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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

戦場の相棒

作者:猫☆ライフ

みなさんどうもこんにゃちわ。猫☆ライフです。ピクシブで執筆したやつの出来が良かったので、こっちにも持ってきてみました。

それではどうぞ!

 

「おいストマク、応答しろ。進行中のA班、B班はどうなっている」


 小さめのトランシーバーを口にあてがい、低く重みのある声で話す。


「こちらストマク。隊長、少しずつではありますが進んでいます。やはり地下には罠が張り巡らされているようです。俺が解除しながらA班、B班に指示を出します」


 ストマクといわれる男は、装備の胸元に入っている隊長と同じトランシーバーに向かって口を近づけた。応答した後もストマクは続ける。


「隊長、今地上の戦況はどうですか」


「さっきまで弾丸の弾幕を両者共々張っていたが、弾切れのためかピタリと止まった。今は塹壕に隠れ、均衡を保っているが何か仕掛けてくる可能性が高い。進行を早めてくれると助かる」


「任せてください隊長。これで最後の一個です」


 ストマクは連結した金具を外すと最後の罠を不発させる。不発する瞬間を見ることはできないが、下で大木が落下したような音が鳴る。落下した際の衝撃が伝わる中、胸元のトランシーバーから音が出る。


「ストマク副隊長、そろそろ地上に出ます。突撃の指示をお願いします」


 下を進行中のA班からだ。


「タイミングはお前たちに任せる。まずA班は地上に出た後、三手に分かれて中枢を目指せ、あくまでもお前らは敵の分散、そして陽動だ。無理はするな。当然高所にいる見張り役を潰すのが優先だ。俺はA班が突入した後B班と合流し、一気に頭を討ち取りに行く。くれぐれも分かれるところは見られないよう気をつけろ」


「了解です」


 そう短く合図した後、突撃の準備にかかる。なるべく音を立てないようにそろりそろりと、光の方へ進んでいく。

 そして突撃の時、ジェスチャーで3からカウントダウンをし、「行け」の形を作った。




「今回もご苦労だった、ヴァイパー大佐、それとストマク。この人数、戦力差に、損害をここまで抑えるとは見事なものだな」


 戦果が記されている書類をはらりと机の上に伏せると、いかにも歴戦の猛者のようないかつい顔が姿を見せる。

 日に焼けて少し茶色めの肌に黒いちょび髭、どこかの鬼教官に似た顔貌だ。頰にできた太い斜めの傷は数多の修羅場を乗り越えてきた証だ。

 ヴァイパーは腰を曲げ深く礼をする。


「お褒めの言葉ありがとうございます、ボス。それで今日呼んだのはどんな指令でしょうか」

 

「実はな例の研究所が見つかったのだ。後でイヴァンから情報がお前の端末に送信される。至急現地に迎え。装備はなるべく持つな。乗り込むのに邪魔になる。ほとんどが現地調達だ」


「承りました。直ちに現地へ急行します。では失礼します」

  二人とも深い礼をすると部屋を出た。灰色のフローリングの通路を肩を並べて歩く二人。


「今回も損害を最小限に抑えられましたね」


 ストマクは歩きながら会話を始める。


「あぁ、今回はお前がいなきゃ惨事になるところだったからな。助かったよ。だがまた一人の尊い命を失った。早く弔いに行くぞ」


「了解しました!」


 小走りでとある場所へ向かう。


 二人が所属している組織「SWET(Support War Elite Teams)」は、大規模な戦争の援助をする精鋭部隊で、ごく少数の人数しかいなく、そもそもそんな組織があるかどうかも怪しいぐらいの組織だ。

 二人は軍隊では飛び抜けた成績を持ち、伝説とも言われていたが達成感ややりがいを感じられず、抜けた後この組織を設立した。培った知識と技術を使い、さまざまな支援を行ったが国の政府に正体がバレ、現在手駒のように操られている。

 それでも続けていられるのは、二人には固い絆があるからだ。お互い支え合い、短所を補い合い、協力してきた。二人の見た目のギャップは激しく、屈強で強面なヴァイパーに対し、新米兵士のような爽やかな一面を持つストマクは一種のアイデンティティーとなっていた。

