議論できる能力が、物語コーポレーションの多様性を豊かにする
「多様性の表現」「多様性の表現が生む価値」「多様性の受容」。物語コーポレーションの長期経営ビジョンには「多様性」の文字が並びます。
公式HPにはグローバル人材やセクシャルマイノリティ、障がい者雇用など具体的な取り組みを紹介するコンテンツも豊富で、経営戦略の中核にダイバーシティ&インクルージョンがあることも明言されています。
DEIを推進する彼ら/彼女らのまなざしの先には、どんな未来が見えているのでしょうか。それを探るべく、営業企画部・シニアマネージャーの川添氏へインタビューを実施。そこには先入観を避けられない自身に対する謙虚な批判精神と、ずっと先の世代まで続く「多様性」を育てようという静かな決意がありました。
目次
インタビュー対象者略歴
川添 良介
営業企画部 シニアマネージャー/パートナー採用・定着強化グループ グループ長。2008年入社、店舗の売上等の数値分析、「お客様相談室」などを経て、「パート・アルバイト採用」の立ち上げに携わる。
企業情報
■株式会社物語コーポレーション
■所在地/愛知県豊橋市西岩田5-7-11
■創業/1949年12月
■従業員数/社員:単体1,293名/連結1,428名 ※国内時間制従業員:22,828名
■事業内容/外食事業(焼肉、ラーメン及びお好み焼レストランチェーン、和食店)の直営による経営とフランチャイズチェーン展開
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多様性ある未来とは、議論が活性化している状態のこと
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――はじめに、物語コーポレーションの考える多様性について教えてください。
川添良介(以下、川添):物語コーポレーションでは、1949年の創業当時より「自分物語」を大切にして事業を拡大してきました。この「自分物語」には、会社のストーリーに合わせるのではなく、自分を主人公として、一人ひとりが異なる価値を発揮してほしい、という想いが込められています。
多様性には”受け入れる”という段階がありますが、多様性の本当の価値は、個人がその違いを表現することにあります。さまざまな個の視点が増え議論が活性化することによって、新しい企画やプロジェクトが生まれ、競合優位性にも繋がっていく。それが、物語コーポレーションの考える多様性です。――他とは違う自分を表現するのは、怖さもあるのではないでしょうか。
川添:例えばマイノリティの方は、幼少の頃から心のなかに溜めていた想いをどこかのタイミングで表明することがありますよね。そこには想像できないくらいの不安やストレスと、大きな意思決定があると思います。でも私たちにとっては、そういうことを自由に表現できる環境というのがとても重要。
――マイノリティの方が、自分らしい意思決定をする環境づくりというのはわかりやすい面もあります。しかしマジョリティの日本人が、そもそも意思表明が苦手なのでは?
川添:そうですね。日本は同調する文化で、意見を言うのが苦手な方が多い。例えば上司が「これをやろう」と言えば、「そうですね」と返す。そこに自分の感情や意思は含まれていないですよね。
「自分が思ったことを話す」「その場の空気なんか読まないで、とりあえず意見を述べる」。私たちが最も重要視しているのは、そういった議論の活性化です。異なる意見が出るのは当たり前。議論を通して、ベストな方向に持っていきたいのです。
そして若いときから意思決定をして、「自分の行きたい道を行く」という方を評価したいですし、そういった方が活き活きと働ける会社にしたいと考えています。――意思表明が苦手な日本人も、物語コーポレーションで働くと変わっていくのでしょうか。
川添:十人十色です。会社としては、個人が意識決定しやすい環境、意見を言いやすい雰囲気づくりをしますが、一歩進むか進まないかは本人次第というところがあります。
ただ引っ込み思案だった人も勇気を出して発言をおこない、回数を重ねる事で自信をつけてきます。時間が掛かっても最終的に全員が意思表明や個性を発揮できる状態を、やはり目指しています。――多様性のある会社、つまりは「誰もが活躍できる会社」が事業を拡大していくためには、「誰がやっても回るようなオペレーションの均質化」も必要になります。多様な個性と均質化は矛盾しないのでしょうか?
