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2023年5月10日(水)

“思い出の建物”消えていいですか?問われるニッポンの建築文化

“思い出の建物”消えていいですか?問われるニッポンの建築文化

いま、懐かしの建物、思い出の建物が全国各地で取り壊しに…。「中銀カプセルタワービル」や「東京海上日動ビル」など、名建築が次々と姿を消しています。維持管理や耐震対策など、多額の費用が所有者にのしかかる背景も。そうした中、私財を投じて名建築の再生に取り組んだ俳優・鈴木京香さんの取り組みや、宿場町の街並みを住民主体で守った兵庫・丹波篠山の事例も紹介。歴史的建造物の継承はどうあるべきか考えました。

出演者

  • 鈴木 京香さん (俳優)
  • 後藤 治さん (工学院大学理事長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

思い出の建物が消えていく 岐路に立つ歴史的建造物

桑子 真帆キャスター:
取り壊しが相次いでいるのは、戦争や戦後の開発ラッシュといった時代の荒波を乗り越え、地域の営みを今に伝えてきた近現代建築の数々です。

例えば、特徴的な三角屋根の洋風木造建築が長年親しまれてきた「旧原宿駅舎」。そして、カプセル型の個室が積み上げられた独特なデザインで世界的にも注目を集めた「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」。いずれもその歴史に幕を下ろしました。

なぜ、歴史的、文化的な価値を持つ建物の解体が後を絶たないのでしょうか。

俳優・鈴木京香さんに聞く 建築物を受け継ぐということ

俳優・鈴木京香さんが2021年、私財を投じて継承した築66年の一軒家。

桑子 真帆キャスター
「京香さんが、ここは特に好きという場所は?」
俳優 鈴木京香さん
「階段下にあるステンドグラスが素朴でかわいらしくて、本当に好きだなと。雨の日には室内が本当に暗くなるんですけれど、いろんな色がほのかにともっている感じで。いくらでも眺めていられる」

まるで宙に浮いているかのような片持ちの階段。

太陽や月の光を取り入れる天窓。

この一軒家を手がけたのは、建築家の吉阪隆正(1917~1980)。既成概念にとらわれない大胆な発想で戦後、日本の建築界をけん引した人物です。この建物は吉阪の代表作でしたが、持ち主の死後、取り壊しの瀬戸際に立たされていたのです。

桑子 真帆キャスター
「所有者が『これ以上、維持管理できない』と解体が相次いでいる。そういったことについては、どうお考えですか?」
鈴木京香さん
「もともと街の景観だとか、旅先で楽しんでいた私としては、ここにあったすごくかわいらしい民家が今は新しいマンションになってしまっているとか、散歩のときだとか移動先で目にすると、すごく寂しいなと。きれいに直してまだ建っているとうれしかったり、建物の魅力と自分の好みがあるので私は好きだし、大事にしたいと思った」

価値ある建物を次の時代に受け継ごうと購入の手続きをする中で、鈴木さんは一筋縄ではいかない現実も感じたといいます。

鈴木京香さん
「相続税という問題がありますし、このまま継承したいのはやまやまだけど、それができない状態がみなさんおありになったんだろうなと分かりましたから」

建物の継承を巡っては、相続税が大きな課題となっています。

住宅遺産トラスト 木下壽子理事
「所有者の方からご相談をいただいて、継承者の方におつなぎする」

建築家や建築士など不動産の専門家で作る団体です。相続税が原因で建物を解体せざるを得ない背景には、急速に進んだ“少子高齢化”があるといいます。

木下壽子理事
「ご相談を受けるタイミングは、相続のタイミングが非常に多い。特に少子高齢化で、所有者の方がお子さまがいないケースが多い。(所有者が)亡くなった場合、継承者がおいごさん、めいごさん、複数になる場合がある。その場合、非常に複雑になってしまうことが多い」

継承を巡るもう一つの課題が、維持管理のコストです。

細長い空間を生かした、空が一望できる天井が特徴の築51年の一軒家です。世界的に活躍したグラフィックデザイナーの男性が所有していました。男性の死後、妻は高齢者用住宅に移り、息子が主に建物の維持管理を担っています。悩みの種は、老朽化により負担を増す維持費。雨漏りの防止や床材の改修などに、これまで数百万円以上を費やしてきたといいます。

