Life Style
2022.04.19

今こそ学びたい!
初女さんの「おむすび」

日本人のソウルフードともいえるおむすび。『いつものおむすび100』の著書で知られる料理家の飛田和緒さんは「おむすびを食べるとほっと和み、食欲がないときもおむすびなら食べられる。どんなにおいしいおかずをふるまっても、ほめられるのも、もっと食べたいとリクエストされるのもおむすびです。とりわけ佐藤初女さんのおむすびは格別です」と言います。驚くほどにおいしい初女さんのそれを体験できる「おむすびの会」があると聞いて、興味津々、参加しました。

(撮影:在本彌生/取材・文:小松宏子/構成:ボンマルシェ編集部)

佐藤初女さんをご存じですか?

佐藤 初女 さん

さとう・はつめ 1921年青森市に生まれる。福祉活動家、教育者。小学校教員、弘前染色工房を経て、命を救う「弘前イスキア」を開設し、のち、92年「森のイスキア」設立。苦しみ、迷い、訪れる人に、分け隔てなく食事を供し、話を聞き、寄り添うことで、多くの人の魂を救い出した。その活動は、95年、映画、『地球交響曲 第二番』に出演したことで広く知られるようになる。2016年逝去まで、精力的に行う。(撮影:岸 圭子)

今回、初女さんの「おむすび」を作ってくださったのは……

いのうえゆみこさん、みぞぐちゆうこ さん
tetoteto おむすびの会主宰

お二人は、横浜市にある幼稚園に子どもが通うお母さん同士として知り合った、20年来の友人。存命中の佐藤初女さんに会えたことが宝物だ。青森県の「森のイスキア」をたずね、「おむすびの会」を始めることを報告した際の「うすまらないようにね」の言葉を心に刻み続けている。

初女さんの「おむすび」とは

米一粒一粒を丁寧に扱い、お米がびっくりしないように少しずつ静かに水を入れてゆっくりと給水させ、ごはんはかために炊き上げます。手水は1回だけで、あとは、手のひらに塩をなじませ、掌(たなごころ)で、お米粒がつぶれないくらいの力加減でゆっくりと回しながら握ります。正方形に切った海苔(のり)をおむすびの上下、真っ黒に包みこんでできあがり。一口食べるとはらりと口の中でほどけるほどに空気が含まれているのに、米一粒一粒がしっかりと立ち上がり、噛(か)みしめるほどにおいしさが広がります。

「tetoteto おむすびの会」を主宰して、いのうえゆみこさんとみぞぐちゆうこさんが広めるこのおむすびは、実は、故・佐藤初女さんが多くの人にふるまい、心を動かしてきたものです。講習会で初女さんに出会い、その温かくも凛としたオーラに癒やされ、作ってくれたおむすびのおいしさに感動し、「このおむすびを伝えたい!」との強い思いにかられて始めた会なのです。


故・佐藤初女さん(撮影:岸圭子)

初女さんとは、心を病み、つらく苦しいことがある人たちに寄り添い、丁寧に下ごしらえをした、しみじみと心にしみるおいしい食事を一緒にいただき、魂を救いだす。そんな活動を生涯続けてこられた方です。著書の中で、「おむすびを握るということは、それを通して握る人の心を伝えることです」と言っています。

そうした活動を続けるなかで、初女さんは映画監督の龍村仁さんと出会い、映画『地球交響曲 第二番』に出演し、広く知られるようになりました。長い時間を共にした龍村監督は、初女さんの料理の力を「見えない生命力(心)は、表面の姿形が多少変わっても、そのままに生き続け、『オイシイ!』という感動と共に私達の体に入り、今度は私達自身の生命力を活性化してくれるのです」と評しています。ふきのとう一つを採るのにも、優しく土をかき分けるしぐさに凛とした美しさと、食物の命を生かす心を感じたとも。

また、何度も撮影の機会があったカメラマンの岸圭子さんは、「私はめんどくさいという言葉がきらいです、と常に目の前のことに全身全霊で取り組む初女さんの姿に触れ、心をかけることの大切さを学びました」と言います。

この日、いのうえさんとみぞぐちさんが作ってくれた「初女さんのおむすび」は、「ひとくち、ふたくち食べ進み、〝おいしい〟と感じたとき、生きる力が湧いてきます。おなかが満たされると、心の扉が開くのです」(初女さん)の言葉が全身で感じられるものでした。あなたも「初女さんのおむすび」を作ってみませんか?

