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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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女性学者の優雅な一日

昼過ぎ。

女性学者は広場を後にし、今夜の寝床の場所を探し始める。


彼女が居るエリアには、現役時代の姿を残した豪邸も残されている。

どうやら彼女は、無事な豪邸を見つけ出そうとしているようだ。



先ほどとは違って真面目な顔をした彼女は、広場の中心部で広範囲探索魔法を使う。

すると、淡い光がエリア全体を包み込んだ。


そして暫く周囲を探索した結果、終に彼女は無傷の豪邸を見つけ出す。

すると彼女は空き瓶や湯の溜まった浴槽をそのままにし、魔物と共に見つけた豪邸を目指して歩き出した。



広場から数分歩くだけで、目的の豪邸に辿り着いた。

豪邸は崩壊こそしていなかったが、庭は草が生い茂り、門も錆付いて動かない。


そこで彼女は攻撃魔法で門を吹き飛ばし、己が歩く部分だけ草を燃やしながら玄関を目指した。

そして分厚い扉の玄関を無理矢理こじ開け、堂々と不法侵入を果たしたのだ。


建物内部は外見に似合わず、少し埃が積もっているだけで綺麗なままだった。

彼女は玄関で探索魔法を使い、建物を調べる。


そして寝室やキッチンといった部屋を探り出し、おまけに地下の酒蔵も見つけた。

酒蔵を見つけた瞬間、彼女はニヤリと笑い、


「いっそ、暫くこの国に居ついてしまおうか・・・」


と真剣に悩み始める。

どうやら、彼女の頭の中では魔王と女神が戦っているようだ。





夜。


広い廃墟が広がる国で、一軒だけ灯りが灯っている。

その灯りの下で、彼女は嬉しそうに料理を作っていた。


基本的に、いままで彼女が食べていたのは、木の実や動物の肉といった物を焼いたり煮たりしただけのものだ。

そんな貧相な料理を続けていた彼女にとって、久しぶりのまともな料理だ。

嬉しくないはずが無い。


更に言えば、ここは滅んだとはいえ一つの国があった場所だ。


畑を調べたら、芋や野菜が自生していた。

国内を流れる川には、多くの魚が泳いでいた。

豪邸のキッチンには、立派な調理道具が残されていた。

レストランの天井には、大量の干し肉がぶら下がっていた。



それらを使って、彼女は久しぶりに人間らしい料理をしていたのだった。

幸い、キッチンの機能は現役時代と同じく、問題なく動作している。


流石は貴族のキッチンというだけの事はあり、このキッチンは魔石を動力源に動く「魔導キッチン」であった。

この魔導キッチンは火力の微妙な調整が火に比べて簡単に出来るため、料理人なら誰もが欲しがるキッチンだ。


だが、便利な物は値段も高い。

このキッチンだけで、家が建つほどのお値段だったりする。


そんな庶民では見る事も稀なキッチンで、彼女は料理を作っている。

そして完成した料理を大きな皿に盛り付けると、彼女はそれを庭へと持って行く。


するとそこには、荷物持ち魔物が行儀良くお座りして待っていた。

魔物は彼女が持つ大皿に視線を向けると、口から滝のように涎を流し、舌をペロペロと出し入れしはじめる。


「やあやあ、お待たせ。今日はなかなかの自信作だ。期待していいぞ?」


人の言葉など分かるはずも無い魔物に彼女は語りかけ、大きな皿を地面に置く。

すると魔物は皿に顔を突っ込み、モシャモシャと食べ始めた。


この料理に肉類は入っていない。

これは大量の野菜を塩で味付けして炒めただけの簡単な料理だ。


しかし、魔物は満足気に全てを平らげると、ゴロリと横になった。

どうやら、魔物はもう寝るようだ。


すると彼女も豪邸に戻り、今度は自分の料理を食べ始める。

用意したのは簡単な料理ではあったが、久しぶりに皿を並べてナイフとフォーク、スプーンで食べる夕飯は格別だった。


もちろん、地下の酒蔵で見つけた色とりどりの高級酒をグラスに注ぎ、料理を味わいながら呑みまくる。

彼女は長い時間を掛けて食事を楽しみ、最後に手を合わせて席を立った。




その後、大きな浴槽に魔法でお湯を満たしてから、彼女はゆっくりと浴槽に身を沈める。

そして入浴を思う存分楽しんだ後、クローゼットで見つけたパジャマに着替えてから、彼女は寝室に向かった。


この豪邸にはいくつも寝室があり、そのうちの一つの部屋には豪邸で一番大きなベッドがある。

