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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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魔物へのプレゼント

数日後。

彼女達は大昔に魔物の襲撃を受けて壊滅し、今は無人の廃墟となった亡国まで来ていた。


本来ならば通る筈の無い場所であったが、時間に余裕も出来たので少しだけ寄り道したのだ。


彼女達以外に誰も居ない草生した廃墟が広がる亡国には、一種の貫禄すらある。


国の周りにそびえ立つ巨大な城壁には大きな穴が何個も空き、穴から進入した魔物達に町は破壊されている。

通りにはいくつもクレーターが作られ、所々に魔物の骨も転がっている。

兵士の詰め所にはバリケードが築かれた跡があるが、中を覗くと床には剣や杖、グチャグチャになった鎧が転がっている。


そんな無人の町を、彼女達は進むのだった。



それから少しして、彼女はお目当ての場所を見つけた。

それは鍋の絵が描かれた看板をぶら下げた、そこそこ大きな金物屋だ。


半開きになっている扉は、黒々とした大量の血で塗装されている。

店の中に入ると、売り場には人骨が転がっていた。


彼ら彼女らは店の中まで逃げてきたが、進入してきた魔物に殺されたのだ。

その証拠に、壁や天井には魔物の引っかき傷が深く残っている。


そんな店の中で、彼女は思案する。


(さて、ここにプレゼントがあるといいのだが・・・。

なんせこの国が滅んだのは、私が産まれるずっと前だ。


既に売り場にある商品はボロボロになっているが、こういった店には裏に倉庫があるはずだ。

そこならば、ひょっとしたらまだ使える鍋があるかもしれない。


もし、大きな鍋があったら魔物へのプレゼントとして回収していこう。

流石に毎回毎回小さな鍋で何度も木の実を煮るのは大変だ。


ここで大きな鍋を手に入れることが出来れば、料理時間も短縮出来るし、魔物も腹いっぱい木の実を食べる事が出来る)



そして彼女は探索魔法を唱え、辺りを探る。

その結果、地下倉庫の入り口を見つけた。


彼女は店の奥に進み、地下倉庫に繋がる木の扉を開く。

中には階段があったが、暗すぎて1メートル先も見えない。


彼女は照明魔法を使って杖を光らせると、先に進んだ。


階段は10段もない様な小さな階段だったが、地下室は意外と広い。

大きな棚が並び、鍋や包丁、様々な日用品のストックが並んでいる。


そして倉庫の一番奥には、数体の白骨死体が転がっていた。

それは、ここの店主の子供の死体だった。


死体の近くには食料箱や水瓶があったが、中身は空だ。

そんな子供達の死体には、魔物に攻撃された傷跡はない。


そう、この子達は地下倉庫で餓死したのだ。

空になった食料箱には、子供達の小さな歯形がいくつも残っていた・・・。


彼女は、そんな子供達の死体を眺める。


(・・・こんな光が一切差し込まない場所で、この子達は死んだのか・・・。

地上では、生き残りを探す魔物達が闊歩していたはずだ。


この子達は地下倉庫から逃げることが出来ず、餓死せざるを得なかったのだろう)