川添:たしかにオペレーションの統一や、それに合わせたDX化や省人化のトレンドは、今後も加速するでしょう。物語コーポレーションでも、配膳ロボットの導入をはじめています。
ただし私たちがスタッフを通して提供したい価値は、「おせっかい力」なのです。例えば、焼肉きんぐでは、「焼肉ポリス」というポジションのスタッフがいます。これはお客様にベストな状態でお肉を召し上がってもらいたいという思いから生まれたもの。
肉の部位によって網のどこに置くかで味わいに差が出たり、切り込みの入った面を先に焼いた方がハサミが通りやすいなど、ちょっとした工夫を伝えることが仕事です。このようにロボットの導入などで空いた時間をおせっかいに充て、いかにしてお客様の満足度を上げるか、といった部分に個性を出してほしいと考えています。
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誰もが無意識なステレオタイプを抱えている。私自身もそうでした
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――その人らしさや個性が、おせっかいという形で表れているのですね。スタッフが個性を発揮できるような環境づくりについて、何か工夫されていることはありますか?
川添:物語コーポレーションでは、「『個』の尊厳を『組織』の尊厳より上位に置く」ことを徹底しています。わかりやすく言うと、単に外面的な属性で相手を判断せず、1人の人間として対等に向き合うということです。
「アルバイトだから」「主婦(夫)だから」と、勝手なステレオタイプに当てはめ、本人の可能性を閉じてしまうのはもったいない。そんな思いから、アルバイトやパートでも「主任」「副店長」「店長」といった重要なポジションを任せる「役職パートナー」制度をスタートしました。――具体的に、どのような制度か教えてください。
川添:例えば、「焼肉きんぐ」で働く大学生アルバイトスタッフの場合、役職パートナーとして「副店長」のポジションまでステップアップし、備品管理や教育、発注管理など多くの業務を担当してくれています。その子は、来春に新卒として入社する予定ですが、入社した瞬間から「副店長」のポジションと待遇で働きはじめます。
また福岡の「丸源ラーメン」では、史上最年少の主任として高校生が抜擢されました。エリアマネージャー以上が出席する会議で、緊張しながらも決意表明のプレゼンをした彼女の姿は、今でも鮮明に覚えています。
このように「大学生だから」「高校生だから」と可能性にふたをすることなく、オープンかつ平等にチャレンジできる環境・制度を整えることで、本人が気付かなかった能力が開花することも多々あります。――年齢や立場に関わらず、若くても同じチャンスがあるのですね。では、シニアスタッフの活躍については、いかがでしょう?
川添:現在は60歳以上の方が400名ほど働いています。実は、シニアスタッフについては、私も先入観をもっているところがありました。「シニアの方は、早朝勤務や開店準備の仕事が向いていて、本人たちもそれを希望している」と勝手な想像をしていたのです。
ところが実際にシニアスタッフに実施したアンケートデータを集計してみると、深夜帯を希望しているシニアスタッフが半数以上いることが判明しました。実際に深夜に働いている方もいますし。どうしてかわかりますか?――深夜帯の方が、時給が高くて稼げるからでしょうか?
川添:それもあるのですが、一番の理由は「普段関わることのない世代とコミュニケーションを取れるから」だったのです。非常に印象的だったのと同時に、自分の中にある「シニアだから」というステレオタイプに気付く良いキッカケになりました。
そしてシニアスタッフが活躍している店舗の調査をしてみると、やはりそこには“議論”がありました。定着が上手くいっている店舗では、店長と本人としっかりコミュニケーションをとって、シニアスタッフも多様な活躍ができるように柔軟な対応をとっていたのです。
たとえばある店舗では、ウォッシャー(洗い場)業務を5つほどに業務分解していました。「1~4の業務はできる。でも5の業務は重いものを扱うため、腰に負担が掛るからやめておきましょう」と、現場で話し合って業務範囲を決めていたのです。――店舗ごとに本人と話し合いで業務を決めていくのですね。一般的にシニアスタッフの方は裏方仕事を希望することが多いと伺ったことがあるのですが、物語コーポレーションで働く方は違うのでしょうか?
