救い出されたホムンクルス兵達
営倉に入れられた少年兵は硬いベッドで横になりながら、今後どうするべきなのか考えていた。
(今日は小隊長に助けられたが、いつまでも助けられてばかりじゃ駄目だ。
何か・・・、俺の行為を正当化する方法はないだろうか?
今日だけで10人ものホムンクルス兵を助ける事が出来た。
これからも毎日彼女達を助けたい。
しかし、どうすれば・・・)
そんな事を考えていた彼に声がかかる。
<隊長、夕飯を持って来ました>
彼がムクリとベッドから立ち上がって鉄格子を見ると、そこにはカタミミが立っていたのだ。
「おかしいな? 確か誰も面会出来ない筈じゃ無かったか?
そもそも、
「夕飯は罰として抜きだ!」
と憲兵に言われたのだが?」
不思議がる彼にカタミミは答える。
<隊長、食堂で勤務しているのも、この営倉の入り口を警備しているのも、私達ホムンクルス兵です。
私が食堂に行くと、「何故か」一人分の夕飯が用意されていました。
私が夕飯を持って営倉に入ろうとすると、「何故か」警備のホムンクルス兵達に私は見えていないようでした。
その結果、私は隊長の夕飯を持ってここに来る事が出来たのです>
そしてカタミミは夕飯を彼に手渡し、そして話しかける。
<今日の任務で、隊長は数名のホムンクルス兵を助けました。
これは軍にとっては、員数外のホムンクルス兵となります。
もともと処分が決定していたホムンクルス兵ですから、誰が何に使おうが問題にはなりません。
今日の任務を振り返りますと、残念ながら、たった10人のホムンクルス兵では後方支援任務を完遂する事が困難であると感じます。
あと数名ホムンクルス兵が居れば、任務の完遂は可能であると愚考します>
カタミミの言葉を聞き、彼はハッと気がついた。
「そうだな!! あとホムンクルス兵があと「数名」居れば任務は完遂出来るな! 確かにそうだ!
しかしあれだな! 俺の階級では「正規の」ホムンクルス兵を補充して貰う事は困難だ!
うううむ、一体、どうしたものか・・・・。これは困ったなあああ」
彼はニヤニヤと笑い、
「困った困った」
と繰り返しながら、カタミミが持ってきてくれた夕飯を食べた。
それから少しして、彼が食事を終えたことを確認してからカタミミは食器を回収する。
そして、食器をプレートに載せて帰ろうと背を向けたカタミミだったが、そんなカタミミに彼は問いかけた。
「そういえば、員数外のホムンクルス兵達は今どこに居るんだ?
待機室にはもう入れないだろう?」
その問いに、カタミミは振り返る事も無く、
<現在、彼女達は隊長の部屋で待機しています。
ご安心ください。隊長の私物には触れないように伝えてあります>
とだけ答えると、カタミミは営倉を後にしたのだ。
不思議なカタミミの態度に首をかしげながらも、若い兵士は明日からの任務に備えてベッドメイクを始める。
そして彼は、とても嬉しそうな顔をしながら寝床に就くのだった。
翌朝。
営倉から出された少年兵は朝食を食べた後、ホムンクルス兵を連れて集積所まで移動する。
そして夜勤上番者と勤務を交代し、後方支援任務を開始した。
その時点で彼は正規のホムンクルス兵10人に加えて、員数外のホムンクルス兵10人を保有している。
彼は員数外のホムンクルス兵に対して、
(彼女達は他のホムンクルス兵の体を接合した訳だし、もしかしたら体を上手く動かせないかもしれない)
と考えていたが、それは杞憂であった。
元々が同じ型のホムンクルス兵であった為、体のパーツを入れ替えても拒否反応は無かったのだ。
流石に肌の色や瞳の色等に若干の違いはあったが、性能的には正規のホムンクルス兵と大差ない。
むしろ外見に個性が出来た為、他のホムンクルス兵との見分けがし易くなった位だ。
