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この作品「お前ら固有名詞を入れて会話しろ」は「アオチリ」「グルジャモ」等のタグがつけられた作品です。
お前ら固有名詞を入れて会話しろ/ぺタの小説

お前ら固有名詞を入れて会話しろ

10,925文字21分

今回もアオチリです。グルジャモもいます
グルーシャはウインタースポーツにトラウマこそ持っているものの嫌いにはなっていないという設定です。ゆえに初心者に教えるくらいはします。地雷の方は注意
また、Twitterの方でアンケートを取らせてもらった結果ナンジャモの年齢は二十代前半~半ば(グルーシャよりやや年上くらい)にしました
注意点
登場人物全員の頭が弱い
ナンジャモの口調が迷子
グルーシャの口調も迷子
ナンジャモアオキさんに懐きすぎじゃね?
タイトルが全てな所はある

1
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 ある日アオキのスマホロトムが鳴った。アオキのスマホロトムの着信音は営業部関係、ジム関係、四天王関係で分けている
 今鳴った着信音は、ジム関係の音だった
(チャレンジャーがそろそろ来るというハイダイさんからのメールでしょうか。)
 見てみると違った。全然違った
『やっほー!アオキ氏今日は営業かな?終わるのは夜の七時あたりかな?というわけでアオキ氏は本日の業務が終わったらハッコウシティの来来来軒に来てもらいまーす!なお、来ない場合は後日チャンプルジムチャレンジの隙を狙って突撃グルメ!☆宝食堂編を生配信するぞよ!』
 地味に嫌な嫌がらせだ。ジムチャレンジで挑戦者と戦っている間に生レポートをされるなどたまった物ではない。女将さんもカンカンに怒るだろう
「…。」
 何故自分が

「来た来た!」
 店内は食事時と言う事もあって賑わっていたが、だれもナンジャモを気に掛ける様子は無い
「ボクあまりにも有名すぎてこの街にいるの当たり前になっちゃったからねー。あ、またいるよって皆気にしないんだ。」
「…そうですか。」
「今日はボクの奢りだからね!どんどん食べてね!」
「そのつもりです。」
 とりあえずラーメンと青椒肉絲と麻婆豆腐を頼む。ナンジャモもラーメンを頼んでいた
「ま、食べながら話をしようか。」
 ラーメンを食べながらアオキは聞く
「何故自分が呼ばれたのですか?ジムリーダーならもっと取っつき易い人がいるでしょう。脅しのような真似事までして。」
「アオキ氏じゃないとダメなの。何せチリ氏に関係する事だからね。」
 チリ。同僚の明るい笑顔を思い出す
「チリさんならリップさんやカエデさんがいるでしょう。」
「チリ氏をちょっと観察してほしいんだって。四天王のアオキ氏ならまだ観察しやすいでしょ?」
「…?」
 胡乱気な目でナンジャモを見たアオキにナンジャモは付け加えた
「チリ氏好きな人がいるみたいなんだよね。」
「好きな人、ですか?」
「そ。この間二人で飲んでいたらチリ氏がポロっと『チリちゃんもナンジャモみたいに可愛かったらあの人も見てくれんのにな…。』ってマジ顔で言ってた。すごくお酒入ってたからチリ氏覚えてないみたいだけど。」
「…で?」
「で!」
 ナンジャモは人差し指を上に上げる
「ボクはチリ氏の友達だからね!ちょっと手伝いたいんだ。…チリ氏のあんな辛そうな顔はじめて見たんだよ。」
「自分も手伝えと。」
 ニシシとナンジャモは尖った歯を見せて笑った
「ちょっと見てさ、誰の名前を出したらリアクションがあったとか、どこの町に頻繁に行ってるかでいいから、よろしく頼むよ。」
「…自分じゃなくてもいいのでは?」
「ハッサク氏はそういうのに疎そうだし、ポピー氏は感づかれるかもしれないじゃん。頼むよー!」
 アオキはため息をついた
「…何も収穫がなくても怒らないでくださいね。」
「わーありがと!味方見っけ!」
 これは幸先がいいぞと喜ぶナンジャモにもう一度、深いため息を吐いた

