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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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戦闘準備

大神官様は続けた。

「皆!! 心の耳を澄ましてみよ!! 聞こえるだろう!! 女神様のお声が!!


今! 女神様は戦っておられるのだ!! 世界の敵!! 真の魔王と!!

あの光の玉は女神様と魔王の戦闘光なのだ!!」


大神官様の発言を聞き、特別神官達は祈りの姿勢をとる。


もちろん俺も周りが祈りの姿勢を取ると同時に、その場に跪き、周りと同じ祈りの姿勢になった。

すると所々から特別神官達が声を上げる。


「大神官様!! 私にも聞こえました!! 女神様のお声が!!」

「ああ!! 感じます!! 今! 女神様は戦っておられる!!」

「これは!? 女神様の近くに感じる邪悪な気配は!? こやつが魔王か!!!」


・・・はっきり言おう。

俺は何も聞こえんし、何も感じない。


(・・・こいつら・・・、頭は大丈夫だろうか??)


そんな俺を置いてきぼりにする様に、特別神官達は涙を流しながら次々に女神の声が聞こえたと騒ぎ出す。

大神官は続けた。


「お主らも聞こえたか!! 感じたか!!

今!! 女神様は魔王を倒さんと戦っておられるのだ!!

今こそ!! 我ら加護者はその使命を果たすときなのだ!!」


(え? 使命を果たす??)



「女神様は我らに力を与え!! 加護を下さった!! そのお力をお返しする時が来たのだ!!」



大神官の言葉を聞き、俺の直感が騒いだ。

「やばいぞ」と、全身に鳥肌が立ち始める。



「女神様はあらん限りの力で魔王と戦っておられる!! しかし! それでも足りないのだ!!

皆も感じるであろう!! 女神様が苦戦しておられるのを!!


それは全て!! 人々を愛したが故に!! 女神様は己の力を我らに与えすぎたのだ!!

ならば我らは今!! 女神様にお力をお返しせねばならない!!


無論!! ただ返すのではない!! 加護の力と共に!! 我らの信仰心を共に届けるのだ!!

加護の力が女神様に戻り!! 我らの信仰心が女神様の力となれば!! 魔王なんぞに女神様は負けはしない!!


皆のもの!! いざ逝かん!! 女神様の元へ!!」


大神官の言葉に、特別神官達は感動している。


「ああ! 女神様!! 私の揺るがない信仰心を!! どうか盾としてお使い下さい!!」


「女神様!! ワシの燃えるような信仰心を火の玉として魔王に投げつけて下さい!! 必ずや魔王を燃やし尽くしてご覧に入れます!!」


「我が信仰心は鉄壁の如き硬さがございます!! どうか!! どうか!! 我が信仰心で壁を築き!! 弾除けとしてお使い下さい!!」


特別神官達は、女神様に己の信仰心を使って戦って欲しいと騒ぎ出す。


すると会議室の扉が開き、下級神官達が何か持ってくる。

それは透明な液体の入ったグラスだった。

綺麗な装飾がされたグラスには、酒でも水でもない「液体」が注がれている。


全ての特別神官にグラスが行き渡ると、大神官のクソジジイが騒ぎ出す。


「皆! これは毒杯である!! これを飲み!! 肉体を捨て! 加護の力と信仰心を女神様に届けるのだ!!」


クソジジイの言葉に、特別神官達は大歓声を上げる。


そして、クソジジイがグラスを高々と掲げ、何か言おうとする前に、俺は叫んだ。


「お待ち下さい!! 大神官様!! 今! 女神様の元に馳せ参じても! 我らは大した力を出せません!!」


俺の言葉にクソジジイも特別神官も驚き、全員が俺を見る。

そんな視線を気にせず、俺は続けた。


「肉体と信仰心は繋がっております!! 我らは数時間前に昼食を食べたきりなのです! それ以降、何も口にしておりません!!

戦で一番大事なのは兵の腹を常に満たしておく事です!! 腹が減っては戦は出来ません!!


どうか!! せめて夕飯を食べ!! 腹を満たしてから女神様の元に逝きとうございます!