アートプロデューサー 粟津ケンさん
「経費が毎年毎月(建物が)あるだけでかかってくる。なんとかしないといけない。何もしなければ、どんどん建物は古くなっていくので」

一方、建物の災害対策も継承を行う上での課題となっています。

奈良県 橿原市(かしはらし)にある、畝傍(うねび)駅舎。取り壊しの可能性が高まっています。橿原神宮や神武天皇陵への最寄り駅だった畝傍駅は、参拝する皇族にも利用されました。かつて使われた貴賓室も残されています。

駅の利用客が減少する中、所有者のJR西日本は駅舎を存続させる方策として橿原市に“無償譲渡”を打診しました。市が試算したところ、駅舎の耐震化工事などに総額2億円余りかかることが判明。飲食店などの事業者を誘致しても赤字になることも分かり、市は取得を断念しました。

橿原市 市街地整備課 西川満課長
「維持管理をするのに市ですべて賄うのは財政的な負担も大きいこともあり、残念ではあるが、断念という形になった。」

ふだんは非公開の貴賓室。5月7日、特別に公開されました。住民の間からは、取り壊しへの戸惑いの声も上がっています。

住民
「存続は大変だと思うんですけれど、やっぱり受け継いでいきたいものもあるので、親としては残してもらえたらと思います」
八木まちづくりネットワーク 平田元さん
「ひとりひとりの頭の中、心の中にはこの駅舎に対する思いがたくさんある。歴史文化を大事にしたこの地ですので、世代を超えてみんなで考えて、できるだけこの地を残して活用できればと考えています」

なぜ解体?歴史的建造物 継承が難しい“理由”は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、歴史ある建物の保存や活用のあり方の研究が専門の、後藤治さんです。
各地で取り壊しが相次いでいること、後藤さんはどういうふうに捉えていますか。

スタジオゲスト
後藤 治さん (工学院大学理事長)
歴史ある建物の保存・活用のあり方を研究

後藤さん:
何とかしたいとは思うのですが、そんなに簡単ではないんですね。都市部では20世紀、日本はすごく人口が増えましたから、広い敷地に一軒家であるよりも、そこを10軒の家にしたり10戸建てのマンションにしたりということで、多くの人口を受け入れるということを国を挙げて応援していました。現在もその状況というのはあまり変わらないんですね。

地方においては、今度は跡継ぎがいないということに加えて企業の場合には事業を継承してくれる人がいないということで、そういったもので失われることが増えているので、こういったところになんとか手を打たないといけないという課題があります。

桑子:
それぞれの地域の特性によって起きている課題も異なるとは思うのですが、今なぜ歴史的な価値を持つ建物の継承が難しくなっているのか。今回は、大きく「お金の問題」「制度の問題」ということで2つの課題を見ていきたいと思います。

まず「お金」ですが、VTRでは相続税、維持管理費について見ましたが後藤さんはどういう課題があるというふうにみていらっしゃいますか。

後藤さん:
この問題に関しては、特に都市部に対して重い問題だと思っています。「相続税」とか「固定資産税」は先ほど言ったように、1軒の家が建っているところと10軒の家が建っている20戸建てのマンションが建っているところ、同じ「相続税」、「固定資産税」が土地に関してかかってきます。そうすると、1軒のコストの負担が大変重くなります。「災害対策」も都市部においては耐震とか防火とか人口が密集していますので、そういったところもハードルが高くなります。

桑子:
負担が大きいのに、助けてもらえるような補助金というのがなかなか十分ではない。

後藤さん:
そうですね。今、日本では文化財の補助金ぐらいということで大変細々としたものです。

桑子:
そして「制度」についても見ていきたいと思います。

そもそも日本の歴史ある建物は、その価値に応じて「国宝」、「重要文化財」、「登録有形文化財」というふうに定めて保存・活用を図っています。
このうち「登録有形文化財」は、築50年が経過して一定の評価を得たものに関しては今、取り壊しが相次いでいます。

登録抹消の件数を見ますと、特に近年増えていることが分かります。
後藤さんは登録有形文化財などのシステム制度を作られた当事者ということで、なぜこういったことになっているのでしょうか。

後藤さん:
登録制度というのは、もともと価値があるということをみんなに知ってもらうことが目的で登録する、ということが目的とした制度で、そのために国宝や重要文化財のように規制が重くかかるわけではないということです。
一方、規制がない代わりに補助も少ない。そこがまず問題になります。