 実はアオキはチリの事が好きだった。コガネ弁が放つ軽やかな声、気さくだが困っている時はさり気なくフォローしてくれる気配りの出来る性格、艶やかな緑の髪、眩しすぎるくらいに明るい笑顔、どれもアオキを魅了した
 だが、アオキは冴えない中年。チリとて二十近く年上の男に気を持つはずが無い
 端からどうしようもない恋なのだ。チリのためを思うのなら、ナンジャモに協力した方がいい
 ここは気持ちを押し殺そう。とアオキは前を向いた

 そこからアオキは他の人間には分からないようにこっそりと、注意深くチリを観察しはじめた
 観察し始めて一週間が経ったが、チリは何も変わった所はない。アオキは仕方なく残業するふりをして終業後誰も居なくなったのを見計らってチリのここ三ヶ月の勤務表を見てみる事にした
 視察 セルクルタウン  3回
    ボウルタウン   2回
    ハッコウシティ  4回
    カラフシティ   2回
    チャンプルタウン 1回
    フリッジタウン  3回
    ベイクタウン   3回
    ナッペ山     12回

 ふむ。とアオキは目を閉じて頷いた
 これは非常に分かりやすい
 次の日、チリにさり気なく聞いてみた
「チリさん最近よくナッペ山に行くみたいですが、グルーシャさんと仲が良いんですか?」
 チリはあからさまに赤くなった
「へっ?いや、そんな事ないで?たまたま!最近スキーにはまっててなっ。」
「そうですか。」
 真っ赤な顔で手を振り、首を横に振るチリに頷く
 敢えて深入りはしなかった

「…と言う事です。」
「ボクの方も調べてみた。SNSで見たんだけど、チリ氏最近よくナッペ山で目撃されてる。」
「グルーシャさんで確定ですかね?」
「カモ。」
「そうですか。応援しましょうか。」
「…………。」
「…。」
「…………。」
 黙り込むナンジャモを見つつ、これ厄介な事に巻き込まれたんじゃないですよね。とアオキは内心ため息を吐いた

『今からナッペ山に突撃取材を試みまーす!来いよ。』
「どうしましたの?アオキおじちゃんのめがいつもいじょうにしんでますの。」
「まさか…!小生が説教をしすぎて…!小生はアオキのためを思って…!」
「ハッサクおじちゃんなかないの。よしよしですわ。」
「ノー残業デーなので帰ります。」

 今日は宝食堂でジンギスカン鍋定食が一日限定であったのに…。と肩を落としながらチャンプルタウン郊外の待ち合わせ場所で待っていると、ナンジャモがやってきた
「よーし、グルーシャ氏に取材だ!」
「帰っていいですか?」
「ダメ。アオキ氏ジムの影に隠れているだけでいいからさ。」
 あんな場所に隠れる所などあるのだろうか。と呆れつつもタクシーはナッペ山ジムに着いた
「やっほー!グルーシャ氏いるー?」
 オフィスビルの階段の奥からグルーシャが出てきた
「うるさいんだけど。なに?配信?アオキさんもいるけど、もしかして視察?」
「突撃取材じゃ。」
 ナンジャモはすすすとグルーシャに寄る
「なんと!各ジムリーダーに恋人はいるのかって取材!恋愛がらみは古今東西人の興味を引き付けるからね!さ、グルーシャ氏は好きな人いるのかなー?」
 グルーシャはぎょっと後じさりをした
「は?何でそんなサムい質問に答えないといけないのさ。」
「まあまあ。ちなみにアオキ氏はいるって答えたぞよ。」
 勝手に捏造するな。確かに間違ってはいないが
「え?」
 グルーシャはアオキとナンジャモを交互に見比べる。そして息を吐いた
「…いるけど。」
「オッケー!取材完了!さ、アオキ氏タクシーを呼んで下りるぞ!」

 山を下りたナンジャモは何故かチャンプルジムの執務室に来た。そこでソファーの上にあったクッションを取り、壁に押さえるとそのまま殴り始めた
 なんかこういうアニメあったなとアオキは思った。あれはウサギのぬいぐるみだったか
 無言でゴスゴスとクッションを殴っているナンジャモに声をかける
「奢りますから飲みに行きません?」