 ちなみに人数は二人を含め、二十人ほどしかおらず世界各地に配置されている。

 二人は屈んで手を合わせ、とある墓の前で目を閉じて静かに黙とうする。


「それじゃあストマク、行くぞ」


「はい!」


 作戦を再確認した後、実行を開始した。


ーーーーーーーー


 ヴァイパーは大小様々な金属の箱の荷物に囲まれ、揺れるトラックの庫内でどう行動するか想像していた。




「それで隊長、今回の任務の詳細はなんですか」


「送られたデータによると、スニーキングミッション……潜入捜査のようだ。とりあえず目を通すぞ」


屋外の机にタブレットを置き、急いで開く。


「今回は5分弱でデータが全部消える。それまでに覚えるぞ」


「はい!」




『任務はスクルズ博士と研究者達の捕縛、及び研究所の破壊よ。侵入ルートは全て私が仕組んだわ。侵入したあと動力室かメインサーバールームへ行き、屋外の監視カメラ等の警備システムを無力化して。そのあと研究者をひとり残らず捕まえるため、研究所を取り囲むように包囲、そして突入して直ちに制圧に取り掛かって。その間に爆弾を設置するのだけど設置場所は後のマップに記載してあるわ。健闘を祈る』


今度は横へスワイプしてマップを見る。地上は一階までしかないが、地下が五階まであり、やけに下へ長い。ある程度重要な箇所を見ると突然ブツンと切れ、真っ黒な画面に変わる。


「そういえば隊長、このイヴァンという女性と会ったことあるんですか?」


「いや、分からない。話したことがないし、そもそも女性かどうかも不明だ。だが便宜上、女性ということにはなっている。これも彼女が動きやすくするためらしい。ありとあらゆる接点をなくし、単体行動やスパイ活動に特化させるんだ」


「そんな人信じて大丈夫ですか?」


得体の知れない人物に疑心暗鬼になる。


「おそらくな。ボスに聞いたところ俺ら二人を頼っているらしく、信用してもらうために彼女が自分の情報をボスにだけほとんど渡したそうだ」


ストマクは今回の任務であることを思い出していた。


「ようやく、決着がつきますね」


ヴァイパーはタブレットにチップ型の爆弾を仕掛けながら答える。


「あぁ、そうだな。前回みたいに逃げられなければいいが」


二人は組織を設立してすぐ、軍隊にいたころ密かに行方を追っていた博士の居場所を突き止め、捕らえようとした。しかし、後一歩のところで二人乗りの戦闘機に乗られ、逃げられてしまった。

二人は新たに決意する。終止符を打つんだと。




ヴァイパーは予定通り潜入し、研究員、警備員に見つかることなく警備システム無力化に成功する。そして外にいるストマクに合図を送った。


「さて、後は爆弾の設置か」


大黒柱に爆弾を取り付けタイマーをセットしていく。地下一階まで登り、いかにも何かを研究してそうな部屋へ爆弾を取り付けるため入る。

夥しい数のフラスコ、顕微鏡、いくつかの縦長の机、そして白衣もちらほら投げ捨ててある。

慎重に足を進め取り付けようとした瞬間、二つの出入り口にシャッターが降り、閉じ込められる。


「くっ、罠だったか。どうしたものか。……!!」


ヴァイパーは部屋の異常をすぐ感知した。壁に設置されている排気口から溢れ出る、白い煙が蔓延し始めていることに。それに気づくや否や、研究所内の倉庫にあったガスマスクを装着する。