そして、その大きなベッドの上に数体の白骨死体が寄り添うように横になっているのだ。


この死体は、この豪邸の主と家族の死体である。

彼らは城壁が魔物に突破された事を知ると、寝室で自決したのだ。


彼女は静かに眠る死体に手を合わせる。


(ベッド脇には杖が転がっていたが、その杖が最後に使った魔法を調べたところ、睡眠魔法を使った形跡があった。

そして、杖の横には毒マークの描かれた空の瓶が転がっているな。


この豪邸には使用人が使っていたであろう部屋もいくつがあったが、彼ら以外に死体は見当たらなかった。

どうやら魔物が国に接近したという情報が届いた時、ここの主は使用人に暇を出したようだ。

だから、この豪邸には彼ら以外に死体が見当たらないのだろう。


・・・この人達は富裕層エリアに魔物が進入する前に毒薬を飲み、そして自分達に睡眠魔法をかけて眠るように逝ったに違いない。

ベッドには乱れた様子も無いから、苦しむ事も無かったのだろう。


第二心臓が止まっていたのであれば、魔物はこの建物に攻撃はしないはずだ。

だから、この建物は殆ど無傷だった、というわけか)


そして彼女は、静かに寝室を後にする。



結局、今夜は他の部屋で寝る事にした。

死体があった部屋に比べてベッドは小さいが、それでも一般人が使うベッドよりは格段に大きい。


多少埃っぽいベッドではあるが、そんな埃など風魔法で吹き飛ばせば良いだけの話だ。

彼女はベッドからシーツや毛布を剥がし、ベランダに運んでから風魔法で埃を吹き飛ばす。


既に月は天頂にあったが、ここは無人の廃墟が広がる亡国だ。

こんな時間にやかましい風魔法を使っても、誰も文句を言って来ない。


十分に埃を吹き飛ばした事を確認し、彼女はベッドメイクを開始する。

それから数分でベッドメイクは終わり、彼女はベッドに倒れこむ様に横になる。


ベッドそのものは作りがしっかりしていた為、どこも壊れていなかったのは幸運だった。

久しぶりにまともな寝床で寝られる事に彼女は嬉しそうに微笑み、幸せそうに目蓋を閉じる。





翌朝。

朝日が彼女の顔を照らし出す。


空は遥か先まで青空が広がり、旅に出るのも国を探索するにも最高の日である。


・・・体調が万全ならばの話だが・・・。


「・・・もうだめだ・・・。

私の人生は・・・ここまでだ・・・。

・・・この世の終わりだ・・・」


青空と同じくらいに青い顔をした彼女は、ベッドからノソノソと這い出し、芋虫の如くキッチンを目指す。

時折、廊下で動かなくなりながらも、彼女は必死にノソノソと廊下を這いずる。


そして終に、キッチンの水瓶までたどり着いた。

昨日の内に水がめにたっぷりと水を貯めておいたのが幸いした。

ただの水なのだが、今の彼女にはその水が輝いて見える。


本来ならコップでも使って水を飲むべきなのだろうが、彼女は水瓶に顔を突っ込み、ゴクゴクゴクゴクと水を思う存分飲みまくる。


(ああ、やってしまった・・・。

いや、こうなるだろうな~とは思っていたんだ。

だから最初の頃は程々にしようと思っていたんだ。


だが、無理だった・・・・。

高級酒・・・奴らは思った以上に強敵だ・・・。

そんな強敵が・・・まだこの国にはウジャウジャ居るんだ・・・。


・・・これは・・・負けてしまうかもしれない・・・。

私の本来の目的は・・・、もっと高尚な物の筈だ・・・。

それを・・・)


「ウプッ!!! ウオッ!! ウゲエエエエエ!!!」


・・・ハアハアハアハアハア・・・・。


(・・・危うく水瓶の中に出してしまいそうになってしまった・・・。

こうなる事を予測して洗面器を水瓶の横に用意しておいたのは正解だったな・・・。


そうだ・・・、私の目的は・・・、魔法と魔物の関係を探るという人類の助けになるはずの物だった・・・。

それを・・・、この程度の誘惑に負けるなんて・・・、なんて私は情けないんだ・・・)



「!!! ウゲッ!! ゲエエエエエエ!!!」



・・・ハアハアハアハアハア・・・。



(い、いかん。

まともに頭が動かない・・・。


・・・よし決めた!! 今日は一日お休みにしよう!!

幸い料理は夕飯のが少し残っているし、今日はのんびり骨休めにしよう!!


そして明日、出発しよう!!

そうしよう!! そうしy)



「ゲロロロロロロロロロロロロロロ!!!」



結局、その日はお休みとなった。


一方で庭に居た魔物は周囲の草を食べつくし、時折、窓から心配そうに中を覗き込むのだった。

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