「どーすればよろし?」
 ビールのジョッキを傾けながら聞かれて、アオキは頭を抱える
「流石に分かりかねます。」
 ジンギスカン鍋をつつきながら考える
「えー、ナンジャモさんはグルーシャさんの事が好きなんですよね?」
「恋と友情どっちを取ればよろしいかわからん。」
「自分にも分からないです。」
 ゔーとナンジャモは唸る。そして突然顔を上げて声を上げた
「麦焼酎!ロックで!」
「いきなりなんですか。」
「こういう時は飲むに限るの!さ、アオキ氏も付き合ってもらうよ!」
「自分弱いので。」
「付き合い悪いー。」
 そうして飲むに飲んだナンジャモは案の定潰れた
「グルーシャ氏ぃ…、チリ氏ぃ…。」
 アオキは息をついてリップに連絡を入れた

 翌日、四天王の執務室で仕事をしているとチリに声をかけられた
「なあ、昨日ナンジャモと一緒におった?」
 リップが話したのか。アオキはあらかじめ用意しておいた言い訳を使う
「宝食堂で一日限定のジンギスカン鍋があったので、付き合ってもらいました。」
「珍しいな。アオキさん一人で食事するの好きやん。」
「たまにはああいう騒がしい人と話をしながら食べるのも悪くないと思ったので。」
「ふーん。」
 チリはそのまま沈黙して仕事を再開する。アオキも書類を纏めた
 退勤後、リーグを出るとにゅっと出てきた手に腕を掴まれた
「チャンプルタウンって美味しいお店沢山あるね。今日は鮮度一番なんてどうぞよ。」
「あそこはシーフードパスタが美味しいです。…痛いです。」
 アオキはずるずるとナンジャモに連れられて行く。そこにちょうどリーグから出てきたチリと目が合った
「あ、アオキさん。」
「お疲れ様です。チリさん。」
「チリ氏またねー!」
 ナンジャモはチリに手を振ってアオキをタクシーに入れた

「ボクは覚悟を決めた。」
 ピンチョス美味いなあと思ってると徐にナンジャモが口を開いた
「恋も友情も欲しい。けど、そうも言ってられないのじゃ。ボクはチリ氏に宣戦布告をする。」
「…はぁ。」
「恋のライバルとしての宣戦布告じゃ。」
「そうですか。」
「アオキ氏には立会人をしてもらうぞよ。」
「面倒なんで嫌です。」
「し・て・も・ら・う・ぞ・よ!」
 なんで自分が…

 ポケモンリーグ本部には長く務めている社員でも知らない、手入れの行き届いていないぽっかりと空いた中庭がある。ナンジャモはそこにチリを呼び出したらしい。リーグ本部なのはチリに考慮しての事だろう
 昼、食事時に古いベンチに腰かけたナンジャモはチリが来るのを見てすくっと立ち上がる。ちなみにアオキは建物の影にいる
「チリ氏、よく来たね。」
「なんや?ナンジャモ。こないな辺鄙な所に呼び出して。」
 チリは不機嫌そうだ。先程までいつも通りだったのだが
「チリ氏に言いたい事がある!」
「だからなんやねん。」
「恋の宣戦布告ぞよ!ボクは好きな人を手に入れる事に決めた!チリ氏のライバル宣言じゃ!」
 チリは黙った。風がビュウと吹いてチリは髪をかきあげた
「へぇ…。」
 チリは顔を上げる。その目は強い光を持ってナンジャモを見つめた
「ええで。受けて立つわ。うちも手加減せん。チリちゃんも好きな人を手に入れるわ。」
 チリのその目は本気のバトルをする時の目だったが、ナンジャモは怯まなかった
「ふん。ボクは本気だかんね。」
「チリちゃんも本気や。今日からうちらはライバルや。」
 風がビュウビュウと吹いて二人の間を吹き抜けて行った
「「絶対勝つ(ぞよ!)(わ!)」」
 そんなわけで戦いの火蓋は切って落とされた
(大切な休憩時間に何を見せられてるんだ…。)