「ヒョヒョヒョ……来たかSWETの精鋭」


「ッ!スクルズか!姿を見せろ!」


腰あたりのポケットからコンバットナイフとヴァイパー専用のフルカスタムの拳銃を取り出し、すぐさま構えた。


「以前お前に会ってからずっと欲しかったのだ。お前が」


「それは、一体どういうことだ!」


ヴァイパーは尚一層周囲を警戒する。白い煙が視界を遮り始める。


「ヒョヒョッ、感の悪い奴め。私がお前をここまで連れてきたのに」


「まさか……、あのデータは……!」


ついに自分の身の危険を悟る。


「それより分からなかったか?私特製のそのガスマスクは聴覚と視覚を」


ヴァイパーは背後から近づいてくる存在に気づかない。


「遮ることに」


「ガッ……!」


ヴァイパーは首元に注射器を刺され何かを注がれる。抜かれると同時に体の制御が効かなくなる。振り向きざまにかろうじてスクルズの姿を捉えた。


「く……そ……」


「ヒョヒョヒョ、安心しろ。壊さないよう努力はするさ」


薄れゆく意識の中、奇怪な笑い声が耳でこだました。



所変わって地上ではもうすでに数十人の兵士、そしてストマクが準備していた。


「なるほど、小型衛星を自分で打ち上げて電波を阻害していたとは。居場所が特定できないわけだ」


ストマクは移動手段の車の中でパソコンを見て、突撃のタイミングを伺っていた。

するとドアを開け一人の兵士が入って来る。


「突撃の準備完了しました!いつでも行けます!」


「了解。今から13分後に警備の隙ができると思う。その時突撃しよう」


「了解しました!」


ストマクはハッキングしてパスワードを解除する。


「よし!後は6分後にメインホールにアラームが鳴るようセットすれば完了だな」


キーボードのエンターを軽快に弾ませて、この場を後にする。車を出て、研究所の周りを歩いて巡回する。観察眼が高いストマクは、壁の足元にある小さな窪みを見つける。


「なんだこれ」


そっと触ると静かに沈んでいき白い壁に縦線が入る。横へスライドして開き、現れたのは先の見えない真っ暗な空間。


「暗いな、照らすか」


そう言って拳銃を取り出し、ウェポンライトを使って暗闇を照らす。


「エレベーターのようなものか……うおっ!?」


足を踏み入れた途端踏み外してしまい、真っ暗闇へ滑り落ちていく。滑る途中、蜘蛛の巣に引っかかるような感覚を覚えるも、先のことを考えて銃を構えた。

たどり着いた先も真っ暗な場所。あたりを照らそうとすると、近くの背丈の数倍以上あるホルマリンが黄緑色に光り始めた。それに呼応するように陳列されてあるホルマリンが次々に光り、気味の悪い雰囲気を醸し出す。


「これは!」


ストマクはホルマリン漬けにされているあるものに目がいく。それは得体の知れない物質、いや生物だ。

そっとガラスに手をかざすと、中の生き物は複数の目を使ってストマクを凝視する。あまりの奇妙さに恐れおののくストマク。それでも勇気を振り絞り並んでいるそれを眺めつつ前へ進む。


「かわいそうに。全部あいつの仕業なのか」


どの生き物もこの世には存在しない風貌で、複数の生き物を混ぜたような見た目。いわゆるキメラ。昆虫、水棲生物など混ざったような生き物がいたり、もはや何が混ざっているのか分からないのもいた。

