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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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第二心臓と魔物

夜空の下で、私は踊っている。

この瞬間も世界は動いており、様々な人生が産まれては消えていく。


赤ん坊の誕生を喜ぶ夫婦。

仲間に裏切られ、背中を剣で貫かれた男。

最愛の夫を亡くし、静かに震える女性。


それらを感じ取りながら、私は微笑み、歌い、踊っていた。

そして私は、女性学者の行動に気がつく。


(ああ、彼女は終に魔力臓器の切除に踏み切るようだ・・・。


これで魔物と魔法の関係に彼女は気がつけるのだろうか?

そして、気がついたとしたら、世界はどう変化するのだろうか?


魔物から新人類は開放されるのか?

人々の生活は変化するのか?


これは現代魔法が新人類の世界を変えたように、これからの未来を変えていく知識になるだろう。


産まれた赤ん坊が見る世界は変化するのだろうか?

裏切られた男が残した恋人は変化する世界で生き残れるのだろうか?

悲しむ女性を支える子供が成長したら、世界を変える事が出来るのだろうか?


必死になるといい。

生きる事を渇望するといい。


無様に、可憐に、邪悪に、純粋に、底抜けに愚かに、賢者の様に賢く、それぞれが必死に生き抜くが良い。

そして、人生を謳歌するが良い。


さあ、君達の人生を見せてくれ。

私に君達の全てを見せてくれ)


私は微笑み、怪しく瞳を輝かせ、止まる事無く踊り続ける。

そんな私の顔に、朝日が差し込むのだった。






「では手術を開始します」


白衣を纏った魔法医師が、女性学者に語りかける。



(優秀な魔法医師である彼に頼めば手術は上手くいくだろう。

私が用意した「言い訳」に、彼は感銘を受けたらしい。


「必ず手術を成功させます」


と、冷や汗をかく私の手を硬く握り、彼は涙ぐみながら最優先で手術をすると約束してくれた。

やはり予想通り、医師の中にも第二心臓の能力を知りたいと思う人も居るようだ。


もしかしたらばれるかもしれないとヒヤヒヤしたが、それは杞憂だったな)



そして睡眠魔法によって女性学者が深い眠りに落ちた事を確認した魔法医師は、彼女に敬意を評して一礼してから手術を開始した。



手術そのものは短時間で終了した。


そもそも魔力臓器はかなり小さい臓器であり、開腹手術をしてもそれほど切り開く必要は無い。

それに手術を担当した魔法医師は噂どおり素晴らしい腕前で、傷跡は殆ど残っていなかった。




手術が終わった直後、彼女は急いで研究室に戻り、暗い部屋に魔法で灯りをつける。

魔法の杖は女性学者の命じたままに魔法を発動し、部屋に灯りが灯る。


(これでやっと辺りが見回せる。


やれやれ、たった一日居ないだけで、もうこの部屋が懐かしく感じる。

私もそれなりに疲れたという事だろう。


だが、そんな事を言っている余裕は無い。

急いで実験を再開しなくては。


果たして、第二心臓を切除することで魔物は私に対してどういった対応をするのか?


今までどおりに威嚇してくるのか?

それとも、他の動物と同じように興味をなくすのか?)



荒い息をした女性学者は、魔物が居る部屋の前で立ち止まる。



(・・・いかんな・・・。


私としたことが、興奮しすぎてまともに頭が働いていない・・・。

一度深呼吸してから部屋に入ろう)



