相手がわがままで返さない場合は「人身保護請求」の適用を求め、子どもを引き渡さなければ、その人を逮捕するという事態に至ります。ただ、ここまで行くと子どももかわいそうなことになりますから、そう簡単にはやりません。このように、法的に強い強制手段によって監護者の元に子どもを返すことも可能です。

 もちろん、DV加害者のほうに親権が認められるケースがないわけではありません。子どもが子どもの判断で、生き抜くために加害者側につくことがある。加害者に染まって、被害者を拒否することもあります。

 そうなると、子どもと加害者が一体化していて取り付く島がありません。そのような取り付く島がない状況で「共同親権」や「面会交流」を強制するとどうなるか。ますます心が離れて、何もいい結果になりません。

 泣き寝入りに見えるかもしれませんが、人間関係を良くするために、無理強いはしないことが大切です。

 私の経験では、DVの被害者の別居親は共同親権など求めません。力関係の弱いほうが、監護者の決定に対して拒否権を発動したら、ますます嫌われるからです。

 それよりも「手紙だけは年に2回出させてね」「会いたくなったらぜひ会わせてね」という言い方をしていたほうが、結果的に子どもが中高生などになったら会えるケースがほとんどです。

──共同親権を導入して、何か良くなることはありますか?

岡村:一つもないと思います。共同親権肯定派は、共同親権を導入することで「父母の間に協力的な関係が醸成される」と言っています。「仲良くなる」と条文に書き込んだら仲良くなるなら、あるいは、親教育の動画を見せて仲良くなるならば、結婚時からやってほしい。

【共同親権・賛成派の視点】
「共同親権の賛成派の私ですら怖いと感じています」賛成多数で衆院を通過した民法改正案に何が起きているのか?(JBpress)

──共同親権の議論では「民法第766条」がよく登場します。これはどんな条文ですか?

岡村:「民法第766条」とは、離婚後の子どもの監護について述べている条文で、面会交流や養育費の支払いについて(現行法で既にある)条文です。

 子どもの身の回りの役割分担は「父母で話し合って決めなさい」「子どもの最善の利益になるように決めなさい」「話し合いで決まらなければ裁判所が決めます」と言っている条文です。

 共同親権の導入に反対している人は、離婚後の父母の関係を最も良い形にするには、「民法第766条」を活用することが一番だと考えています。

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長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。