微かではあるが声も発しているようで、今まで経験したことのない未曾有の嘆きの声に近かった。

ホルマリンに沿って歩いていくと、コツコツと足音が近づいてくる。ストマクは影に隠れ、身を潜めた。


ーーーーーーーー


「ヒョヒョ…起きたかい?」


「ぐ……ここは……?」


若干の眩しさを感じ虚ろな目を開ける。妙にだだっ広い空間と、ガラス越しに見えるスクルズ。特徴的な地形だったためここは地下一階だろうと察する。

そして自分の置かれた状況も同時に理解した。

手足を金属の枷で縛られ壁に貼り付けにされている。絶望的なのが目に見えてわかる。それにヴァイパーは体に全く力が入らないことも分かっていた。


「この俺をどうするつもりだ!」


ありったけの力を使って怒鳴る。


「まだ元気があるな、おい、それのレベルを2段階上げろ」


「承知しました」


白衣を着た研究員がパチッ、パチッとスイッチのようなものをオンの方向へ切り替える。


「ぐああああぁぁぁぁっ!!」


動かしづらい体が痙攣を起こし悶える。


「まだ感覚が残っているのか、恐ろしいほど強靭な精神だな」


ヴァイパーはうなだれた顔を上げ睨み付ける。


「悪……魔め」


「ヒョッヒョヒョ、その言葉そっくりそのまま返すよ。もう少しだけ眠ってろ」



数十分後、様子を見に戻ってくるスクルズ。


「調子はどうだ」


「現在も植物状態を維持。脳から発せられる信号はほぼ無くなりました。そろそろ頃合いかと思われます」


「ヒョヒョッ、そうだな。よし、死なないギリギリの量の麻酔を投与しろ。いよいよ取り掛かれ」


言い終わると何やら怪しげな機械をいじり始める研究員達。するとヴァイパーの元へ二本の先が注射針になったチューブが垂れてくる。

まず片方が脊髄に向かって突き刺した。


「うっ……」


ピクリと反応する体。全く抵抗の意思は見せない。

注ぎ終わって少し遅れてもう片方のチューブが首筋に向かって刺した。

スクルズはガラス越しから高みの見物だ。


「最初お前の首元に刺したあれはなんだったと思う?あれは人間の遺伝子情報をリセットする効果があるんだ」


体をガクガクと震えさせながら細々と口を動かした。


「つ……まりは、おれが…あく……まに……」


「今度は察しがいいな。ヒョッ、せいぜい人間のお前にお別れするんだな。身を委ねたほうが楽だぞ?」


その時、大きな和太鼓を叩いかのように、胸の鼓動が

ドクンと高鳴った。薬漬けにされてボロボロのヴァイパーでも自分に起こる変化は見ることができた。足の一部分が黒く変色し始め、爪が剥がれ落ち、皮膚を突き破って先の尖った鋭利な太い爪が姿を見せる。