桑子:
維持管理が難しくなる。

後藤さん:
維持管理だけではなく、先ほど言ったように地方において後継者がいなかったり事業を継いでくれる人がいないということで、近年さらに抹消されるものが増えているのではないかと想像します。

桑子:
ただ、価値のある建物というのは多くあるわけで、そうした建物を継承するためにこうした大きな課題がある中で、地域の住民たちみずからが関わることで活用への道を開こうという動きも出ています。

消えゆく歴史的建造物 “次の時代へ”継承の模索

5月、予定されていた取り壊しが直前で食い止められた建物があります。

鹿児島県民教育文化研究所。昭和14年、呉服商の邸宅として建てられ、地元では旧藤武邸として知られています。
藤をあしらった欄間に、寄せ木細工で形づくられた床。和洋折衷の貴重な近代建築として評価されています。2014年、国の登録有形文化財に認められました。

教育文化研究所の解体が浮上したのは、2022年の夏。老朽化で維持が難しいとされたのです。

建物の存続に立ち上がった砂田光紀さんがまず取り組んだのが、地域住民と問題意識を共有することでした。解体中止を求める署名を呼びかけ、4,000件余りを集めました。さらに、各地の博物館などの改修を手がけてきた経験をもとに、建物の活用計画を作成。

鹿児島の古い建物や街並みを活かす会 砂田光紀さん
「これが概要資料ですね。たとえば観光インバウンド、遠足、展示とか展覧会、即売会、こういうことが向いているのではないかと書いています」

年間およそ1,500万円の収入を見込み、建物の補修・維持管理の費用を差し引いても黒字を達成できるとしています。

砂田光紀さん
「ただ守ってください、買ってくださいというのは独りよがりすぎるなと。こういうものを作って提案していく」

解体期限が迫っていた4月末までに、複数の購入希望者が現れました。所有者は解体を延期し、6月上旬には売却先などを決めたいとしています。

住民たちが歴史的な建物を積極的に活用することで、街の活性化につなげた地域があります。兵庫県 丹波篠山市(たんばささやまし)福住地区です。

江戸時代末期に建てられ油問屋だったとされる建物。5年前に古民家ホテルとして改修されました。

ホテル経営 安達鷹矢さん
「梁(はり)とか駆体(くたい)は、全部そのままいじらずに使っている」

居間だった和室をレストランに改修し、個室はもともと床の間だった空間を生かしました。

安達鷹矢さん
「古いから新しいものに変えるのではなく、そこが味があるからそれを生かすためにどうするかという使い方をしている」

街の活性化に取り組んできた麻田馨さんは、過疎化が深刻となる中、16年前から活動を始めました。

福住地区財官 麻田馨さん
「子どもさんたちは都心へ就職する。そうするとこちらへは帰ってこない。そこからここまで空き家ばかりだった。本当に死んだ街みたいな感じでした」

起死回生の一手として目をつけたのが、空き家となっていた歴史のある建物の活用。継承する上での壁を乗り越えるある仕組みを考えました。

通常、活用したい人が現れても建物の「購入」や「内装の改修」に加え、「外観の修理」や「耐震補強」が大きな負担となります。
そこで福住地区では、建物の所有者と負担を分担します。行政が1,000万円を上限に、その8割を補助する制度を活用し、所有者が「耐震補強」などを行います。
一方、建物を活用する人は月々の「賃料」を支払います。初期投資は「内装の改修」費用だけで済むのです。

こちらのカフェは、昭和初期に芝居小屋として使われていた建物を活用しています。耐震や外観にかかる費用は負担することなく、内装や設備にかかるおよそ900万円で開業することができました。

大阪市内から移転 カフェ店主
「大阪市内であればこんな広いところ絶対に資金的にも借りられないので、ここの持ち主も管理している人も(訪問した)その日にすぐ来てくれて、中を見せていただいて一発で気に入って、その日に契約した」

こうした取り組みの結果、古着店や自転車店など、多種多様な事業者の誘致に成功。福住に移住する人も増えています。

こちらのパンの店は、3年前に大阪から移住した家族が営んでいます。明治時代に建てられたとされる家屋を、住宅兼店舗に活用しています。

大阪市内から移転 パン店 店主
「柱にしても造りがすべて恰好いいなと初めて見たときに思って。自分でこれを買ってというのは絶対に夢の夢だろうなと話をしていたのが、ちょっとそれ(賃貸)だったら自分たちでもできるかもと」