これが、「初女さんのおむすび」です


撮影:岸圭子

「おいしいおむすびを作るには、まずおいしいごはんを炊くこと。いつもより少しかために炊いて、一粒一粒が呼吸するようにふんわりと握ります。順序よくやれば、握るときにちょうどいい温度になります」(初女さんの教えから)

おむすびを作る前にするべきことがあります

ボウルの縁から静かに水を注ぎ、さらさらと優しく、両手のひらで米を洗って、水を流す。 これを3回ほど繰り返す。

30分ほどおいたら、米が白くなって水を含んでいる様子を確認する。

具の梅干しは、ごはんが炊ける間に、箸で丁寧に実をほぐしておく。

海苔は、手で縦二等分に切り、さらに片側の端を約1.5cm幅ほどを切り取とる。それを2等分にして、正方形に近い形にしておく。

炊けたら少しずつごはんをそぐようにしながら、飯台に移していく。

さあ、作りましょう

ごく少量ずつ、しゃもじですくうようにして、茶碗(ちゃわん)にふんわり、広げるようによそう。

よそったごはんをそのまま、逆さに返すようにして、軽く水ぶきしたまな板に盛る。

箸でほぐした梅干しを、中央に埋め込む。

手に少量の水をつけ、ひとつまみほどの塩を両手のひらになじませる。

両側からかぶせるようにしてごはんを手にとり、そのまま手のひらで包みこむ。

下側にくる手のひら、特に親指の付け根のふくらみ部分に力を入れるようにして、上側にくる手には力を入れず軽く回すようにして、丸い形に握ったら、まな板に戻しおく。

丸いおむすびを作ったら、まな板に置く。

上からかぶせるように正方形に切った海苔をのせ、海苔の四隅を軽く押す。海苔面を下にして、手のひらにのせ、もう1枚の海苔を上からかぶせるようにしたら、軽く握って、形を整える。

仕上げにタオルで包む。ラップは使わず、タオルで包むと余分な水分がとれて、10分ほどすると海苔はしっとり、ごはんは一粒一粒がたって味わい深くなる。

Tips 「おむすび」と「おにぎり」って?

おむすびは「お結び」から、おにぎりは鬼を切(斬)ると書いて「鬼切(斬)り」からきたという説がある。文字通り、おむすびは、人と人との良縁を結ぶという意味から縁起が良いものとされてきた。一方、おにぎりは、鬼退治に握り飯を投げつけた民話などから、鬼を切(斬)るで「おにぎり」の言葉ができたといわれている。

Tips おむすびはなぜおいしいの?

ごはんは淡白な味なので塩味がごはんのうまみをぐんと引き立てるということがまず一つ、あげられます。それに加え、握ることでごはんが密になるので、茶碗によそったものを一口食べるより、おむすびを一口食べる方が口の中で味わうごはんの味を強く感じるのです。(お茶の水女子大学 名誉教授・香西みどり先生)

改めて、佐藤初女さんのこと

心を病んでいる人、つらく苦しいことがある人、何かを背負っている人、そんな人たちの心のうちに100%向かい合って話を聞き、時折、相槌を打つ。そして、心を込めて、丁寧に丁寧に下ごしらえした、素朴だけれど、しみじみと心にしみる美味しい食事やおむすびを一緒にいただく。ただそれだけのことなのに、誰もが癒され、心がすーっと軽くなる。そんな活動を続けてこられた、故・佐藤初女さんをご存じでしょうか?

佐藤初女さんの歩んだ人生を簡単にご紹介いたします。少女時代からカトリックの教えに触れて育ち、結核の闘病生活を経て、33歳のときに受洗。この頃から、初女さんの人柄とおいしい料理を慕って、自宅に人が集い、悩み相談を受けるようになります。その後、敬愛する神父様より聞いた「奉仕のない人生は意味がない」という言葉に感銘を受け、本格的に奉仕の道へと進むことを決意したそうです。その後、弘前学院短期大学家政科で染色の非常勤講師を務めながらも、自宅での活動を続けました。長期滞在をする人が増え、二階を増築したが、限界を感じ、自然の中に皆が集い安らげる場所を探して回り、長年親交のあった女性の両親から支援の申し出を受け入れ土地を購入し、次々に支援が集まり、誰しもが集える「森のイスキア」が完成しました。その後、その活動はますます盛んになり、ダライ・ラマ法王らとともに出演した映画『地球交響曲 第二番』で広く知られるようになります。2016年96歳で亡くなるまで、講演活動などを精力的にこなしていらっしゃいました。その忙しさの中でも、常に全力で目の前の人の話に耳を傾け、心を込めて下ごしらえをした料理を供し、食卓を共にすることを続けてきたといいます。その変わらぬ姿勢に、初女さんを慕う人は、増えるばかりでした。なかでも、初女さんのおむすびを食べて自殺を思いとどまった人もいたといいます。

そして、初女さんの思いを伝える「tetoteto おむすびの会」

そうした中で、初女さんと出会ったいのうえゆみこさんとみぞぐちゆうこさんは、そのオーラに癒され、作ってくれたおむすびのおいしさに驚き、このおむすびの素晴らしさを伝えたいとの、強い思いにかられ、「tetotetoおむすびの会」を始めたといいます。「森のイスキアにもお伺いすることができ、本当に幸せで特別な時間を過ごすことができました。初女さんのおむすびを、教えるのではなく、その感動を伝えたいとおもって、みんなで一緒におむすびを結ぶ会を開いています。

アンバサダーの相澤めぐみさんも取材に参加!

「おむすびをこんなに丁寧に握ったことも、調理中に無心になれたこともありません。感動のおいしさでした」

参考文献:佐藤初女著(撮影:岸圭子)『いのちをむすぶ』(集英社)、『初女さんのお料理』『おむすび』(いずれも主婦の友社)、『おむすびの祈り』『いのちの森の台所』(いずれも集英社文庫)、『「いのち」を養う食』(講談社+α文庫)ほか。