体の感覚を失っているヴァイパーは変化の違和感を感じることなく、ただひたすら見つめ続ける。

そんな見つめ続ける顔にも変化が訪れる。虹彩が真っ赤に染まり、真っ黒な瞳孔が縦に裂ける。

口が裂けて大きく開けられるようになり、そこから覗くのは歯ではなく、変わりつつある鋭く尖った牙。

それと同時に鼻と口が前に迫り出し、マズルを形成していく。

黒い鱗の侵食とともに耳が尖り、こめかみ付近から一対の角が生えてくる。

顔の変形が終わると鍛え上げられた筋肉が脈動し、ギシギシと肥大して強靭になる。

上から侵食してくる黒い鱗に伴い、お腹に灰色の蛇腹が出来ていく。

腕も筋肉質になり、足の爪と同様、剥がれ落ちて鋭利な爪が出てくる。その際壁についている枷が耐えきれなくなり壁にヒビを入れていく。


「……な!?」


あまりの変化にようやく反応するヴァイパー。

変化が腰のあたりまでくると、性器が引っ込んで尾てい骨から音もなく尻尾が生えてくる。

脚は腕と同じく筋肉が盛り上がって、強くたくましくなる。

ここで壁に入ったヒビが手足の枷の部分と繋がり崩れ落ちる。ヴァイパーは解放されて地面に手をついた。

足の骨格がミシミシと音を立てて変わる。その結果立つと常に爪先立ちのような姿勢に。

体にまだ力が入らずうずくまっていると、首がグググと伸び始め、バキバキと背中から飛び出してきたのは翼だった。飛び出た影響で大きく開き、すぐにでも空を飛べそうだ。

精神の改変はヴァイパーの意識がほぼなかったので、あっという間に完了した。その証拠に「グルルルル……」と唸り続けている。

黒い竜はおもむろに立つと、己に溜まった力を発散させるため咆哮した。


「グルルォォォォォ!!」


スクルズはこの光景に歓喜する。


「す、素晴らしい!私の長年の研究の成果がようやく身を結んだぞ!」


声を張り上げると竜はスクルズの存在に気付き、ガラス壁に向かって体当たりを入れる。

地震が起きたような揺れが生じたが、さも何事もないかのように対応する。


「無駄だ。この壁は核シェルターに使われる素材を特殊に加工してさらに頑丈にしてある。そうだ、餌を欲しているのだろう?ちょうど大量に手に入ったところだ。受け取れ」


スクルズは壁に設置されたレバーを下へ引くと、天井が開き空から大量の人が降ってくる。これらは制圧に向かった兵士と、幾人かの表向きの研究員だ。

それほど高さはなかったのでほとんど怪我をした人はいなかったが、打ち所が悪く骨折した人もいた。

黒い竜は早速白衣を着た研究員に襲いかかる。首元を噛まれ一撃で絶命し、むさぼり食われる。


「なんだこいつは!!」


「撃て!撃てぇぇぇ!!」


「きゃああああ!!」


この一瞬で銃撃と悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚、地獄絵図と化した。


「ヒョヒョヒョ、私は指定席で見るとするかね」


スクルズは隠し扉から少し高めの場所へ移動する。そこにはたくさんの研究資料などが置いてあった。


「ヒョヒョ、私はこの光景を何度夢見たことか」


コーヒーメーカーで作ったコーヒーをマグカップに入れ手に取った。

そしていつものお気に入りの席に座ってみようとした。

だがいきなり目の前のガラス壁が開き、椅子が飛び上がって黒い竜がいる場所へ投げ出されるスクルズ。


「ヒョーーーー!?ガハッ!」


こんなことは想定外中の想定外だったので、その場でたじろぐスクルズ。するとポケットにバイブが入り端末を確認する。なぜすぐに確認するかというと、送り主はイヴァンからだったからだ。(潜入時の名前はマーガレット)


『御機嫌ようサイコ科学者。気分はどうかしら?貴方の作ったものに殺されるなんて皮肉なものね。妹を実験台にして化け物にした罪、償ってもらうわ。それではさようなら』


「……この…ク、ソ、ガァァッッ!!」


怒りのあまり端末を投げ落とし、なんども踏み潰してバラバラに砕く。食われていく研究員を目にしてなぜか開き直るスクルズ。


「まぁいい。ではこの私がこの身を持って体験しようではないk……」


言い終わる前に飛びつかれ喉をかっ裂かれる。


「ヒョ……カ……ハ……」


ーーーーーーーー


「一階の兵士に繋がらない、一体何をしているんだ」


三人の科学者を縄で縛り上げ、上と連絡を取ろうとするストマク。だがこれで時間を取るのも惜しいと感じたのかすぐさま行動に移る。


「行くか」




慎重に足を進め、地下一階につながる階段を登るストマク。


「まさかあの隠し通路が地下6階まで繋がっていたとは。妙に縦に長いと感じていたがそのためだったか」


ストマクはあの後三人の科学者達を捕まえ、余った時間でこの隠し部屋で研究所の資料を見ていた。ここで何をやっていたか、なぜイヴァンが二人に肩入れする理由などいろいろわかった。

