802 クマさん、魔法省に行く
翌日、エレローラ邸にて朝を迎える。
横ではくまゆるとくまきゅうが気持ち良さそうに寝ている。
昨日、シアにくまゆるとくまきゅうに会いたいと言われたので召喚し、夜遅くまで遊んだ。
そして、護衛を兼ねて召喚したままにしたけど、その護衛は寝ている。
まあ、危険を察してくれればくまゆるとくまきゅうなら起きてくれる。
「くまゆる、くまきゅう。朝だよ」
くまゆるとくまきゅうの柔らかいお腹を揺らす。
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうが起き上がる。
「おはよう」
「「くぅ~ん」」
今日1日が始まる。
ベッドから降り、白クマから黒クマに着替え終わると、ドアがノックされる。
「ユナさん、起きていますか?」
「起きているよ」
返事をすると、制服に着替えて、身だしなみをしっかり整えたシアが入ってくる。
「ユナさん、おはようございます」
「おはよう」
朝から、笑顔が眩しい。
「わたしも魔法省に行きたかったです」
「学校があるんでしょう」
「休むと、お母様に叱られます」
学生の本文は勉強だからね。
学校に行っていなかったわたしが言う台詞ではないので、口に出しては言わない。
でも、シアには勉強をしっかりして、立派な貴族令嬢になってもらいたい。
朝食は一緒にすることなので、食堂に移動する。
「ユナちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんもおはよう」
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうのために席があり、その前には果物やハチミツが用意されている。
「小さいクマさんの方でよかったかしら?」
「大丈夫だよ。いつも、食事するときは小さい方だから」
体が大きいとたくさん食べる。小さいと少なくてすむ。
「お母様、わたしも一緒に行きたいです」
「ダメよ」
シアはもう一度頼むけど、却下される。
シアは渋々と「行ってきます」と言うと学園に行く。
わたしとエレローラさんも魔法省に行く準備をする。
くまゆるとくまきゅうは送還し、屋敷を出ると、馬車が止まっている。
「乗って」
わたしは馬車に乗る。
王都は広い。
王都の中を移動するのも馬車を使う。
バスのように同じところ通る馬車もあれば、好きな場所に行ってもらうタクシーみたいな馬車もある。
この馬車は自家用みたいだ。フォッシュ家の紋章があった。
わたしたちが乗るとエレローラさんが御者に向かって「魔法省に向かってちょうだい」と指示を出す。
馬車は動き出す。
「魔法省って遠いの?」
「城の中よ」
「そうなの? それなら馬車を使わなくても」
「入り口が違うのよ。ユナちゃんがいつも通っているのは正門ね。お城にはいくつか出入り口があるのよ」
確かにある。
前にフィナとお城の周りを回ったことがある。
その間にたくさんの入り口があった。
「騎士など関係者が出入りする門、魔法関係者が出入りする門。他にもあるわ。今回は魔法省があるのは魔法関係がある門を使うわ」
「そうなんだ」
「城の中からも移動はできるけど、歩くことになるから、面倒なのよ」
城の中は広い。
なんとかドームが何個入るか分からない。
端から端を歩くことになったら、かなりの距離がある。
フィナとお城を一周したときも時間がかかった。
「魔法省はお城の中にあったんだね」
「重要な魔道具や研究資料もあるからね。お城なら24時間警備もしっかりしているから人の出入りも管理ができるわ」
確かに、城なら警備もしっかりしているだろうし安全だ。盗みに入るのも難しい。
馬車は城に向かい。いつも、わたしが入る入り口から離れて行く。
そして、しばらく馬車が動くと、入り口が見えてくる。
かけ橋になっており、その橋を馬車が通る。
かけ橋を通ると、兵士が立っている。
馬車は止まる。
御者が一言、二言、話すと馬車が動き出す。
「中、確認しないの?」
この手の話だと、馬車に乗っている人の確認する。
「わたしの馬車を?」
エレローラさんが何を言っているの? と表情をする。
「怪しい人が乗っているか確認するかと思って」
「そうね。一般的な馬車なら確認はするでしょうね。でもフォシュローゼ家の馬車よ。この馬車が通行証みたいなものよ」
なるほど、乗り物が証明になるのか。
「もし、馬車が盗まれたり、同じ馬車を作られたら」
「馬車が盗まれたら大変なことだし、同じ馬車なんて作れないわ。この馬車は特別製なの」
「特別?」
エレローラさんの説明によると、この馬車には特別な仕様がされているのこと。
馬車の中央にフォシュローゼ家の紋章と魔石が組み込まれているのこと。
それが認証システムになっているのこと。
ギルドカードと同じことらしい。
門を通るときに馬車に取り付けられている魔石を読み取り、フォシュローゼ家と認識して、通れるのこと。
「でも、その魔石が盗まれたら」
「盗まれたら、報告して、使用不可にすればいいだけよ」
確かに、盗まれたら、報告すればいい。
