多様性のある組織は助け合う。証拠はモスバーガーのチーム力
モスバーガーの店舗では、主婦(夫)や学生、シニア、外国人、障がい者など、多様な方が働いています。モスバーガーで働くシニアの方々は一時期「モスジーバー」と呼ばれ 、多くのメディアで話題にもなりました。
多様な人が活躍されているのは、その店舗で受け継がれてきた風土であるものと、経営が企画して推進しているものとがあります。しかしいずれにしても、新人にとってはすべてが新しく取り組むこと。今回のDEIインタビューは、「現場がどう感じているのか、自分たちも知りたい」というモスフードサービス本部の方からのご要望で対談形式となりました。 経営側の想いは現場に届いているのでしょうか。現場は経営方針をどのように受け止めているのでしょうか。
経営と現場の対話の時間。そこには、創設当初からの理念「モスの心」を引き継いでいく経営側の使命感と、コミュニケーションを取りながら多様なスタッフの特徴を生かそうとする、現場の前向きな姿勢がありました。
目次
インタビュー対象者略歴
太田 恒有(写真・左)
取締役上席執行役員 営業本部長。就職活動時に偶然入店したモスバーガーで、アルバイトと社員が仲良く働いていたことに衝撃を受けた。その様子からモスバーガーの雰囲気づくりに興味を持ち、モスフードサービスへの就職を決めた。
八木 明日香(写真・中央)
2022年入社(入社2年目)。原宿表参道店勤務。入社後初めて勤務した店舗はクイーンズ伊勢丹杉並桃井店。アルバイトとしてモスバーガーで勤務し、専門学校卒業後に入社を決めた。
石田 遼己(写真・右)
2020年入社(入社4年目)。大崎店店長。江ノ島店や関内店など、5店舗での勤務経験がある。学生時代にモスバーガーでアルバイトをしており、当時初めて食べた商品の美味しさが忘れられない。
企業情報
■株式会社モスフードサービス
■所在地/東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower 4階
■設立/1972年7月21日
■従業員数/1,399人(2023年3月現在)
■事業内容/フランチャイズチェーンによるハンバーガー専門店「モスバーガー」の全国および海外での展開、その他飲食事業など
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多様なキャストは理念でつながっている
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――モスフードサービスさまが行っている、多様性への取り組みについて教えてください
太田 恒有(以下、太田):当社では、女性やシニア、外国人、障がい者など、多様な人材の雇用を積極的に行っています。そのひとつが特定技能制度を利用した「ベトナムカゾク」です。2019年より「外食業特定技能測定試験合格」や「MFC(モス フードビジネス カレッジ)講座修了」、その後の就労までを支援する教育プログラムをベトナムにて開始しました。2022年5月より、1期生の受け入れを開始し、現在21名が日本国内で就業しています。2023年6月には2期生10名が入国予定です。
また、大崎店や原宿表参道店で、分身ロボット「OriHime」(オリヒメ)のテスト導入を始めました。OriHimeは外出困難な人の分身として、遠隔地であってもコミュニケーションを可能にするロボットです。難病や障がいにより外出が難しい方でも、OriHimeを通してメニューのご案内をしていただいています。――多様な方の採用を行う中で、意識していることはありますか?
太田:採用する上で大事にしていることが3点あります。1点目は「理念に共感できるか」、2点目が「人と接することが好きかどうか」、3点目が「自分の利益よりも人の利益を大事にできるか」です。これらの3点を満たしていれば、年齢や性別、国籍などにとらわれず採用しています。
その中でも特に、「理念に共感できるか」を大切にしており、キャスト(アルバイト)さんにも、モスの基本方針をお伝えしています。――モスの基本方針とは?
太田:「お店全体が善意に満ちあふれ 誰に接しても親切で優しく 明るく朗らかで キビキビした行動 清潔な店と人柄 そういうお店でありたい 『心のやすらぎ』 『ほのぼのとした暖かさ』を 感じて頂くために努力しよう」というものです。プライベートな自分からプロとして働く自分に変わるため、キャストさんもモスの基本方針を、入店時に必ず口に出して確認しています。
――会社としてモスの基本方針を大切にされているということでしたが、太田さまご自身はどのような考えを持っていますか?