空き家となり、地域の衰退を象徴していた思い出の建物。今、新たな価値を生み出しています。

麻田馨さん
「店舗なり移住者の方を受け入れて、そういう土壌が出来ていますから、ますます入ってこられて、にぎやかになって、将来が明るいのはうれしい」

消えゆく歴史的建造物 “建築文化”の今後は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
活用計画を作って価値を可視化したり、負担を分担するような取り組みをご紹介しました。
他の地域でも実現していくために必要なことはどういうことだと思いますか。

後藤さん:
自治体が、負担が重いという話がありましたが、その投資がしっかり地域の元気に戻ってくるということを認識するということ。
また、そういう自治体を国が応援してあげるということが大事なのではないかなと思います。

桑子:
今、国に応援するような仕組みというのはないのでしょうか。

後藤さん:
「歴史まちづくり法」というのが約10年前ぐらいにできて、そういう取り組みはされているのですが、まだまだその取り組みが広がっていない状況です。

桑子:
国も歴史的な建物が失われていく現状に危機感を持ち、この春、有識者会議を立ち上げました。その座長を後藤さんが務められているということで、具体的にどういう議論・アイデアが出ているのでしょうか。

後藤さん:
いくつもアイデアが出ているのですが、1つは20世紀は人が増えていた時代ですが21世紀はそういう時代ではないので、つくり替えるばかりではなく、建物を残すことにもっと応援する仕組みがあったほうがいいのではないかと。

桑子:
具体的には。

後藤さん:
実は「建築文化振興法」というのを作って、建築を残したり自治体が元気になるようなことを応援する。今だと実は20世紀の名残で、新築することのほうがモノを残すことより応援が大きいんです。残すほうが、より応援が出るような仕組みにすることを提案させていただいています。

桑子:
具体的に、海外というのはどういう考え方なんですか。

後藤さん:
例えば、台湾だと平屋建ての建物と10階建てに開発するのとで、平屋を残すと実は10分の1の固定資産税で済むみたいなんです。要するに、低額の負担で済むような制度が取り入れられています。

ヨーロッパだと建物の規模に応じて資産に課税されるということで、必ずしも高層に開発することばかりに利があるわけではないような仕組みが取られています。

桑子:
建物の規模に応じて、負担というのも柔軟に変えていける仕組みは日本でもつくれますか。

後藤さん:
そういったものも、新しい制度とかで自治体の計画の中で実現していくような仕組みというのができるのではないかと思っています。

桑子:
そして、それを国が支援するというような形ができたらいいですよね。そういう制度面も大事ですが、私たちが暮らす中で考え方として「こういう考え方を持っていたらいいのではないか」ということはどういうことでしょうか。

後藤さん:
今、環境とか省エネの中で、新築の建物を省エネルギーにしようとか、それから廃材が出たときにリサイクル・リユースをしようということですごく国は力を入れていて、日本はそういう意味では一級の先進国なんですが、実は世界では車の両輪のもう一つとして、今ある大事なものを長く使い続けることを応援するということをやっているんです。

日本人は、今あるものを長く続けることをノスタルジックに思っているのですが、それがもっと環境であるとか、サステナビリティというものにつながるという発想が大事ではないかなと思っています。

桑子:
つくるだけではなく、残せるものは残せる。そういった仕組みも同時に考えると。

後藤さん:
それを、車の両輪にしていくということですね。

桑子:
最後は、私がお話を伺った鈴木京香さんです。受け継いだ身としての役割を模索されています。

“歴史”を未来へ 鈴木京香さんの思い

私財を投じ、貴重な建築物を受け継いだ鈴木京香さん。

将来的には、この空間を芸術作品のギャラリーなどとして活用する予定です。さらに、この春立ち上がった建築文化の活用のあり方を考える国の会議の委員にも就任しました。

俳優 鈴木京香さん
「近代建築をどうやって守っていくか、もしくは観光資源として対応していけるのか、自分の立場でいえることはまとめようと思って、まとめている時間とかが楽しいんです。私が好きだなと思う建築家の好きだなとい思う建築を継承させてもらいましたけれど、たとえば苔(こけ)が好きな人もいれば、ブリキのおもちゃが好きな人もいれば守りたいものは人それぞれ違うと思うんですよね。自分の守りたいと思うものを守っていける環境づくりをしたい」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
2023年5月9日(火)

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

家でも学校でもない第3の居場所 ヒントは昭和の長屋文化!?

