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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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相棒との出会い

女性学者が国を出てから数日が経った。


今、彼女は国から100キロ程離れた森の中で昼食の準備をしている。

その場所は街道からも離れているし、国からも焚き火の煙が見えることはない。


すると彼女は杖を取り出し、集めた枝や葉っぱに魔法で火をつけてから、用意しておいた鍋を火にかける。

鍋の中には近くの川から取った水が入っており、暫くするとグツグツと沸騰し始めた。


彼女は沸騰を確認すると、事前に集めておいた木の実を鍋に放り込む。

すると鍋の中で木の実は柔らかくなり、周囲には甘い匂いが広がり始める。


そして、


(ソロソロ食べ頃か?)


という時であった。

パキパキという枝を折る音が段々と近づいてくる事に、彼女は気がついた。


すると突然、木々の間からヌっと象程の大きさの魔物が顔を出したのだ。

魔物はゆっくりと顔を動かし、小さな瞳でジッと彼女を見下ろす。

そんな魔物を、彼女も見つめ返す。


しかし、空腹に耐えかねた彼女は、


(まあ、こいつに襲われる事はないだろう)


と考え、鍋から木の実を取り出してモグモグと食べ始める。


すると魔物はノソノソと焚火に近寄り、彼女の隣に腰を下ろしたのだ。

これには流石の彼女も驚いた。


(こいつは・・・、一体何をしたいんだ?

まさか、私を襲うつもりなのか?


しかし、私には第二心臓は無い。

襲われる筈は無いのだが・・・)


彼女は魔物をじっくりと観察し、魔物の鼻がヒクヒクと動いている事に気がつく。

そして、魔物の視線は明らかに鍋の中に向かっていたのだ。


魔物の大きな口からはボタボタと涎が流れ出し、時折、真っ赤な舌をペロペロと出し入れしているではないか。


(・・・まさかとは思うが、こいつは木の実が食べたいのか?

しかし、魔物は食事をしないはず・・・。


実際、個人レベルから国家の研究機関レベルまで、様々な人々が魔物に餌付けを試みた事は何度もあるが、その全てに失敗している。

魔物は、何故か食事をしないのだ。


何故、魔物は食事をせずとも生きていられるのか?

これに対して明確な答えは出ていない。


しかし、こいつはどうだ。

明らかに木の実に興味を持っている。


もし、木の実を食べたいというのであれば、こいつは他の魔物とは別種の可能性がある。

これは・・・、貴重なサンプルになるだろう)


試しに彼女は鍋から大き目の木の実を取り出し、葉っぱの皿に乗せて魔物の前に置いてみた。

すると魔物は少し驚いた顔をしつつも、クンクンと木の実の匂いを嗅ぎ、パクリと一口で木の実を食べてしまう。


長い時間煮込んだ木の実は柔らかくなり、甘味も増している。

魔物はブチュブチュと音を立てながら木の実を咀嚼し、ゴクンと大きな音を立てて飲み込んだのだ。


(食べた・・・。

魔物が食べ物を食べた・・・。


確かに飲み込んだ。

・・・吐き出す気配も無いな。


・・・いや、むしろこいつはもっと欲しそうな目をしている・・・)


実際、魔物は口をモゴモゴと動かし、ボタボタと涎を流し、舌を出したり引っ込めたりしながら、物欲しそうに彼女が持つ木の実を見つめ続けるのだ。


その期待に満ちた視線に負けた彼女は、柔らかくなった木の実を2、3個葉っぱの皿に乗せて魔物の前に差し出した。

その瞬間、魔物の瞳はキラキラと輝き、長い舌を使って器用に葉っぱの皿を口に運ぶと、皿ごと木の実をペロリと平らげてしまう。


モゴモゴと口を動かし、満足そうな顔をしている魔物を見て、彼女は呆れた。


(これが、これが人類が恐れている魔物のする顔なのか??

満足気に・・・、まるで、


「とても美味しかったです」


という顔をしたこいつが、人類の脅威なのか???


なんというか・・・、早く世界にこの事実を広めないといけないな・・・)


大きなため息を吐き出した彼女は、残った木の実を平らげるとリュックを背負い、目的地目指して歩き始める・・・筈だった。


この時、信じられないような事が起こった。

さっきまで隣に座っていた魔物が、彼女について来きたのだ。


これには流石の彼女も驚きを隠せなかった。


彼女が立ち止まると、魔物も立ち止まる。

彼女が歩き出すと、魔物も歩き出す。


魔物は彼女の後ろからノソノソとついてくるのだ。


(これは・・・、もしかして餌付けが成功したのか?

ただ木の実を煮ただけなのに、あれだけで餌付け出来たのか??


今まで餌付けを試みた実験では、「高級な肉」「料理人が作った高級料理」「砂糖を使った菓子」といった人間ですらも食べられないような物まで使って餌付けを試みたのに・・・。


たかが木の実を煮ただけで餌付けに成功してしまうとは・・・。

今まで苦労してきた人々が聞いたら、憤死してしまうかもしれないな)


彼女は試しに魔物に近寄り、頭をなでてみる。

すると魔物は気持ちよさそうな顔をし、彼女の手に己の頭を擦り付ける。


(やはり、私はこいつに懐かれている。

食事のたびに木の実を与えれば、ずっとついて来るかもしれないな。


そうなれば、歩きながらでも観察と実験が出来る。

これは、なかなか運が良いかもしれない)


そして、彼女は魔物を撫でるのを止め、歩き出す。

すると魔物も彼女の後に続く。


ここから、一人の人間と一匹の魔物による奇妙な旅が始まるのだった。





彼女が魔物と出会ってから、一週間が経った。


既に国からは随分と離れ、今では魔物よりも普通の動物の方が良く見かけるくらいだ。

懐いた魔物は食事の度に木の実を煮て、簡単に味付けをするだけで目を輝かせる。


まあ、流石に小さな鍋で煮た木の実だけでは腹が膨れないらしく、途中途中で道草を食べながら彼女について来るが、食事時には必ず彼女の隣にやってくる。


そんな魔物に対して、彼女は少しだけ実験をすることにした。

彼女は野生のウサギや鹿を魔法で狩り、手に入れた肉を焼いたり煮たりして魔物に与えたのだ。


だが、魔物は肉を食べなかった。

いくら肉をすすめても、魔物はそっぽを向いてしまうのだ。


そんな姿を見て、彼女は一つの結論に達する事になる。



(どうやらこいつは草食性なのだろう。


・・・いや、こいつだけではない。

最近では、こいつ以外の魔物が食事をしている姿もよく見る。


そして面白いのは、魔物は草ばかり食べているのだ。

試しに食事中の魔物達に肉を放り投げてみたが、どの魔物も匂いを嗅ぐだけで食べようとしない。


肉を食べるのは、小型の魔物が少し食べるだけだ。

そんな小型の魔物も、基本的には木の実を食べている。


多分だが、魔物は基本的に草食であり、小型の魔物だけ例外的に雑食なのだろう。

まあ、小型の魔物も肉を食べる事はあるが、積極的に動物を襲うところを見た事がないのだが・・・)



そして彼女は魔物の生態をノートに書き込み、満足気な表情をした。


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