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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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辿り着いた目的地

翌日。

天気は昨日と同じく晴れ渡った。


昨日の二日酔いが回復した女性学者は、魔物の背中に様々な荷物を固定し、名残惜しそうに亡国を発った。


すると彼女は魔物の背中から遠ざかる亡国に振り返り、


「また来るからなーー!! 酒を呑みにーー!!」


と、叫ぶのだった。





亡国を発ってから数時間後。

彼女は昼食の準備を始める。


小さな鍋には彼女の為の料理が作られており、亡国で手に入れた干し肉が入っていた。

その隣にある大きな鍋には木の実が山盛りに入っており、味付けの塩もたっぷり入っている。


流石は魔物用に回収した大鍋である。

今までは数回に分けて作っていた量の木の実の煮物も、たった一回煮るだけで全部作れた。


更に言えば、魔物も同じ味ばかりで飽きるかと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。

今日も魔物は夢中になって煮物を食べている。

そんな様子を眺めながら、彼女も綺麗な皿に料理を盛り付けて昼食を食べ始めた。


・・・亡国で手に入れた高級酒を、呑みながら・・・。





そんな旅を数週間続け、終に彼女達は目的地を視界に捕らえた。


まだ随分距離はあるが、遠くに大きな城壁が見える。

その大きな城壁は所々崩壊し、城壁に等間隔に並ぶ監視塔も大半が崩れている。

そして昼時だというのに、国には煙一つない。



そんな亡国を眺めながら、彼女は周囲を見渡し、首をかしげた。

先程まで周囲には鬱蒼とした森が広がっていたのだが、目的地に近付くに連れて森の木々が細くなっている事に、彼女は気がついたのだ。


そして目的地を視界に捕らえた時、周囲に広がっていた森は小さな林位の大きさになっていた。

そんな林に生えている木々は、先程の細い木々よりも更に細く、数も大幅に少ない。

地面には所々に雑草が生えているが、大半の地面が草も生えずにむき出しになっている。


すると彼女は魔物を止めて背中から下り、小さなスコップで土を掘り返す。

掘り返した土は、何やら高温で焼かれたような感触があり、とても硬かった。

そんな土を彼女は口に含み、どんな味がするのかを調べる事にした。


本来、土というのは若干の酸味があり、ツーンとする様な匂いがするものだ。

それは土中に含まれる微生物によって醸し出される物であり、農場の土の良し悪しは実際食べてみれば直ぐに分かるほどだ。


彼女は学生時代に農業研究をしていた時期があり、畑の土を味わった経験もある。

そんな彼女だからこそ、土の異常に気が付いた。


「何だこの土は。ここまで酷い味は初めてだ」


彼女はペッペッと土を吐き出し、高級酒で口を消毒する。


・・・そして、少しだけ口直しに高級酒を呑む。



(ここの土は異常だ。

土の中に微生物が居らず、雑草の根や虫も無い。


長い間放置された土地の土が、自然にこうなるとは考えにくい。

これは人為的な何かが行われたに違いない)


そして彼女は近くの木々を魔法で切り倒し、年輪を調べる。


(やはり・・・。

ここら辺の木が生えたのは随分最近・・・、精々が2~30年程度前だ。


それまで、ここら辺には木が一本も無かった事になるな・・・。


・・・しかし・・・おかしい・・・。


あの国が滅んだのは、一世紀近く前の事だ。

国が滅んだ後、ここら辺に人が来るはずもない・・・。


では、この土はあの国が何かしたからこうなったと考えるべきだろう。

その「何か」が魔物と関係しているといいのだが。


・・・まあ、行けば分かるか)



そして彼女は魔物の背中に固定された椅子に腰掛け、巨大な廃墟と化した亡国を目指して前進していった。



到着した城壁は、以前訪れた亡国を遥かに凌ぐ巨大な城壁だった。

城壁は分厚く、高く、そして様々な防御魔法が施されている。


そんな城壁を見上げ、彼女は呆けた表情を浮かべる。


(ここまで立派な城壁は、女神教の総本山がある国位しかないだろう。

こんな大国が一世紀近く前に存在していたのか・・・。


それをたった一晩で滅ぼすなんて・・・。

どれだけ大量の魔物が攻め込んで来たんだ?)



それから彼女は、城壁に空いた巨大な穴から内部に入る。

内部の様子は前回訪れた国と同様に建物は破壊され、通りには大きなクレーターがいくつもあった。


だが、それだけではなかったのだ。


至る所に巨大な魔物の全身骨格が転がり、兵士の鎧が積み重なるバリケードの近くには魔物の骨で出来た山がいくつも存在していた。


そんな光景に、彼女は驚愕する。


「まさか・・・。


この骨は岩亀の骨か!?

何ということだ!! この国は岩亀を殺したというのか!?


それも一体二体という数では無い!!

