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ぼくの短歌ノート③『つむじ風、ここにあります』by木下龍也

引き続き、短歌を紹介します。

今回は、歌人・木下龍也さんの第一歌集『つむじ風、ここにあります』からの引用です。

ぼくが短歌にハマったきっかけでもある一首がたくさんちりばめられています。

なんとなく古風で、おじいちゃんおばあちゃんたちが集まってやってるという短歌のイメージを、

「こんなに自由に斬新でいいんだ!」

といい意味で壊してくれました。

全14首です。

それではどうぞ!


①鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい

いわゆる「おにぎり」のこと。「おにぎり」をこんな分解して味わうなんてこと、なかなかしないですよね。
そう、おにぎりってこんなに「包んだ」食べ物だったんだなと。その後、お母さんや、おばあちゃんがふんわりと握ってくれる。時折、無性におにぎりが食べたくなるのは、自然とそういう温かさを求めているからかもしれません。「鮭の死」から、命をいただいてるんだということも感じられます。
ぼくが短歌にハマるきっかけを作ってくれた一首です。


②飛び上がり自殺をきっとするだろう人に翼を与えたならば

「RedBull翼をください」「今私の願い事が叶うならば翼が欲しい」
自由や夢を追い求める時、人は翼に憧れを馳せるものですが、もっと現実を直視すると、そこには生々しい「生の放棄」もあると思うのです。
死んで楽になりたいっていうのと、理想に燃える姿って「自由」という言葉でつながってる気もするんですよねえ。


③針に糸通せぬ父もメトロでは目を閉じたまま東京を縫う

木下さんがはじめて作ったという一首。恐ろしい。
東京の交通網、とくに地下鉄網は世界でも類を見ないほど複雑だといわれています。
そんなお父さんサラリーマンたちは、今日も自分を奮い立たせ、電車に乗り込み、電車に揺られているときはせめてもの休息を取り、縦横無尽に動き回り、東京を、日本を支えているわけですね。
もちろん、そんな自覚はきっとないと思うんですけど。


④日だまりのベンチで僕らさくら散る軌道を予測していましたね

『秒速5センチメートル』のオマージュかな。というかもう、それしか考えられない。いいですね。中学校の国語の先生が「名作には、必ず名曲がある」的なことを言っていたのを思い出しました。より作品を深く、味わうことができる一首ですね。


⑤つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる

歌集のタイトルにもなっている一首。
捨てられた菓子パンの袋。ぶわっと吹く強い風。
生活の中でいちいち、気にしないような存在。そんな2人がタッグを組んだ。「目に物見せてやろうぜ。ちょっくら暴れてみようかな。一風吹かせてやるよ、お前も乗ってくれるよな?」
ぶおーーーふわっ…
目立たない者たちによる、ささやかで、美しい抵抗。


⑥自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる

生殺しですね。
虫たちが元気になる夏。彼らには光に集まる習性がある。頑張って生きていたら、喉が渇きます。でも、彼らは自販機に100円玉を入れる術も、ボタンを押す方法も知らない。


⑦たくさんの孤独が海を眺めてた等間隔に並ぶ空き缶

この世界では、海岸沿いを歩くとき、手ぶらではいけないらしいのです。コカ・コーラなのか、チューハイなのか、ビールなのか。みんな片手に缶を持っています。
1人もいる。カップルもいる。アベックもいます。
んでさ、ひとしきり感傷的になった後、みんな缶を置いて帰っちゃうんだ。ひどい話だ。
でも、それはゴミじゃなくて、しっかり「風景」になってるんだよなあ。


⑧カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる

逆転の発想。部屋に閉じ込められるとは言うけど、「世界に閉じ込められる」とはふつう言わない。自分の部屋に入れなくなってしまったことに、小さな絶望を感じる。
この人にとって、世界はあんまり居心地の良い場所ではないのかもしれない。


⑨空を買うついでに海も買いました水平線は手に入らない

海沿いのタワーマンション。朝日を眺め、水面は太陽に反射してきらきらと輝き、夜には何万ドルかのきらびやかな景色や、夏には花火なんかも見れちゃう勝ち組物件。
慶応経済卒の商社エリートマン。自頭の良さと適切な方向への努力、そして人当たりの良さで、ぐいぐいと出世し、社内では若手のエース。時期役員コースもほぼ内定。奥様は吉岡里帆似の意外とかわいい系。週3回欠かさず筋トレをし、週末は学生時代の友人とサッカーをしたり、バーベキューをしたり。zoom朝活で勉強会を開いたりもする勤勉な人だ。愛犬はプードルのレオ君。愛車は真っ赤なポルシェ。月に10冊ほど本を読み、感想をブログに上げており、そこでちゃっかり収益も生み出している。最近はyoutubeでおしゃれなvlogも取り始めた。そんな誰もがうらやむ暮らしを手に入れた男でも、水平線は手に入らない。水平線は地球のものです。お金では買えない価値があります。


⑩風に背を向けて煙草に火をつける僕の身体はたまに役立つ

身体の使い方なんて、役立つなんて、普段考えないですよね。普段考えないからこそ、自分の身体は結構、いい感じに役立ってて欲しいと願うのがぼくたちです。
「あ!先輩!今日風強いんで、場所変わりますよ!ここならたぶん、火つきますよ!」
そんなことをしたら、次の日からあなたのあだ名は、「風よけ」か「防風林」になります。


⑪B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る

コロナウイルスの影響からか、最近はめっきり見かけなくなってしまった「献血カー」。大きな駅前のロータリーでたまに、大学生ボランティアと思しき青年が「献血へのご協力をお願いします!」と訴えている。
急いでいるしな…と誰にも聞こえない言い訳をぼそりとつぶやき、彼の前を通り過ぎようとしたとき…目が合ってしまった。
「B型の血液が足りていません!」
ああ、ぼくは都内に勤務する社会人でして、2DKのアパートに友達と暮らしていて、最近は筋トレを頑張っていて、好きな食べ物はとんかつで、最近、遊戯王にまたはまってしまって…
そんなぼくの「属性」なんて関係ない。彼の瞳には「B型の人」というぼくしか映っていなかった。


⑫右利きに矯正されたその右で母の遺骨を拾う日が来る

生まれたら、勉強をして仕事をして恋をして食べて寝て、そして死にます。紆余曲折、人それぞれの人生がありますが、死ぬのはみんな一緒。
すごい歌ですね。生き物としての「生」のプログラム。生きやすいように、右利きになるように教育した母。教えてもらったことなど何も覚えていなくて、ごく自然に右手で母の遺骨へと手を伸ばすのです。
お母さんの教え、しっかり守りました。


⑬疑問符のような形をした祖母がバックミラーで手を振っている

かわいい。なんかおばあちゃんってかわいいですよね。たぶん、ぼくらがしゃべってること、ほとんど理解していないと思うんですよ。それでもにこにこと聞いていて、わからなければ、素直に「なんだそれは?」と言う。現代の社会は、おばあちゃんたちにとって、分からないことだらけだと思う。最新のアプリとか、電子決済とか、はやりのアイドルやJPOPとか…
疑問の象徴であるおばあちゃんのと、腰が曲がってしまうおばあちゃんの物理的な見え方とをミックスさせた一首。


⑭いくつもの手に撫でられて少年はようやく父の死を理解する

同情や哀れみ、悲しみ。たくさんの感情が少年に降り注ぐ。たくさんの大人たちがみんな、同じ表情をしている。少年はなんとなく、なんとなくで、父の死に気付いていくのだ。


以上となります!

次回も短歌をまとめていきますね。

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