太田:せっかく仕事をするなら、感謝される仕事をしたいと考えています。私たちが身を置く飲食業界は採用難に直面しており、一方で世の中には働きたくても働けない人がたくさんいます。ならば、自分たちの困りごとと社会の困りごとを同時に解決できるのではないかと考えました。OriHimeも、物理的に移動できない人たちに対して、働くチャンスになるのではないかという思いが導入の決め手にあります。
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もともと主婦キャストが多かった、モスの二等地三等地戦略
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――現場で働くおふたりの店舗では、どのような方が働いているのですか?
八木 明日香(以下、八木):私が勤務している原宿表参道店では、外国人の方が1名、障がいのある方が1名働いています。学生キャストが多い店舗になりますが、学生だけで喋るのではなく、分け隔てなくコミュニケーションを取っています。
石田 遼己(以下、石田):私は計5店舗での勤務を経験しました。今店長をしている大崎店と、1つ前の関内店とではキャストさんの属性が大きく違いました。大崎店に関しては、OriHimeの導入は始まりましたが、そこまでキャストさんの年齢層が広いわけではありません。一方で関内店は、シニアの方が約3割の店舗でした。35年前のオープニングから勤務しているベテランの方もいました。他には外国人の方が3名、障がい者雇用の方が1名と、多様なキャストが働く店舗でしたね。
障がい者の方は、識字障がいがありました。調理マニュアルの文字が理解できないので調理は難しく、カスタマー(商品をお客さまに届ける仕事)をお任せしました。人柄がよくて採用したため、接客面で活躍していただいています。――実際に多様な方がいらっしゃる店舗で働いているのですね。シニアの方が約3割ということでしたが、なぜシニアの方も馴染みやすいお店になっているのでしょうか?
太田:もともとモスバーガーは、学生さんよりパートさんの方が多かったからですかね。パートさんが働くビジネスモデルだったんです。
少し詳しくお伝えしますと、二等地三等地戦略といって、駅前や繁華街といった一等地ではなく、住宅街などの二等地に店舗展開をしていました。食材にこだわり、美味しいものや体にいいものを提供して、少し離れた場所であっても来ていただけるお店にしようと。そして、その住宅地に住んでいて、働いてくれたのが主婦(夫)のパートさんだったということなんです。
料理のできる方が多かったので、トマトなどを切るといった仕込みの仕事を、イチから教えなくてもすぐにできるというメリットもありました。その人たちがずっと辞めないでいてくれているので、自然とシニアも増えていった。それがモスバーガーにシニアの方が多い理由です。特別にシニアの方を採用したというわけではないんですよね。その後、駅前にもお店を出すようになって学生さんも増え、店舗が増えていくにつれて多様性も増していったという流れになります。
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得意を伸ばしてお店を回す。そのためにコミュニケーションを欠かさない
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――多様性よりも「若い人がほしい」など同質的な人を集めたほうが楽と考える企業も多いと思います。多様性を受け入れて店舗の運営、マネジメントを行うのは大変ではないですか?
石田:私の考えは逆です。店舗運営する上でも「多様性はあったほうがいい」と考えています。誰かがレジで注文を取って、その情報をもとに誰かが調理して、誰かがお客さまのもとにお持ちする。という一連の仕事の流れの中で、必ずコミュニケーションが必要になってきます。そんななかで、たとえば外国の方を一人採用するだけで、その方がどの国出身なのか、この言葉は理解できるか、といったコミュニケーションが生まれます。その会話をきっかけに、お店全体のコミュニケーションも増え、チーム力がぐっと上がるっていうのを実感したんですよね。
あと、多様性があったほうが、助け合う雰囲気も生まれるんです。たとえば関内店のシニアの方は、何をするにしても、とにかく感謝している印象を受けました。お互いの得意不得意を理解しているからだと思っています。助け合いながら仕事をして、終わった後は「ありがとう」をいつもきちんと言うんですよね。それに、感謝の気持ちや助け合いの精神は、他のキャストにも伝わるんです。昔から積み上げられてきたものはたくさんあると思いますが、働く人の良さは、そうやって人から人へ代々引き継がれていると感じます。太田:個人によって得意なことが違うのは当たり前なんです。みんなを平均化するのではなく、特性を伸ばしていく必要がある。それが店長やマネージャーの仕事だと考えています。
――現場で働かれているおふたりは、感謝の気持ちや助け合いの精神をアルバイト時代に身につけたのですか?