そして資料に書いてあった問題の地下一階にたどり着く。

たどり着くや否や、血なまぐさい腐臭が鼻腔を刺激した。


「う!?なんだこの匂いは!?」


まだ電気が通っており明るいだだっ広い空間。だが床は肉片や赤色で染まっており悲劇の後だった。

そしてクチャクチャと獲物を貪る生々しい音の方へ目をやる。

ストマクは赤黒い異形の姿を目撃する。


「ド、ドラゴン!?」


耳がヒクヒクと反応して黒い竜は食べるのを中断し、振り返る。

新しい獲物だと思い、とにかくすぐ襲いかかる。


「うおっ!?」


ストマクは類稀なる反射神経で凄い勢いで近づく竜の右手を躱す。

ストマクにはこの竜の正体がなんなのか分かっていた。ダメ元で話しかけてみる。


「隊長!俺です!ストマクです!」


足場が悪くビチャビチャ鳴らしながらも必死に訴えかけるストマク。


「やはりダメか。もう隊長自体消えてるっぽいし、隊長……」


襲いかかる竜をスムーズに避け続けるストマクは、竜にヴァイパーの姿を重ねた。思い出に浸っていると遂に血だまりに足をすくわれ、のしかかられる。

もうストマクは桁違いの拘束力に対抗できず、最期の思いを語る。


「隊長、入隊した時から貴方をずっと尊敬してました」


竜は首元めがけて噛み付く準備をする。


「そんな貴方に殺されるなら」


鋭い牙がストマクの眼前に迫る。


「それも本望です!!」


ストマクが叫んだせいか黒い竜の動きが止まる。


「オレ…ハ……タイ……チョウ……?」


喋れるはずもない口から発せられたのはしっかりと聞こえる人間の声だった。


「隊長!」


ストマクを弾き飛ばし、その場で呻きながらバタバタもがく黒い竜。


「隊……長……?」


弾き飛ばされた場所から見つめるストマク。


「ア、アー。あー?どうしたストマク。な、なんだこの視界は!うおっ!?なんだこの手は!俺は…一体……」


「隊長〜!!」


戻ってきたヴァイパーに抱きつくストマク。


「おいストマク。一体これはどう言うことだ。爆弾はどうした」


「爆弾……はっ!!」


ストマクは右腕にしてある小型の時計を見る。


「隊長、けどやはりダメみたいです……。時間がもうありません。俺は最後に隊長と一緒に居られるなんて嬉しい限りです」


その言葉を聞いてヴァイパーも思い出した。爆弾の起爆が近づいていることに。

ヴァイパーは頭を悩ますが、神のお告げか心のうちから『ストマクを覆え』と言ってきた気がした。言われるがままにしてみる。押し倒して翼で包み込んだ。


「何をしてるんですか隊長!?」


「いや、こうすれば生きていられる気がする。多分……」


間髪入れずピリリリとアラームが鳴り床が一気に崩れた。



しばらく経って瓦礫の山から出てくる黒い竜。そのうちには一人の人間がいた。


ーーーーーーーー


「今回もご苦労だった大佐。が、損害もひどく、その姿だと、な……」


机の前に差し出される一枚の紙、破れないようそっと持ち読んでみる。


「解雇……通知……ですか」


「バカ言え、もう一枚あるぞ」


ストマクにめくってもらうともう一枚には所属先が記してある書類が。


「ボス、これってこの前紹介してくれた少数のレスキュー隊じゃないですか」


「そうだ。お前は報告書によるとたくさんの人間を殺したそうじゃないか。それに悩んでるなら殺した分だけ救えばいい。その特別な力を使ってせいぜい頑張れよ」


この結果にストマクは黙っていない。


「ジョイ司令官!隊長を解雇するなら俺も解雇してください!」


深い礼をして懇願する。だがそんな要求は通ることはなかった。


「何を言っている!お前は時期隊長を担う重要な立場なのを知っているのか!」


(やはりダメか)

と頭を下げながらも改めて自覚する。

司令官は机の引き出しから二枚の紙をはらりと前に差し出す。

ストマクは勝手に頭を上げてその紙を目にする。それには「解雇通知」の文字が。もう一枚にはヴァイパーと同じ所属先が。


「司令官……これは」


「だからこそだストマク。隊長を支えられるのはお前しかいない。後は頼んだぞ」


「はい!ありがとうございます!」


二人はいろいろ説明を受けた後部屋を出た。

ジョイは窓から外を見上げるとこう悟る。


「私には、荷が重いからな」


ーーーーーーーー


とある喫煙所で休憩する二人。ヴァイパーはタバコを吸いながらストマクと話す。


「今日もそれなりに疲れたなストマク」


ブワワッと副流煙がストマクにかかる。


「ちょっと隊長。話すときは吐き終わってからって言ってるじゃないですか。鼻からも口からもきて煙たいんですよ」


「おぉ、すまないな」


二人のたわいもない会話が続く。

二人は現在救助活動を行なっており、ヴァイパーはヘリの代わり、ストマクは被災者の誘導など役割を分担している。

ヴァイパーは竜になってから、生活が激変した。

まずは食事、なんと生肉。焼肉、それ以外のものも食えるらしいが、一番は生肉らしい。

ストマクは、実は調理済みの肉なんじゃないかと思い、口にするが案の定腹を下して、数時間トイレに籠る結果となる。

次に運動、通常とは桁外れの運動量。

人間の頃から自慢だった体力も最初は全く体が追いつかず、数十分動くだけで息を切らしていた。

人間にはない部位が増え、負担が倍増したからだ。

それからは自主的にトレーニングを積み上げ、もはや筋肉の塊のようになった。今では数時間人を乗せて空を飛べたり、重機を同時に二つ持ち運ぶことができる。

最後に性格、前に比べて随分温和になった。

しかし苛立ちが急に表へ出てくることがあり、よく尻尾をブンブン振っている。

ヴァイパーの強靭過ぎる精神と竜が支配する精神がぶつかり合っているからだと言う。

稀に一人で会話することもある。


ヴァイパーとストマクは墓の前で手を合わせ黙とうする。

ストマクは長めの黙とうをささげたヴァイパーをエスコートする。


「さぁ隊長、乗りましょう!」


「あぁ!行くか相棒!」


二人は小型ヘリに乗って、被災地へ今日も足を運ぶ。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

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