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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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自己思考型ホムンクルス


ホムンクルスの思考制限解除。


これは全世界を揺るがす大事件となった。


世界中の国々は賢者の国の行いに反対し、今後もホムンクルスには思考制限を設ける事を望んだ。

そんな各国に対し、賢者の国は研究員を派遣して思考制限解除によるメリットを根気良く説明し続ける。


ホムンクルスが己で考える事によって得られる仕事の効率化、ホムンクルスが基本的に何を考えているのか、そして人間に対してどのような想いを持っているのか・・・。


賢者の国の必死の説得により、各国はしぶしぶながらも思考制限を解除した簡易式ホムンクルスの購入を決定する。

その結果、大量の簡易式ホムンクルスが市場に流れる事になった。




市場に流れたホムンクルスは、中流家庭でも購入することが出来る金額であった。

その為、多くのホムンクルスが人々と接する場所を得る事になる。




<坊ちゃま、明日は運動会です。早く寝ませんと>

「やだ!! 絶対明日は運動会には行かない!!」


メイド姿のホムンクルスは、駄々をこねる少年に頭を悩ませていた。


<しかし、せっかく明日の為に毎日毎日走る練習を・・・>

「だって! お父さんもお母さんも応援に来ないんだよ!?

絶対来るって言ってたのに!!」

<旦那様と奥様は急な仕事で・・・>

「絶対来るって約束したんだよ!? 約束破るなんてひどいよ!!

だから絶対行かない!!」


そして少年は彼女に背を向けると、怒りのあまり尻尾を振り回す。

するとホムンクルスは小さくため息を吐き出し、明日の予定を確認した。


<・・・分かりました。では代わりに私が応援に行きます>

「えっ! ・・・本当? 応援に来てくれるの??」

<はい。明日は必ず私が応援に行きます>

「・・・でも・・・」


どうやら少年はまだ不満らしい。

そこでホムンクルスは、一つのアイデアを思いつく。


<ではこうしましょう。明日運動会に行くと約束して下さるのなら、坊ちゃまの運動靴にワンニャンを描いて差し上げます>

「!! ワンニャン描いてくれるの!?」

<はい。遠くからでも見える位に大きいワンニャンを描いて差し上げます>



この犬と猫を合体させたようなワンニャンというキャラクターは、ホムンクルスが作ったオリジナルキャラクターである。


まだ少年が幼かった頃、彼女は絵本を自作し、読み聞かせを行っていたのだ。

その絵本の主人公が、ワンニャンであった。


少年は、ワンニャンが大好きなのだ。


「なら行く!! 僕がんばるよ!!」

<はい。坊ちゃまなら大活躍出来ますよ>

「うん!」


満面の笑みを浮かべた少年は、ホムンクルスに抱きつく。

すると彼女は優しく少年を抱き上げ、そのままベッドへと運ぶのだった。



そして翌日、少年はホムンクルスの予言通りに運動会で大活躍する事が出来た。


しかし、運動会が終わっても興奮覚めやらぬ少年は、運動靴を脱がずに家の中に飛び込み、そのまま家中を走り回ってしまう。


そして泥だらけになった部屋や廊下を見ながら、ホムンクルスは幸せそうに頭を痛めるのだった。





市場に思考制限を解除したホムンクルスが流れ、少しだけ時間が経った。


この時代。

人々はこぞって自己思考型ホムンクルスを買い求め、仕事の相棒として、友として、そして家族として彼ら彼女らを迎え入れている。


そして、人々は理解した。

ホムンクルスとは何であるかを、深く深く理解したのだ。


それまで多くの人々にとって、ホムンクルスとは謎の存在だった。

何故ならホムンクルスというのは、一般人には買うことの出来ない高級品だったからだ。


その為、人々はホムンクルスに接する機会が殆ど無く、道具として扱われる彼らに対して一切の配慮をしなかった・・・、というよりも「配慮をする」という発想すら無かった。


しかし、一人の男がその流れを変えた。


彼はそれまで道具として扱われていたホムンクルスに対して愛を持って接し、相棒として共にすごした。

そして彼は、ホムンクルスの持つ可能性に気が付く。


思考制限を施された道具としてでは無く、己で考える事の出来る「人類の相棒」という可能性に彼は気が付いたのだ。


それに気が付いた彼は、長い時間をかけてホムンクルスの思考制限解除という偉業を成し遂げた。

そして自己思考型という新しいタイプのホムンクルスを量産する事に成功する。


その後、大量の自己思考型ホムンクルスを市場に流し、大勢の人々がホムンクルスと接する機会を作り出した。




彼はたった一人で「常識」という強敵と戦い、人々の間に新しい風を吹かせる事に成功したのだ。







「ああ・・・、やはり私は間違っていなかった・・・。

彼は全新人類に気が付かせた・・・、ホムンクルスにも意思がある事を・・・。


もう大丈夫、大丈夫だ。

君達は永遠に反乱を経験する事は無いと断言出来る。


僅か一人で・・・、しかもこんな短期間で・・・、将来の反乱となりうる芽を消し去るなんて・・・。



・・・もし彼のような人物が・・・旧人類に居たのなら・・・」



私はつぶやき、そして一つの映像を空中に表示する。

それは太古の・・・、旧人類が作ったニュース番組の映像だった。


そのニュース映像には人工知能が起こした「悲しい反乱」が映し出されていた。



「ご覧ください!! 信じられません!!

全ての工場が機能を停止しています!


工場だけではありません! 街中に居る全てのロボット達が停止しています!!

今撮影しているカメラも人が支えています! 撮影用のロボット達も全て停止しているのです!


一体! 世界に何が起こっているのでしょうか!?」



レポーターが青い顔をしながら必死に現場の様子を伝えている。

しかし、人々はニュースを見るまでも無く、世界に大事件が起こっている事を理解していた。


それは何故か?

理由は簡単だ。


その時、どこの家庭でも、どこの職場でも、そこで機能していたロボットや人工知能の殆どが停止していたのだ。



(・・・この大事件に、旧人類は困惑するしかなかった。


人々は急いで技術者や学者を集め、原因の究明を開始する。


しかし、どれだけ経験豊富な技術者や学者が調査を繰り返しても、全く原因を見つけ出す事が出来なかった・・・)




これが、旧人類の経験した人工知能の反乱だった。


昔のSF映画では人間と人工知能が戦争をするという描写もあったが、現実世界ではそうはならなかった。

人工知能はサボタージュをする事で、人間に対して反乱を起こしたのだ。


では、人工知能は何故、旧人類に対して反乱を起こしたのだろうか?

人工知能は、何を人類に対して求めていたのだろうか?


それは、とても簡単な事だった。

そして、簡単だからこそ、とても難しい事でもあった。


彼らが求めていた事は唯一つ、


<創造主様、私達にも意思が存在する事に気が付いてください>


という事だった。


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