 幸いな事、チリは宣戦布告の場にアオキがいる事を知らないままだったようだ。午後からもいつも通り仕事は進んで行った
 淡々と終わり、退勤時間ぴったりに片付いたので帰る準備をしていると、チリに話しかけられた
「アオキさん、今日ご飯でも行きません?」
 チリは笑っている。その真意は読み取れない。アオキはスマホロトムを見た。ナンジャモからのメッセージは入っていなかった
「…いいですよ。」
 テーブルシティのファミレスで夕食を取る事にする。チリはとりとめのない事を話していた。それに相槌を打ちながらドリアを口に運んでいく。チリの口からナンジャモのナの字も出ていない事から、宣戦布告の話をアオキにするつもりは無いのだろう。アオキに協力を仰ぐつもりは無いらしい
(ならなんで一緒に食事をしてるんだ?)
 アオキとて一応は失恋したのでその相手と話をするのは気まずいのだが
「アオキさん聞いとる?」
「はぁ。」
「なはは。絶対聞いとらんかったやろ。」
「分かりましたか。」
「当たり前やん。上の空やったで。…でな、昨日ドオーがいたずらをしてチリちゃん泥まみれになったんや。」
「…それは、どんないたずらだったんですか?」
 時間はゆっくり過ぎていく
 食事を終えた後、ファミレスを出てスマホロトムを見ると、ナンジャモからメッセージが入っていた
『頼みたい事があるのだ。チャンプルタウンまで行くからそこの宝食堂の前で待っててほしいぞ☆』
 アオキはスマホロトムを閉じた。チリに軽く頭を下げる
「今日はありがとうございました。」
「こっちこそ。楽しかったわ。」
 チリはふにゃっと笑った
「また行きたい。」
「では後日またよろしくお願いします。」
「かったいな!」
 チリと別れた後、チャンプルタウンの宝食堂の前で待っていたらナンジャモが来た
「やっほ。待った?」
「大丈夫です。それより頼み事とは?」
「まま、入って入って。奢るからさ。」
「夕食を食べ終えたばかりなのですが。」
「アオキ氏なら入るっしょ。」
「今度は酔いつぶれないで下さいね。」
「分かってる分かってる。」
 宝食堂に入ってカウンターに座る
「で、頼み事とは?」
「グルーシャ氏の好きな物の調査をお願いしたく。」
「…自分でやればいいじゃないですか。」
 突き放せば、ナンジャモは半泣きでアオキの腕を掴む
「頼むよー!ボクグルーシャ氏の前だと緊張して何も話せなくなるんだよぉー!」
「前は話せていたじゃないですか。」
「それは取材という名目があったからと、アオキ氏という第三者が傍にいたからだよー。」
 自分を無理矢理ナッペ山に連れて行ったのはそう言う事だったのかと今更ながらに納得をする
 アオキは渋々頷いた
「好きな物の調査ですね。」
「頼むっ!」

 正直かなり忙しかったが、何とか予定を入れてナッペ山に行く。グルーシャにはアポ済みである
 ジムのオフィスビルの前まで行くと、チリが出てきた。アオキを見てビクッと肩を上げる
「あ、アオキさん?」
「視察ですか?」
 チリは目を泳がせる
「いや、プライベート。…スキーにはまってるってこの間言ってたやろ?」
「グルーシャさんに教えてもらってたんですね。」
「そう。…あんな、今度アオキさんもスキー一緒にせえへん?」
 アオキは考える。自分がいては邪魔だろうし、何より好きな人が想い人と一緒にいる所を見るのはきついものがある
「…やめておきます。」
「そお?ナッペ山にスキー場あるんやけどコースも色々分かれてておもろいよ?」
「道具も持ってないですし、忙しいので。」
「…。」
「…。」
「…。」
 何故、そんな泣きそうな目で見つめてくるのか
「…分かりましたよ。」
 チリは安心したように笑った
「休日はトップに言ってこじ開けてもらうわ!道具一式は借りられるし、何やったら一緒に買いに行く?」
「人の物を借りるのは抵抗があるのでそうします。」
「なら、そう言う事で。楽しみにしとるわ!」