住宅地の空き家が子どもが集う駄菓子屋に。渋谷の複合ビルでは親子やシングルなどさまざまな背景を持つ人たちが共同生活を送り、支え合いの関係を築く“拡張家族”という社会実験が行われています。“ありのままの自分でいられる居場所がない”と訴える子どもたちが増えるなか、学校でも家庭でもない“第3の居場所”作りが広がっています。家庭や学校の負担が増えるなかで、こども家庭庁も本腰を入れています。解決のヒントは“昭和の長屋文化”?

出演者

  • 青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

家でも学校でもない 子どもの第3の居場所

桑子 真帆キャスター:

家や学校以外に安心できる居場所がほしい。つまり「第3の居場所」がほしい。そう考えている子どもや若者が全国で7割に上ることが、4月に発足したこども家庭庁の調査で分かりました。こうした居場所をどう作るのか。今、国を挙げた取り組みが始まっています。子どもたちの声をきっかけに生まれた、第3の居場所があるんです。どんな場所なんでしょうか。

駄菓子屋が居場所に

東京 八王子市の住宅街の一角に、たくさんの子どもたちが詰めかける駄菓子屋がありました。

手にしているのは、今どきの子どもにとっては珍しい駄菓子や、おまけ付きのくじ。下校する子どもに合わせ、午後2時に開店。遅い日は夜7時まで営業しています。

小学生
「来たら、そのときにスタンプを貼ってもらうの。12回来てる。一人でも来る」
取材班
「友達の家に行ったりはしない?」
小学生
「しない。ちょっと気遣っちゃう」

一見ごく普通の駄菓子屋ですが、なぜ子どもたちの心を引きつけるのか。店の許可を得て、日常を定点観測させてもらうことにしました。

午後2時、開店。

学校が終わって、子どもや親子連れがやってきます。中には、お菓子に目もくれず奥へ向かう子どもたちも。

店の奥には、自由に過ごせるスペースもあります。早速、宿題に取りかかりました。

夕方4時半、大勢の子どもたちが。

始まったのは、カードゲーム大会。学年や学校を超えた居場所になっていました。ここでは、一人でも自分の好きな時間を過ごすことができます。店を運営する、ボランティアの大人がサポートします。

訪れるのは1日平均30人。毎日通う子どももいます。実は、この駄菓子屋は子どもの声をもとに作られました。八王子市では20年前から子どもが主役の議会を開き、子どもの意見を政策に反映する取り組みを続けてきました。そうした中、2年前に子どもたち自身から居場所を求める声が多くあがったのです。

八王子市子ども家庭部 井垣利朗さん
「本屋がある町とか、自習ができる町とか、子どもの居場所を求める声っていうのは多くあったなと感じている」

子どもたちが何気なく過ごせる居場所は急速に減っています。例えば駄菓子屋の場合、1972年には13万6,000軒ありましたが、この50年で20分の1まで減りました。

中学生
「駄菓子屋を通してみんなが交流できるような空間というのが、すごくありがたいと思います」
中学生
「地域の人と話せることはあんまりないじゃないですか、こういう話せるフリーダムな場所があるといいと思っています」

この駄菓子屋で子どもたちが大きく変わったという人がいました。近所に住む山下洋子さん(仮名)。2人の子どもを育てるシングルマザーです。
コロナ禍で親子で家に引きこもるようになり、子どもたちの気持ちも不安定になりました。

山下洋子さん(仮名)
「娘に関しては一緒に心が荒れちゃうんで、ぐずるとかもすごい多かったですね。ぱっと見たら虐待してるんじゃないかという雰囲気が。私の身内からも言われるんですけど、そういう雰囲気がすごかったらしい」

今、山下さんの子どもたちは毎日のようにこの駄菓子屋に通っています。

長男
「ここでは集まって遊んだり、ゲームをしたりしている。全部楽しい」
山下洋子さん
「(駄菓子屋に行く前は)本当に暗い感じでしたよ。本当にこんな感じじゃなかった。きょうも楽しく過ごせるんだろうなって。そのまま大きくなっていければいいなとか、そういうことを覚えながら眺めちゃいます。もう心の支えですね、めちゃめちゃ存在でかいですね」