彼女は子供達の死体に手を合わせると、目的であった鍋を探した。



鍋を探し始めて数分後。


直径1メートルはある巨大な鍋を魔法で浮かせながら、彼女は地上に戻った。

そんな巨大な鍋を魔物の背中に固定し、彼女はやっと一息つき、静かな「元商店街」を眺める。


長い商店街には大量の骨が重なり、いくつもの崩壊しかけた店が並んでいる。

まだ人が居た時は活気があったであろう商店街も、今では無人だ。



子供達の笑い声が聞こえたであろうお菓子屋には、いくつも剣が突き刺さった巨大な魔物の骨がめり込んでいる。

大きなレストランはバリケードが築かれ、血で汚れた鎧が転がっている。

洒落た看板の服屋を覗くと、中には黒い色で塗りつぶされた服が並んでいた。

本屋の棚はなぎ倒され、棚の下敷きになった人骨がいくつもあった。


そして、入り口が半壊した魔石屋を彼女は見つける。

やはりここも店内はひどい有様だったが、予期せぬ収穫もあった。


彼女が興味本位で売り場に残されていた魔石を調べたところ、まだ魔石には魔力が残っていたのだ。

流石に、こんな長期間放置された魔石に魔力が残っているとは予測していなかった彼女は驚いた。


魔石そのものは相当に旧式であり、充填されている魔力も大した量は入っていない。

しかし、魔力が残っているならば魔法が使える。


それに、残っている魔力を集めて彼女が持っている新型魔石に魔力を移せば、荷物が増える事も無い。

荷物持ち魔物のお陰で、使い終わった魔石を捨てずに済んだのは運が良かった。


彼女は急いで店の中を調べ、ありったけの魔石を集める。

そして残っていた魔力を、彼女が持っていた最新の魔石に移したのだ。


それから彼女と魔物は国中をウロウロと彷徨った。

どこに行ってもあるのは草の生い茂った無人の廃墟ばかりだ。


辺りには骨が散らばり、何か動く物があったかと思えば小型の魔物がチョコチョコ歩いている程度。


そんな場所で彼女は「お宝」を探し始める。


掲示板にあった商店街の案内図を紙に写し、商店街に存在する全ての魔石屋で魔力を回収する。

魔道具屋を見つけては、まだ動きそうな道具を探し出して回収する。

更に、食料品店を訪れ、倉庫に山積みになっていた塩や砂糖袋も回収した。


これら塩や砂糖は保存状態さえ良ければ腐る事が無い。

実際、彼女は袋に指を突っ込み、少しだけ舐めてみたが、変な味はしなかった。


それら「お宝」を魔物の背中に固定し、彼女は貴族が住む富裕層エリアまでやって来た。

このエリアは一般人が住んでいる地域や商店街エリアとは違い、エリアそのものが分厚い城壁で守られている。


魔法耐性の施された鋼鉄の門は硬く閉められていたので、彼女は門の直ぐ隣に空いていた大きな穴から中に入った。


城壁などの建物は豪華なのだが、エリア内部の様子は商店街と違いは殆どない。

辺りには骨が散らばり、建物は草が至る所に生え、崩壊した建物がいくつもある。


強いて違いを挙げるならば、このエリアを守っていた兵士の鎧が、外にあった兵士の鎧に比べて少しだけ豪華な位だろうか?

門の周りにはそんな鎧がいくつも散らばり、それと同じくらいに魔物の骨も転がっている。


ここは、かなりの激戦区だった。

その証拠に、商店街ではあまり見かけなかった大型の魔物の全身骨格が何体分も転がっている。


そんな光景を、彼女は眺める。



(どうやら、城壁を突破した大型の魔物を何体か殺したようだな。

これほどの魔物を殺す事が出来るとは、相当優秀な兵士達がここを守っていたらしい。

しかし、多勢に無勢だったようだ。


圧倒的な数の魔物によって防衛線は崩壊し、富裕層エリアも陥落した・・・という感じかな?

富裕層エリアの先に立派な城も見えるが、やはりいくつかの塔が崩れている。


この富裕層エリアが魔物の大群に突破されてから城が落ちるまで、それ程時間はかからなかった筈だ)




城壁を少し離れると、そこには大きな建物が並んだ幅の大きな通りが広がっている。

だが、どの建物も半壊していたり、中には完全に潰されている豪邸もある。


彼女は、何とか入れそうな豪邸を探し出して中に入る。

草が生い茂る庭を進み、崩れかけた豪華な玄関を通ると、そこには巨大なシャンデリアが門番の様にそびえ立っていた。



(多分、玄関の天井に吊るされていた物が落ちてきたのだろうな)



その巨大なシャンデリアを避けるように進むと、彼女は少し広い場所で探索魔法を使う。


(・・・どうやら、二階には数匹の小型の魔物が住み着いている様だ。


一階には書斎やキッチンといった部屋があるな・・・)



彼女は更に詳しく豪邸を調べ上げ、終に目的の物を見つけ出す。


それを見つけた瞬間、彼女はニヤッと笑うのだった。

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