共同親権で発生する別居親の「拒否権」

岡村:後者のほうが一般的です。

 たとえば、私の個人的な話をすると、私は夫と事実婚なので、夫は公式な親権を持ったことはありません。でも、一緒に暮らし、子どもに関する様々な決断に関しては、子どもの意思を尊重しつつ、みんなで話し合って決めてきました。

 円満にやれる関係であれば、極論を言えば婚姻制度さえ必要ありません。親権があってもなくても、書類上の婚姻関係になくても、互いに合意があれば、話し合って大事なことを一緒に決めていくことはこれまでも可能でした。

──では、共同親権が導入されたから「これまで決める権利がなかった人に、決める権利が発生する」というわけでもないのですね。

岡村:そうです。父母が2人でいろんなことを決めたければ、2人で決めればいいのです。2人で決められない場合は1人で決める。そのうえで、「最終的な決定責任者が親権で規定されている」というイメージです。

 父母が共同でいろいろなことを決めるのは、単独親権だったこれまでも自由でした。ただ、それが叶わない関係性の場合、あるいは、ある事柄に関しては共同で決められないという場合は、同居親が決定権を持ってきました。

 ただし、これまで親権を持たない別居親は、様々な決定に関して「拒否権」は持っていませんでした。意見を言うこと自体は自由ですが、親権を持つ側が子どもに関して決めたことを、最終的に拒否する権利はありませんでした。でも、共同親権が導入されると、双方に拒否権が生まれます。

 決定したり、拒否したりするためには考えるための情報が必要です。そうすると、「検討するために様々な情報を与えてほしい」というやり取りがこれまで以上に発生すると思います。やり取りが、際限がなくなってくる場合もあると思います。

 たとえば、子どもの高校受験があったとして「これまでどんな成績だったのか」「どこの塾に行っているのか」「今後いかに受験勉強をやっていくのか」「推薦を受けるのか」「どんな部活なのか」などなど、様々な質問に答えなければならなくなり、やり取りが大変になる可能性があります。まるで上司への報告です。

 そして、そのような協力をちゃんとしないと、損害賠償の対象になるので、ギスギスした関係になることも想定されます。むしろ、往々にして「共同」という理念に反した結果になりかねません。

──共同親権に関する報道を見ていると、よく話題になるのがDV(ドメスティック・バイオレンス)です。夫婦間にDVがあって離婚した。でも、共同親権が導入されると「また別れた相手と接触する機会が増えるので危険だ」という点が議論になっています。