居場所は学校と職場!? 日本の子ども・若者

子どもが、家でも学校でもない居場所を求める背景には何があるのか。立命館大学の御旅屋達(おたやさとし)教授が注目するのは、こちらのデータ。

10代20代の悩み事の相談相手の国際比較です。親以外の相談相手として選ばれたのは、日本では「近所や学校の友だち」が特に多く「誰にも相談しない」という回答も際立っています。

立命館大学産業社会学部 教授 御旅屋達さん
「これだけ学校とか近所が友達作りに影響を与えているというのは、ともだち100人できるかなじゃないですけれども、学級でうまくやるということが非常に強く求められる。その中で人間関係を作っていかないと、生きる場所がないという構造が強く表れている」

さらに、こうした傾向は学校を卒業した後の職場にまで現れています。仕事をするうえで大切なものを比較した調査です。

他の国では「高い賃金や充実した福利厚生」など待遇面を重視する一方、日本では「良質な職場の人間関係」が最も高くなっているのです。

御旅屋達さん
「これまで日本社会において学校であるとか企業であるとかいう場所が、強く私たちを丸抱えしてきた。いったん外れた子たちはなかなか戻れない感覚が残されている。社会にどこにもいない、そういう存在の人たちが増えてきた」

第3の居場所の模索

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、国の審議会で「こどもの居場所部会」の委員を務めている青山鉄兵さんです。

こども家庭庁でも、こども・若者の居場所づくりというのが重要項目として挙げられているそうですが、今、彼ら彼女たちの居場所に何が起きていると見ていますか。

スタジオゲスト
青山 鉄兵さん (文教大学 准教授)
こども家庭庁こども家庭審議会こどもの居場所部会委員

青山さん:
先ほど駄菓子屋の映像もありましたが、ああいう地域のつながりがなくなる中で、家庭や家族や学校に期待される役割がどんどん増えていったという状況があります。

子どもの側から見ると、人間関係も居場所も「家」・「学校」、この2つにしかないというような子どもがたくさんいるという状況になるわけです。あるいは、親とか家族、学校の先生以外の大人とふだん会わないという子どもも多いかもしれません。そこで何かうまくいかないことが起きてしまうと、とたんに行き場を失ってしまったり、また、今のいわゆるいろんな生きづらさにもつながっていると言えると思うんです。例えば、トー横キッズなどの現象もこういった居場所のなさを反映していると言えると思うんです。

なので、やはり社会全体の中で子どもや若者の余暇ですとか、放課後をどう整えていくか、そんなことが課題になっていると思います。

桑子:
その1つが、まさに駄菓子屋と言えるわけですが、子どもたちが実際にどんな居場所を求めているのか。こども家庭庁のデータです。「居場所がない」と回答した子どもで、どういった場所だったら利用したいかというのを聞きました。

いずれの年代を見ても、大きく2つに特徴が分けられました。「自分の意見や希望を受け入れてもらえる」、「悩み事の相談に乗ってもらったり、一緒に遊んでくれる大人がいる」と答えた子どもたちよりも、「1人で過ごせたり、何もせずのんびりできる」、「好きなことをして自由に過ごせる」と答えた子たちのほうが多かった。ここから読み取れることは何でしょうか。

青山さん:
居場所といっても、大人が場所だけ用意してあげれば居場所に自動的になるというものではないわけです。やはりそこが子どもたちにとって安心できたり伸び伸びできたり、ここにいたいなと思えるというものとセットで初めて居場所になると思うんです。そういう意味では、いわゆる「居場所づくり」といったときに、大人たちはついつい成長ですとか変化ですとか、すごく教育的な期待をいっぱい込めてしまうようなこともよくあることなんですよね。

桑子:
何かしてあげたいというようなね。

青山さん:
そうです。でも、まずは1人でも過ごせるとか、何もしなくてもいいよということも含めて、子どもたちにとって安心できるということがすごく大事になると思うんです。

どうしても成果ですとか評価が大事にされる社会の中では居場所にすら「成果」を期待してしまう。そんな状況もあるような気がしています。

いろんな「体験」とか「つながり」とか、結果として変化や成長につながるものがたくさんあるわけです。それを大人が期待しすぎない。それが重要かなという気がします。

桑子:
こうした中で若者たちが中心となって子どもたちと新たな居場所を作ろうと、ある試みを始めています。

令和の長屋“拡張家族” 新たな居場所づくり

東京 渋谷にある複合ビルの13階。夜7時、夕食会が開かれていました。

集まっていたのは、20代の会社員や40代のクリエイター、30代の作家など。性別や年齢、職業まで多種多様な人たち。大手不動産会社と共同の新たな居場所づくりの社会実験です。実は、彼らはこのビルで共同生活を送っています。今は19の部屋で32人が暮らしています。

