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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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「狂う」        挿絵あり

挿絵(By みてみん)


「ああ! 地球からも!! 宇宙からも!! 私を想う人々の激情を感じる!


憎しみ! 怒り! 復讐心! 恐怖! 悲しみ! 不安!

妬み! 僻み! 感謝! 恍惚! 愉悦! 絶望! 失望!


何故こんなにも!! 彼らは常に私の心を惹きつけるのだろうか!?

私の体が! 心が! 宇宙全体に住む人々に惹きつけられて!!

バラバラに惹き裂かれそうだ!!


今! 宇宙に住む全ての人々が私を想っている!!

私だけを想っている!!


遥か遠くの星々に住む人々は、私の死を願っている!!

惑星連盟艦隊は、私に対して死の恐怖を抱いていてる!

新人類は私の戦いに恐れおののいている!!

特別神官達は私の勝利を願っている!!


今! 私は宇宙の中心に存在している!!


強烈な快楽!

殺人的な愉悦!

絶頂にも似た感覚!!


ああああ! 狂いそうだ!! 狂ってしまいそうだ!!


いっそ狂ってしまいたい!!

狂い! 狂い続け!! そして君達と共に生きたい!


美しい君達を穢したい!!

愛おしい君達をこの手で握りつぶしたい!!

必死に生きる君達を心の芯まで愛撫したい!!

この胸で君達を抱きしめ! この世で感じられる全ての快楽を感じさせたい!!


狂えばそれが出来るのだ!!

正常な精神なんぞ捨て去り! 私は狂人になってしまいたい!!!


ああああ! しかし出来ない!!

私は狂えない!!


狂いたくても! 私の脳は狂わない様に作られている!!

どんな状況下でも意識を保ち続けてしまう!!

私の力が私を守り! 私を縛り付ける!!


目の前にある宝石に触る事も出来ない!!

こんな地獄! こんな天国!!


あああ!! 神よ!!!

何故! 私を作り出したのか!?

何故! こんなにも愛おしい彼らを作り出したのか!?


答えてくれ!! 神よ!!」


・・・私の問いに、誰も答えることは無かった。


己の血で赤く染まった私は、赤いプールとなった艦橋で、狂ったように踊り続けた。




連盟戦艦は、次々に沈んでいく。

特別神官達は、我先に毒を飲み自決していく。


宇宙に住む人々は、祖先の想いを胸に、地球の消滅を願っている。

地球に住む人々は、この戦いに恐怖し、震えている。


そんな世界の中心に、私は存在していた。

絶対的な力を持ち、それと引き換えに生きる喜びを失った私は存在していた。


既に連盟艦隊は消滅している。

連盟艦隊の後方に展開していた連盟補給艦隊は、撤退を始めていた。


立方体に近い形をした補給艦にはまともな武装も、攻撃を防げる装甲板も無い。

彼らはその巨体を必死に旋回させ、エンジンを最大出力で動かしている。


私の乗る旗艦には、撤退中の補給艦隊からひっきりなしに通信が入って来る。


「私は補給艦隊司令だ! 我が艦隊は地球軍に対して降伏する!! 受諾して欲しい!! 頼む!! 受諾してくれ!!」


「助けて!! 助けてください!! お願いします!! 攻撃をやめてください!!」

「もう抵抗しない!! 頼む! 頼む!」

「私達は非武装なんだ!! 許してくれ!! 勘弁してくれ!!」


「連盟条約に基づき!! 捕虜としての待遇を!!」

「わっ! 私は奴隷でも! 何でもやります!! だから命だけは!!」


そして艦内でも、彼らは叫び続けている。


「ああああ!! 神様!! 助けて!!」

「母さん!! 母さん!! 母さん!!」

「こんな事になるなんて!! なんで!! なんで!! 私はここに来てしまったんだ!!」

「早く出力を上げるんだ!! 全速で逃げろぉぉぉぉ!!」

「物資を捨てろ! 身軽になるんだ!!」




・・・そんな通信を、そして叫びを、私は司令室の天井を見上げ、完全に脱力した状態で聞いていた。


既に傷口は塞がれ、穴の開いた袖からは透き通るように白い肌が見える。

先程まで激しく揺れていた血面も、今は赤い鏡のように静かだ。


時々、ポチャンと音を立てて天井から血が滴る。

滴った血は血面に小さな波紋を作り出す。

血の波紋は壁にぶつかる度に反射を続け、そして血面はまた鏡の様になる。


そんな赤い鏡の中心に、だらりと脱力した状態で、赤く染まった私は幽鬼の如く存在している。


「恍惚」「快楽」「絶頂」・・・。


そんな感情が混ざり合った表情をした私は、必死に撤退する補給艦隊を、真紅の血が滴る指でそっと指差し、ささやくように命じた。


「全力で・・・、彼ラに・・・、攻撃を・・・、開始しナサい・・・。


彼らヲ・・・、一人残らズ・・・、殲滅シなさイ・・・」


私の雑音の混じった言葉に従い、人工知能は最適な陣形を作り出し、持てる全火力を補給艦隊にぶつける。


非武装に近い補給艦隊に、抵抗する力は無かった。

次々に沈む補給艦を見ながら、死んでいく軍人達の想いを感じながら、私は赤く染まった顔を、ゆっくりと歪ませる。




この時、一瞬ではあるが、私は念願であった「狂う」事が出来たのだった。


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