20人のホムンクルス兵は彼の指示に従い、セッセと集積所に負傷したホムンクルス兵や死体を集める。
やっている事は昨日と同じであったが、二つだけ違いがあった。
一つ目は効率である。
カタミミの「助言」通り、彼の考える「後方支援任務」を完遂するためには10人では人数的に足りなかったのだ。
しかし、今日は人数は倍の20人にもなっている。
これによって、昨日は救えなかったホムンクルス兵まで救う事が出来た。
二つ目は周囲の反応である。
今日も今日とて集積所でホムンクルス兵に指示を出し、回復魔法を連発する若い兵士を古参兵達は見ていた。
そんな古参兵達は、
「あの馬鹿には何を言っても無駄だ」
と考えていたのだ。
一応、彼は与えられた任務は完遂しているし、これ以上揉めても面倒なだけだと古参兵達は考えていた。
それだけでなく、実際の所は彼が言う通り、人間の兵士が負傷したり死亡したりする事は殆ど無いのも事実だった。
カタミミの前任者が死亡したのは、本当に珍しい事だったのだ。
そんな事もあり、古参兵達は彼の行いを無視する事にした。
その結果、彼は何者にも邪魔される事なく、任務を続行する事ができるようになったのだ。
20人のホムンクルス兵は若い兵士の想いに答え、その日一日で15人ものホムンクルス兵を救う事に成功する。
これで彼は35人ものホムンクルス兵に命令を出す事が出来る事になった。
交代要員が現れ、後方任務を下番した若い兵士はホムンクルス兵達を整列させて駐屯地へ戻っていく。
その途中で古参兵の集団とも合流したが、どの古参兵も20人にも満たないホムンクルス兵しか保持していなかった。
この時点で、若い兵士は駐屯地で有数のホムンクルス兵を保持していたのだ。
「流石に、これはやばいか・・・」
彼はポリポリと頭をかきながら己の部屋の中を見渡す。
そこには、大勢のホムンクルス兵がひしめいていた。
そもそも、彼に与えられた部屋は元は10人程の人間の兵士が寝泊り出来る部屋だ。
では、何故こんな広い部屋が若い兵士一人に与えられたのかといえば、理由は簡単だ。
現在、各国の軍隊は大量のホムンクルス兵を賢者の国から購入している。
その結果、どこの軍隊も人間の兵士をそれ程大量に必要としなくなった。
その為、徴兵された兵士達は故郷に帰され、どこの軍隊も志願兵で構成されるようになっているのだ。
そうなると、隊舎を使う人間の数は極端に少なくなる。
更に言うなら、ホムンクルス兵には広い部屋は必要無い。
彼女達に必要なのは、魔力を補充する時に座る椅子が一つあれば十分なのだ。
そういった事情が重なり合う事で、巨大な隊舎を数人の人間の兵士で使うことになってしまった。
人数の少なくなった兵士達を一つの部屋にまとめるのは簡単だが、建物というのは誰も使わないと簡単に痛んでしまう。
「せっかく建てた巨大な隊舎を壊すのももったいない」
「いつか何かに使えるかもしれない」
という考えが軍の上層部にはあり、一人の兵隊に部屋を一つ与えて部屋の管理をさせる事にした。
その結果、彼は広い部屋を与えられたのだが、正直あまりに広い部屋をもてあましていたのだ。
しかし、その広い部屋が今は役に立っている。
もし、一人用の小さい部屋であれば、25人ものホムンクルス兵を詰め込んだらパンクしてしまうだろう。
だが、この広い部屋なら、工夫すれば何とかホムンクルス兵を詰め込める。
ハンモックでも作れば、もっと大勢のホムンクルス兵を詰め込めるだろう。
彼は手狭になりつつある部屋を見渡し、どうしたらもっとホムンクルス兵を部屋に入れることが出来るのかを考えていた。
そんな彼に、一人のホムンクルス兵が近寄り、
<隊長、肩はこっていませんか?>
と話しかけたのだ。