「それに馬車を破壊しないかぎり、簡単に魔石は取れないわ」
馬車を壊せば、すぐに気付かれる。
「そんなものが馬車にあったんだね」
「ちなみに、この構造を作ったのも魔法省よ。みんなが知らないだけで、魔法省で作られたものが使われているわ」
エレローラさんが話していると、馬車が止まる。
「到着したみたいね」
エレローラさんの言葉通りに、御者が「到着しました」と声がかかる。
エレローラさんはドアを開け、馬車から降りる。
わたしもエレローラさんに続いて、馬車から降りる。
わたしたちが降りると馬車が動き出す。
わたしたちの目の前に大きな塔がある。
この塔は城の外から見えていた。
「ユナちゃん、こっちよ」
エレローラさんは塔に向かって歩き出し、そのまま塔の中に入る。
入るとすぐに受付があり、受付には女性がいて、わたしを見て、驚きの表情をする。
「エレローラ様と……」
「彼女はマーネ様のお客様よ」
「マーネ様の……」
受付嬢はわたしを見てから確認作業をする。
「はい。エレローラ様と、お連れの方の入館の許可が出されていますね。それでは、こちらが入館許可証となります」
「ありがとう」
エレローラさんはカードを受け取ると歩き出すので、わたしもカードを受け取るとついていく。
受付の横を通ると、扉がある。
「さっき、受け取ったカードをこの水晶版に近づけて」
エレローラさんはそう言うと、自分が持っていたカードを水晶版に近づけるとドアが開く。そして、エレローラさんが通るとドアが閉まる。
わたしもエレローラさんのマネをして水晶版に近づけると、ドアが開く。
開いたドアを通ると、ドアが閉まる。
まるで、駅の改札口みたいだ。
「ユナちゃん、こっちよ」
「結構、中に入るの厳しいんだね」
「馬車の中でも言ったけど、機密情報もあるから関係者以外入れないからね」
エレローラさんのような貴族でもあって、自由に行動はできないみたいだ。
「そのカードは無くさないでね。この先通るにも必要になるし、帰るときも必要になるからね」
ますます、駅に入るカードみたいだ。
ドアの先には広いフロアが広がり、正面に貴族の屋敷にあるような広い階段がある。
「ユナちゃん、こっちよ」
階段を上っていくかと思ったら、エレローラさんが左の通路を歩き出す。
一階なのかな?
エレローラさんはドアの前に立つ。ドアの横には水晶版が填められている。
エレローラさんはその水晶版にさきほどのカードを当てる。
ドアが開き、エレローラさんが部屋の中に入っていくので、わたしもついていく。
ドアが閉まる。
部屋は4畳半ぐらいの部屋だ。
部屋の中には誰もいないし、物もない。
「エレローラさん、ここは?」
「ふふ、きっと驚くわよ」
エレローラさんはそう言うと、壁に近寄る。
エレローラさんの向かった壁には番号が書かれた水晶版がある。
エレローラさんはその水晶版の10と書かれた水晶版にカードを当てる。
「ユナちゃんも、10の数字のところにカードを当てて」
言われるままに10と書かれた水晶版にカードを当てる。
すると、音がしたと思ったら、上に上がっていく感覚に襲われる。
エレベーター!?
「ふふ、驚いたでしょう。階段を使わずに上がる装置よ」
エレベーターだ。
「そんなものが」
「10階も階段を上がるのは大変でしょう」
そうだけど。
エレベーターがあるとは思わなかった。
エレローラさんの話では、カードがないと移動できないってこのことだったらしい。
ようするに関係者以外、自由に使えないってことだ。
エレベーターは止まり、ドアが開く。
「楽でしょう」
エレローラさんは自慢気な表情をする。
「ここしかないの?」
「城にはあるわね。一部の者しか仕えないけど」
「どうして? 便利そうだけど」
「コストが掛かるのよ。それに、上に延ばすより、横に建物を延ばしたほうがコストがかからないでしょう」
土地が余っていれば、横に延ばしたほう楽だ。
都内じゃ仕方ないけど。
田舎に高層ビルを建てるより、横に長い建物を建てたほうがいい。
エレベーターから降りたわたしたちの前に大きな部屋が広がる。
エレベーターを降りた先は部屋だった。
部屋は本で埋もれていた。
いろいろな植物や鉱石も見える。
「誰だ」
どこからもなく声がする。
「マーネ様、エレローラです」
「エレローラか」
中央に見える机から声がする。
机の上には本が山積みになって、人は見えない。
近づくと、机の横から人が顔を出す。
そんなわけで魔法省に到着です。
書籍20.5巻、文庫版10巻が発売しました。
よろしくお願いします。
【書籍】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。
コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。
文庫版10巻 2024年5月2日発売しました。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
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