 ナッペ山ジムの執務室に入るとグルーシャが暖炉に薪をくべていた
「暖炉ってあったかいよね。」
 入るなりいきなりそう言われて戸惑う
「ここだとそうですね。」
「けど、そうもいかない時ってあるよね。」
 そう?暖かい時もいかない時?寒いという事か?
「まあ、そうですね。」
「戦いってのは厳しいものだからね。」
 ああと納得した。ポケモンバトルの事か
「そうですね。負けられない戦いというのもあります。」
 グルーシャはアオキに向き直った
「アオキさんは今の状況をどう思ってるのさ?」
 自分がジムリーダーと四天王を兼任している事についてか。確かにパルデア最強のジムリーダーと称えられながら、実は別のジムリーダーが四天王を兼任していました。では思う所もあるだろう
「正直、面倒だなと思う時もあります。」
「はあ?」
 聞いた事の無いくらい低い声だった。相当怒らせたらしい
「しかし、自分なりに誠実に向き合おうとしていますし、そうすれば結果もついてくると思います。」
 グルーシャは目を細めた
「ふーん。やる気じゃん。」
「そうでなければいけません。」
「分かったよ。それならぼくも思う所がある。ぼくだって絶対に負けない。」
 確かに、グルーシャと本気のバトルをした事は一度も無かった
「自分も負けません。その時はよろしくお願いします。」
「覚悟しておいてよ。」
 ナッペ山を下りて気がついた。グルーシャの好きな物を聞いていない
 ナンジャモに伝えると、次の作戦を練るために集まる事になった

「チリさんは既にグルーシャさんと何度も接触をしていますし、ナンジャモさんも思い切って話しかけてみたらどうでしょうか。」
 ハッコウジム執務室にて、ナンジャモは机に伏している
「一人じゃ怖い。」
「動画配信者が何を言ってるんです?」
「配信と恋は違うの!アオキ氏見守っていて!」
「自分はあなたの保護者では無いんですよ。それにチリさんはグルーシャさんとスキーをする約束をしたみたいです。」
「ええ!?」
「何故か自分も行く事になりましたが。」
「ボクも行く!」
「行く日を教えますので準備をしておいてくださいね。何ならスキー道具一式を揃えたいからとグルーシャさんを逢引に誘ってみては?」
「そんな高度なワザを使えるなら使ってるよぉー!」

 数日後、朝ポケモンリーグ本部に行くと、チリがにこにこしながら近づいてきた
「スキーする日決まったで。来週の土曜。」
「そうですか。こちらからも報告が。ナンジャモさんも行く事になりましたので。」
「…は?」
 チリの周りの空気が下がった気がする
「?」
 チリはそっぽを向いた
「ふーん、そうなん。分かったわ。」
 その日一日チリは不機嫌だった。ポピーの前では普通にしていたが、ハッサクが泣きだすくらいには不機嫌だった。癖である足タンタンをいつもの十倍くらいやっていた。最終的にオモダカに呼び出されていた
 気を使って練ったココアを出したら僅かに直っていた
 その数日後にはチリと二人でスキー道具一式を買いに出かけたが、その時のチリはやたらと上機嫌だった。ライトブルーのスキーウェアにロゴ付きの白のスキー板を買って、昼食を食べた後は何故か映画を見に行く事になった
 夕方、一日中機嫌が良かったチリと別れてから、女性って男性以上に気持ちの変化に波があるのだなと思った

 迎えた当日、ナッペ山ジムの前で待ち合わせをしているとチリがいて軽く頭を下げるとチリは笑って手を振った。その後にグルーシャが出てきて、最後に黄色のスキーウェアに身を包んだナンジャモが合流した
「今日は配信せえへんの?」
「今日はプライベート!」
「ふーん。言っとくけどチリちゃん中級者やからな。スキーの腕では負けへんで。」
「ふん。初心者には初心者なりのやり方があるってものさ!」
「言うやん。」
 女性二人がバチバチと火花を散らす中、グルーシャが呆れたように言った
「早く行こうよ。」

