惑星連盟の会議室
(また、連盟戦艦が沈んでいく)
艦内には炎が広がり、火達磨になった軍人達が感情を爆発させて死んでいく。
そんな彼らの想いや感情を一人で味わっていた時だ。
背後から頭を殴りつけられたかの様な衝撃が走った。
私はあまりの衝撃に驚き、勢い良く振り返ってしまう。
しかし、巨大な旗艦には私しか居ない。
私の背後には薄暗い無人の司令室が広がっているだけだ。
もちろん、衝撃の原因はそこに無い事は分かっている。
もっと先、遥か彼方の地球から、その衝撃は伝わってきたのだ。
(・・・なんという事だ。
なんという事だ!
あああああ!! なんという事だ!!
大神官たる男が!! 劇物の入ったグラスを掲げている!!
強大な敵に対しても一切怯まない男の決意が! 人々を突き動かしている!!
どんな剣よりも切れ味の鋭い男の意思が! 人々を導いている!!
あああ!!
男は一切の躊躇いも無く!! 劇物を飲み干してしまった!!
私には分かる!!
分子レベルで細胞に劇物が広がっていく様が!!
どんどん鼓動が小さくなる!! 呼吸が止まった!!
あああ! 男と言う至高の宝石が!! 今!! 輝いている!!
これまで以上に強い輝きを放っている!!
人々が続く!! それぞれの想いを胸に男に続く!!
皆が皆! 純粋だ!! そして愚かだ!!
なぜ! なぜ!
私以外の人々は!! こんなにも人生を謳歌しているのだ!!
頼む!! 頼む!!
その毒杯を!! 私にも分けてくれ!!
そして味わいたい!! 君達の信念を!!
あああ!! また連盟戦艦が沈む!!
あああ!! また神官が死んでいく!!
あああ! また! 毒で死んだ!
あああ! また! 爆散した!
あああ! 首を切り落とされて死んだ!
あああ! 艦首が吹き飛んだ!!
誰にも見つからない様に! 下級神官達が神殿の影で自決していく!!
連盟の戦艦が!! 太陽系に光を撒き散らして沈んでいく!!
なんて!! なんて素晴らしい人生を君達は謳歌しているんだ!!
なんで!? 私は!! 私は!!)
「私はあああああああ!!!!」
私は一人、艦橋で身悶えた。
これは私が乗っている旗艦に連盟艦隊の総攻撃が命中する、少し前の出来事だった。
目の前の連盟補給艦隊は既に全滅している。
全ての戦闘が終わった事を確認し、私は惑星連盟の本部がある星に「連盟艦隊は全ての艦が沈み、生存者は0名」という情報を飛ばした。
そして、戦争の終結を宣言したのだ。
この情報に連盟は驚愕し、急遽星々の代表者が集まり会議が開かれる。
「ありえん!! 艦隊が全滅しただと!? あの大艦隊が全滅するはずが無い!!」
「左様! これは地球の謀略だ!!」
「しかし!! では何故、艦隊から返信が無いのだ!! 何度通信を送ったと思っている!?」
「それは地球軍が通信妨害をしているだけだ!! 未だ艦隊は健在なはずだ!!」
「そうだそうだ!! よし!! 我が星の防衛艦隊を出撃させ!! 事実を確認させよう!!」
「おお! それは良い!! ならば我が星の防衛艦隊も共に行かせよう!!」
「では我が星も!!」
「それならば防衛艦隊で再度巨大な艦隊を作り! 地球に送ろう!!」
「ふん! 地球の姑息な作戦なぞ!! 実際に艦隊を送りつければ簡単に見破れるわ!!」
会議の結論はほぼ決まり、あと少しで防衛艦隊の総出撃が決定しようとしていた時だった。
会議室の扉が勢い良く開けられ、会議室に軍人が駆け込んできたのだ。
その軍人は顔面が蒼白となっており、何か喋ろうとしているが口がパクパク動くだけで音にならない。
「おい! 貴様!! 今は大事な会議の最中だ!!」
「邪魔をするだけならさっさと出て行け!!」
会議参加者から飛ぶ罵声を聞き、フラフラと歩き出した軍人は、会議室に据えられた巨大なディスプレイの電源を付ける。
そこには奇妙な物が表示されていた。
軍のレーダーと直接回線を繋げてあるディスプレイには、惑星連盟の星々が表示されている。
そして、ディスプレイに表示されたのは、それだけでなかった。
そこには惑星連盟の星々を完全に覆い尽くす様な「赤いバリヤー」が表示されていた。
それを見た会議参加者達は首をかしげた。
「? この赤いバリヤーは一体なんだ?」
「随分と大きいな。星々を完全に覆い尽くしているぞ」
「軍の開発した新兵器か何かか??」
その質問に、軍人はただ一言だけ答えた。
「これは全て・・・地球軍艦隊です」
と。
会議は荒れている。
私がもたらした情報は全て事実なのだが、それが理解できないようだ。
彼らにとって「敗北」というのは有り得ないのだろう。
(それほどに・・・、視野が狭まるほどに彼らは地球を憎んでいたのか)
会議は徐々に「地球に対して再度艦隊を送る」という結論に近づいている。
(・・・これでは君達と再度戦わなくてはならないじゃないか。
私としてはこれ以上観察対象が減るのは本意ではない。
なんとかして彼らと和平を結びたいのだが・・・。
・・・そうだ。
敗北が信じられないのならば、信じさせれば良いだけの話じゃないか。
今も太陽系には使い道の無い改良型戦艦が大量に浮かんでいるし、人工島の生産システムも維持されている。
この戦力を惑星連盟の直ぐ近くに展開し、「君達の艦隊は全滅したんだよ」と教えてやればいいか。
そうすれば流血沙汰になる事も無く、和平を結べるかもしれない。
まあ、正直に言うと、連盟との和平にそれ程興味も無いのだが。
しかし、これ以上地球にちょっかいを出されるのも迷惑だ。
地球に来ないなら、それでいいだろう。
そうすれば観察対象が減る事もない。
お互いに利益がある結論となる)
「よし、では艦隊の転送を開始しよう。少しばかり驚いてもらえば、会談も出来るだろう」
「ん? なんだこれ?」
惑星連盟の辺境に存在しているレーダーサイトでディスプレイを眺めていた軍人は呟く。
先程まで何も表示されていなかったディスプレイが、いきなり真っ赤になったのだ。
「おかしいな~~~、昨日整備したばっかりだぞ? ひょっとして故障したのか??」
軍人は休憩室でタバコを吸っている同僚を呼びに行く。
ゾロゾロと同僚を連れて戻った軍人だったが、ディスプレイは赤いままだった。
「なんだこりゃ? お前なんかしたのか?」
「いや? コンソールには触れてもいないぞ。いきなり真っ赤になったんだ」
「訳が分からん。まあこれでは管制も出来ないな。仕方ない、隣のサイトに連絡を入れよう」
「では俺は整備小隊を呼んでくるわ。全く、整備も何をやってんだが」
軍人達がそれぞれの持ち場につき、レーダーを修理しようとするが、画面は赤いままだった。
そして終に、一人の軍人が気がついたのだ。
レーダーディスプレイ脇に表示された、無限とも思える膨大な数字に。
・・・それに気がついた軍人は、動けなかった。