会社役員
「鍵もかけていない部屋も多いし。あんまり考えられない、今だと鍵をかけないでおうちを空けるとか」

大切にしているのは、血縁関係がなくても家族という意識を持つこと。育児の場合も、自分の子どもを育てる意識で支え合います。「拡張家族」と名付けられた、この社会実験。京都にも拠点を広げ、メンバーは総勢100人になります。

拡張家族Cift 石山アンジュさん
「(拡張家族は)新しい長屋的な新しい暮らしを実験してみようという試みの1つとして始まりました。現代の家族は核家族。少数で子育ても介護も、お互いの人生も支えあわなくてはいけない、そういった状況にいる人が多いと思うんですけれども、拡張家族は家族におけるあらゆる負担を複数の人たちでシェアできることだと思います」

3年前から拡張家族の一員として入居している、奥井奈南さんです。フリーランスで働きながら、2022年、ここで第一子を出産しました。パートナーは今は地元の三重県で働いています。

奥井奈南さん
「ハードですね。(仕事を)詰め込みすぎないと思っているけど、詰め込んじゃいます。もちろん子どもが優先的に最上位ですけど、ママに合ったスタイルが一番自然な愛情を注げると思うので、私はそれが仕事と育児の両立だった」

イベントやネット番組の司会を中心に仕事をしている奥井さん。仕事の合間をぬって、できる限り子どもとの時間を作ります。イベントの最中、奥井さんは会場にいた女性に子どもを預けました。

内田美希さん、共同生活をおくっている住民の一人です。この日は、奥井さんの子どもの世話を進んで引き受けました。入居して10か月。内田さんは多くの子どもを見てきました。互いに支え合う暮らしの中で、心地よさを感じるようになったといいます。

内田美希さん
「なんだろう、自分のライフワークって感じ。大人がいないと生きていけない命を一緒に育てるみたいな。
(拡張家族は)頼りたいときに頼れるとか、頼ってもらえるから頼りやすい。誰か助けてくれるみたいな安心感は大きいじゃないですか」

夜11時、仕事を終えた奥井さんが帰ってきました。

内田美希さん
「(小声で)おかえり。お疲れ様さま」
奥井奈南さん
「(小声で)マジで助かる。めっちゃすやすや寝てる。爆睡してる」
奥井奈南さん
「今みたいな第3の家族、第3の居場所があると、地域みんなでこの子を育てていくみたいな。(ここで)子育てしてみて、こういうことかと実感できた感じです」

これまで15人の子どもが周りの大人たちとの関わりの中で育ってきました。今では地域の子どもたちも遊びに来るようになり、より多様な人たちが関わり合う居場所になっています。

石山アンジュさん
「大人でも多様な意見があるんだとか、子どもが自分で気づけるきっかけになることは大きいと思いますし、子ども側の視点から見て自分の親以外にも何かあったときにSOSが出せるとか、誰かつながりを求められる環境という開かれた家族のあり方というのが、この拡張家族のいいところだと思います」

変わる家族の形 新たな居場所づくり

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
拡張家族の試み、どんな印象を持っていますか。

青山さん:
居場所というのは、大人にとっても大事なものだなということを実感しますね。

その上で居場所づくりという話になると、第3の居場所、ここの話題が多くなることも多いわけですが、これまでの背景を考えれば、この居場所を考えるということは第1や第2の居場所そのものを捉え直していく、そんな形になるのかなと思うんです。

なので、今の拡張家族の事例というのは第1の居場所と第3の居場所の境界線をアップデートするというか、家族自体を捉え直していく試みというふうに言えるかなと思いました。

桑子:
見ていると、子どもにとっては面倒を見てくれる大人がたくさんいて、私は経験してないですけど昭和の長屋のイメージを見たような気がしました。今、家族の形は当時とは変わっていますよね。
例えば「核家族化」が進んでいたり「ひとり親世帯」「共働き世帯」も増えています。こうした令和の今にどういうことが求められていると考えますか。