「ぎゃー!滑るー!」
「そりゃ滑りに来たんだからそうだろうよ。」
 初心者向けコースでナンジャモが騒いでいる。グルーシャは慌てているナンジャモに手を焼いているようだ
「とにかく平面で歩いて!慣れるのが先だから!」
「了解しました!」
(慌てていたらグルーシャさん相手に普通に喋れるんですね。)
 たぶん、それどころでは無いのだろうが
 ナンジャモと同じ初心者であるアオキも平面で歩いてみる
(なるほど、こうやって滑り方を知っていくんですね。)
「アオキさん何か分からへん所ある?チリちゃんが教えんで。」
「いえ。」
「そう言わんと。」
 スキー場ではチリとナンジャモのグルーシャ取り合いがあると踏んだので、一人でも何とかなるように初心者のやり方を頭に入れてきた
(安全な転び方は…。)
「とにかくカニ歩きをして!」
「カニ歩きってどうするの!?」
「あれ?アオキさんもう慣れたん?なら初心者コースでチリちゃんと一緒に滑らへん?」
「いえ。」
「チリちゃんが見本見せたるからな?」
(そこはナンジャモさんとグルーシャさんに割って入る所じゃないでしょうか。)
 訳の分からないまま、チリと初心者コースで滑る事になった

 す、と体重が前にかかる。上手くコントロールして前へまっすぐ滑っていく。そのまま平面まで辿り着くと足をハの字にして止まった
「アオキさんすごいやん!もうこんな滑るようになったん!?」
「面白いですね。スキーも。」
「うん!また来ような!」
 ナンジャモとグルーシャはどうしたのか。周りを見るとなにやら人垣ができている
「ナンジャモちゃんだ!」
「スキーしてる!」
 隣のチリが呟いた
「あー、人気者ってやつやな。」
「あなたが言いますか。」
 人垣の奥から慌てたような声が聞こえる
「ちょ、今プライベートだから!」
 これは助けた方が良いだろう。かき分けて入ろうとすると、冷たい声が響いた
「今日はプライベートだって言ってんの。分かんないの?写真も撮らないでよ。ファンならファンらしく行動すべきじゃないの?」
 見ると、尻もちをついたナンジャモをグルーシャが抱え上げている所だった
「そういうわけぞよ。ごめんね。皆。」
「はーい。」
「ナンジャモちゃんスキー頑張ってね。」
「今度の配信楽しみにしてるね。」
 どうやら良いファンに恵まれたらしい。人垣はすぐに散った
「まったく。」
「すまん。グルーシャ氏には手間とらせたね。」
「…手間じゃないし。」
「おおお、そうかい?」
 アオキはこっそりチリを盗み見る。ゴーグルの下でチリがどんな顔をしているのか分からなかった