このまま女神様の元にはせ参じたところで!! ここ一番という所で力が出せません!!

どうか!! どうか!! お考え直し下さい!!」


俺の言葉に特別神官達が反論する。


「貴様! 何を言うのか!?」

「我が信仰心が空腹程度で弱まるとでも言うのか!?」

「今は1秒を争う時なのだぞ!! 何を悠長な事を言っておる!!」


そんな反論に、俺は大声で答えた。


「この戦は世界の平和を守る大事な戦です!! 可能な限り勝率を上げるべきです!!

確かに1秒を争う事態ではあります!! しかし!! だからといって不完全な状態で女神様のお力になれるでしょうか!?


先ほどから戦闘光は続いております!! まだ時間に余裕がございます!!

今すぐに料理を作らせ! 我らの腹を満たさねばならないのです!!


ここ一番で女神様を失望させるのが! 加護を持つ者のすべき事なのでしょうか!?」


俺の言葉に特別神官達は反論しようとしたが、それをクソジジイが止めた。


「お主の言う事ももっともだ。急ぎ、料理を作らせよ」


そんなクソジジイの言葉に、下級神官たちは動き出す。

そして調理場では、料理人たちが調理を始めるのだった。



俺は騒がしい会議室を抜け出し、調理場へ急いだ。



(今は1秒でも貴重だ。

なんとしても時間を稼がねばならない。

少しでも時間を稼げば、その間に異常事態も収束するかもしれない。


もし事態が収束しなかったら! 俺はあのクソジジイと心中する事になる!!

誰が好き好んであんなクソジジイと心中するか!!)


俺は調理場の扉を蹴破るように開けると、調理場では料理人どもが必死に料理を作っている調理場に入った。

そして俺は大鍋で料理をしていた料理人を押しのけ、鍋の中のスープを少しだけ味見する。


その直後、俺は激昂し鍋を蹴り倒した。

倒れた鍋から極上のスープが流れ出し、調理場の床に広がっていく。


そして俺はスープを作っていた料理人を睨みつけ、


「なんだこのスープは!? 貴様!! 我らを愚弄するつもりか!!」


と怒鳴りつけると同時に、近くにあった包丁を料理人に突き刺した。


料理人は苦しそうにうずくまり、胸に突き刺さった包丁から血を滴らせながら、


「誠に・・・、誠に申し訳ありませんでした・・・」


と土下座をする。


(よし!! こいつは再起不能だ!! 次!!)


俺は次々に料理を破壊し、材料に汚水をかけ、料理人に包丁を突き刺し、ありとあらゆる妨害を続ける。

しかし、料理人どもは料理をやめる気配が無い。


(くそ!! ゴミの分際で!!

どうしても俺を殺そうというのか!!)


すると騒ぎを聞きつけて神殿の騎士達が調理場に駆け込んできた。

その瞬間、俺に一つの名案が思い浮かぶ。


調理場の惨状を見て、呆然と立ち尽くす騎士達に俺は命じた。


「こやつらは料理に呪いを仕込む魔王の手先である!! 全員処刑せよ!!」


俺の命令に騎士達は戸惑い、動かない。

それと同時に料理人たちは料理を放棄し、調理場から逃げようとしはじめた。


「騎士達よ!! 信仰心があるなら!! この悪魔信仰者どもを斬り捨てよ!!


料理人ども!! 何を逃げようとしているのか!?

己が悪魔信仰者でないのだというならば!! その場を動くな!!」


俺の怒鳴り声に騎士達は我に返り、腰につけた剣を引き抜いた。

料理人たちは逃げようとする者や、覚悟を決めてその場に留まり料理を続ける者など様々だ。


だが、そんな事はどうでもいい。

この神殿にはいくつも調理場がある。

そのうちの一つを機能停止させたに過ぎない。


(急いで他の調理場も機能停止させなくては!!

もし料理が完成してしまったら! 俺は殺されてしまう!!)


俺は悲鳴が聞こえる調理場を飛び出し、数人の騎士を連れて他の調理場に駆け込んだ。


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