青山さん:
家族の変化がさまざまある中で、一方、家族に期待する役割というのは大きい状態がずっと続いてきたのではないかと思うわけです。今お話にもあったように家族の形はすごく多様ですよね。ですから、まずは多様な家族像を認めていくこと。その上で、親や保護者たちが孤立しないよう、みんなで社会や地域とつながりながら子育てをしていける環境をどう作っていくかが重要なのかなと思います。

桑子:
拡張家族のようなものがあるかもしれません。他にどういったものがあるでしょうか。

青山さん:
例えば、先ほどの駄菓子屋のケースも第1と第2と第3の線引きを変える1つの試みだと思うんです。地域の大人たちが、第3にああいう拠点を作っていくことで家族も支えられたりとか生きやすくなったりとか。そういうような試みが、第1の場所もそうですし、第3の場所にもあるということが大事ですね。第2もそうだと思いますけれども。

桑子:
地域で言うと、地域が持つ特性というのもありますよね。

青山さん:
例えば日本語が苦手な子どもたちが多くいる地域であったりとか、貧困家庭が多い地域などもあります。そういう地域ではそういった地域の特性に合わせた支援が必要になってくるでしょうし、例えば高校生とか大学生が近くにたくさんいるような地域であれば、彼らがお兄さん役、お姉さん役になったりしながら大学生も小学生も両方成長できるとか、そういう循環する仕組みなんかも地域によってはできるかもしれません。

桑子:
今回は駄菓子屋、そして拡張家族をご紹介しましたが、青山さんがどちらも大事だと思った共通点はどういうことですか。

青山さん:
2つ共通しているのは、当事者の声が届いている、よく反映されているということだと思います。八王子の駄菓子屋のケースも、子どもたちの会議の中からいろんな声が広がってきたということもありました。大人が「はい、居場所だよ」と言っても居場所になるわけではなくて、これが自分たちの場所だというふうな感覚がちゃんと持てることが、居場所の大きな条件だと思うんです。

その意味では、運営する時、あるいは立ち上げる時にも子どもたちや若者たちの声を十分に聞いて、それを反映できるような信頼とか構えを準備する側にできるといいなと思いますね。

桑子:
こどもの居場所部会の委員でいらっしゃいますが、国の議論に参加されていて本気度はどう感じますか。

青山さん:
もちろんこれから決まっていくこともあると思うのですが、4月からこども基本法が施行されて「こどもまんなか」というようなキーワードも今使われるようになってきています。

いろいろなものの決定プロセスの中に、子どもや若者の声もちゃんと届けようというようなところはこだわりどころとして大事にされている感覚があります。なので、これからいろんな形でそういうのが当たり前になるようなことを期待したいですよね。

桑子:
イメージだけではなく、実りある実効性のあるものをぜひ作っていってほしいなと思います。
これから居場所というものを作る上で、どういうものが大事になってくるのか。青山さんにキーワードを挙げていただきました。「ユニバーサル型・ターゲット型」があるのではないかと。

青山さん:
「ターゲット型」から説明すると、ターゲットのアプローチというのは特定のニーズや課題、例えば貧困、虐待、障害ですとか、いろいろなラベルがあると思うのですが、そういった特定の課題やニーズに向けてアプローチしていくのを「ターゲット型」と呼びます。

「ユニバーサル型」というのは、例えば児童館とか公民館が分かりやすいかもしれませんが「誰でも来れるところ」で行われるサービスのことをユニバーサル型と言うんですね。

サービスというか居場所なので、サービスという言葉も合わないかもしれませんが「ターゲット型」の緊急度が高いケースの支援も大事にしながら、もう一方でターゲット型では救えないニーズであったり、みんなにとっての居場所をちゃんと大事にしていくことが求められます。

例えば「誰々のための場所ですよ」というと行きにくかったりすることもあるので、ユニバーサルな取り組みの中にターゲット型のニーズもちゃんと包み込まれながら地域のいろんな人が巻き込まれて、ユニバーサルな場所が広がっていく。両方大事にできることが重要かなと思います。

桑子:
ユニバーサル型が醸成していけば、気づけばターゲット型も包み込むことができるのではないかと。

青山さん:
そういう両方を含む隙間というか、余裕のようなものが子どもたちの安心にもつながりますし、ただの場所の用意ではない居場所づくりみたいなものにつながっていくのかなと思います。

桑子:
隙間って大事なキーワードだなと思います。居場所ってこうだと定義づけるものではないです。みんなが心地よくいられる場所、増えていったらいいなと思います。

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