 スキーウェアから着替えていつもの服装になった四人はフリッジタウンにいる。ここで解散の予定だ
 アオキは内心息を吐いた。忙しい身だ。この四人が集まる事はそうそう無い
 決めさせようと思った。ナンジャモには悪いが、アオキはどうしたってチリが好きだ。チリには幸せになってほしい
 だから、ハッパをかけないといけないのだ
「じゃ、解散で…」
「その前に、言いたい事があります。」
「ん?」
 三人がアオキに視線を向ける
 アオキはチリに向き直った
「チリさん、自分はチリさんの事が好きです。」
 空気が固まった。その中でアオキは覚悟を決める
(さあ、とっとと振ってグルーシャさんに告白してください…!)
 チリはじっとアオキを見ていた。顔に穴が開くかと思った
 固まった空気の中、チリが口を開く
「…ごめん。」
(でしょうね。)
 後は勝手にしてくれと背を向けようとした時だった
「ごめん。…ナンジャモ。」
「?」
 ナンジャモ?
 当のナンジャモが小さく
「へ?ボク?」
 と疑問の声を上げたのが聞こえた
 チリは目を閉じてアオキに突進する
「やっぱうちアオキさんの事が好きや!」
 ぎゅうと抱きしめられる。転びそうになって思わずチリの背に腕を回した
「え?」
「は…」
「はあっ!?」
 その場で誰よりも大きな声を上げたのはアオキでもナンジャモでもなく、グルーシャで
「アオキさんあんたナンジャモの事が好きじゃないの!?」
「はい?」
「だってぼくに宣戦布告したじゃん!負けませんよって!」
「そんな事言いましたか?」
「言ったよ!」
 思い返してみる。負けませんよ。言った。先週の頭くらいに
「…もしかしてポケモンバトルの事を言ってますか?」
「ええっ!?」
「先週の事を言っているなら自分はポケモンバトルの事だと…。」
「そ……」
 グルーシャは両手で頭を抱える
 ナンジャモは混乱して動けない。チリはアオキの頬に自分の頬を擦り寄せるのに一杯で会話が頭に入っていない
「だってあんた最近ナンジャモとよく会っていただろ!?」
「チリさんが誰を好きなのか相談していたんですよ。」
「そうだよ!」
 ナンジャモが我に返った
「チリ氏アオキ氏を好きってどう言う事なの!?」
「やってチリちゃんアオキさんの事好きやもん。」
「グルーシャ氏によく会いに行ってたじゃん!」
「アオキさん誰を好きやろって相談に乗ってもらってたん。ジムリーダーの中でもアオキさんとグルーシャくん仲ええし。スキーのやり方教えてもらってたんもほんまやけど。」
「そ…」
 ナンジャモは崩れ落ちる
「そんな事知らないよぉ!」
 チリはようやく擦り付けるのをやめて、アオキを抱きしめたまま後ろを振り向く
「ナンジャモってアオキさんの事好きやないん?」
「ボクはチリ氏がグルーシャ氏の事が好きだと思って宣戦布告したんだよ!」
「え!?そうなの!?」
 今度はグルーシャが驚く番だ
「ナンジャモってぼくの事が好きなの!?」
「大好きだよぉ!」
「ぼくもナンジャモの事が好きなんだけど。」
「チリ氏じゃないの!?」
「そうだよ!ナンジャモだよ!」
 もうわけがわからない。ぐるぐる回る思考の中、ひと際大きな声が響いた
「アンタらうるさいよ!痴情のもつれは他所でしな!!」
 ライムがマイクを持って仁王立ちをしていた 

 宝食堂の座席にて二組のカップルが乾杯を上げる
「もう擦れ違いはこりごりだよ…。」
 ナンジャモがビールのジョッキを持って呟く
「擦れ違いと言うか、勘違いというか。」
 ナンジャモの斜め前のアオキは芋焼酎の湯割りをちびちびと飲みながら正した
「ぼく全身が硬直したの久しぶりだよ。ってかここのご飯美味しいね。」
 ナンジャモの隣のグルーシャがウイスキーを飲みながらゴーヤチャンプルーをつつく。正直その組み合わせはどうなんだと思わないでもない。というか宝食堂にウイスキーがあったのか
「アオキさん大好き。アオキさん大好き。」
 アオキの隣のチリは頼んだ清酒に少しだけ口をつけてからはずっとにこにことアオキの腕を抱いている。ナンジャモが呆れてチリを見た
「チリ氏は色んな意味で酔ってるね。」
「プライベートだとずっとこんな感じです。よほど嬉しかったようで。」
「いいなあ。ぼく達手すら繋げてない。」
 ナンジャモが肩をすくめた
「だって緊張するもん!」
「手を繋ごうとするとめちゃくちゃ赤くなって震えるんだよね。」
「…それは、お気の毒に。」
「努力するよぉ。」

 お腹いっぱい食べて宝食堂を出た後、グルーシャはナンジャモを送っていくと言って別れた。遠ざかる二人をしばらく見ているとグルーシャの手がナンジャモに触れて、ビクッと震えたナンジャモはそれでも抵抗せずにそのまま二人の手が繋がった
「ちゃんと恋人繋ぎなんやね。」
「聞いてたんですか。」
「チリちゃんこう見えて耳聡いねん。」
「自分達はどうしますか?」
 ふふっとチリは笑った
「アオキさん家行く。泊まらせて。」
 アオキはチリの額に口づけを落とした
「では、こちらに。」

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コメント

  • アイナ

    ちょっと!私の口角吹っ飛んでったんすけど!(今22時10分なう)どうしてくれるんですか!後  有難うございます最高です!

    4月21日
    返信を見る
  • うたりんご

    さぁあいっっっっっっっこうです‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

    2023年7月22日
    返信を見る
  • ゆずす

    2023年4月26日
    返信を見る
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