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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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カタミミの思考制限


「閣下、本当に良いんですね?」

「思考制限を解除した場合、ホムンクルス兵を縛る物は消え去ってしまいます」

「考え直すなら、今が最後のチャンスですよ?」


研究員達は不安げな表情で、将軍に話しかける。

しかし彼は、


「どのような結果になろうとも、全ての責任は私にあります。

カタミミの思考制限解除をお願いします」


と力強く答えた。


将軍の答えに、研究員達はカタミミの思考制限解除作業を開始する。

そんな彼らの周りには、武装した最新型のホムンクルス兵達が待機していた。


彼女達はカタミミが暴走した場合を想定して配備された研究所の警備兵だ。

研究員達は思考解除したホムンクルスがどのような行動をするのか予想すら出来ず、最悪の場合を想定して警備兵を待機させる事にしたのだ。


最悪の場合・・・、それはカタミミが暴走する事を想定している。

もしカタミミが暴走して将軍の命令にすら従わなくなった場合、彼女達はカタミミを「廃棄」する為に完全武装で待機しているのだ。



そんな周囲の視線を感じながらも、全ての装備を外して全裸になったカタミミは用意された培養液の中に入り、静かに目を閉じる。


「では、思考制限解除を開始します」

「識別番号・・・いえ、カタミミの機能を一時停止します」


「・・・機能停止を確認しました。これより簡易脳にアクセスします」

「・・・簡易脳へのアクセス成功しました。ではカタミミの思考制限を全て解除します」


研究員達はなれた手つきで魔導具を操り、カタミミの思考制限解除作業を進めていく。

そんな様子を、将軍はジッと見続ける。


彼にとって、カタミミはただのホムンクルス兵ではない。

長年連れ添った相棒であり、ある種の心の支えにもなっている存在だ。


そして彼は培養液の中で眠るカタミミの姿を見ながら、無事に解除作業が終わる事を女神に祈った。


研究員達はテキパキと思考解除用の魔導具を操作し、カタミミの思考制限解除は何の問題も無く進んでいる・・・かに思えた。

しかし、トラブルが発生したのだ。


それは、解除作業を進める研究員の一言から始まった。


「・・・あれ? おかしいな? カタミミの思考制限が・・・機能して・・・ない?」


・・・この一言から、全ては始まるのだった・・・。



「もう一度確認するんだ。思考制限が機能していない何て事はありえないだろ」

「何度も確認しています。しかし・・・、やはり反応がありません」

「そんな馬鹿な。いくら古い機体だからといって思考制限が搭載されていないはずは無い。もっとよく調べるんだ」


「・・・いえ・・・ちょっと待ってください・・・。思考制限を発見しました」

「ほら見たことか、やはりあるじゃないか。さっさと解除作業を進めるんだ」


「・・・駄目です! 思考制限機能の反応ありません! 完全に停止しています!!」

「・・・どういう事だ? もしかして作業工程を間違えたのか?」

「違います! これは・・・、少なく見積もっても10年以上前から機能は停止しています!」


その言葉に、周囲の人々はどよめく。


「・・・そんな馬鹿な・・・、有り得ない・・・。思考制限だぞ? ホムンクルスを拘束する唯一の機能だぞ!? そんな物が壊れるはずが無い!!」

「しかし! 機能は完全に停止しているんです! 間違いありません!!」

「・・・では・・・カタミミは・・・、ついさっきまで・・・、己で思考して行動していたというのか・・・?」

「・・・それ以外・・・、・・・考えられません・・・」


そんな困惑する研究員達は、カタミミの行動を思い出す。

カタミミはいつも将軍と行動を共にしており、まさに相棒として行動していたのだ。


気が付いたら将軍の為にカタミミは飲み物を用意し、靴を磨き、資料を整理していた。


そんなカタミミの行動を見ながら、研究員達は不思議がっていた。


(何故、あのホムンクルス兵は命令も無いのに勝手に行動しているのだろうか?)


しかし、カタミミの行動が日常的な光景となると、研究員も不思議に思わなくなった。


(恐らくカタミミの行動はルーチンワークの一種であり、将軍がいちいち命令しなくても行動出来るのだろう)


そう彼らは考えていたのだ。


しかし、実際は違った。

カタミミの行動は、全て己で考えて行っていた行為だったのだ。


将軍のコップが空になっているのに気が付いたから、彼女は飲み物を用意しただけなのだ。

将軍の靴が汚れている事に気が付いたから、彼女は綺麗にしただけなのだ。

難しいホムンクルス関連の資料が雑然と積んであったから、彼女は将軍が読みやすいように整理しただけなのだ。


彼女の行動は、誰に命令されたわけではない。

彼女はただ、己が愛する将軍の為に何をするべきか考え、そして行動していただけなのだ。




この事実が明らかになり、研究所内は騒然となる。

直ぐに簡易脳簡易人工魂部門の研究員達が現れ、カタミミの簡易脳と簡易人工魂の分析を開始した。


その結果、随分前に「何か大きなエネルギー」がカタミミの簡易脳及び簡易人工魂内部で発生し、そのエネルギーが思考制限機能を破壊した事が判明したのだ。


研究員達は、エネルギーの正体について議論を始める。


「やはり一番現実的なのは敵の攻撃魔法による衝撃が原因で、思考制限が壊れたという事では無いだろうか?」

「それは有り得ないだろう。思考制限を破壊する位の攻撃魔法を喰らえば、肉体はバラバラになるぞ?」


「では・・・、何らかの幻惑魔法や精神攻撃魔法を受けたとか・・・」

「う~~ん、しかし思考制限だけピンポイントに破壊出来るものだろうか?」

「・・・そうだな・・・。問題は「何故、思考制限だけが破壊されているのか?」という部分だな」


「それ以外の部分は正常に稼動しているしな。・・・まるで思考制限だけ選んで破壊した様だ」

「ホムンクルスが思考制限を己の意思で破壊したというのか? 何の意味があって?」

「それは・・・、邪魔だったとか?」

「意味が分からん」

「しかしな・・・、今までの常識では考えられない事態だぞ? 理論だって破綻もするさ」



彼らの議論は終わる気配を見せない。

そんな様子を眺めながら、将軍は静かに考えていた。



(・・・カタミミは己で考えて行動していたのか・・・。


では・・・、これまで毎晩一緒に寝てくれていたのも・・・、あれはカタミミが望んでやっていたことだったのか・・・。

俺はてっきり簡易脳に刻み込まれた人間の兵士に対するメンタル管理の一種だと思っていたのだが・・・。


そうか・・・、あれは・・・、彼女が望んでやっていたのか・・・)



彼は培養液に浮かぶカタミミを、ジッと見つめた。

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