見渡す限りに岩亀の骨が転がっている!!」


彼女が驚くのも無理は無い。

この魔物は、それほどまでに驚異的な魔物として世界に君臨しているのだ。



「岩亀」


それはその名の通り、巨大な岩の様な甲羅を背負った見上げるように大きい亀型の魔物である。


通常亀といえば動きは遅く、臆病な生き物と思われているが、岩亀は違う。

その巨体からは想像も出来ないほどに素早く動き、性格も極めて獰猛だ。


岩亀が本気で突撃を始めたら、それを止める術は無いといわれている。

事実、たった一匹の岩亀の襲撃によって大きな騎士団が壊滅したこともある。



(その話を最初聞いたときは眉唾だと思っていたが・・・。

成る程、ここまで巨大な魔物であれば騎士団も壊滅するだろう。


しかし、この国はどうだ。

そこかしこに岩亀の骨が転がっている。


いや、それだけではない。

中型魔物の骨はもちろん、大型魔物の骨も至る所に転がっているではないか・・・)


そして彼女は、周囲に転がる魔物の骨を注意深く観察していく。



「ん? この岩亀の甲羅にあるのは・・・、まさか・・・、これは穴か?!

この国は!! 岩亀の甲羅を貫通する穴をあけたのか!?


無理だ!! 現代では不可能だ!!

ここまで分厚い甲羅に穴を空けるほど強力な魔法は、存在しない!!


・・・ここは、本当に一世紀前に滅んだ国で間違いないのだろうか・・・?

これ程まで魔法技術が発展していたなんて・・・。


この国が滅んだ事によって、魔法技術の進歩は100年以上停滞していたようだな・・・。

もし、この国が滅亡しなかったら・・・、世界はどうなっていたのだろうか・・・」



彼女はそんな事を考えながら、無人の大通りを進む。


大通りの先には商店街があり、その先には巨大な学園が広がっていた。

そして、どちらも大半が破壊され、原形を留めている建物は少ない。


そんな商店街で、彼女は魔石屋を見つける。

やはり魔石屋も半壊状態であったが、棚に並んだ魔石を手にとることは出来た。


すると彼女は、前回同様に旧型魔石から魔力の回収を試みる。

慣れた手つきで新型魔石に魔力を移そうとした、その時だった。



「・・・ん・・・? ・・・あれ・・・?


まだまだ旧型には魔力が残っているのに、なんで新型は満タンになっているんだ?」



不思議に思った彼女は、手に入れたばかりの旧型魔石を詳しく調べ始める。

そして、恐ろしい事に気が付いた。


何と、魔石屋に並べられていた魔石は、彼女が持っている新型の魔石よりも高性能だったのだ。



一世紀前に作られ、商店街で売られるくらいに流通していた品が、新型の魔石よりも性能が良い・・・。



彼女は立ちくらみに近い感覚に襲われ、ヨロヨロとよろめいた。



「一体・・・、一体この国は何なんだ!?


この国が滅んでから一世紀だぞ!?

一世紀も経っているんだぞ!?


なのに・・・、これほどの魔法技術を持っていたなんて・・・。

この国を失った事は、人類にとって予想以上の損失だったに違いない・・・」



そして彼女はフラフラと店内に散らばっていた魔石を集め、魔力を回収していった。



だが、これで終わりではなかった。

この後、彼女は亡国の技術力の高さを知る事になる。


魔道具屋には、今まで見た事も無いような品が並んでいた。

実験道具を売っていた店では、極めて精密な実験道具が並んでいた。

本屋にあった魔法関連の本は、彼女が知らなかった様々な魔法のやり方が詳しく書かれていた。



それら全て、現代では手に入れることが不可能な品ばかりであった。


そんな品々を前に、彼女はただ呆然とする以外になかった。

そして、


「・・・いただきます・・・」


とポツリと呟くと、全ての品々を魔物の背中に乗せていった。




商店街と通り過ぎ、小高い丘に登った彼女は、亡国を見渡し思案した。



(本来ならば直ぐにでも調査を開始したいが、どう考えてもここでの調査は時間がかかりそうだ。

ならば、まずは拠点が欲しいな。


おそらく、この国で何かしたというならば、商店街にその痕跡は無いだろう。

中心部・・・、つまり、魔法研究所が乱立している学園エリアに何らかの痕跡が残っているはずだ。

・・・可能であれば、学園エリアに拠点が欲しいのだが・・・。


・・・う~~む・・・。

しかし、これは難航しそうだ・・・。


そもそも学園エリアは建物が密集しており、その大半が崩壊している。

つまり、多少原形を留める建物があったとしても、隣の建物が崩壊したら一緒に崩壊してしまう危険性がある。


・・・これは・・・、今日中には拠点は見つからないかもしれないな・・・。


まあ、気長に調べていこう。

この国は逃げたりはしないしな)


それから彼女は魔物の背中で杖を構え、探索魔法を何度も使うのだった。


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