石田:そうですね。アルバイト時代、オーナーが「ありがとう」と「ごめんなさい」を大切にする人でした。新しく入った高校生だろうと長年働いているパートさんだろうと、「ありがとう」と「ごめんなさい」を伝えていて。当たり前のようで大事なことだと実感しました。そのようなオーナーのもとで働いていたので、アルバイトをしていく中で、自然と感謝の気持ちを学んでいきました。
八木:私もアルバイト時代に感謝の心を身につけました。当時の店長が、ご高齢のお客さまに対して扉を開けてご案内をし、外まで送って最後までお辞儀をしていたことに感銘を受けたんです。ここまで丁寧にお辞儀をしてお見送りするなんて、と衝撃を覚えたのを今でも覚えています。それで、私自身も丁寧な接客ができる人になりたいと強く思いました。
――実際に「モスの心」が引き継がれているのですね。とはいえ、いくら理念に共感している方であっても、多様な方を採用する上で戸惑いや不安はありませんでしたか?
石田:それは…、正直ありました。たとえば障がい者、シニア、外国人の方を採用するとなると、どうしてもできる仕事が限られてしまうことがあります。本当にお店を回すことができるのか、不安な点はありました。
――不安の乗り越え方は人によると思うのですが、どのように解消していますか?
石田:やはりそれは、キャストさんとのコミュニケーションで解決しています。具体的には、半年に1回キャストさんと面談をしているんです。「何かあったらとにかくコミュニケーションをとりなさい」と上司からも言われています。
大きい店舗になると、キャストさんは40人ぐらいの規模。今の大崎店に異動した時は、面談をするために、お客様にご迷惑がかからないよう配慮しながら、私の判断で宅配サービスをストップして、時間を確保していました。それくらい、面談は大事なことだと捉えています。太田:すごく大事なことですね。私自身も、自分よりも年齢の高いオーナーさんに対して、理念や価値観を守ることを要望するのが怖いと感じることはあります。でも、怖いのは相手を知らないからなんです。相手を知れば解決するんですよ。
障がい者や外国人など、ふだん接することが少ない方を採用するにあたっての不安も同様だと思っています。例えばOriHimeを利用している、障がいを持ったキャストさん。その人のパーソナリティーが分かってきて、毎日一緒に働いていると、他のキャストさんと何も変わらないのだと実感します。
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経営側も現場も、多様性に向き合うことで世界一尊敬されるチェーンに
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――最後に、「モスフードサービスをこのような会社にしていきたい」という思いはありますか?
太田:フランチャイズオーナーにいつも言っていることなのですが、「世界で一番尊敬されるチェーンになりたい」と思っています。そのためには、フロントに立つ従業員の教育が大事ですし、社会的責任を果たさないといけない。常に品質の向上をしないといけないし、技術革新も、グローバル化もしていかないといけないんです。そのようなことを一つ一つ実行に移すことで、尊敬されるチェーンになると思っています。
私は1995年入社ですが、1997年以降に入社した社員は創業者と直接会ったことがない世代になります。ですから創業者を知っている最後の世代として、モスの心を現場に伝えていかなければならないと思っていました。でも今日、2人の社員と話してみて、想像していた以上にモスの心を継いでくれていると感じて、すごく嬉しく思いました。――現場のおふたりはどのように感じましたか?
八木:私たちは店舗でお客さまやキャストさんと第一に接しています。これからも一日一日を大切にしてモスバーガーのファンを増やしたいと実感しました。
石田:私としては、モスの強みや取り組みを再認識できたことがよかったです。もともとモスバーガーの「人の良さ」に魅力を感じて入社した身なので、より一層モスバーガーを愛して、さらに尊敬される企業になっていければいいなと思いました。
――本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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「モスの心」は受け継がれている~インタビューを終えて~
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太田氏によると、創業者の櫻田氏は二宮尊徳の「たらいの水の原理」を引用し、「人生はたらいの水だ」という言葉を大切にしていたようです。
たらいに水を張って、自分の方へ持ってこようとすると、水は向こうへ逃げてしまう。逆に、相手側に与えようと向こう側に押し出せば、水は自分の方に返ってくるのだと。
この考えが、「モスの心」の原点になります。利他の心を持って人に接することを会社として大切にしてきました。
コミュニケーションで問題を解決するのは、実際はとても大変なこと。時間も手間もかかりますし、あきらめて「何でもこなせる人」の採用に切り替えてしまう企業も少なくありません。
そんな中、モスで多様性が実現できているのは、社員もキャストも、相手を思いやる利他の心が浸透しているからなのでしょう。※インタビュー内容は、2023年4月時点のものです。
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