そして女性学者は深呼吸し、覚悟を決めると魔物が居る部屋に入っていった。


部屋の中で、魔物は女性学者が入院する前と変わらず、ボーと檻の中で突っ立っていた。

そして魔物は女性学者の姿を見ると、少しだけ首を傾げ、クンクンと女性学者の匂いを嗅ぎ始める。


彼女は鼻を鳴らす魔物をジッと見つめ、拳を握り締めた。




・・・そして、暫く匂いを嗅いだ魔物は、女性学者に興味を失ったらしく、また空を眺め始める・・・。



そんな魔物の態度を見た女性学者も、魔物と同様に呆然と立ち尽くした。



そして彼女は恐る恐る檻に近寄り、鉄格子の間から手を入れた。

すると魔物はビクッと驚き、女性学者の目をジッと見つめる。


そんな魔物の視線を感じながら、彼女は魔物のザラザラした肌を、優しく撫でる。


暫く魔物は警戒しながら女性学者を見つめていたが、彼女に敵意が無い事を感じとった。

そして、


「敵意が無いなら放って置こう」


とでも考えたのだろう。

魔物は己の頭部を撫で回す女性学者を無視して、ボーと空を眺め始めた。




その時、薄暗い小さな部屋で一人と一匹は静かに歴史を作り出したのだった。




その後、彼女は城壁外での実験を行ったのだ。


その結果、


「魔力臓器が無い人間を魔物は襲わない」


という世界の真実に、彼女は辿り着いたのだった。





人工島に、小さな拍手が響く。

さっきまで踊っていた私は踊るのを止め、彼女に向けて拍手を始めたのだ。


私は目を潤ませ、慈愛に満ちた表情で拍手を続ける。


(おめでとう、おめでとう。

今、あなたは新人類の未来を切り開いた。


たとえこの先どのような困難な状況になろうとも、あなたが道半ばで倒れようとも、私が証明しよう。

あなたが新人類で初めて魔物と交流する事が出来た人間であると。


今夜の事は、新人類にとって大きな飛躍となるだろう。

たとえそうならなかったとしても、恐れる事はない。


あなたはしっかりと生きている。

どんな状況になろうとも、必死で生き残る方法を考える頭がある。


大丈夫だ。大丈夫だよ。

安心しながら、苦しい人生を謳歌すると良い)


私は拍手を止め、女性学者の実験成功を祝って歌を歌い始める。

その歌は止まる事無く、長い長い時間に渡って歌われる事になるのだった。





実験の翌日。


薄暗い研究室で女性学者は考え込んでいた。

今回の人体実験により、


「魔物は魔力臓器を持つ人間に対して攻撃している可能性が高い」


という事が示唆された。

これは新人類にとって大きな成果だろう。


だが、このまま発表するにしては情報が少なすぎる。

何故、魔物が第二心臓に反応するのかも分からない。

こんな穴だらけな実験結果では、誰も興味を示さないだろう。


(・・・いや、それだけではない・・・。

下手に実験結果を発表したら、教会が揉み消す可能性すらある。


教会は加護者という特別な存在によって世界の物流や情報網の大半を管理している。

その為、教会は各国に対して絶大な権力を持っているのだ。


もちろん、権力だけではない。

「世界の富は神殿にある」と言われるくらいに教会は財を溜め込んでいる。


もし私が、


「第二心臓を取り除く事で魔物に襲われない人間を作り出す事が出来る」


という研究結果を発表した場合、他国と貿易をしたいと考える商人の大半は第二心臓を切除してしまうだろう。


いや、商人だけではない。

教会や国に対して嫌悪感を持つ人々は、こぞって第二心臓を切除して国から出て行ってしまうに違いない。


そうなれば教会の権力は大幅に弱体化してしまう。


・・・これは・・・まずいな。


人間というのは手に入れた富を失う事を極度に恐れるものだ。

そんな事にならないように、最後には手を血で染める事も躊躇しないのが人間だ。


最悪の場合、私は暗殺されてしまう可能性すらある。

研究結果も闇に葬られ、日の目を見る事がなくなるだろう。


いや、教会は研究結果を利用して、更に財を成そうと努力する可能性も否定出来ない)


彼女の頬からポタリと冷や汗が滴る。

そして彼女は、実験結果の書かれたレポートを握り締めた。



(駄目だ!!

これは慎重に動かないといけない!!


このまま発表したら私も実験結果も闇から闇だ!!

かといって世間に大々的に発表するにも情報が足りない。


・・・そうだな・・・。


今まで積み上げてきた物を全て捨てる事になるが・・・。

・・・やるしかないな・・・)


決断してから女性学者の行動は早かった。

彼女は即座に勤めていた学校を退職したのだ。


そして、準備を進めることとなる。


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