川添:シニアスタッフの方は、ホール業務をやりたくないのではなくて、「自分にできるのか自信がない」というだけなんですよ。当たり前のことですが、どの年代にも多様な志向をもった人がいます。そういう隠れた志向の背中を押すのに、実は「星制度」というのが役立っています。
スキルや業務ごとにランクを決め、これができたら星1つ、ここまでできたら星2つと、何をすれば評価が上がるのかが誰の目にも見えるようにしています。誰もが成長する機会があるというメッセージにもなりますし、徐々に星が増えていくことで、自信を持てるようにもなります。
そしてシニアの方もある程度自信を持ってきたと感じられたときに、「笑顔がとても素敵なので、次はホールに出てみませんか?」と店長から声を掛けてみる。すると、「案外ホールもできました」と嬉しそうに話してくれて、そこからホールで活躍の場をもっともっと広げていってくれる。もちろん全員をホール業務に誘うということではなく、シニアスタッフ一人ひとりとのコミュニケーションを通じて多様性を生かすという視点に立っています。
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大事なのは、個と個のコミュニケーション。現場はみんな同じではない
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――柔軟に業務を調整して、活躍の場を増やしていくのですね。全体ルールとして統一せずに、店舗ごとに行っている理由はなんでしょうか。
川添:本人と話し合って業務分解できれば、すべてが良いことのように思えます。しかし基本のオペレーションとは違うかたちの分業になるので、溢れた業務は店舗の他の誰かが対応しなければなりません。フォローをうまくできない状態の店舗では、ただただ現場の負担を増やしてしまうことにもなります。店舗の状況はそれぞれ違うので、本部から一方的に「こうしなさい」と指示することはありません。
現場のことを一番理解しているのは、現場。それぞれの現場に合った「多様性」を、議論を通じて見つけ出していく能力がないと、「多様性」のイメージが固定化されて均質化してしまいます。一筋縄ではいかない問題だからこそ、自分たちで対話しながら解決してほしいのです。――とても高い能力を求めているようにも思えます。改めて、全員が意思表明できる状態をつくることは可能なのでしょうか?
川添:簡単なことだとは考えていません。ただ先ほどのシニアスタッフの事例を知ることで、「こうすればいいんだ」と気づく人が必ず出てきます。そこに気づいて実践してみて、多様性を生かせる能力を持つ人が一人でも増えていく。一人ずつ、増やしていくことが大事だと思います。
――本部から現場を支援できることは何でしょう?
