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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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第二心臓と魔法

「よし、こんな物でいいだろう」


様々な旅の道具が詰め込まれたリュックを前に、彼女はウンウンと頷いている。



(既に、国内で行える実験は全てやりつくした。

もう、これ以上の成果は得られる見込みが無い。


ならば、国から出よう。

城壁の向こう側に移り住み、そこで研究を続けるしかない)



そう彼女は決断したのだった。


その為の準備は、もう出来ている。

今まで貯めた貯金と、僅かに貰えた退職金を注ぎ込み、彼女は旅支度を終わらせた。



(それなりに大荷物になったが、まあ何とかなるだろう。


国を出るときはトンネルを作ればいいし、国を出たとしても私を襲う者はいない。

魔物はもちろん、城壁を守る兵士だって追いかけては来られない。


唯一の気がかりは野生動物に襲われる事だが、それも魔法があれば大丈夫だ。

これでも私は学者であると同時に、攻撃魔法や防御魔法といった高度な魔法を使いこなせる優秀な魔法使いでもあるのだから。


ということは、野生動物程度の襲撃なんぞ、脅威にすらならない。

これで、魔物の研究に集中できるだろう)


彼女はワクワクしていた。


この時、家の外は完全に日が落ちていた。

今夜は曇り空だから、あと数時間で完全な暗闇になるだろう。


彼女の計画では、闇に乗じて城壁の地下にトンネルを作って外の世界に出て行くつもりだった。

もちろん、檻に入っている魔物も一緒に外に連れて行く予定だった。


そう、「予定では、そうなる筈だった」。



興奮しながらも、彼女は計画を何度も確認する。


そして暗くなった部屋に灯りを灯そうと、彼女は杖を振った。

日常生活用の魔法は呪文を唱える必要も無い、極めて簡単な魔法だ。

こうして杖を振るだけで、部屋に灯りが灯る・・・筈だった。


「・・・ん? ・・・おや?」


彼女は何度も杖を振るが、部屋に灯りが灯る事は無かった。


不思議に思った彼女は杖をシゲシゲと観察し、魔法陣に欠損が無いか調べる。

しかし、何度調べても魔法陣に欠損は無い。


彼女はヤレヤレと首を振り、杖を机に置いた。

そして魔法陣を描き、灯りを灯す為の呪文を唱える。

本来ならば、これで魔法は発動する筈なのだ。



しかし、魔法は発動しなかった。



(これは・・・、一体どういうことだ?

何故、魔法が発動しない?

杖の故障でも無いし・・・。


・・・!!

もしや!! 魔法そのものがこの世界から消えたのか!?)


彼女は窓に駆け寄り、町の様子を見る。

だが、家々には灯りが灯り、人々は普通に魔法を使いこなしていた。


(これは・・・、何が・・・。

一体・・・、私の身に何が起こったんだ・・・。


・・・!! まさか!!

第二心臓を切除したことによって!!魔法が使えなくなっているのか!?


・・・では、では何故さっきまで魔法が使えたんだ!?


!! ・・・もしかして・・・!!

さっきまで私は、杖の魔石に残されていた魔力で魔法を使っていたのだろうか?!)


そして彼女は家に帰ってきてから使用した魔法を思い出し、その回数を数え、使用された魔力の総数を算出した。


(やはり!! これは杖の魔石に充填される魔力の総数と同じ値だ!!


では、第二心臓は魔物に関係するだけでなく、魔法にも関係しているというのか!?

なんという事だ!! 大発見だ!!)



これまで、


「魔力がどこから来るのか?」


というのは学者の間でも謎とされていた。



魔力の由来については様々な説があり、


「これは女神様が人類に与えた守護の力の一部である」


といった説や、


「人間は生まれつき魔力を持っており、その魔力の総量に応じて魔法が使える」


といった説もあった。



だが、誰も内臓が魔力に関係しているというのは考えもしていなかったのだ。


特に魔力臓器はかなり小さい臓器だ。

こんな小さい臓器が魔力に関係しているとは、誰も想像すらしていなかった。


その為、囚人を使った人体実験でも、魔力臓器を切除した後に免疫や体力に関する検査は積極的に行われたが、魔法に関する検査は行われていない。



(第二心臓というのは何と奥深い臓器なのだろうか・・・。

まさか魔力とも関係していたとは・・・。


・・・ということは・・・、魔力と魔物には何らかの因果関係があるのだろうか?)



