論点がすり替わってしまった共同親権の議論

──批判の声が多々あるにもかかわらず、共同親権の導入を与野党が進めるのはなぜだと思われますか?

岡村:子どもに会えない別居親の気の毒なケースが多々報道されたり、語られたりしているからだと思います。

 ただ、ここは気をつけて議論しなければならない部分です。DVの加害者がいますし、被害者でも、何度も自殺未遂を繰り返すような監護者にふさわしくないケースもある。

 父母の対立が激しく、ピンポン玉のように子どもが両方の間を行き来させられていて、父でも母でもどちらでもいいから親権者を決めて、他方の親とは面会程度にしないと延々と揉め続けるというケースもあります。

 ですから、子どもに会えない気の毒なケースの中に、本当に気の毒なケースと、「会えなくても仕方がない」「まだ会わせるわけにはいかない」ケースが含まれているという点に留意しなければなりません。

 裁判所は面会交流を勧めてきましたから、会いたくても会えない気の毒なケースでも、時間をかけたら会えるケースがたくさん含まれています。ただ、裁判所のマンパワーが深刻なまでに不足しているので、決定に時間がかかるのです。

 与野党が共同親権の導入を進める一番の理由は、「子どもに会える・会えない」という親権問題とは本来関係のないことを、共同親権の導入で改善できると考えているからです。いつの間にか親権の問題に話がすり替わってしまったのです。

 問題は、政権与党が子どものために十分な予算を取っていないことです。たとえば、家庭裁判所の裁判官を増やすことはできます。

 また、2011年に「面会交流」を民法に書き込んだ時に、面会交流をサポートする機関にお金をつけるという話になったのですが、実際はそういった措置は十分にされていなくて、閉鎖するところまで出ています。

 一方では、西洋に憧れている弁護士や学者たちの一部が、シングルマザーの過酷な状況を考慮せずに、「夫婦は対等な関係の市民と市民の結合なのだ」という思想に基づいて、共同親権の理想に追従しているという状況もあります。

 さらに、そこに「伝統的家族観を主張する人たち」や「女叩きを目的にした人たち」も、最近はこの議論に参加してきて、実にややこしいことになっています。