川添:月1回のエリアマネージャー以上の会義で、各店舗の成功事例を共有してもらっています。「うちの店舗では、こんな取り組みをしたら定着率が上がったよ」「オペレーションをこう変えたら、スタッフの負担が減ったよ」など、全国から集まる事例を見て「うちでも試してみよう」と自発的に思ってもらえる機会の場を作っています。
またこういった事例紹介は、情報として埋もれやすく流れてしまいやすい性質があります。すると「あの事例が見つからない」と、せっかくの改善のチャンスを失ってしまう。そうならないために、社内専用のポータルサイトを用意して、各事例をストックして見つけやすく整備をしました。
このサイトは、アルバイト・パート、社員の誰でも見ることができるので、スタッフから「この事例をマネしたい」と意見が出ることもあります。さらに、このような成功事例の共有に加えて、私たち本部も店舗調査を繰り返しながら、採用しやすい環境、教育しやすい環境、そしてスタッフが活躍しやすい環境をつくる努力をしています。
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採用目標は「シニア人材」「インターナショナル人材」比率を全スタッフの10%にすること
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――今後の採用目標や採用戦略について教えてください。
川添:昨今の採用環境は、どこの企業も非常に厳しい状況です。それに加え、おせっかいを重視している私たちのブランドは、1店舗あたり70~80名のスタッフを必要としています。そこで大切になってくるのが、「シニア採用」「インターナショナル(外国籍)採用」の強化です。
現状うまくいっているかと聞かれると、そうではありません。現時点で、シニアスタッフは約400名、インターナショナルスタッフは約600名働いていただいていますが、まだまだ少ない。全体のスタッフ割合でみると、合わせても4.5%ほどです。この領域を10%にまで比率を上げていきたいと考えています。
とくにシニアスタッフの方は、体調面などを配慮し、お互いに調整して話し合っていけば10年15年と働き続けてくださる方も珍しくありません。反対に、ここのケアをないがしろにしてしまうと、定着はほぼ不可能と言ってもいいでしょう。今後さらに少子高齢化が進む社会において、この層へのアプローチは必要不可欠だと考えています。――具体的にどのような部分から着手していくのでしょうか。
川添:まずは、シニア採用やインターナショナル採用において、面接率や採用率の改善を目指しています。その点に関しても、店長やエリアマネージャーの「シニアだから」「外国籍だから」と、先入観で判断してしまうこともあるのが現状です。
だからこそ、先ほど述べた成功事例などを活かして「シニアやインターナショナル人材を採用することで、こんな良いことが起きるんだ」と現場主導で気付いてもらうきっかけづくりを積極的に行っています。――物語コーポレーションの公式HPの「経営目標」には、「社会に意見を沢山もっている」という一文があります。最後に、目指すべき理想の社会についての考えを教えてください。
川添:これは個人的な意見ですが、家庭や個人の事情によって、働き方を制限しない社会が実現されるといいなと思います。例えば介護をしながら、家庭と両立しながら正社員として1日4時間だけ働く、といった働き方が、当たり前の選択肢として出てくるとベストだと考えています。
そういった個人それぞれの幸せや理想を実現するためにも、スタッフが一歩踏み出して議論することのできる環境を整えていきたいです。本日は、貴重なお話ありがとうございました。
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多様性が長期経営ビジョンである意味~インタビューを終えて~
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ダイバーシティはパーティに招待されること。インクルージョンはダンスに誘われること。
Diversity is being invited to the party. Inclusion is being asked to dance.
(米国のD&I専門家 Vernā Myers)
物語コーポレーションの多様性の実践を伺いながら、私たちは時々引用されるこの言葉を思い浮かべました。誰もが働きやすいように環境を整え受け入れるだけではなく、助け合い、補い合って、みんなが等しく価値のある仲間だと認めてくれる。社名にも込められたそれぞれの「物語」を追求する姿勢が、インタビューの細部に見て取ることができました。
短期的な経営を考えれば、たくさんの好事例を型化してマニュアル展開し、生産性を向上させることも可能です。個人の能力に依存せず誰もが同じマネジメントを実行できるようになれば、事業成長にとって合理的なはずです。
しかし川添氏は「そのほうが楽なんですけどね、でもそうはしない」と、安易な合理化を明確に否定しました。そして「多様性を生かせる能力を持つ人を、一人でも増やすことが大事なんだ」と力強く答えます。ここで私たちは、物語コーポレーションの多様性が、「経営計画」ではなく「長期経営ビジョン」であることを思い起こすべきなのだと思います。
計画には明確なゴールがありますが、ビジョンには到達点がありません。つまり物語コーポレーションにとっての多様性とは、自分が生きている今の時代だけではなく、その先の世代も含めた永遠の未完成のことなのだと理解することができます。彼ら/彼女らはそんな遙か遠くの未来のために、きっと今日もどこかで議論できる能力を磨いていることでしょう。
そしてこの記事がきっかけとなり、一人でも多くの「多様性を生かせる能力を持つ人」が増えることを私たちは願います。※インタビュー内容は、2022年12月時点のものです。
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