思い立つと同時に、彼女は学生時代の歴史の教科書を本棚から引っ張り出し、ページをパラパラとめくった。

そして「魔法の歴史」「魔物の歴史」というページに辿り着く。



(・・・やはり、多少の前後はあるが、魔法が開発された後に魔物が発生している。


どうやら魔法と魔物には何らかの関係があると考えて間違いないようだ。

これは、もう少し詳しく調べたほうがいいかもしれないな)



本当ならば今夜にでも出発したかったのだが、彼女は計画を延期する。



翌朝。

町の図書館が開くと同時に女性学者は図書館に駆け込み、魔法と魔物の歴史を詳しく調べる事にした。

その結果、魔法が発展するにつれて、魔物も数を増やし、凶暴化している事に気が付くのだった。



(予想通りだ。

初めて「魔物」が発見されたのは魔法が一般的になり始めた時期と重なっている。


どうやら魔法が開発された当初の記録を調べると、最初の頃は小型の魔物が多かったようだ。

魔物が発見される以前の記録では、動物が凶暴化しているという記録が目立つな。


どうやら凶暴化する以前の時代では国内に動物が相当数居たらしいが、凶暴化する動物に手を焼いた人々が殺処分したらしい。


成る程。

昔は「ペット」という概念があったのか。

記述によると、数種類の動物が家で飼われ、家族の一員として生活していたようだ。


・・・今では、考えられないな。


「動物は凶暴である」


というのは一般常識だ。


だから動物を使った実験では生傷が絶えなかった。

そんな動物を一般家庭で飼う等とは考えられない。


昔は随分のんびりしていたようだ)



その日、彼女は一日中図書館で調べ物をし、一つの結論に辿り着いた。

それは、


「魔法と魔物には確実に関連性がある」


という事だった。


この結論を得た彼女は、当初の研究計画を大幅に変更することにした。

どうしても、調べなくてはならない場所が出来たのだ。

それは、


「大昔に大量の魔物に襲撃され、たった一晩で滅んだ大国があった場所」


である。


(何故、あの国は一晩で滅んだのだろうか?

たった一晩で国を滅ぼせる程の魔物が大量に発生した原因は、一体何だというのか?


もしかしたら、魔法が関係しているかもしれない。

その関係性が分かれば、研究は大きく前進するに違いない。


何としても、あの場所に行って詳しく調査しなくては)


そして彼女は家に帰ると、机の上に大きな地図を広げ、今後のルートの見直しをする。


この地図は、まだ人間が陸路で交易をしていた時代の地図と、教会が発表している最新の地図を彼女が合体させた物だ。

その地図を眺め、大国があった場所に行くルートを調べる。


街道に沿って進めば辿り着くのに一年はかかるが、森を突き進むコースを行けば半年もかからない。

突き進む森には大量の魔物が蠢いているはずだが、彼女には関係無い。

魔物は彼女を襲う事はないからだ。



(むしろ、街道は加護者が魔法車に乗って頻繁に現れる。


誰にも見つからずに目的地を目指すならば、街道を避けて進んだほうが良いだろう)



最終的に、彼女は森を突き進むコースを選ぶ。


それから彼女は旅支度をやり直す。

当初の計画では魔法の杖があれば野生動物も撃退出来ると考えていた。


しかし、既に彼女は魔法が使えない。

魔力が充填された魔石が無いと魔法が使えないのだ。


「では魔石を用意すればいいではないか」


という単純な話でもない。


魔石そのものは大きくもないし重くもないのだが、辿り着くまでに半年、更に調査に数ヶ月かかり、帰ってくるのにも時間がかかる。

その間、魔石を補給することは難しいだろう。


となると、購入する魔石の数も膨大な物となる。

つまり、当初の計画よりも荷物が大幅に増える事になる。


彼女は荷物がどれだけ重くなるのかを簡単に計算する。

その結果、どんなに日用品等の荷物を減らしても、荷物は彼女が持てるギリギリの重量となる事が分かった。


計算結果を見た彼女は、大きくため息を吐き出す。

そして、全財産が入ったサイフを手に、彼女は魔石屋へと向かうのだった。




数日後。


近辺の魔石屋から大量の魔石を購入し、女性学者は旅支度を終えた。

終に今夜、彼女は旅立つのだ。


既に檻から出した魔物は袋に入れてある。

あとは誰にも見つからず、国を出れば良い。


貴重な魔石を使い、魔物を眠らせてから彼女は家を出て行く。

辺りは暗闇に包まれ、通りには誰も居ない。


彼女は難なく城壁まで辿り着くと、人一人がやっと通れるサイズのトンネルを作り出し、国を出た。

そしてトンネルを元の地面に戻し、袋の中で寝ていた魔物を開放し、巡回の兵士がこちらを見ていない事を確認すると、彼女は目的地目指して前進する。




数時間後。


太陽が地平線から顔を出す頃には、近くの森の中に彼女の姿はあった。

予想通りではあるが、森の中には大量の魔物が蠢いており、何匹もの魔物が彼女をジッと見つめている。


そんな視線を気にもせず、彼女は大きなリュックを背負って森を進み続ける。

見上げるほど大きな魔物がノシノシと歩く姿を横目に見ながら、彼女は歩き続けた。

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